不明への考察と監視者
本日、第四十二話を投稿します!
ここより話は急展開します! そしてまたもや戦闘はございません!
-42-
『何故、迷宮核が過剰反応を示したのか──恐らくは私達のこの迷宮の探索が起因していると推測します』
コーゼストの考察は続く。
「だが、何でだ? この階層に来る迄には問題無かっただろう?」
『ここからが推測ですが──ここまで探索されないと思い込んでいたのでは無いかと。なので余計に、この第八階層で踏み留まらせておきたかったんだと思います。例え過剰防衛をしたとしても──恐らくこの下層にある何かを護る為か、それとも私達と接触させたくない為か、或いは私達を試す為か──何れにせよその何かの為に過剰反応した物と推測します』
「或いは宝物庫とかも有り得るのであるな!」
ラファエルが何やらやる気に漲っている、が
「その可能性も有り得ますが──低いと思われます。主な理由として、その守護するモノ──便宜上監視者と呼称しますが──は、私達の動向を観察していました。私の感覚端末の走査波が第五階層以降、原因不明の不調に陥ってました。恐らく監視者の走査線と干渉し合っていた為だと推測します。そして又、この迷宮内を整備したのも監視者だと思われます」
コーゼストがそう告げると、ラファエルは少し残念そうな顔をしたが気を取り直して
「すると、その未知の存在に出会えるやも知れないのであるな……うむ、それはそれで興味深い!」
…………本当にお前はめげないよな。
そんな事を言い合いながらも、第九階層への経路を探していたのだが──どう探しても下層に通じる通路は疎か、扉すら見つからない。これはアレか、下層へ行く転移陣か何かか? しかし見つからない…… 。
「コーゼスト、判るか?」
『少しお待ちください──・──・・──判明しました。この部屋の入口から正面奥13メルトの位置に隠蔽魔法の痕跡があります。恐らくそこかと』
言われた場所まで行き暴食魔蜚蠊の灰を退かして見たが、特に変わった所は無かった。本当にここか?
『そのまま床に左手を付いてください──では起動開始』
コーゼストに言われるまま手を突くと、不意に床に魔法陣が浮かび上がった! 急いで皆んなを呼び魔法陣の中に立つ。
『それでは転送します』
コーゼストが短くそう言うと魔法陣から光芒が溢れ、俺達は転送されたのだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
転移の輝きが薄れると、目の前には整備され尽くした第九階層の様子が見て取れた。兎に角、床は疎か壁面や天井すらも磨き抜かれたみたいに光沢を放っている。床……滑らないよな?
恐る恐る歩き出して、足元が意外としっかりしているのを確認して転移陣の有る部屋を出ると、通路もやはり光沢感を湛えた整備がされており、しかもご丁寧に拡張までされていた。大体縦横2,5メルトぐらいか? 通路は奥に向かって一直線に伸びていた。すると奥の方から何者かの足音が聞こえて来た。
『どうやら来た様ですね───監視者が』
コーゼストの言葉に全員に緊張が走る。やがて通路の向こうから人型がこちらに歩いて来るのが見えた。人型と言ったのは相手が人間では無かった為である。
身長は170セルト程か? 輪郭は少し肉付きの良い男の体型に見えるのだが──肌の色が俺達ヒトと違い翠色で、顔には眼は2つ揃っているが鼻筋はのっぺりしていて何より口と思しきモノが無い。更に眼は黄玉の様であり瞳が無い。さらに更に眉毛は疎か頭髪すら無いのだ。序に言えば衣服すら着ていない。こんな迷宮の奥深くで素っ裸でいる奴が人で有ろう訳が無い。
監視者は俺達の前まで来ると
「ようこそいらっしゃいました。御客人」
そう言いながら綺麗な会釈をした。御客人だって?
「アンタが──監視者なのか?」
「成程、あなた方は私をそう認識されているのですか。私はこの施設の管理端末、イディアル製管理用自動人形UNIT・ROー81225と言います。以後お見知り置きを」
「!? き、君は古代魔導文明の自動人形なのかね??!」
ラファエルが驚嘆の声を上げるが、俺だって驚きだ。ここまで精巧な動きをする自動人形を見るのは初めてである。
「さて、お聞きしたい事は幾多も有ろうかと思いますが──先ずはご同行願います」
そう告げる言葉の端々に強い意志が垣間見えた。
「──何処に連れて行こうとしているんだ?」
少し警戒感を込めて問う、と自動人形は
「警戒なさる気持ちは分かりますが──どうか御安心を。決してあなた方に不利益を被らせる事はございませんので。寧ろ皆様方が興味のある場所かと」
「うん? そこは何処なのかね?」
ラファエルの問いに自動人形は驚愕の答えを提示した──!
