魔導頭脳「アルカ」
本日、第四十三話を投稿します!
イオシフの迷宮の本当の秘密の解明回です。そしてここでも発揮されるウィルの巻き込まれ体質(笑)
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『──破壊も是である───と』
コーゼストがポツリと呟く。何か思う所があるみたいである。
そんな話をしている内に奥の部屋に到着した……本当に真っ直ぐ一本道だったな…………部屋は幅15メルト、奥行10メルト、高さ3メルト程か? ここも全体的に磨き抜かれており、しかも──何も無い空虚であった。それを見て明らかに落胆の色を見せるラファエル。
『この部屋は将来的には宝物庫になる予定だが──未だにそこまでの準備が出来ていない。魔導人工頭脳は、この更に地下に敷設されている』
ユニトロ──「アルカ」はそう言うと、部屋の右隅奥に俺達を導いた。
『──もう少し寄って欲しい──では転送する』
「アルカ」が言うが早い、足元に魔法陣が浮かび上がり俺達は転移したのだ。
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「ここは──」
魔導人工頭脳が置かれている場所まで来たが、上にあった部屋と同じ拡さの丸天井の部屋の中央には、明らかに異質な物が置かれていたのだ。
先ず中央が2メルト程の尖塔になっており、その先端に大振りな魔水晶らしき物が設置されている。尖塔の下の方は床に沿って5方向に短い腕が伸びていて、その末端には小さな尖塔があり、やはりその先端には魔水晶がそれぞれ5つ設置されていた。そしてその躯体は色からして星銀製……これが魔導人工頭脳「アルカ」か───!
中央の魔水晶は鈍い輝きを湛え、周りの魔水晶の内3つが目まぐるしく明滅しているのを、俺やラファエルが呆然と見上げていると、コーゼストがアルカと話し始めた。
『多重処理構造型とは違う様ですが?』
『擬似的精神構造形式の最終系だ。上位機構と下位機構の有機的結合で思考速度を上げているのだ、魔導機コーゼスト』
………全くさっぱり全然わからん!!
『それでエラーの原因は外因的なのですか?』
『──多分、内因性だろうと推測する。今から8年と3ヶ月前に休眠状態から起動した際、上位機構への記述命令は自動で挿入され問題無く受領された。だが37時間経過後、突如として上位機構が暴走を始めたのだ』
『すると、その挿入した記述命令に問題が?』
『その可能性は当然、私も認識し再確認したが特に問題は見当たらなかった。ましてや外因的要因となると皆目検討が付かない──休眠前の試験運用では問題無く稼働していたのだが……』
『────すいません。確認ですが、その休眠前の試験の時に使用した記述命令は記憶領域から消去してあったのですか?』
『? いや、試験の時のまま筈だが………………………………………………!? そうか! 休眠前に挿入されていた記述命令が、再起動した時に自動で挿入された記述命令と異なっていた場合には情報が重畳し自己矛盾──二律背反状態に陥る可能性が──?! しかしその様な性急な仕様変更は制作者から教えられていないのだが?』
『恐らく、それこそが主なる原因なのだと── 上位機構が失調状態に陥っているのだと推考します』
『だが上位機構が自閉状態である為、確認が出来ない。飽くまで外部状況からの推測になる』
『────では、推測を立証する為に私が貴方に侵入する許可を頂けますか?』
ユニトロ──「アルカ」は一瞬躊躇する素振りを見せたが「許可する」と告げた。するとコーゼストは俺に「アルカ」の躯体に触れる様に頼んで来たので、左手を躯体に触れさせた。
『──侵入開始──記憶領域に侵入────記述命令を確認──読取開始─────────!────主記述命令に不正な重層構造による矛盾を確認────改竄開始────記憶領域の一部に並列処理領域を構築──』
次の瞬間、ユニトロ──「アルカ」がビクリとしたかと思えば、その場に崩れた。
『重層構造化した主記述命令を再整合し並列処理領域を通じて再挿入開始───記述命令復元確認────動作確認完了────「アルカ」再起動』
魔導人工頭脳に備え付けられた魔水晶が一際輝きを放ち、その輝きは「アルカ」を中心に五芒星魔法陣を床に描き出す! やがてその光芒が収まると
『──感謝する』
いつの間にか立ち上がっていたユニトロからでは無く、魔導人工頭脳からそんな声が聴こえた。
