月の天使と月の剣
本日、第四十八話を投稿します!
今回はルアンジェ(とアン)の買い物メイン回です。
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「これで良し、と……どうだ?」
石盤色の髪の小柄の男が、褐色の髪の少女に甲斐甲斐しくも真新しい防具を装着させていた。少女は腕を上げたり回したり、脚を上げたり、腰を回したりして身体の動きが阻害されていないか確認すると「大丈夫。ちゃんと動ける」と、一言告げる。
小柄な男こと、ガドフリー武具店の店主半侏儒のドゥイリオは、その返事を聞き満足そうに頷いた。
少女こと、ルアンジェは俺の所まで来ると
「ウィル、どう?」
と、何かしら期待に満ちた顔で俺に問い掛けて来る。
「あぁ、良く似合っているぞ」
そう言うと、如何にも嬉しそうな顔を向けて来る──どうやら満足出来る返事だったみたいである。
ラファエル達を送り届けた後、真っ先にここに寄った甲斐はありそうである。
「それにしても……こんな子が冒険者とはな…………」
ドゥイリオがポツリと呟いた。まぁ見た目が13歳だから仕方ないと言えば仕方ないんだが……ルアンジェがヒトじゃないと判ったら驚くだろうなぁ……… 。
「些か若過ぎる気もするが……冒険者になれる年齢には達しているからな。俺に出来る事は、飛び切り良い武具を使わせる事ぐらいだな」
一頻り呟くと、何か1人で納得しているドゥイリオ。そんなに気にしなくても良いんだが………… 。
「それで……使う武器の方は決めたのか?」
俺は話の話題を無理矢理変えようと、ルアンジェに聞いてみた。
「うん。これを使う事にした」
そう言ってルアンジェが俺に見せたのは一対の鎌の様な奇妙な剣だった。刃渡り40セルト程有ろうか?剣柄から眉月の如く肉厚の剣身が湾曲しており、刃は湾曲した剣身の内側に付いていた。
剣柄の上側には奇妙な形の鍔かあり、何か引っ掛かるみたいである───これは?
「そいつは鎌剣って言うんだ。別名は月の剣。使い勝手は難しいし、どちらかと言うと玄人好みの武器だな。まァ今の内から慣れれば、かなり使えるとは思うが……」
後ろからドゥイリオが説明してくれた。それにしても何で2振りあるんだ?
「──あぁ、それはな……………」
ニヤリと笑うドゥイリオから2振りのハルパーの使い方を聞いて、俺は血の気がサーッと引いた! なんつーえげつない使い方だ!! まぁルアンジェの膂力なら使いこなせそうだが………… 。
結局ルアンジェの装備は、胸当て、篭手、脛当て、そしてハルパー2振りと長さ10セルトの手投剣が5本になった。
因みに胸当て等防具の造りはアンのと同じ薄いダマスカス鋼に星銀を鍍金した物で、ハルパーは俺のロングソードと同じダイス鋼とダマスカス鋼の積層らしい。調整はドゥイリオがしっかりしてくれて、負けて金貨3枚の支払いになった。
「っと、そうだウィル。お前さんに試して貰いたいのがあるんだ」
ルアンジェの分の支払いを済ませたら、ドゥイリオが何かを思い出したらしく、奥に引っ込むと布に包まれた何かを持ってきて俺の前に置いた。何だこれ?
「開けて手に取ってみろ」
ドゥイリオがにやにやしながら促してくる。何なんだ、一体…………… 。
俺が布包みを解くと現れたのは、小振りのカイトシールドだった───これって以前の?!
俺はカイトシールドを左手に取り構えてみる。良く見ると以前使っていた物より更に先細りがきつくなっており、先端部は鋭さが増し大きな穂先がある槍になっていた。これは全くの別物なのに、手にしっくりくるのは何故だ?
「どうだ? 上手く仕上がっているだろう!」
ドゥイリオが何だか嬉しそうな顔を向けて来る。
「あ、ああ……この盾はどうしたんだ?」
「そいつはな、お前さんから買い取ったカイトシールドを調べ上げて、俺が新たに拵えた物なんだよ!」
悪戯が成功した子供みたいな顔で、大笑いするドゥイリオ! 本当にか?! 確かにあれから3ヶ月も経てば、流石にそれなりには作れるとは思っていたが………想像以上だな!?
「それで──こいつを俺に見せたのは──」
「さっきも言ったが、お前さんに実戦で使って貰い、使い心地や改良点を俺に教えて欲しいんだ。こいつは一応完成しているとは言え、まだ試作に過ぎない。元のコイツに馴染みがあるお前さんなら適役だろう? それにこいつの調整はお前さんに合わせてしてあるからな」
ニヤリと笑うドゥイリオ──まァそう言う事なら構わないが………… 。
「わかった、やらせてもらうよ。それでコイツの代金は───」
「勿論、金は要らん! その代わり迷宮探索から帰って来たら、必ず俺の所に来て色々教えてくれさえすれば良いだけだ!」
俺はドゥイリオの申し出を受け、必ず再訪する事を約束してガドフリー武具店を辞する事にした。職人気質のドゥイリオに合わせるのは正直少し疲れる……………………… 。
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ガドフリー武具店がある西区から東区の市場まで来た。勿論ルアンジェの服や下着の買い出しであるのだが──店を回っている内にルアンジェのみならずアンの分も買う羽目になってしまっていた……何故こうなった?!
