拝謁と邂逅と
本日、第三十六話投稿します!
「紅霞」の捜索も急展開、蟻亜人の街へと舞台は変わり、そこでウィル達を待ち受けるものとは?
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「これは…………」
目の前に広大な空間が拡がる。天井は遥かに高く、そこより淡い光が差し、潅木の間より聳え立つ尖塔の数々。ここが地下であると言う事を忘れる風景だ。
『コッチダ』
ジドが先導して転移陣から出て歩き始める──何となくだが気温は高いか? 意外と整然とした尖塔の間に延びる道を歩くと、あちこちにジドと同じ蟻亜人達が歩き回っているのが見かけられた。良く見るとジドと違う点に気付く──手の指が3本の蟻亜人が多い──。
『───位置特定。転移元より縦方向に200メルト付近。恐らくはイオシフの迷宮の最下層より更に下にこの地下空間は存在すると思われます。総面積に関しては情報が不足しています。新規地図作成開始』
それまで沈黙していたコーゼストから念話で教えられる。どうやら場所の特定に躍起だったのだろう。
「ジド。ここがガナンなのか?」
『ソウダ。我々ミュルミドーンガ住マウ聖ナル街「ガナン」ダ』
ジドはこちらをチラリと、振り向きながら端的に答える。
「……それで、俺達は何処に向かっているんだ?」
『我ラノ女王ニ会ッテ貰ウ』
「君達の女王……であるかね?」
ラファエルが尋ねる。
『ソウダ。女王ナミラ……ダ。女王ハ、オ前達ノ聞キタイ事全テニオ答エニナラレルダロウ』
そう言うと前を向き直り、そのまま歩いていくジド──何となく親近感が湧く……コミュ障か?
『マスター……緊張感を持って頂けると有り難いのですが』
コーゼストから念話で突っ込まれた。
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ジドに案内される事40分、目の前に一際大きな尖塔が現れた。入口には槍と盾を持った蟻亜人が守護している
──どうやらここが目的の「女王」の居城なのだろう。「門」を守護する蟻亜人とジドが触角を触れ合わせていたが、俺達の方を向き直り
「スマンガ、武器ヲ預カラセテ頂キタイ」
と俺とアンに近付いて来てそう告げた。まぁ、自分達の王に謁見させるのだから当然の処置だろう。俺達は素直に武器を預ける……ちゃんと取り扱ってくれる様に頼んだが。
『……デハ入ッテクレ。俺カラ離レヌ様ニナ』
ジドと共に門を潜り案内される。前後には、いつの間にか現れた蟻亜人の兵士が張り付いてきた。
やがて狭い廊下から大広間に出た。尖塔の中にも関わらず天井から吊るされた大燭台と思われる光輝燦爛とした照明で昼間の様に明るく広い。
半ば唖然としながらその先まで歩を進めると、床より数段高くなっている場所の手前で止まりジドと兵士達が恭しく傅く。そこには豪華な造りの椅子が作り付けられ1人の女性と思しき蟻亜人が鎮座していた。
体高は150セルト程か──? 胸に当たる部位には硬質な淡い光に包まれた子供の様な華奢な腕が4本、そして手の指は5本。胸元には慎ましやかな起伏が有り女性であると告げており、腹部はやや大き目でやはり硬質な光を湛えた脚が見える。だが何と言っても眼に映るのは蜉蝣の如し薄羽をドレスの様に纏っている事だった。それは虹色の複眼と共に彼女を特徴付けていたのだ。そして────
『ようこそいらっしゃいました、人族の方々。私が女王ナミラです』
──?! これは念話か?
