自重と押し掛け、そしてやはり自重無し
本日、第五十話を投稿します!
何時もの如く、やり過ぎたウィル一行です!
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「…………何でお前は厄介事を持ち込むんだ?!」
「いや……別に狙っている訳じゃないんだが」
昼過ぎの執務室の中に響く怒鳴り声。執務机を挟んで怒鳴り声の主であるギルマスが、真っ赤な顔をして机の前に立つ俺を睨み付ける。
ノトス村でのゴブリン討伐を終えてラーナルー市に戻り、依頼完了をギルドに報告しに来たらそのゴブリン討伐の件で怒られる…………理不尽だ。
「俺はルアンジェの階級は1ヶ月後にBに上げると言ったよな?!」
「それは良く憶えているが?」
俺は何故今更そんな事を? と思っていると、ギルマスが机の引き出しから胃の水薬と血圧の粉薬を出して、粉薬を水薬で一気に飲み込む。
──そんな呑み方してると、逆に身体に悪くないのか?
「……だったらだ! 何でルアンジェに70匹ものゴブリンを狩らせた?!」
『より正確には総数76匹です。うち打ち漏らしが1割ほど居た様ですが。それらも全てウィルとアン達に討伐されています』
コーゼストの冷静な訂正にギルマスがむぐっと言葉を詰まらせる。そんな報告は要らんぞ、コーゼスト。
ギルマスは気を取り直し大きく頭を振ると
「……1ヶ月後なら兎も角、未だギルドに冒険者登録して数日のルアンジェが70匹ものゴブリンをひとりで殲滅した事が問題なんだよ…………」
そう言って、がっくり肩を落とした。成程……確かにこの実績だとギルドとしては、何故その様な実力者をCクラスに留めおくのか、と言う批判を受けざるを得ない訳だからな……ギルド総督部は兎も角、一般のギルドでは対処し切れない……か。要するにやり過ぎた訳か。
「あの……私達が黙っていれば良いんじゃないんですか?」
アンがおずおずと意見を言うが、ギルマスは首を横に振り
「だがな、誰がヒトの舌を押さえていられる? 噂なんて一旦ヒトの口から出ると止められないんだぞ? 例えお前達や俺達ギルドが黙っていても、ノトス村の連中はどうするんだ?」
「あ…………」
アンが気まずそうに口を噤んだ。ギルマスは椅子に深く座り直しながら
「兎に角、今回の件は直ぐに総督部に報せておく。ネヴァヤとも相談してみるが──良いか、しばらく大人しくしていてくれ。分かったな?!」
そう言って念を押してくるギルマス。とりあえず「分かった」とは返事を返しておいた。とりあえずである。
ギルマスはこれからギルド本部とネヴァヤ女史に連絡するとの事で、俺達は執務室を追い出された──やれやれ。
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ギルドを出て、遅い昼食を摂る為に『黄金の夢』に向かった。この後の行動をどうするか、食事をしながら話し合う為でもある。
「……怒られちゃいましたね」
食後の香茶を啜りながら、アンがポツリと零した。心配するな、何時もの事だ──── 。
因みにルアンジェも俺達と同じ様に食事が出来る。勿論味はわからないが…………食べた物は体内で分解されて魔皇炉で魔力に変える……らしい。まぁ専門的な話はコーゼストに丸投げするとして── 。
「ルアンジェの件はギルマスに任せるとして……俺達はどうする?」
『──やはりマスターは自重しないのですね?』
コーゼストが若干呆れ気味に問い掛ける。どうでも良いが、最近のコーゼストはヒトっぽくないか?
「ギルマスにも言われたじゃないですか?大人しくしていろって……」
アンがジト目で俺を見据える──が、別に暴れる訳ではないぞ。
「安心してくれ。多分ギルマスがルアンジェの件を問い合わせて本部から1週間ぐらいで回答が来ると思う。だから1週間は素直に冒険者稼業は休もうか、と言うのが俺の考えなんだ」
『とりあえずは自重するんですね……』
コーゼストがボソッと呟いた──とりあえずって何だよ?!
「そう言う事なら……私は賛成です」
アンが俺の案に賛成した──ダジャレか?!
