リターン・ホーム
本日、第四十七話を投稿します!
久しぶりにラーナルー市に帰還したウィル一行です!
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──ゴトゴトゴト
朝の日差しの中、街道を二頭立ての馬車が進んで行く。御者台には俺と、褐色の長髪を横総髪にしたルアンジェが座っている。
やがて街道の先に、強固な城壁に囲われた街が見えてきた。ルアンジェはいち早くそれを見つけると、指差しながら訊ねて来る。
「ウィル、あれがそうなの?」
「ああ」
俺は連絡窓越しに客室に声を掛けた。
「皆んな、帰って来たぞ──ラーナルー市だ」
ラーナルー市の城門で手続きをすると、若い衛兵から「おかえりなさい!」と声を掛けられた。何となく感慨に耽けながら門を潜ると、目の前に懐かしく見慣れた風景が飛び込んで来た。
アンやラファエル達も客室の窓を開け放ち、街並みを懐かしげに眺めていたが──結構離れていた気がする。
『凡そ、3ヶ月と15日振りですが』
コーゼストがスラッと答えるが……お前は日数を数えていたのか?!
『より正確に言うと現在15万1687分43秒ですが──』
?!──まさかの分刻みしてやがった?!
俺とコーゼストが何時もの掛け合いを始めると、ルアンジェが脇でクスリと笑いながら
「ウィルとコーゼスト、面白い」
と宣う。この子も随分、ヒトらしくなってきたな………… 。因みに今彼女が着ているのは冒険者の既製服だったりする。
兎に角まずギルドに報告に行かないとと思い、ラファエルに断って馬車のまま向かう事にした。
程なくしてラーナルー市冒険者ギルドに到着し馬車を置き場に停めて、皆んなと共にギルドの玄関をくぐり広間に入る。そのまま奥にある総合受付の帳場に進み、3ヶ月振りの人物に声を掛けた── なるべく友好的に。
「やぁ、ルピィ」
「はい?──!? えっ、ウィルさん?!!」
受付の女性職員──ルピィの大声が広間に響き渡り、周りの視線が一斉に集まる──! そんなに注目するな!? そんな事はお構い無しにルピィは言葉を続ける。
「戻られたんですね! イオシフの迷宮での話はギルマスから聞いています! また大活躍でしたねぇ~! 私も鼻が高いです、うん!」
まるでアンの旋風刃の如く捲し立ててくる。
それと──何でルピィが鼻が高いんだ?
「あー、色々盛り上がっている所悪いのだが、私達はギルマス殿に用事があるのだが……」
俺が突っ込もうとした矢先、ラファエルがルピィに冷静な突っ込みを入れた。
「あ!? ご、ごめんなさい! 直ぐにギルマスにお繋ぎします!!」
ルピィは大慌てで2階に駆け上がっていった。ルアンジェの事には一言も触れないままで──── 。
ルピィがギルマスの許しを得てきて、俺達はギルマスの居る執務室に上がっていった。何故かルピィが付いて来たのかは疑問だったが── 。
ファウストを抱いてニコニコ顔のルピィは放っておいて、執務室の扉を叩くと奥から「入ってこい」と声がした。
俺達が重い扉を開けて中に入ると
「おぅ、良く戻ってきたな──先ずはイオシフの迷宮の制覇おめでとう。話は全て『看破』から聞いている」
相変わらずの筋肉隆々さが際立ったギルマス──ディオヘネス・ヒギンズが渋い顔で執務机から出迎えたのだ。
「ああ、何とか……な」
ぺこりと頭を下げるアンとは対照的に、俺は軽く目礼するとぶっきらぼうに返事を返した。
「……本当にお前は相変わらずだな………まぁ良い。そして其方がラファエル殿で宜しいのかな? 今回は御苦労でしたな」
ギルマスは苦笑しつつ、ラファエルに話を振って来た。
「これはギルマス、初めまして──であるな」
「ウィルフレド達は、ちゃんと役に立ちましたかな?」
「それはもう。満点以上の働きであったよ」
………何かギルマスもラファエルも、人を道具みたいな扱いしているのが引っ掛かるが……そもそもラファエルよ、お前は活躍してなかったよな?……まぁいいけど。
「──そして、その子が例の娘か?」
ギルマスは視線をルアンジェに向けながら問い掛けてきた。ちゃんと連絡網とやらは機能しているみたいである。
「ああ、そうだ。この娘が自動人形のΩ1000ーZ99──今はルアンジェと言う名前がある」
「ルアンジェです。よろしく……」
問い掛けに俺が答えると、続けてルアンジェが自己紹介し頭をぺこりと下げる。それを見ていたギルマスの視線は、何やら複雑そうだった。
「本当にこの子が、か……うちの娘と大して変わらんじゃないか」
いえギルマス、話だとお宅のマリベルよりルアンジェの方が14セルト程大きい筈です。年齢だって13歳と言う設定だし………… 。
俺の考えが顔に出ていたのか、ギルマスはわざとらしい咳払いをすると
「まぁルアンジェの事は、俺もネヴァヤから聞かされてそれなりに理解しているつもりだが──本当にウィルが親代わりをやるとはな……」
「私も同じ思いであるよ。そして今でもその思いである」
ギルマスの言葉尻に乗っかって、ラファエルが同調する──ほっとけ!
