地下に別れ、地上に生還を
本日、第三十七話を投稿します!
いよいよ蟻亜人の街から地上に帰ります……が、その前に………
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──ちょっと待て。どうしてこうなった?
今、俺の膝の上には3つの塊が乗っている。ひとつはファウスト……これは何時も通りだ。もうひとつはデューク……これもわかる。そしてもう1つ……何で猫耳の女の子が乗っている?!
俺は慌てて飛び起きた! 床に麻の敷物だけ敷いて寝ていたので、2体と1人は床に綺麗に転がったが、猫耳娘だけはまた這い上がって来る。
「クゥーン……」
「……………………」
「ふにゃ……」
ファウストとデューク、抗議は後で受け付けてやる! そしてそこの猫耳娘さん、いい加減起きないか?!
そんなこんなしていたら隣で同じく寝ていたアンが目覚め、俺の状況を見て──ピシリと固まった。
「……ウィル〜! な・に・を・し・て・い・る・ん・で・す・か~〜?!」
「何って──ただ寝ていただけなんだが……」
アンの周りに濃密な魔力が集まるのが視える! ちょ、ちょっと落ち着け!!
「あー!? スサナ!? こんな所にいたのね!」
不意に声がして振り向くと『紅霞』のフィリスが入口に立っていた。
「「……はい?」」
「…………にゃ~」
俺とアンの声が見事に重なり、スサナと呼ばれた猫耳娘さんは相変わらず惰眠を貪っていた──── 。
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「本当にすいませんでした!!」
アシュレイが頭を下げる。それに倣ってバネッサ以下『紅霞』のメンバーも頭を下げるが、スサナだけ一瞬キョトンとして出遅れた──君が騒動の原因だよね?
あの合流の後、蟻亜人の女王ナミラから尖塔内に部屋を宛てがわれた。水晶地図板で確認すると地上では既に夜半に差し掛かる所だったのだ。外は明るいままなので、時間の感覚が狂う。
とりあえず詳しい打ち合わせは起きてからと言う事で、俺達と『紅霞』は部屋に別れて寝た筈なのだが………… 。
「すると……スサナは厠に起きた後、寝惚けてこっちの部屋に潜り込んだ……と?」
「どうやら、その様なんですよねぇ~」
えへへー、と笑うスサナ……この子は本当にあの用心深い斥候なのか? 確かに部屋と言っても同じ造りだし、そもそも扉も無いし、間違え易いと言えば間違えるとは思うが────
「まぁまぁ、誰にでも間違いはある故に──」
ラファエルが的外れな救援を入れてくるが……お前がそれを言うのか? 案の定、ノーリーンから「旦那様が言える立場ですか?」と突っ込まれている。
「……まァ、もう気をつけて貰えれば構わないが……本当に頼むわ…………」
「わ、私もその、気をつけていただければ……」
アンさんがしどろもどろになって、同意の意を示す──そして何故か、俺と視線を合わせようとしない──やれやれ………… 。
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朝からの騒動であまり休めた気がしなかったが、折角全員集まったので朝食を共にする事にした。主に友好を深める為だが──既にコーゼストの事やその他諸々を話してあるので、無限収納から干し肉と燕麦粥を人数分取り出し、ノーリーンが手早く準備をした。
因みにバネッサとジェマの2人は茸人の毒を吸い中毒症状だったのだが、アンの魔法で解毒した。まぁ、アレは普通の毒消しとかでは治らないからな…… 。
「それで……私達はいつ戻れるんでしょうか?」
アシュレイが食後の葡萄酒をノーリーンから注いで貰いながら尋ねて来る。こんな時でも自身の流儀を崩さないノーリーンは流石である。
「昨日の女王の話ぶりだと、直ぐにでも帰れる筈だが……」
「私としては何日か滞在したいのであるがな……」
ラファエルが懲りもせずそんな事を呟き、ノーリーンから折檻されている。気持ちは判らなくも無いのだが、ちゃんと『紅霞』全員を地上に連れ帰るのがネヴァヤ女史からの依頼なのだから諦めて欲しいものだ。
「…………あいつの言う事は聞き流すとして、もう1度女王ナミラに確認はすべきだな。この後謁見出来るか誰かには聞いてみよう」
俺がそう言うと
『──それは直ぐにでも可能です』
と言う声が頭の中に響き、振り向くと近衛と侍従を従えた女王ナミラが姿を表した。臣従の礼を取ろうとすると『構いません』と止められたが……何か幾分楽しげに感じるのは俺だけか?