『くだらない事を考えないでください…………』
コーゼスト先生……念話で突っ込むのは止めてください……アンはアンで、ずっと香茶を啜っているし………… 。
俺は軽く咳払いをしながらルアンジェの方を向くと、やはり香茶を啜っていた──アンの真似をしているのか? 俺と視線が合うとカップから口を離し
「私はどちらでも良い。ウィル達に従うだけ」
と、割りと素っ気ない返事を返して来た。まぁこれで決定────
『私の意見は聞かないのですか?』
コーゼストが不服そうに言ってきた。
「……じゃあお前は反対なのか?」
『当然──賛成です』
偉そうに宣うコーゼスト先生──アァ、サイデスカ。
まぁ、とりあえず1週間は怠惰に過ごすか……………… 。
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「……で、何ゆえ皆んなで我が屋敷にいるのであるかな…………?」
「旦那様……滅多にお見えにならないお客様に対しその態度は如何なものでしょうか?」
結局、ラファエルの屋敷に全員で押し掛けた。だってする事が無いんだから仕方ない。
『今回の旅でラファエル殿が疑問を持った私の特殊技能について説明するお約束でしたので伺った次第です』
コーゼストから尤もらしい理由が述べられた──そういやそんな事があったな。
「!? 『複写』の事かね?!」
案の定ラファエルが食い付き、ノーリーンが手を額に当てた。本当にコイツは自身の関心事には見境が無い──!
『そもそもは私が持つ魔法術式解析能力が要点です。この能力は既知世界の魔法ならその術式を凡そ読み解く事が出来ます。その読み解いた術式をそのまま使う事により文字通り魔法を「複写」するのです。但し凡そなので当然ながら劣化複写になりますが。大体どの様な魔法でも術式が70%符合すれば発動条件を満たすのです。因みに私の解析能力では85%解析出来ます』
一気に決河の勢いの如く話すコーゼスト。そういやコイツも大概だった──!
「ほほう……そうなのであるか。それはどの様な風に解析をしているのかね?」
『はい、先ずは────』
ラファエルとコーゼストが難しい話をし始めたが、俺は専門外なのでさっぱりわからん! こう言う時はついコーゼストを外したくなる──はぁ。
俺の左腕と話し込むラファエルと言う変な絵面の場面は放っておいて、俺は香茶を淹れてくれているノーリーンに向き直った。
「改めて……この前の旅では色々世話になったな、ノーリーン」
「いえ……私も久々に冒険が出来て楽しゅうございました。それにスッキリしましたし」
そう言ってにっこり微笑むノーリーン。
…………日頃、ラファエルをどやしつけているのにか? それをノーリーンに問うと「あれは日常でございますので」との返事だった──ナ、ナルホド………… 。
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そんなこんなしている内に、俺の左側が騒がしくなり
「──成程! ではその術式をこの魔水晶にコーゼスト殿に教えてもらったやり方で書き込められれば、魔法術式解析能力の魔道具を作れると言う訳であるか!」
『そうなりますね』
────コイツら、暫く静かだと思っていたら何やってんだ?! いつの間にか製作作業してやがるし?!
丁度ラファエルが魔法を書き込もうとして魔水晶を右手に掲げている所だった。
程なくして、嘗てコーゼストが見せたのと同じ様な魔法陣が浮かび上がると、透明な魔水晶に吸い込まれて行き、鈍色の淡い輝きを放つ魔水晶が出来たのであった。
「──うむ! 出来たのである!」
『術式の書込を追跡しましたが特に問題はありませんでした。お見事です、ラファエル殿』
満足そうに頷くラファエルと賞賛の言葉を述べるコーゼスト。どうやらラファエルにコーゼストが自分のやり方を教えていたらしい。
はしゃぐラファエルの傍らにノーリーンがスッと立ち
「それで、その魔道具は何にお使いになられるのでしょうか?」
その言葉ひとつでピキリと固まるラファエル──お前は後先考えずに作っていたのか?
『私もついノリで作ってしまいました…………』
ノリって……………… 。
結局、ウィルが自重してもコーゼストが自重しない…… 。このコンビは似た者同士なのです!
それにしてもコーゼストは思考と行動が人間っぽくなって来ました。
いつもお読みいただきありがとうございます。