ルアンジェが新しい服に着替える度に、いちいち俺に見せに来ていたらアンさんも真似するみたいに始めてしまい、ルアンジェに至っては一度だけだが下着姿を見せに来たのだ!
流石に困り果てて視線を逸らしたら逸らしたで、顔に「?」を貼り付けるルアンジェ。もう少し羞恥心と言う物を持って欲しいものである。
結局ルアンジェの服は普段着としてドレスシャツとスカートを3枚ずつ、ワンピースを2枚買い、冒険者用規定服を5枚セットで買って、アンさんはドレスシャツ5枚にスカートを3枚、スパッツを2枚を買い、ワンピースは2枚に冒険者用規定服を6枚セットで買ったのだ。あと下着はそれぞれ10枚ずつセットで買った……らしい。
流石に何買ったとか、そこまで聞けないだろ?! 因みにルアンジェとアンの買った服は全て、コーゼスト先生の無限収納行きではあったが………… 。
勿論、俺も予備の服や下着は買ったのは言うまでもない!!
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「あら?! ウィルさんにアンさん、お帰りなさい!」
とりあえずの買い物を済ませ、何時もの常宿である『蒼眼の新月』に向かうと、女将のリネットさんが笑顔で出迎えてくれた。
「お久しぶりです!」
「女将さん、久しぶり。また世話になりたいんだが……2部屋空いてるかい?」
アンの元気な挨拶ににこやかな顔をした女将さんは、俺の脇にいたルアンジェを目敏く見つけ
「えっと、ウィルさんとファウスト達がひと部屋で……アンさんとその子でひと部屋で良いのね? 丁度空いてるわよ!」
「じゃあ、その2部屋を頼む。人が3人と従魔2匹分を1ヶ月で」
「はーい、毎度ありがとうございます! それじゃあ宿帳に名前を書いておいてね♡ウィルさんとアンさんは良いとして……その子は?」
女将さんにルアンジェを自己紹介させる。最初にしておくべきだったな………… 。
「ルアンジェです。よろしく」
「ルアンジェ……ちゃんね、私はここの女将のリネットって言うの。よろしくね! ルアンジェちゃんは字は書ける?」
「ウィルに教えてもらいましたから書けます」
すると女将さんはちょっと驚いた顔で俺の方を見やる。皆んな、何故にそんなに驚く?
「ルアンジェはツェツィーリアの孤児なんだ。訳あって俺達のパーティーメンバーになったんだ。ちゃんと読み書き出来る様に俺とアンが教えたから大丈夫だよ」
「あらまぁ! そうなのね~。ウィルさんもなかなかやるじゃないの! 見直したわぁ~」
一頻り感心すると、ルアンジェの方を向きながら
「大変だろうけど、しっかり頑張るのよ~。何か困ったら何時でも言いなさい!」
と励ましの言葉を掛ける女将さん。すんません、多分女将さんが心配する事は起きません……… 。
そんな事を考えているとルアンジェが宿帳に名前を書き終えた。俺は女将さんに料金金貨3枚を渡し、替りに木札が付いた鍵を2つ受け取った。今度の部屋はどうやら三階みたいである。女将さんに夕食の予約をして、俺達は荷物を置きに部屋のある3階に上がっていった。
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──コンコンコン
「ウィル、ちょっと良いですか」
部屋で寛いでいるとアンが訪ねて来た。話す相手がコーゼストしか居なかったので正直有難い。
『──何となくですが……雑な扱いをされている気がするのですが』
──気にするな! お互い様だ!
俺が部屋の扉を開けると、アンと共にルアンジェも立っていた。
「どうしたんだ?」
「いえ、帰って来て早々で悪いのですが……今後の予定をどうするのかと思って」
アンが申し訳無さそうに話してくる。まぁ確かに、未だ明日以降の事は決めてなかったな……… 。
俺はアンとルアンジェを部屋に招き入れた。部屋にある2つの椅子は2人に譲り、俺はベッドに腰掛けたのだが何故かアンが俺の隣りに来て座り、それを見ていたルアンジェもアンとは反対側に来て腰掛けたのだ。何なんだ、一体………… 。
俺は咳払いをひとつすると、2人に向かい話し始めた。
「……それじゃあ、とりあえずはまず明日の予定だが……………………」
久しぶりのガドフリー武具店のドゥイリオの登場です。それにしても随分マニアックな剣が置いてあるものです…… 。
そして、蒼眼の新月のリネットさんも久々の登場です!
段々いつもの「日常」に戻るウィル達です!




