生還 ~報告は丸投げの香り ~
本日、第三十八話投稿します!
無事に地上に戻ってきたウィル達と紅霞の面々。
そして事後処理と報告が………
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「アシュレイ!」
蟻亜人の街「ガナン」から無事、『紅霞』を連れ帰って来たその日の午下──非常用転移陣を使ってネヴァヤ女史自らがイオシフの臨時支部まで出向いて来た。
そしてそのまま、妹のアシュレイの顔を見ると一目散に駆け寄って来た。
「姉さん!」
そのまま2人、しっかりと抱き合う──感動の再会である。ギルマスとして気丈に振舞っていても、妹を思う姉の姿がそこにはあった。しばしの間妹を抱き締めていたネヴァヤ女史は、アシュレイから離れると『紅霞』のメンバー1人ひとりの名前を呼びながら「お帰りなさい」と声を掛けた。
それがひと通り終わると、不意にメンバー全員がネヴァヤ女史に向かい一斉に頭を下げる。
「「「「「ギルマス! ご心配をお掛けして申し訳ありませんでした!」」」」」
ネヴァヤ女史はそれを受けて、姿勢を正し
「何はともあれ全員無事に生還出来、安堵しました。先ずは十分な休養を──行方不明に陥った原因等は、その後詳しく報告して貰います。それにより行方不明時に掛かった捜索費用の一部を、負担して貰う事が有り得ますので」
と言い渡す、と『紅霞』のメンバー全員の顔色が些か青褪めた。ネヴァヤ女史はニコリと笑い
「大丈夫よ。ちゃんと分割払いだから」
と満面の笑みで宣う……前言撤回、中々厳しいギルマスである。
「黒の軌跡の皆さんも無事で何よりでした。そして──良くこの子達を連れ帰ってくれました。心から感謝します」
こちらを向き直り、そう言いながら深く腰を折るネヴァヤ女史と『紅霞』の面々。
「これで依頼達成かな?」
俺は割と素っ気ない感じで問い掛ける。
「はい、それこそ期待以上の働きでした」
ニッコリと笑うネヴァヤ女史──ギルマス。するとマシュー青年が徐ろに
「ネヴァヤ様、ウィル殿。詳しい話はこちらの大天幕の方でした方が宜しいのでは?」
と提案してきた。
「そうですね、ありがとうマシュー。ではウィル殿、あちらで詳しい報告をお願いします」
マシュー青年に先導されてネヴァヤ女史、俺達と『紅霞』は、ぞろぞろと大天幕に移動した。
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「さて、大まかな事は遠方話で聞かせて貰ってますが……詳しい話をお聞かせ願えませんか、ウィル殿」
大天幕の中、大きな食堂机の椅子に座りながらネヴァヤ女史が語り掛ける。その顔はギルマスの顔そのものであった。
「──そうだな。先ず封鎖された扉から進入した俺達は────」
俺は全て包み隠す事無く、ありのままを話した──途中アシュレイやコーゼストが情報の補足をしながら、蟻亜人の事、彼等の街ガナンの事、女王ナミラの事、全て──── 。
「──そうして女王ナミラから星欠片を托され、ジドの案内で俺達はここに帰って来れた」
そう言いながら俺は、ザックから虹色に輝く魔水晶を取り出してネヴァヤ女史の前に置いた。
「これが──?」
「星欠片だ」
ネヴァヤ女史は星欠片を、貴重品を扱うみたいに慎重に手に取り
「それで、どの様にすれば蟻亜人の女王と話せるのですか?」
『手に載せた状態で、魔力を注ぎ込みながら頭の中で話し掛けてみてください』
コーゼスト……俺の台詞を取るなよな………… 。
ネヴァヤ女史が星欠片に魔力を少し注ぐと、虹色の輝きが増しほど無くして
『──私をお喚びになったのは何方でしょうか』
女王ナミラの声が響く。
ネヴァヤ女史は一瞬慌てた素振りを見せたが、直ぐに落ち着き
「初めまして蟻亜人の女王ナミラ。私はあなた方に助けられた冒険者パーティー『紅霞』の所属するオールディス王国シグヌム市冒険者ギルド統括でネヴァヤ・ファーザムと申します。そしてオールディス王国子爵でもあります」
『すると──皆さん、無事にお戻りになられたのですね』
女王ナミラは、ホッと安堵した口振りでそう語った。
「この度は女王の並々ならぬ御尽力、本当にありがとうございました。お陰を持ちまして誰一人欠ける事無く生還致しました」
『それは何よりでした。それで今回は如何様なお話なのでしょうか?』
「はい、ナミラ女王がウィル殿は托された星欠片の確認を兼ねて御礼を申し上げようとした次第です。この後は我がオールディス王国君主、エリンクス国王陛下に必ずお渡し致します。勿論、私からも一言添えさせていただきます」
