グラトニル
本日、第四十一話を投稿します!
今回も戦闘回ですが──
かなりキツい魔虫の群れが出ます!本当に苦手な人は本当にご注意ください!
※生理的に無理な人は飛ばしてお読みください。
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『──不明です』
「──ハイ?」
第八階層も踏破距離から恐らくここが最後の部屋だと言う所で、コーゼストからまさかの不明瞭な報告である。
「何が不明なのであるかね?」
ラファエルがコーゼストに尋ねる。
『はい。私の生命感知センサーが異常な生命反応を捉えたのです』
「どう異常なんだ?」
『申し訳ありません。あの部屋から感知される生命反応が極めて広く、特定には至らないのです。まるで部屋そのものが1つの生命体であるかの様な反応です。なので不明と』
「まさか……竜とかじゃないよな…………」
『いえ、対象個体の発する生命波動の強さは竜とは全く異なる物であり、そもそも反応が違います』
コーゼストはそう否定するが、じゃあ何なんだと言う話である。そう聞くと「不明です」と言うばかり……何なんだ、全く………… 。
兎にも角にも部屋に近付き、扉を開けて恐る恐る中を見ると……魔導照明に照らされた室内には何も無かったのだった。
「……コーゼスト先生、何も居──」
「居ないぞ」と言おうとした俺の言葉に被せる様にコーゼストが警告を告げて来る!
『──Warning! Warning! この部屋の反応は───』
次の瞬間、足元の黒茶色の床がゾワっと動いた。床だけでは無い、壁も天井も一斉にだ!
良く眼を凝らして見ると、15セルト程の黒茶色したテカる身体が見えた。
「!! ヒッ──ご、ゴキブリ?!」
何時も冷静なノーリーンが悲鳴をあげる!
『──この部屋に居るモノは蜚蠊より厄介な恐怖と嫌悪の象徴──』
やがて蠢くモノは魔導照明を覆い隠し、部屋の中を紅い双眸が埋め尽くす! これは?!
『──暴食魔蜚蠊です』
暴食魔蜚蠊──それは悪食で有名な最凶の魔虫である。奴等は常に群れで行動し、あらゆるモノをを喰らい尽くす──それがヒトであろうと例え魔物であろうと、剣は疎か重甲冑であろうとだ。
奴等が通った跡には何も残らない草木のみならず骨の一欠片さえも……………… 。
その名が告げられるや否や、カサカサともガサガサともつかぬ嫌な音を立てて15メルト四方の部屋の中が突如騒めき立った──やばい!!
「『螺旋風之障壁』!!!」
アンの叫び声と共に、俺達を中心に渦巻く風の壁が生まれ、襲い掛かってきた暴食魔蜚蠊も足元に居た暴食魔蜚蠊も弾き飛ばした! 見ればアンの顔にも冷や汗がじっとり浮かんでいた。
「……この虫は駄目……絶対駄目……ダメ………ブツブツ」
アンさん、目が据わってます………… 。
『これは──精霊の力による風の防壁ですね』
「冷静に分析してるンじゃねぇ! どうするんだよコレ?!」
思わずコーゼストに突っ込みを入れる。このままじゃ、どうにもこうにも動けないんだぞ?!
『確かにこのままでは、ラファエル様達を護りながらの攻撃手段が限定されてしまいますね──分かりました。私がアンの魔法を受け持ちます』
「?! 何言って──」
「何言っているんだ」と言おうとする暇も無く、コーゼストは直ぐに行動を起こした。
『──・──『複写』。複写出来ました。アン、『螺旋風之障壁』を引き継ぎますのでそちらは解除してください』
コーゼストがそう促すと、アンが発動を解いたのが視えた。しかし風の障壁はそのまま維持されている。
「何をどうやったのかね? コーゼスト殿?!」
ラファエルが興奮気味に訊ねて来る──まぁそうなるよな………… 。
『その話は後ほどに。さて、マスター・ウィル。あとはお任せします』
コーゼスト?! まさかの丸投げかよ!? くそ! 仕方ない──俺は今の状況から逃れる術を懸命に模索して────
「また暗殺翅虫の時の様に焼き殺す訳には行かないしな……」
そうなのである。暗殺翅虫と違い暴食魔蜚蠊はある程度の高温には耐えるのだ。それこそ炎龍之息吹よりも高火力の魔法でないと………だがそうすると部屋の中に居る俺達が一瞬で消し炭になってしまう。何か対応策さえ有れば……熱さえ防げればなぁ……………ん? 防ぐ?………………………そうか!