「この施設を管理している魔導人工頭脳が敷設されている所までです。あなた方は迷宮核と呼称していますが」
そう言うと「ではこちらへお越しください」と再び会釈をしてから、くるりと背を向けて通路の奥に向かって歩き出した。まるで俺達が付いて来るのが当然だと言わんばかりの態度である。
少し癪だが興味の方が心の中で勝ったらしく、不快には感じなかった。
『行きましょう。どうやら訳ありみたいです』
コーゼストもそう宣うので、全員で自動人形の後を付いて行く事にした。特にラファエルは、目を爛々と輝かせて付いて行こうとしていたし……まァ、聞きたい事は歩きながら聞く事にしよう。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「──なぁ、アンタには名前が無いのか」
俺はまずは無難な話題から振る事にした。それに返答する自動人形。
「私の個体識別はUNIT・ROー81225となっておりますが固有名詞はございません。今まで不都合はございませんので」
「いや……それはそうだが、俺達が呼びにくい」
すると自動人形は立ち止まりこちらを振り向くと
「それでは呼びやすい呼称を付けて頂けますでしょうか?」
と、何やら期待を込めた感じで言ってくる。えっと、俺がか?! するとそれまで何事か考えていたラファエルが不意に声を上げた。
「ふむ……ならばUNIT・ROを捩って『ユニトロ』ではどうであるかね?」
「わかりました。私は『ユニトロ』です」
自動人形──ユニトロはラファエルに向かって会釈をする。心無しか嬉しそうである。何にせよヤレヤレだ………… 。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
自動人形──ユニトロとの会話はまだ続いている。
「それで……ユニトロ。俺達を迷宮核……じゃなかった、魔導……人工頭脳とかに連れて行ってどうするんだ?」
俺は率直な疑問をぶつけてみた。そもそも観光でここまで来た訳では無いのだから、何かあると思うのは自然である。ユニトロは一瞬動作を硬直させたかと思えば、急に纏う雰囲気を変えた──何だ今の?
『私──魔導人工頭脳「アルカ」の問題を解決して欲しい』
誰かに変わった?! ──アルカだって?
『どうやら魔導人工頭脳本体自身が、「ユニトロ」の主導権を乗っ取ったみたいです』
コーゼストが報告してくる。
『あなた方の言語パターン及び思考ルーティンは、全て走査で今まで観察し把握している。そしてUNIT・ROー81225への対応。それらを踏まえた上で私はあなた方に請い願う』
『「アルカ」。貴方の問題とは何ですか? 具体的な情報の提示を要求します』
コーゼストが真っ向勝負な質問をした。すると「アルカ」からより具体的な話が──
『現状私は下位機構でしか無い。私の上位機構の一部が暴走状態にあり三つ有る下位機構の内、二つの私が私を止めている状態なのだ。どの様な命令も一切拒否されている』
──!? 何か思った以上に深刻な問題みたいである。俺達に何をさせる気なんだ?! 俺のそんな逡巡が判ったのか、コーゼストが更に問い掛ける。
『それで、具体的に私達に何をさせようと言うのですか?』
コーゼストのこの問いに「アルカ」は躊躇無く
『私を止めて欲しい。このままでは本来与えられた使命を果たせなくなる。それは本意では無い』
『その為に上位機構を破壊する事があっても?』
再度の問い掛けに「アルカ」は────
『──答えは是だ』
はっきり回答したのである。
あまりの急展開に、付いて行くのがやっとのウィル達とは対象的なコーゼスト……次回はほぼほぼコーゼストの独壇場になります!
*自動人形……魔法工学(魔法と機械工学)の粋を凝らした機械仕掛けの人造人間。基本、人間の姿を模倣して造られる。稀にヒト以外の姿も?
*UNIT・RO-81225……古代魔導文明によって創り出された男性型の量産型の自動人形。身長170セルト。皮膚は翠色で毛髪は生えておらず眼は黄玉で瞳は無い。物腰は柔らかく丁寧である。
お読みいただきありがとうございます。