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『自閉状態解除───全機構異常無し───貴方達には感謝をしてもし切れない。これで私は本来の使命を遂行する事が出来る』
魔水晶が明滅し、「アルカ」が俺達に感謝を伝えて来る。まぁ修理したのはコーゼストで、俺達は何もしてないんだが…… 。
「ところで……一体何が問題だったのかね?」
ラファエルがおずおずとコーゼストに訊ねる。確かに俺も気にはなるが…… 。
『端的に言うと「アルカ」の中に記述命令──行動指針が2つ存在していました。この施設のある事柄の「封印」と「解放」、相反する行動指針が「アルカ」の主要機構に負荷を掛け、結果「彼」の思考はあやふやになり加減が効かない状態に陥っていたのです』
「つまり……考え過ぎによる思考衰弱状態だったと言う事かね?」
『…………まぁ、概ねその認識で良いかと』
何ともざっくりしたラファエルの纏めだが……言いたい事は判った。
「すると、これで問題は解決したって訳か」
俺は大袈裟に息を吐いた。全てコーゼスト任せだったとは言え、皆んな緊張していたのは確かだったんだからな……アンもノーリーンもホッとしている様子が見て取れた。
『これでこの迷宮も正常になり、順調に進化して行くと思われます』
コーゼストも嬉しそうである。恐らくだが……コーゼストはアルカを破壊したく無かったのだろう──だからあそこまで懸命だったんだと思う。
『これでこの防衛施設も安定するだろう』
そんな事を思っていたら突然アルカから爆裂魔法を打ち込まれた!
「それはどう言う事なのかね?!」
ほらな、案の定ラファエルが火事場に飛び込んだ。
『貴方達が「迷宮」と呼称するものは我々が生み出した古代魔族に対する訓練所を兼ねた防衛施設なのだ。私はそれを創造・管理するのが与えられた使命なのだ』
何とも壮大な話がまた出て来た……迷宮が訓練所とか古代魔導文明って随分贅沢だったんだな?!
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『兎に角貴方達にはきちんと御礼がしたい。魔導人工頭脳の裏側に回り、この部屋の奥に来てくれないだろうか』
アルカからそんな言葉があり、特にラファエルは期待に胸躍らせる様子で、言われた通りにユニトロに案内されて部屋の奥に進んだ。奥に到着するとユニトロが壁に手を当てる──と壁が下に滑降して、中から繭の様な形をした大きな密閉容器が現れた。
「こ、この中に財宝が……いや、古代魔導文明の至宝が………」
ラファエル………本音が漏れてるぞぉぉ。
そんな事をしていたら、プシュッと音がして密閉容器が片開きに開き──中から大きな銀色の繭が現れた。これが財宝……な訳は無いよな。
「……何だ、これ?」
『これが貴方達に対する御礼です』
ユニトロがそう言いながら繭に手を触れると、ドロドロと飴の様に溶けてゆく。そしてそこから現れたのは───
「──えっ、女性────?」
身長150セルト程? の女性──いや、少女か?
白く透き通る陶器の様な肌色、整った顔立ち、薄桃色の長い髪、 そしてしっかり主張している双丘──そんな少女が全裸で繭の中から現れたのである──って、おい!?
俺は慌ててザックから麻の敷物を取り出し少女に掛けた。アンの視線が突き刺さる様に痛く感じるのは、決して気の所為では無い筈だ…… !
因みにラファエルは見蕩れていて、ノーリーンから誅罰を受けていた。
「?!──ッ、何なんだコレは?!」
俺の悲鳴にも似た叫び声に対し
「これが我々が封印処置をしていた対象────最後の自動人形、個体識別 Ω1000ーZ99です。これを貴方達に譲渡します」
「「「「な、何だって~?!」」」」
事無げも無く言い切ったユニトロに対し、俺達の声は見事な唱和をしたのであった。
廃坑が迷宮化した理由を明らかにしてみました。それにしても、この廃坑は意外と様々な者達が集まっていたんですね……(他人事)
今回はコンピュータ的な用語を作るのに苦労しました……
*魔導人工頭脳アルカ……古代魔導文明時代の魔法工学の粋を結集した、魔法で稼働するハイパーコンピュータ・超AI。
*多重処理構造型……連続した並列処理により、より多くのデータを多角的に処理する魔導頭脳の思考モデル。コーゼストの基礎システム。
*擬似的精神構造形式……人の精神構造を模した擬似人格の思考ルーチンで情報処理をする魔導頭脳の思考モデル。思考の瞬発的な速度は速い。
*2018年12月11日、加筆修正しました。
お読みいただきありがとうございます。