「ラファエル。1つ確認したいんだが──」
俺はラファエルにある事を確認して自信を深めた。そして全員に手早く考えた案を伝える。特にコーゼストからは『これなら成功率が高い』と言われ皆も賛成してくれた。
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作戦を実施すべくデュークに指示を出す俺!
「よし! デューク『城壁』だ!」
掛け声に反応して俺達の周りに、高さ5メルトは有ろう分厚い壁が隙間無く立ち上がる! 一旦立ち上がった壁は、上部が天蓋の様に俺達の上に覆い被さり密閉する。デュークが出来上がった防壁に触れると、たちどころに岩で出来ていた壁全部が青い輝きを放つ星銀に変わった──デュークの金属化である。
勿論あらかじめ魔導提燈は用意してあるので壁に囲まれても見えるのだが。
「──良し。アン、魔法の準備を! コーゼストは打ち合わせ通り、アンの詠唱のタイミングに合わせて風の障壁を解除、同時に魔法障壁を展開してくれ!」
「は、はい!」
『分かりました──アンに同調します』
アンは1つ深呼吸をすると、意を決して壁に両手を当て魔力を集中して行く──そして!
「『Fire, destroy all my enemies──蒼焔よ爆ぜよ、我が敵を全て滅せ』灼熱之爆裂!」
『螺旋風之障壁解除──物理結界多重展開──出力最大へ』
アンの最大級の魔法が発現する刹那、絶妙なタイミングで防御魔法を切り替えるコーゼスト!
次の一瞬────
ドガガガガガガガガガガガーーーン!!!!!!
凄まじい迄の爆発音が鳴り響き、俺達を覆う防壁がミシミシ軋んだ!! そして訪れる静寂………デュークに城壁を解除させる。
防壁がゆっくり消えていき視界に映るのは、夥しい数の灰の山と魔核であった。全て燼灰と化したらしい──どれだけの数が居たんだ?!
『15メルト四方の部屋に概算で約13万匹程でした』
しれっと怖い事を宣うコーゼスト。
「そんなに居たのかよ?!」
多い多いとは思っていたが、幾ら何でも桁違いである。それにしても…………
「これ……どうするよ…………」
約13万個近くある魔核をどう回収するか? 別の問題で更に頭が痛くなってきた……はァ。
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結果として……コーゼストの持つ無限収納に付いている「指定転送機能」───簡単に言うと、指定した物のみ収納・展開する機能で一気に回収出来たのである。そんな便利な機能があるなら最初から言って欲しいものだ。
『この機能については聞かれなかったので──』
「アア、サイデスカ」
俺とコーゼストがやり取りしている脇で、アンとノーリーンが心底焦燥した顔色をしていた。そりゃあ見た目ゴキブリの魔虫が相手だったからな……キャーキャー騒がれなかっただけでも良かったが………… 。
『ところで──1つ気に掛かる点があります』
コーゼストが途端に話題を変える。
「なんだよ、気になる点って?」
『今の暴食魔蜚蠊ですが、おかしく感じませんでしたか?』
?? 別におかしく感じ無かったが…… 。
『あの暴食魔蜚蠊の格ですが、平均50程ありました。それまでの出現した魔物の格平均は35──出現の律動から予測されたのは格40──明らかな異常です』
「おい……それって」
少し前にコーゼストから聞かされた話が頭を過ぎる────
「まさか迷宮核の問題か?!」
『かも知れませんが、どちらかと言えば迷宮核が過剰な反応を示していると思われます』
「? 何だそりゃ?」
『ここからは状況から垣間見える推測ですが───』
そう前置きして、コーゼストが1つの仮定を話し始めた。
今回は最凶の魔虫系魔物の話が中心でした。不快に感じた方、申し訳ございませんでした!
それにしても、アンとコーゼストの連携はバッチリですねぇ~(他人事)
*暴食魔蜚蠊……体長15セルト程で体色は黒茶色でテカテカしている。触角はやや長めで所謂ゴキブリ。最低でも100~300匹の集団で行動し、強靭な顎と歯であらゆるモノを喰らい尽くす。生物無生物問わない。数十年周期で大発生する事がある(大暴走)。
*螺旋風之障壁……発動者を基点として、猛烈な風の渦(螺旋風)による強固な障壁を展開する風属性の精霊魔法。障壁に飛び込もうものなら猛風によりズタズタにされる。
*複写……コーゼストの特殊技能。対象の魔法の術式を解析・複写してコーゼストが使用する事が出来る様になる。なお複写した魔法はその後も使えるようになる。
*灼熱之爆裂……魔法の発動点から周囲に爆発を発生させる。その際、瞬間的に5000度もの強烈な熱を伴い、爆発範囲内の物質を焼き尽くす。火属性の上級広範囲殲滅魔法。
お読みいただきありがとうございます。