ネヴァヤ女史はハッキリと明言する。
『何卒宜しく御願い致します。ファーザム卿』
そして何処までも謙虚な女王である──何となくだがネヴァヤ女史と重なる物があると感じるのは俺だけだろうか? やがて星欠片が輝きを止め、ネヴァヤ女史と女王との短く、そして初の会談は終了した。
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「何か……凄く腰の低い感じがする女王でしたね」
俺達以外では初めて蟻亜人と接触を果たしたネヴァヤ女史の第一声である。興奮から覚めたみたいではあるが未だ頬は紅潮していた。
『共通言語を行使すると言う事を基準とするのなら彼等蟻亜人はヒトとさして変わらないと思います。その主義も信仰も言葉で語れるなら互いに相和す事も可能かと思われます。その為には双方の歩み寄りは必要ですが』
コーゼストがまた小難しい事を宣うが、つまりはお互い良く話し合えと言う事だな。
まァそう言うのは、統治階級のお偉いさん達に悩んで貰うとしよう。
「コーゼストさんが保証してくださるなら、きっと大丈夫ですね」
ネヴァヤ女史はニッコリ笑う──頼むからコーゼスト、安請け合いはしないで欲しい………… 。
「ではこの星欠片は、私が責任を持ってエリンクス陛下に直接献上します」
「あー、ギルマス」
意気込んでるネヴァヤ女史に俺は尋ねずにはいられなかった。
「現王エリンクス陛下に直接献上って……幾らあんたが子爵でも難しくないか?」
「確かに──子爵位の身で陛下に軽々に御目通りが叶わないと思いますが、元Sクラス冒険者としてのネヴァヤ・ファーザムの名声を最大限に使います」
詳しく聞けば、何でもエリンクス陛下は若い頃から大の冒険好きで、幾人もの冒険者を懇意にしているのだそうだ。当然ネヴァヤ女史も其の例に漏れず、良く冒険譚を聞かれたのだそうだ。
「ウィル殿もSクラスになれば、直ぐにでもお会いになれますよ? きっと」
ネヴァヤ女史が悪戯っ子みたいな顔で宣う──あまり権力側には寄りたく無いのだが………… 。
『──以前から疑問だったのですが、マスターは御自身が伯爵家の三男と言う身分だった筈ですよね? ですが随分権力を嫌っていますが──何かあったのでしょうか?』
コーゼストが至極真っ当な疑問を念話で聴いて来る。
『あー、あまり言いたくは無いんだが…………』
全く、今でもあの時の辛酸を思い出す……おっと!
「──ま、まぁ、そう言う事なら任せて安心だな」
俺は無理矢理に話を纏めた──これ以上の追求はごめんである。
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「何はともあれ、依頼はこれ以上無い形で達成されました。それで報酬に、幾らか上乗せしたいと思います。何か希望はありますか?」
ネヴァヤ女史が察してくれたみたいで、話題を変えてくれた──やれやれ。それにしても報酬の追加、ねぇ……そうだな…………うん。
「なら今回使わせて貰った転移陣を、この後も使わせて欲しい。勿論暫定的で構わない」
「それは──このイオシフの迷宮の探索が終わるまでの間、と言う事で宜しいのでしょうか?」
俺は思い付いた希望を言うと、ネヴァヤ女史が確認してくる。
「やっぱり無理だろうか」
「いえ、それは私の権限で如何様にも出来ますが……それだけで良いのですか?」
「あぁ、それだけで良い。宜しく頼む」
報酬はちゃんと貰えるのだから、この後の利便性を取るべきだな。見るとラファエルが、満面の笑みでこちらを見ている──なんて良い笑顔でこっちを見てるんだ?!
「それならば危急の要件時のみ、主要ギルドの所有する転移陣を使用出来る鑑札を発行しましょう──その方があとあと都合のいいでしょうし」
まさかの大盤振る舞いである。まァ、使わせて貰えるならそれに越した事は無いのだが…… 。
「では一度シグヌム市まで戻って、早速発行手続きをして来たいと思いますが……一緒に来て貰えますか? 勿論『紅霞』も」
そう言いながら立ち上がるネヴァヤ女史。
俺達は今一度、シグヌム市に舞い戻る事になったのだった────── 。
基本ウィルは巻き込まれ体質ですが、しっかり元は取ります!
そして今回も例に漏れずガッツリと……(笑)
やはり冒険者も最高位まで登り詰めると、色々融通が効く様になるんです。何と言っても貴族様ですから!
お読みいただきありがとうございます。