『その通り。私はあなた方の心に語り掛けています。私達は精神通話と呼んでいますが』
見ると女王の触角が忙しなく動いている──そう言えばジドもやたら触角を動かしていたが何か関係有るのか? そう思いつつラファエル達の方を見やると呆然としていた。
「──そうか。それなら話し易い」
俺は右手を左の胸に当て、右膝を床に着き────
「これは──俺達の国の臣下の礼。受けていただきたい──蟻亜人の女王」
腰を折り頭を深く下げるとラファエル達も慌てて同じ礼を取る。
『あなた方は私達とは異なる方々、臣従を示す必要はありません』
そう言って女王ナミラはニコリと笑った気がした──── 。
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『──そうですか。彼女達を捜しておられたのですね』
女王ナミラがそう呟く。その言葉に安堵の感情が感じ取れた。
「急がせる訳では無いが、彼女達──『紅霞』に会わせて貰いたい。地上では彼女達を心配している人間が沢山いる」
『それは一向に構いません──が、宜しいのですか? お連れの方は色々聞きたい御様子なのですが……』
後ろを振り向くと、ラファエルが瞳を爛々と輝かせ聞く気満々でいた──そうだよなぁ……こいつが居た……はァ……… 。
『私が答えられる事はお話致しましょう。何をお聴きになられますか?』
結構気前の良い女王陛下である。
女王のその声を聞いてラファエルはすっ……と立ち上がると、大きく会釈して
「では……僭越ながら女王陛下に幾つかお聞きしたい事があるのですが、先ずあなた方が住まうこの地についてお聞かせ願うと有り難いです」
いつもと違う口調で質問を始めた──と言うかこいつはこんな喋り方が出来たのかと感心してしまう。
『構いません──そもそも私達、蟻亜人の一族がこの地に居を定めたのは────』
女王ナミラはラファエルの質問に澱みなく答える。そこから語られた事は────
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今から300年ほど昔、彼等 蟻亜人は、このイオシフ村のザフィロ山脈に導かれて来訪したのだそうだ。何でも彼等 蟻亜人の氏族はこの大陸に複数存在する──らしい。決してその数は多くは無いが、大体1千単位が1つの氏族の人口の大きさみたいである。
移住直後は平穏な日々を送っていたのだが、150年前ザフィロ山脈が鉱山として開発されると俺達人族と接触を持つ様になったそうだ。本来なら新たな地に移住したかったが……次の導きまでまだ250年有り、仕方なく当時入植したてのイオシフ村の人と最低限の交流を図る事を選択し、蟻亜人の話は村人達のみに伝えられる事になったのだ。
最低限の交流と言ったが基本、お互い不干渉を不文律として当時多かった坑道での事故の時に、地下での活動が得意な蟻亜人が坑夫として働く村人を助ける事ぐらいだったそうだ。100年後、鉱山が廃坑となりイオシフ村の村人達との交流は数年に一度ほどに減ったが、不文律は守られ続けられる事となった。
そして廃坑の迷宮化──何でも7~8年前から変化が有ったとは女王ナミラの話である。
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『──そうして刻一刻と迷宮化する鉱山を私達は備に観察し、時折この坑道に出現する様になった魔物を私達の領域に居るモノは狩り、又時折領域に迷い込む人族を助けていました』
女王ナミラが静かに語り終える。
「そんな事が……あったのであるか」
ラファエルが丁寧な口調も忘れて半ば呆然としている。無理もない──彼が聞かされていた情報には蟻亜人の事は見事に隠蔽されていたのだから──── 。
だが、この情報が先に知らされていれば無用な混乱は無かった筈だが、去りとて、いざ公開されれば更に多くの混乱を招くだけだろう。まァそれについては、お偉いさん達に任せれば良いんだが────
未だ茫然自失しているラファエルを脇に置き、俺は女王に『紅霞』との面会を再度願い出た。
『わかりました。では直ちに侍従に連れて来させますので、少しお待ちいただけますか?』
願いは直ぐに聞き届けられ、女王の脇に居た蟻亜人の侍従が奥の間に一旦引き下がり──ほど無くして侍従に連れられヒトの女性の5人組が現れた。
うち2人の顔色はやや悪かったが、怪我をしている様子は無く、俺達を視界に捉えると心底安堵した表情を見せた。どうやら彼女達が──
「あんた達が『紅霞』か──?」
俺が誰何するとリーダーと思しき軽鎧の女性が駆け寄って来る──あれ? この髪の色は──── ?
「もしかして捜索隊?! そう! 私達は『紅霞』! 私はリーダーのアシュレイ・ファーザム!」
銀青色の短髪の利発的な女性が答えた。
行方不明者の捜索がいつの間にか大事に……
何処まで行ってもウィルは巻き込まれ体質!(笑)
*蟻亜人……太古より大陸に住んでいる先住民族。見た目はキラーアントと見間違えるばかりだが、知能は高く独自のメンタルと独自の文化を持つ。基本的に温厚。体高120〜150セルト。知性が高い程、手の指の数が多い模様。
*ジド……蟻亜人の戦士。ウィル達が初めて遭遇した蟻亜人である。体高130セルト。中々知性的。手の指は4本。
*ナミラ……蟻亜人の現女王。体高150セルト。手の指は5本。高い知能と深い知性を併せ持つ。
*精神通話……所謂、念話。
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