ラーナルー市
本日第五話投稿します。今回はダンジョン突入前の準備回となっております。自分で言うのは何ですが説明が多い気がします……
*2020年12月7日改訂
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すったもんだの末、とりあえずファウストの件は何とか解決した(笑)──やれやれである 。
そうそう、ファウストには人が使役している魔物の証として首輪が贈られた。これは〈魔物調教師〉が使う物で首輪には使役者の名前と魔物の名前、そしてギルド所属が明記されたプレートが燦然と輝いているのである。
当然ながら大きくなっても大丈夫だそうだ。贈られた本人(?)はやたら御満悦で尻尾のぶん回しが全開である。因みにファウストに着ける役目はルピィではあったが──やるに事欠いてしっかりモフっていたのは言うまでもない。
「はァ、とりあえず何とかなったなぁ」
絶賛ご機嫌なファウストを見ながら俺は独り言ちた。
『マスター、それは私が交渉して引き出した成果なのをお忘れなく』
『へいへい、感謝してますです。コーゼスト殿』
偉そうにコーゼストが宣っているが──そもそもお前に端を発した問題だろが!!!?
全く……この疫病神が……腕輪だけど。
『──マスター、何か?』
『いや、何でもございません』
コーゼストの突っ込みにしれっとすっとぼける俺。
「さて、と。ダンジョンに潜る準備でもするか……」
俺は自分に言い聞かせる様に声に出した。特に保存食が心許ないから買い足さないとなぁ……はァ。……いや、カネは隠し部屋で見つけた不要な魔道具を幾つか道具屋で売ったので困ってないんだが…… 。
コーゼストに聞きながら選んだ魔道具類は俺にとっては役立たないモノではあったが結構な金額に化けた。正直どれが何の魔道具なのか俺にはさっぱり分からなかったが、コーゼストの言うがままにしたら儲かった…… 。
あれ? もしかして、それもコレもコーゼストの手柄……なのか……?…………うん、とりあえず悩むのは止めとこう……ギルマスみたいに頭髪で悩む事になりかねない…… 。
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ギルドが有る西区から東区に向かう。
このラーナルー市は城郭都市とも呼ばれ「魔王の庭」への入り口を中心に丸く囲む様に高い城壁が構築され、その周りに沿う様に街が造られている。
北に鍛冶屋の集まる地区が、南に宿屋の有る地区、武器や防具や道具を扱う店屋はギルドが有る西区に、そして東区には市場がある。
それを第一層区画とし更にその周りを囲む様に領兵の駐在する城砦と居住地を第二層区画、更にその周りに城壁が張り巡らされ、その外側にAクラス冒険者や魔法士、神官や貴族の所謂高給取りが家族と住む住宅地区を含む第三層区画が存在する。そして街の外側には強固で馬鹿高い城郭がグルッと取り囲んでいるのである。
ダンジョンの入り口から西に伸びる第一層区画までの主要な大通りは第二層区画との境で一度『左から右へ』と大きく折れ曲がり、更に第三区画との境で『右から左へ』とこれまた大きく折れ曲がっている。何でも「魔王の庭」から魔物が溢れた場合に城郭内に留めおく為の処置らしい。
なんせこの街の城郭には、これまた頑丈そうな正門が西にひとつしかないからなぁ~。実際外部からの攻撃にも強そうだが、むしろ内側からの破壊に耐えられる構造みたいだし……… 。
まぁそんな事になったら、この街の住民全てが人身御供になるのは確実なのだが………この都市が「魔王の庭」に生まれて200年、一度もそうした暴走は起きた記録は無い。尤もそんな事が過去にあったら有ったで、こんなにヒトが一所に集まる訳が無いんだが。
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兎にも角にも市場に来た俺とファウスト(とコーゼスト)は、不足している食料品や日用品を買い足した。実は一番最初にコーゼストから勧められて、俺の使っていた背中のザックは魔道具の無限収納の効力があるザックへと変えてあったりする。コレも隠し部屋に打ち捨てられてた魔道具(俺にはそう見えた)だったが意外と使い勝手が良くかなり重宝している。そう言う事なので大量の荷物も苦にならない。それに何よりコーゼスト自身も無限収納を持っていて、その辺は便利だなとは正直に思う。
本当は出来たての料理とかインベントリに入れても暖かいまま食べれるそうなのだが……そもそも一介の冒険者がそんな魔道具を持ってる事自体滅多に無い事なので、流石にそんな悪目立ちはしたくない事もあり、あちこちの店で保存食を買い回ってその都度ザックに仕舞い込んだ。それでも結構、いやかなり目立っている気がしなくもない。
今回は干し肉を多めに(主にファウスト用)買いまくり、必要な物も全て揃えて漸く常宿にしている宿屋に戻る。
宿屋の女将さんにファウストを見せて従魔分の料金を払って部屋を借り直した。本来は使役している魔物は裏の厩舎なのだが、ファウストを見た女将さんが「可愛いから♡」と一緒の部屋にしてくれたのだ。
女将さん、ありがとうございます!
──まぁファウストを長々と撫でくり回すのが無かったらもっと良かったのだが──もしかして女将さんはルピィの同類か?
