デュミナス
本日、第五十三話を投稿します!
オルト改めオルティース・トリスタンと声を掛けて来たエルフの女性(+α)の正体が判明します。
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「いや〜、すまんすまん!」
そう言いながら大声で笑うオルト、いやオルティース・トリスタン。全く反省の色が見えない…… 。その姿を見て盛大な溜め息を付くのは、先程声を掛けて来た森精霊の女性である。
「本当にごめんなさい。リーダーは普段はとっても良い人なんだけど、武術に優れた人を見つけると見境なく手合わせしたがるのよ」
何だかとっても申し訳なさそうに話すエルフの女性──日頃から苦労しているんだろうなぁ…… 。
「あ、あの!」
アンが何やら緊張した面持ちでエルフの女性に話し掛ける。何だ、知り合いなのか?
「もしかして、貴女は貴森精霊様ではありませんか?!」
──そっちか?! しかし……ハイエルフだとすると……やっぱり………… 。
「はい、確かに私は貴森精霊ですよ。名はベルナデット・エテルニテと言います。貴女は何処の氏族の方かしら?」
「は、はい! 世界樹の氏族です! 私は涅森精霊のアンヘリカ・アルヴォデュモンドと申します!」
「……そう、世界樹の………… 。エウトネラは元気かしら?」
「私が観測者として旅立つ時にお会いした時はとてもお元気そうでした」
「そうですか……最後に会ったのが200年前だったけど……そう、元気なのね…………」
エルフの女性──ベルナデット女史は昔を思い出して懐かしんでいるみたいである──が、やっぱり俺達ヒトとエルフとでは月日が経つ感覚が違い過ぎる! 200年前をほんの1,2年の様に話している。まぁアンだって下手すると2000年は寿命があるらしいからな…… 。
それにしても何かわからん単語が出て来た気がしないでも無いが………… 。
そんな事を考えていたら、オルティースがベルナデット女史に噛み付いた。
「おい、ベル! 俺に注意しておきながら自分は友達と話し込むなんて狡いぞ! 俺も混ぜてくれ!」
……全く、仲間外れにされて悔しがるとか、アンタは子供か?! と言うか、何時からアンとベルナデット女史は友達になったんだ?
「あら? ならばリーダーもお友達と続きをすれば宜しいのではなくて?」
そう言いながら俺に向かって片目を瞑るベルナデット女史。
「お、それもそうか!? では仕合いの続きをしようじゃないか、ウィル!!」
……何時から俺とアンタは友達になったんだ?! て言うか、まだやる気かよ?!?
「待て待て待て! そこは普通、自分の正体を明かすんじゃないのか?!」
「うん? まだ言ってなかったか?! これは済まなかった!」
そう言ってまた呵呵と笑うオルティース。まぁ正体は凡そ見当がついているんだが…… 。
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「全く……うちの旦那と姫さんは何をしているんだか…………」
またもや後ろからぼやき声が聞こえたので振り返ると、褐色の蓬髪の目付きが鋭い男と、白金色の胸までの髪の女性が、訓練場の入口に立っていたのである。
「おお、バルドにゼラか?! 良くここだと判ったな!」
「姫さんが旦那なら間違い無くここだろうと当たりを付けて来たのは良いんだが、訓練場に近付くにつれて俺達を置いてどんどん先に行っちまうし……ゼラの嬢ちゃんとゆっくり来たと言う訳さ…………」
「本当に……オルティースさんもベルナデットさんも自由過ぎます! バルドさんが何時も苦労されているんですよ?! ちゃんと大司教様から言われた事、覚えてます?!」
バルドと呼ばれた男はお手上げ状態だと言わんばかりに両手を広げ肩を竦め、ゼラと呼ばれた女性は真っ白な肌を紅潮させて怒っているみたいである。
一方のオルティースは全く気にする素振りすら無く、ベルナデット女史はシュンとして小さくなっている。どうやらベルナデット女史より、このメンバーが日頃から苦労が絶えないらしい──お気の毒様である。
「そんな事は良いから、自己紹介しないの?」
真逆のルアンジェからの突っ込みが入り、オルティース以下4人がピシッと固まった。うちの天使様は本当に容赦が無い…… 。いち早く立ち直ったベルナデット女史は軽く咳払いをすると
「……失礼しました。私達は『デュミナス』と言うSクラス冒険者パーティーです。まず先程皆さんと剣を交えていたのは私達のリーダーである "蒼騎士" オルティース・トリスタンです」
「うん! オルティース・トリスタンだ! さっきは失礼した! こんな成りだがまだ22歳だ! また今度仕合おうじゃないか!!」
爽やかを通り越し暑苦しい笑顔で挨拶をするオルティース。灰色の瞳が人懐っこい感じを与えるが── 。
『要注意人物として登録しておきますね』
是非そうしてくれ、コーゼスト!!
