蟲! また蟲!
本日、第四十話を投稿します!
引き続き迷宮での戦闘回です!そして、アンさんが大胆行動を?!
因みにこの回は虫が多めの話です! 苦手な人はご注意くださいませ。
-40-
───ブブブヴヴヴヴヴヴヴヴゥゥ───
扉を開け中に入ると、物凄い羽音が部屋中に響き渡る! 獲物が現れ暗殺翅虫達が色めき立っている証拠だ──だが獲物になる気は更々無い!
「ファウスト!」
「ヴァオオオオォォーーーン!」
ファウストの咆哮が羽音を消し去る様に響き、幾十匹かが麻痺して落下する──が、まだだ!!
「アン!!」
「『His man destroys his enemy──彼の者よ、焼ける息吹で敵を滅せ』──炎竜之息吹!」
詠唱が終わると同時に、アンの目の前に陽炎を纏う熱の塊が現れた! それはアンの前から部屋の中に放たれると、中央付近で大きく膨らみ四方へと拡がり、その熱の膜に暗殺翅虫が触れると翅虫を焔の塊に姿を変える!
やがて部屋全体に熱の塊が拡がり切ると、暗殺翅虫は全て焔に包まれボトボト落ちて行った。勿論俺達も熱に晒されるが、コーゼストの魔法障壁で燃える事は無い──のだが、やはり熱い!!
だがそれも10秒程で収まり、15メルト四方の部屋の中には数百匹の暗殺翅虫の焼け焦げた残骸が残されていたのであった。
『お見事です』
コーゼストから淡々とした賞賛を受けた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「うむむ、何とも言えない臭いであるな」
暗殺翅虫を纏めて倒して、再び開いた扉から入ってきたラファエルの第一声である。
そんな苦情を受け流しながらアンと手早く残骸から魔核を回収し、その先にあった分岐から下層へ降りる経路を発見して進む事にした。そして第五階層──── 。
「クケケケァ!」
「アン! そっちに4匹行った!」
「任せてください!」
俺とファウストは、けたたましい鳴き声を上げながら突っ込んで来た刃冠鶏の群れを迎え撃った──が幾匹か取り零した! アンに声を掛けながら振り返ると、抜けて行った刃冠鶏達はアンの『旋風刃』に切り刻まれていた。
この階層から今までの魔物の混沌から一転して、刃冠鶏の前にゴブリンや四目大蟇と、ちゃんとした偏りを感じる事が出来る様になった。
それだけではなく、今まで剥き出しのゴツゴツした岩肌だった坑道跡が更に手を加えられて滑らかになっていた。一体誰が手を加えているのか? 疑問は尽きないが、そもそも出来て数年と言う若い迷宮自体珍しいのだ。その成り立ち等、未だ解明されていない事が多いのだから仕方ないと言えば仕方ない。
それにコーゼストの言った「迷宮核」がどの様な働きをしているのかすら、俺達の理解の範疇の外だからな。
「うむむむ……」
まァそこは後ろで唸っているラファエルに丸投げしよう!
俺は水晶地図板で時間を確認する。そろそろ暮方から2時間経とうとしていたので、少し戻って小部屋を避難所にして今夜の寝床とする事にした。探索はまた明日である………… 。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「………………」
明けて翌朝、麻の敷物を敷いただけの寝床で目覚めると、何時もの如くファウストとデュークが膝の上に乗っていた。まぁそれは良い──問題は何でアンさんまでが俺の脇にピッタリと密着しているんだ?!
俺が動揺して身動ぎすると、アンさんがゆっくり目を覚まし────
「…………えっ」
「や、やぁ、お早うございます?」
暫し俺と目が会うアンさんと、ぎこちない挨拶を交わす俺。アンは即座に顔を真っ赤に染め、慌てて起き上がると
「お、お、お、お早うございます! ウィル!!」
と大声を張り上げた。その声で目を覚ますラファエル達を尻目に「ちょっと外の様子を見て来ます!」とアンは飛び出していった──やれやれ。俺は膝の上からファウスト達を降ろしながら、深く溜め息を付くのだった。
その後戻ってきたアンと共に簡単な食事を済ませると、更なる先へと進む事にした。何となくだが、アンが俺と距離を置く感じがするのは気の所為だろうか? 微妙な空気のまま、それでも遭遇する魔物を物ともせず、第六階層へと下りる経路を発見して下りて行く。
第六階層から第七階層は、特に問題も無く探索する事が出来た。ただ1点、下層に進むに従って迷宮内が何者かが整備しているが如く、整然として来ている点が気に懸かるのだが……… 。
兎に角、俺とコーゼストの無限収納には食糧が軽く2ヶ月分有るし、水は久遠の水瓶が有るので心配は無い。後は何らかの問題でも無い限り、最下層を目指せそうである。尤もこのイオシフの迷宮は、1層辺りの拡さが大きい所だと6キルト四方ほどみたいなので「魔王の庭」から見ると、小さく感じる──まぁ彼処が広過ぎるのだが。そんな事を思いながら第八階層へ──── 。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ガガギーン!!!