女王はバネッサとジェマの顔を見ながら『毒が浄化されて何よりでした』と声を掛けている──優しい女王である。
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「──女王ナミラ」
『何でしょうか。ウィル殿』
俺は女王の虹色の複眼を見ながら、はっきり告げる。
「俺達と『紅霞』は、明日にでも「ガナン」を出立しようと思っている。色々世話になってしまい申し訳無いが──彼女達を無事に連れ帰らなくてはならないので赦して欲しい」
『そうですか……私としては名残惜しいのですが致し方ありません。それで私達の事なのですが──ウィル殿は如何なされるおつもりなのでしょうか?』
女王は問い掛ける──つまり自分達蟻亜人の扱いをどうするのだと。
「──すまないが、帰ったら俺達冒険者が所属する組合の最高責任者には報告するつもりだ。俺は一介の冒険者でしか無い──その判断は国を纏める王にしか出来ない事なので委ねたい」
『それは──賢明な判断だと思います』
女王は少し寂しそうに答えた。
「だが──『蟻亜人は極めて友好的である』としっかり報告するつもりだ」
俺はそう女王に言葉を掛けた。僅か2日ではあったが蟻亜人達と触れ合った俺の偽らざる感想である。アンを見ると漸く目を合わせて微笑んでいる──『紅霞』のメンバーも、ラファエル達も頷いている。
『──心馳せ、感謝します』
女王ナミラは頭を下げようとして──俺が止めた。曲がりなりにも女王なのだから軽々に頭を下げるのは如何なんだ──種族は違ってもその立場があるのだから。
聞けば女王ナミラは『自ら謙虚であれ、そして厭う事なかれ』を自身に課しているのだそうだ。全く、人間の国の重鎮達に聞かせたい話である。
そんな事を考えていたら、後ろに控えていた侍従から受け取って、自らの複眼の様に虹色に輝く魔水晶を女王が差し出した。
「これは?」
『これは我々蟻亜人を導く『輝光星』の枝葉、星欠片。これさえあれば、いついかなる時にも私と話す事が出来ます。あなた方にこれを托したいと思います』
『つまり、我々に仲介を要請したいのですね』
それまで黙りを決め込んでいたコーゼストがそう宣う。
『魔法具様が仰る通りです。ですが無理強いは致しません』
まぁ蟻亜人の事を説明するにしても、直接本人達が話せば一番説得力がある訳だし──預かってネヴァヤ女史に渡せば良いだろう。
俺は半分苦笑いを浮かべながら、星欠片を受け取った。
『お受け頂き、礼を申します』
女王ナミラは今一度、頭を軽く下げたのだ。
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その後 星欠片の使い方を聞いて更に1泊し、帰還に向けた準備に入った。尤も大した準備など無いのだが……装備のひと通りの確認と忘れ物をしていないかだけである。次に再訪するにしても何時になるかわからないからな。
ほど無くして準備完了となり、いよいよガナンを離れる時が来た。玉座の間で女王に別れの挨拶をし、来た時と同じ様にジドが転移陣まで案内してくれた。そしてそのまま、一緒にイオシフの迷宮の避難所まで転移する。
『デハ、俺ハココマデダ』
ジドがまた忙しなく触角を動かしながら、別れの言葉を告げる。
「ジドにも世話になったな」
『ナンノ、オ前達ノオ陰デ陛下モ久シブリニ愉悦ニ満チテイタ。礼ヲ言ウノハコチラダ』
無表情に見えるジドの顔が笑った気がした。
「また会えると良いな」
『会イタクバ、マタココニ来イ。オ前達ナラ歓迎サセテ貰ウ』
お互い握手を交わし、ジドを皆んなで見送る。『デハナ──』の言葉を残し、ジドは転移していった。
俺はファウストとデュークを顕現して、『紅霞』のメンバーと共に隊列を決める。
「さぁ、地上に戻るぞ……!」
俺は地図水晶板が帰還用の魔力波を捉えたのを確認しながら、そう声にした。
全員が思い思いに頷く──── 。
こうして冒険者パーティ『紅霞』は7日振りに地上へと帰還したのだった。
無事、紅霞は地上へと生還を果たしました。まァちょっとした修羅場はありましたけど……(笑)
蟻亜人の話はもう少し続きますのでお付き合いくださいませ!
お読みいただきありがとうございます。