「そして」
先程、肩を竦めていた男に手を向けて紹介するベルナデット女史。
「彼はバルド・クリフ。私達のパーティの斥候を主に務めていただいてます。頼りになるベテランです」
「バルド・クリフだ。姫さんは斥候とか言ってくれたが実の所は盗賊だ。パーティメンバーの中では一応歳上の32歳だ。宜しく頼む」
淡褐色の瞳は鋭いが、一番の常識人と見た! 俺はバルドに近付くと、右手を差し出し握手を交わす。
「……苦労しているみたいだな」
「……こんなのは苦労の内には入らんがな」
そう言ってニヤリと笑うバルド。頼りになりそうなベテランである。
「えっとですね、私はゼラフィーネ・ホートリーと申します」
バルドの横にいた白金色の髪の女性が話し掛けてきた。
「これでも職業は女神官を務めているんです。まだ19歳の若輩者ですが宜しく御願いします」
そう言ってペコリと頭を下げると、淡紅色の瞳をこちらに向けてニッコリ微笑んだ。白金色の睫毛と言い瞳の色と言い、受ける印象が儚げであるが── 。
『恐らく彼女は色素欠乏症なのだと思われます。肌や瞳の状態からの判断ですが』
──何だ、それ? コーゼストはまたわからん事を………… 。
いつまでも笑顔を向けてくるゼラフィーネに軽く会釈をすると、更に笑顔で答えてくる。この堂々巡りをどうしろと?
俺は視線をベルナデット女史に向けると、女史はニコリと笑みを浮かべ
「そして改めて……私は貴森精霊のベルナデット・エテルニテと申します。このパーティーでは魔導師を努めさせてもらっています。巷では "碧眼の冥界妃" 等と有難くない二つ名を拝命しています。これでも年齢は800を超えているんですよ」
真逆800歳を超えているとはな! まぁエルフは長命だから、見た目で判断は出来ないが…… 。それにしても "蒼騎士" に "碧眼の冥界妃" か………… 。名前だけは聞いた事はある有名人パーティーのお出ましとは。するとあとの2人は "黒霧" と "白金の巫女" って訳か………… 。
『確か、『デュミナス』とは高位の天使を表す言葉ですね。古代魔導文明の言葉ですが』
うちのコーゼスト先生が念話でそう宣う。恐らく命名はベルナデット女史だな……オルティースにこんな崇高な命名が出来るとは思えないし。
『……何気に失礼な事を考えていますね』
──コーゼスト、聞かれなきゃ良いんだよ!
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「やはりそうか、オルティースと言う名前を聞いてピンと来たんだが……」
俺はとりあえずその場を取り繕う様に話し掛けた。
「何だ、やはり気付かれたか? 折角偽名まで使ったのにな!」
そう言ってまた大声で笑うオルティース。俺はアンタは何も考えてないのかと思ったんだが?
「兎にも角にも次は俺達の番だな。俺達は「黒の軌跡」と言う──」
「知っているぞ! 新進気鋭のAクラス冒険者パーティーだろう?!」
俺達の事を言おうとしたらオルティースに先を越された──何で知っているんだ?
「俺は元々アンタ達に用事があったんだ! 特にルアンジェにな!」
「ルアンジェに???」
「続きは私から説明します」
ベルナデット女史がオルティースの後を引き継ぎ説明を始めた。
「私達は王都ギルド本部に頼まれ、貴方のパーティーメンバーのルアンジェさんの力を見極める為にやって来たんです」
「ギルド本部に?」
こいつは驚いた。ルアンジェの力を調べる為だけに、わざわざSクラス冒険者に確認依頼するとは大袈裟過ぎるぞギルド本部!
「それで先程ここのギルドに到着して、ギルマスに挨拶をしようとしたら──うちの馬鹿リーダーが『強い奴の気配を察知した!』とか言って駆け出してしまい……」
それであんな事になったとはベルナデット女史の言い分ではあるが……と言うか何気に自分のリーダーを馬鹿呼ばわりして良いのか?!
「む、良いじゃないか! お陰で試験の手間が省けただろう?!」
心外とばかりにベルナデット女史に抗議するオルティース。アンタは子供か! 本当に………… 。
俺は目の前で我意を通そうとするオルティースと、それをやんわり受け流すベルナデット女史を見て茫然とするしか無かった。
…………で、ルアンジェの話は一体どうなったんだ?
オルティース・トリスタン以下、Sクラス冒険者パーティ『デュミナス』のメンバー全員の登場でした! ここに来ての個性的な(或いは濃ゆい)キャラ達の新規参入です!
この『デュミナス』も今後ウィル達に色々関わって来ます!
*オルティース・トリスタン……Sクラス冒険者パーティ『デュミナス』のリーダー。冒険者としては珍しい「騎士」の職業を熟す。年齢22歳。金髪で灰色の瞳、左利き。豪快な性格(または脳筋)で、細かい事は気にしないタイプ。
通称 "蒼騎士"
*ベルナデット・エテルニテ……『デュミナス』の副リーダー。職業は「魔導士」。ハイエルフであり年齢は850歳(!)。お尻まで伸びた金髪と緑玉色の瞳で右利き。胸は大きい(推定Dカップ)。
通称 "碧眼ノ冥界妃"
*バルド・クリフ……『デュミナス』の斥候を務める。職業は盗賊。褐色の髪で淡褐色の瞳。目付きは鋭いが人情家でパーティの中では一番の常識人であり一番の苦労人。32歳。
通称 "黒霧"
*ゼラフィーネ・ホートリー……『デュミナス』の玩具的存在であり貴重な回復役。職業は女神官。色素欠乏症で生まれ、幼い時に両親が教会に無理矢理入れた──つまり捨てられたのである。だが教会での修行で神官としての才能に開花、若年ながら教会随一の癒し手になる。但し本人は自身の身の上には意外と無頓着。白金色の胸辺りまでの髪と淡紅色の瞳。19歳。
通称 "白金ノ巫女"
本当に個性的……………… 。
*蓬髪……長く伸びて乱れた髪
いつもお読みいただき、ありがとうございます。