「……何か俺が親代わりをするのが、悪いみたいな言い方だよな…………」
そう呟くと、ギルマスとラファエルがサッと視線を逸らす──やれやれ。
その一方でルピィは事情が飲み込めずキョトンと惚けている──あとでちゃんと説明してやるから待て。
「兎に角だ。聞いてると思うが、ルアンジェを正式に冒険者として登録したいんだが……」
俺が本来の用件を切り出すと、ギルマスは椅子に深く腰掛けながら
「ふん、それは構わないが……この娘の実力は大丈夫なんだろうな?」
「それは俺とアンが確認した──問題無い」
実際ラーナルー市への帰路の途中で、俺とアンとでルアンジェの力を見てみたが……互角か場合により、それ以上であった。その事をギルマスに話すと、目をひん剥いていたが………… 。
まぁ、ルアンジェは自動人形だしな…………
ギルマスが立ち直るまで少し時間が掛かったが、何とか無事にルアンジェの冒険者登録は終わった。
尤もいきなりAクラスと言う訳にもいかず、Cクラスからではあるが。実際実力は有る訳だから1ヶ月後にBクラスに、その後試験を経てAクラスへと昇級させるのだそうだ。
それもこれもギルド総督部の総意らしい。流石うちのギルマスとネヴァヤ女史が、身元保証人として名を連ねただけの事はある。
「はい、ルアちゃん! 無くさない様にしてね♡」
ルピィから真新しい銅の認識札を手渡されるルアンジェは心無しか嬉しそうであるが……ルピィよ、キミもルアと呼ぶのか?
「うん、ありがとう。ルピタさん」
「うーん、そんなよそよそしくしないでぇ~私の事はルピィで良いよ♡」
「じゃあ……えっと、ルピィお姉さん」
「そうそう! んん~♡ルアちゃん可愛い~♡」
そう言ってルアンジェを帳場越しに抱き締めるルピィ。一方のルアンジェは、あまりの事に固まってこっちを見ている──そんな眼で訴えかけるな!
はァ仕方ない、助けるか……… 。
「……ルピィ、離してやれ。ルアンジェが戸惑っているぞ………」
「えっ? あっ!? ご、ごめんなさい!!」
慌ててルアンジェを解放するルピィ。片やルアンジェは解放されるが早い、俺の後ろに逃げてきた。
「ごめんねぇ~ルアちゃん。許して、ね?」
身振り手振りで謝罪の意思を示すルピィだが、ルアンジェは俺の背中越しに、ジッ……と見詰めているだけであった。心無しか、ある筈の無い犬耳と尻尾が力無く下がって見えたのは、またもや気の所為──か?
「……嫌われたみたいだな、ルピィ」
「そ、そんな~」
ガックリ肩を落とすルピィを見て、俺は苦笑いをしながら救援してやる事にした。
「ただ驚いただけなんだろ、ルアンジェ?」
「……うん」
俺の問い掛けに背中越しに答えるルアンジェを見て、ルピィは心底安堵したみたいに「はぁ~~~」と長い溜め息をついた──君は少し反省すべきだと思うが?
そんな事はおくびにも出さず、俺はルピィの肩をポンと叩くとギルドを辞すると告げると
「わかりました! 今日はゆっくり休んでくださいね! ルアちゃん、またね~♡」
飽くまでブレないルピィの見送りを受け、ギルドをあとにする。
「やれやれ、漸く我が家であるか……」
ラファエルが右手を左肩に乗せ、頭を左右に振りながら呟いた。
「──悪かったな、付き合わせて」
「構わないであるよ。必要な事であるからな」
ラファエルはニヤリと、含みのある笑顔で答えながら客車に乗り込む。
俺は馬車の御者台に乗ると、ルアンジェに手を差し伸べて御者台に引き上げ、手綱を握り馬車を動かし始めた。
そう言えばルアンジェの装備はどうしよう?
3ヶ月と15日振りにラーナルー市へと戻ってきたウィル達。相変わらずギルドでのドタバタでした!
これでラファエル達との臨時パーティーは解散しますが、ラファエル達は今後もちょくちょく絡みますので御安心ください(笑)
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