紅霞(ヘイジィ)再び
本日、第四十六話投稿します!
ようやく帰れると思ったら、また一悶着(笑)
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「本ッ当にすいませんでした!!!」
アシュレイと『紅霞』のメンバー達が頭を下げる───何だ、この既視感。なかなか離れないスサナを漸く引き離しての第一声であるが、以前も経験した記憶が………… 。
『以前、蟻亜人の街ガナンで似たような事がありましたね』
コーゼスト……そんな古傷を思い出させるな…… 。
『まだ1ヶ月程前の話ですが』
段々コーゼストの指摘が容赦無い感じになってきた気がするが……そもそもコイツは一切の慈悲など持ち合わせて居なかったな、ちくしょうめ──!
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そんなコーゼストとの掛け合いをしていると、バネッサが俺の陰からジーッと様子を伺っていたルアンジェに気が付いた。
「あれ? その子、誰?」
「……まさか……ウィルさん、人勾引して来たんじゃ………」
ジェマが眼鏡越しのジト目で俺を見やる。この際ルアンジェの服装には突っ込まないのか?
「……ちょっと待て。何故そうなる?」
「だって、ねぇ……可愛い娘だし、ウィルさん目付きが悪いし…………」
フィリスがボソリと呟きを漏らす──目付きが悪いだけで非道い言われようである。
「違う違う! この子は訳あって引き取った孤児の子だ!大体何で俺が拐かしせにゃならないんだ?!」
俺の声を無視して『紅霞』メンバー全員の視線はアンに向けられた。アンはニッコリ笑って
「ウィルの言う通り、この子は私達のパーティーメンバーとして引き取ったの。名前はルアンジェって言うのよ」
──どうやらアンの一言で信じて貰えたみたいであるが──俺の扱い、酷くないか?
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そんな事をぐちぐちと零していたら『紅霞』のメンバー達が、今度はやたらキラキラした眼差しを向けて来る──何だなんだ?
「──凄い! 凄いよ、ウィルさん!」
いきなりバネッサが大声を出して、ルアンジェが背中越しにビクッと跳ねたのがわかった。
「見も知らぬ他人の、しかも孤児を引き取るなんて簡単に出来る事じゃないですよ!」
「いや……この子は俺のパーティーメンバーとして引き取ったんだが…………」
ジェマが眼鏡越しに瞳を輝かせて俺を見やる──キミはさっき、人を貶めたよね?
「流石はウィルさん! 目付きが鋭いだけの事はある!!やっぱりAクラスだけの事はあるなぁ~」
フィリスは的外れな褒め言葉で煽てるが──さっき目付きが悪いと言ったのは何方かな?
「見ず知らずの孤児を引き取るには、並大抵の覚悟で出来る事ではありませんからね」
アシュレイが最後にそう締め括ってくれるが……正直心苦しい気がしないでも無い。これは唯の言い訳だし、何たってルアンジェは孤児は愚かヒトじゃないからな。そんな思いとは裏腹に、『紅霞』のメンバー達がルアンジェを囲んで、何だかんだと言い始めた。
「ねぇねぇ、ルアンジェちゃんは幾つなの?」
「冒険者になるんだから、獲物は何が得意なんだい?」
「弓士目指すなら、やっぱりアンさんに教えて貰うの?!」
「もしも魔法士を目指すのでしたら、魔法適正を見ますよ」
「あ、えっと、私スサナだよ~仲良くしてねぇ~ルア」
以上、アシュレイ・バネッサ・フィリス・ジェマ・スサナの順に声を掛けられ、文字通り目を白黒させるルアンジェ。どうして良いのか解らずオタオタしてる様はかなり人間くさい。それとスサナ、ルアって何だ?
「あ~っと、すまん。ルアンジェはあまり喋れないんだ」
「「「「「えっ?!」」」」」
メンバー全員が一斉に俺の方に顔を向ける。その圧に気圧されて一瞬たじろぐ──君達は竜か?!
『ルアンジェは軽い失語症なのです。喋れない訳ではありませんが言葉を発する事が苦手なのです。こちらの言っている言葉は理解していますので意思の疎通は問題ありません』
コーゼストが絶妙な時機で援護してくれる。お陰で助かったが……そんな設定だったか?
『──嘘も話の手管です』
そう念話で宣うコーゼスト──相変わらず真っ黒である。
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「それで、何故あんた達がここに居るんだ?」
漸く最初に聞きたかった質問をする。確か蟻亜人の件の後、軽い懲罰を受けて何日間かの冒険者資格停止になった、とネヴァヤ女史から聴いていたんだが………?