左から打ち下ろされて来た長剣ほども有る鎌をヒーターシールドで受け止め、右手に握ったロングソードはもう一本の鎌と激しい迫り合いをしている!
遭遇した兵刃蟷螂は3匹、1匹は俺が、1匹はファウストが、もう1匹は既に骸を晒している。俺が相手をしているのは一際大きな奴だが、それにしても硬い鎌だな! 兵刃蟷螂の名前は飾りじゃないって事か!?
そんな事を考えていたら無数の水の矢が飛んで来て兵刃蟷螂を怯ませた! アンの水征矢の援護である!
俺はヒーターシールドを持つ左腕に力を込めて、受け止めていた鎌を弾き飛ばして距離を取り、右手に握るロングソードを頭の右側に添える様に構えると───
「貫甲!」
気合一閃、迅風増強の効果による突進力で一気に兵刃蟷螂の懐に飛び込み、構えていたロングソードを後胸に深々と突き立てた! 本来は相手の鎧を貫く為の武技だが、こいつらにも有効だ!
兵刃蟷螂は一瞬身体をビクリと震わせると、両腕の鎌を力無く下げて絶命したのだった。
そのままファウストの方を振り返ると、ファウストに両腕の鎌をもぎ取られた兵刃蟷螂が爪撃破で膾切りにされた所だった──それを見て俺は漸く構えを解いて、大きく息を吐き出した。
「はぁ、キツかったなぁ……流石は格38。アン、支援ありがとうな」
「アッ……い、いいえ」
アンが少ししどろもどろに返事をする……まだこの前の事を引き摺っているのか……?
「ウィル様、アン様は乙女でございますから察してあげて頂けますでしょうか?」
まさかのノーリーンからの指摘である。いや、それはわかっていますので………… 。
「それにしても、この階層の魔物の偏りは極端であるな」
ラファエルが話を逸らしてくれた──見事である!
「ま、まぁな。確かにここまで、ずっと魔虫系統だよな」
そうなのである。第八階層に下りてから遭遇する魔物は、見事な迄に魔虫──虫系統の魔物のみなのである。
兵刃蟷螂を始め大椿象に鎧甲虫に殺人蟻、岩窟蜘蛛に、果ては暴君百足まで……正に魔虫系魔物の山盛りで食傷気味である。
『この第八階層から明らかに遭遇する魔物の質が変わりましたね』
コーゼストの言う通りもう一点、この階層に現れる魔物は光の粒子になって消えるのだ。それはつまり、この迷宮の迷宮核自らが産み出した魔物だと言う事だ、とはコーゼスト先生の談である。
「まァ最下層まで後少しみたいであるし、これこそがここの迷宮核の成長の目安と言えるのではないかね?」
ラファエルは独自の見解を示す。
『私もその点では同意します。あとは未成熟な迷宮核は例外的な問題を起こす可能性が高いと言う点に留意すべきかと』
コーゼスト……脅さないでくれないか? 皆黙ってしまうじゃないか! 何となくだが……また貧乏くじを引きそうな予感がする………… 。
「……兎に角、先に進むぞ」
「ヴァンヴァン!」
「···········」
俺の声にファウストは元気良く、デュークは相変わらず無口に、そしてアンやラファエル達は無言で神妙な面持ちで頷くのだった。
俺は一抹の不安を胸に、更なる迷宮の奥へと歩を進めるのだった。
結局アンの魔法で暗殺翅虫を纏めて退治した一行ですが、アンはラファエルから一般的な魔法(精霊魔法以外)を書き記した魔法教本を渡されて使える様になりました! 今後もアンの魔法は大活躍をします!(確信)
*炎竜之息吹……炎と風の複合魔法。文字通り炎竜の息吹の如き1000度もの高温の空気の塊を生み出し、周囲に被害を及ぼす広範囲攻撃魔法。
*貫甲……鎧を着込んだ相手に対する剣による刺突攻撃。鎧の防御力を無視してうち貫く事が出来る武技。所謂、牙突。
*刃冠鶏……体高70セルト程の家鶏の魔物。鶏冠と肉髯の先が硬質化しており、また脚には鋭い踵があり、それらで相手を攻撃して来る。
*四目大蟇……体高1,5メルトある四つ目のガマガエルの魔物。自身のは体長の3倍も伸びる舌(6メルト)で相手を攻撃・捕食する。また舌を鞭みたいに使う事もある。
*兵刃蟷螂……体高2メルトから2,5メルト程もあるカマキリの魔物。ロングソード程もある前肢の鎌で相手を切り裂く。また体表は硬く、生半可な攻撃は効果が無い。
*鎧甲虫……体長1メルト(頭角を入れると1,8メルト)のカブトムシの魔物。近くにいる時はその長い角を振り回し、遠くにいる時は翅で飛行し角を槍の様に突っ込んで攻撃して来る。体表はかなり硬く、剣が折れる事もある。
*暴君百足……体長3,5~4メルトあるムカデの魔物。口から吐き出す毒霧・大顎による噛み付きからの毒攻撃・巻き付きからの絞め殺し、等と攻撃方法が多彩で強力。
※2018.9.30 間違いを訂正しました。
お読みいただきありがとうございます。