しかし今夜の夕食におかずを一品多く付けてくれると言う事なのでチャラにしようかと思う── 。
部屋で綺麗に身体を拭き、早めの夕食をファウストと部屋で取り、明日からのダンジョン攻略をコーゼストと打ち合わせを済ませると、俺は眠りについた──── 。
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翌朝早く宿屋を立った俺達はダンジョンの入り口にある大きな門の前にいた。ダンジョンには一日中、何時でも入る事が出来る様になっている。俺は警護に立っている顔馴染みの領兵のおっちゃんに声を掛けた。
「おっちゃん、おはよーっ」
「おぅ、ウィルじゃねぇか? 今日はまたえらく早出じゃねぇか!?」
「まァな、この前は途中で出てきちまったから落ち着かなくてなぁ」
「はははっ、そう言えば3日前はフラフラしながら出てきたから心配してたんだぜ?」
──ギクッ! それってまさか…… 。
「……え、えーっと、俺、そんなに変だったか?」
「ん? おぅ、オレが『大丈夫か?』って声掛けたのに何にも言わずにフラフラ出ていったからなぁ……何処か具合でも悪かったんじゃないかと思ってたんだ」
「そんなに……?」
「何て言うか……ボヤ~と惚けてた感じがしたなぁ~。目の焦点が合ってないと言うか……」
──そりゃ間違い無い! 3日前と言えば、俺の記憶が定かじゃない日の話だ!!
「……それで? おっちゃんは怪しまなかったのか…………?」
「まぁな、少しおかしいとは思ったが……キチンと手続きして出ていったからそれ以上は──」
ん? 俺が出宮手続きをしたって?
『それは私がマスターから身体の主導権を一時的に預かり実行しました』
はい! ここに黒幕がいました!!
『コーゼスト!! お前の仕業か?!!』
『その件については後ほど説明します』
くっそー、簡潔に答えやがってぇ! 俺はコーゼストの物言いに「この疫病神めが!」と心の中で思わず歯軋りするのだった。
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「? おい、本当に大丈夫だったのか?」
「!?」
そんな俺を見て怪訝そうな面持ちの領兵のおっちゃん。おっと、 おっちゃんを不審がらせてしまった!
「──い、いやぁ、この前見つけたお宝を改めて確認していたら凄く高く売れそうなお宝が見つかって、そっちの方にすっかり気を取られていたみたいでさ、俺も気が付いたら宿屋に帰っていて自分でもびっくりしていたんだよ」
「そ、そうなのか?」
「ああ。しかし駄目だな、滅多に使わない頭を使うと。そっちばかりに気を取られて他の方が疎かになっちまって」
「それなら良いけどよ……あまりボンヤリとしてると危ないぜ?」
「あぁ、わりぃわりぃ」
ここは嘘出任せのオンパレードである!何とか言い訳を言い連ねて誤魔化す事にした。その内、詐欺師とかやれるかもしれんが──やらないからな、そんな事は絶対に!!!
「なんでぇ、心配して損したぜぇ」
「悪かったな、おっちゃん! 今度カネが入ったら奢るから勘弁してくれ!」
「あーっ、まぁイイって事よ。 こっちも仕事だからなぁ」
領兵のおっちゃんはニカッと笑って許してくれた。これは本当に奢らないとな…… 。
「それはそうと、ウィルよ」
「うん?」
「お前まだパーティー組まねぇのか? いつまでも単独って訳には行かねえだろうに……」
……前言撤回。おっちゃん、暫く奢るのは無しだ。
「……パーティー組みたくても相手が見つからないんだよ」
大体ギルドでパーティー募集の張り紙は出ても直ぐ埋まっちまうし、常時組んでくれる相手は絶賛募集中なのだが──俺みたいに単独でダンジョンに潜るヤツは実力が有る分組みにくいって敬遠されがちだし……世の中ままならん。
気を取り直しておっちゃんにファウストを見せて従魔だと告げた。おっちゃんはビックリしてたが俺が外から持ち込んだヘルハウンドの子供だと一人で納得してくれた。
──領兵のおっちゃん、本当にいい人だな………… 。
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領兵のおっちゃんに入宮手続きを済ませて俺は門を潜る。入って直ぐに大きな広間が有り、ぽつんと水晶が嵌め込まれた台座がある。その台座の上に手を乗せると何処からとも無く声がした。「魔王の庭」の管理機構の案内する声だ。
『──こちら、迷宮「魔王の庭」管理システム端末です。 所属と名前、及びクラスを告げてください。 尚、同伴者が居る場合はこの場で登録お願いします』
「オールディス王国冒険者ギルド所属、ウィルフレド・ハーヴィー。 クラスはBクラス。 尚、同伴は従魔1体、名前はファウスト」
『ウィルフレド・ハーヴィー……確認しました。 従魔の登録も終了しました──現在第三階層までの転移陣が使用可能です。使用しますか?』
「使います」
『使用要請受領しました──転移陣に入ってください』
案内の声に従って床に描かれた転移陣に入る俺達。
『転移陣機構起動。転移対象確認──座標確認。第三階層のポータルに送ります。』
俺の足にしがみつくみたいにファウストがくっ付くと同時に体が光に包まれた── 。
さぁ、冒険のやり直しだ───!
冒険者のクラスはEクラスからD・C・B・A・Sと上がっていきます。初心者=EなのでウィルのBクラスだと一応中堅クラスとして認められています。
魔王の庭は400年前に魔王が倒された後大体100年を掛けて出来たダンジョンです。そこに築かれたラーナルー市は更にその100年後に出来ました。
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