「あ、それはですね。あの後に懲罰で10日間活動出来なくて……それで懲罰明けにギルドに顔を出したら、ウィルさん達の馬車の移送依頼があったので……恩返しするつもりで私達が受けたんです」
アシュレイはそう答えたが……何とも義理堅い奴等である。良く見ると彼女達が姿を現した馬車の陰に俺達の馬車が並んで駐車しており、ラファエルが急いで傍に行き早速点検をしていた──まぁ馬車の方はラファエルに任せよう。
「だからここに居たのか………」
するとネヴァヤ女史はこの事を知っていた筈だが──さしずめ俺達を驚かそうとしたのかな? なかなか悪戯好きなギルマスである──やれやれ。
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「それで、ウィルさん達は何処まで潜ったんですか? もしかして……完全攻略したとか?!」
「うむ! 私達がこの迷宮を攻略したのだよ!!」
1人で興奮気味のフィリスの言葉に点検を終えたラファエルが、あとから来てふんぞり返ったが──お前は何もして無かったよな? だから威張るんじゃない───!
すると『紅霞』の面々は「やっぱり」と言う顔をして、それからお互いの顔を見合わせて頷き合う──何だ?
「おめでとうございました! でもウィルさん達なら完全攻略するんじゃないかな、と皆んなで話していたんです!」
アシュレイが代表してお祝いの言葉を贈ってくれたが、何だかこそばゆい感じがして落ち着かない。此方は褒められ慣れていないんだから仕方ないんだよ!
そんな思いを何とか顔に出さない様にして礼を述べた後、移送依頼完了の署名を依頼書にして馬車を正式に引き取った。『紅霞』はこの後ギルドで依頼達成を報告して、再度この迷宮に挑戦するとの事だった。
「──本当は私達が、この迷宮を完全攻略するのが目標──いえ私達の夢でした。その夢は夢のまま潰えてしまいましたが、私達に出来る事やれる事をしようと思います」
そう言うアシュレイの言葉に頷く『紅霞』のメンバー達。
『先ず考えろ。だが行動する機会には先ず行動しろ。夢を考えるよりも、行動すれば夢は必ず手に出来る』
俺がギルドの訓練生だった時に、講義に来てくれた先輩冒険者が言っていた言葉だが、彼女達を見ていて思い出された。
「そうか──頑張れよ」
俺は短いが精一杯の気持ちを込めた言葉を贈った。無謀だと言うのは唯の無粋だからな。
お互いに握手を交わし、何処かでの再会を期してアシュレイ達と別れた。彼女達は口々にルアンジェに「頑張りなよ」と声を掛け頭を撫でていった──ルアンジェは、ただされるがままであったのは言うまでもない。
「何とも賑やかな人達でしたね……」
アンがポツリと呟く。この前もそうだったが、賑々しく元気なパーティーだったと思う──何となくだが、また直ぐに会えそうな気がする。ふと見ると、ルアンジェが頭を撫でられたままのボサボサ髪で佇んでいるのが見え、アンが自分の腰袋から髪梳を出して梳かしてやる所だった。
「ラファエル、馬車の点検は終わったんだろ?」
「うむ! 大丈夫なのであるよ!」
「あとは食糧と葡萄酒を買い足せば問題無いかと」
俺の問い掛けにラファエルとノーリーンが答えてくれる。早速ギルドの給養施設で揃えるとするか………代金はラファエル持ちだしな。
やがて髪を梳かし終わったルアンジェがトコトコと近付いて来て「………うるさか、った」と一言呟いた。
「煩いのは嫌いか?」
俺がそう聞くと、首をフルフル振って「──そん、な、事ない」と返して来た。
「まぁ、これから向かうシグヌム市にも、俺達が帰るラーナルー市にもヒトが沢山溢れているからなぁ……慣れて貰うしか無いんだが……」
「大、丈夫。慣れ、るか、ら」
ルアンジェは、真っ直ぐ俺を見詰めながらそう答えて来る。なかなかやる気のある自動人形である。
「……そうか。頑張れよ」
俺はそう言いながら、先程アシュレイ達にも同じ言葉を掛けていた事を思い出して、思わず苦笑いをした。
「それじゃあ、帰りの馬車の中で俺達が知っている事は全部教えてやるから──まぁ先ずは言葉からかな?」
「ん……が、んばる」
『私も出来るだけ支援します』
乏しい表情ながらもやる気を見せるルアンジェと、その支援に些か不安を感じるコーゼストの言葉を聞きながら、俺達は給養施設の有る区域まで向かっていった。
──そう言えばルアンジェの服、買わないとな。
紅霞再度の登場です! しかしスサナは会う度にトラブルを巻き起こしている気が……
そしてようやく帰路につくウィル達一行なのでした!
*人勾引……人攫い、誘拐の事。
*嘘も話の手管……つまりは嘘も方便と言う事。
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