未知と不明と蟻亜人と
本日、第三十五話投稿します!
待望の戦闘有ります! そして推理の冴える名探偵ウィルの活躍は如何に? (嘘)
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分岐から左側に400メルト程進んで来た。途中、坑道跡の壁には人が故意に傷付けた跡がほぼ20メルト置きに続いていた。どうやら『紅霞』はこちらに進んだのは確実だろう。
「ふむ……これは間違い無いであるな」
ラファエルが魔導提燈に照らし出された傷を見ながら、感心している。まァ用心深い斥候には確実に帰還する為に自分にしか判らない印を標す奴がまま居るものなのだが──
「グルルルルルルル」
『──警告、前方80メルト先に魔物の反応有り。数は5。種別は──岩窟蜘蛛。格は23。順位はC』
不意にファウストが唸り声を上げると同時に、コーゼストからも警告が伝えられた──相変わらず反応が良くて助かる。
直ちに遭遇戦に備えながら慎重に前進をすると、体長1メルト程のずんぐりした体型の蜘蛛が見えた。こいつらは太い歩脚で素早く走ったり跳ねたりして襲ってくるのが規則性なのだ。
「アン!」
俺の声にこくり、と頷くアン。既に詠唱を終わらせていたらしく、アンの周りに岩の槍が複数浮かび上がる!
「『岩短槍』!」
掛け声と共に岩窟蜘蛛目掛けて押し寄せる岩槍! 岩槍は4匹を屠ったが1匹は辛うじて避けて、岩壁伝いに俺の頭を走り超えて後ろのアンに襲いかか──れなかった。ファウストが鋭い反応を示し、岩窟蜘蛛を爪撃破で切り裂いたのだ。
それにしてもアン……そんなに土属性魔法が使いたかったんだ…………俺が視線を合わせようとすると、スッ……と視線を逸らすアンさん──やれやれ。
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魔物の死骸から魔核を取り出し、辺りを注意深く調べてみると印が未だ坑道の奥に続いている事が判り、先に歩を進める事にした。それにしても……この迷宮はまだ出来て何年も経って無いのだろう。倒した魔物が光になって消えないのが良い証拠である。
その後3度に渡る遭遇戦を経て更に1キルト程進み──少し拓けた空間に出た。大体横5メルトの奥行2メルトか? そこから坑道が3方向に分岐している……さて、どちらだろう? それぞれの入口付近を慎重に調べると1番右側に印が付いていたのでそちらに進むべきか?
「コーゼスト、調べてくれ」
『了解──・──3方向共にヒトの反応はありません。尚、印が有った右端ですが行き止まりになっています』
「なんだって?」
そう言われて改めて3つの入口を調べるが、印が付いていたのは右端のみであった……どう言う事だ? ここで別れてそれぞれの坑道を調べるのは得策では無いので、全員で右端に向かう。
より慎重に進む事──約50メルト、激しく争った形跡の残る場所に来た。今までも幾度と無く見て来た痕跡だ。恐らく『紅霞』の戦闘跡だと思う。だとすると間違い無くここを通過している訳だが──── 。
「何と戦ったのだろうかね?」
「──多分……茸人だな」
ラファエルの疑問に残骸を調べていた俺が答える。干からびた太い繊維質の塊が3つその場に打ち棄てられていたのだ。
「兎に角ここで戦闘が有ったのは間違い無い。血痕も無いから怪我はしていない様だが……毒に当てられていると厄介だな」
それ以外には特に無く、印を確認して更に坑道の奥に進むとまた拓けた空間に出た。大体20メルト四方の空間には古ぼけた箪笥が壁際と、やや大きめの木製の卓と幾つかの木のスツールが打ち棄てられる様に置かれていた──この坑道の避難所跡か?
何故か魔物の痕跡が無いのが気に掛かるのだが………… 。
「……兎に角、調べてみるか……コーゼストは使える感覚端末とやらで詳しく調べてくれ。デュークは入口を固めておいてくれ」
『──わかりました。現在使用可能の感覚端末を全起動。人感センサー、生命感知センサー、魔力波センサー積極化。熱感知センサー及び動体センサー覚醒』
……何かやたら張り切っているな、コーゼスト先生……さて、と………… 。
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ひと通り避難所を調べたが特に変わった所も無く、この時点で『紅霞』の足取りはこの20メルト四方の空間で途切れてしまった。
「うむむ……これでは正に行方不明であるな」
ラファエルが右手を顎に当てて唸っている……俺も唸りたい…………
「もう一度調べてみよう。何か見落としているのかも知れないし」
そう言った矢先、コーゼストから警告が発せられた!
『──魔力波センサーと生命感知センサーに反応。何者かが転移してきます。転移位置は──箪笥です』
!? 箪笥……だと!?
やがて、高さ150セルト程の箪笥の扉から淡い光が漏れ輝き──キィ……と扉を開けて姿を表したのは体高130セルト程の二本足で直立した蟻だった──魔物か? ──いや、手脚が蟻よりしっかりしているし……でも腕が4本とか……顔は明らかに蟻だし……こんな魔物は見た事が無い…………するとラファエルが呆然としながら
「こ、これは蟻亜人……!」
と呟く。なんだ蟻亜人って?
「見た目はキラーアントに近く魔物に間違えられ易いが、れっきとした亜人種なのであるよ! 嘗てはこの大陸の大平原に幾つもの集落を成し、我々人間が大陸に文明を興す以前から生活していた古き種なのである──!」
興奮した面持ちで早口に捲し立てるラファエル。まァお前が興奮するのも解るが………… 。
一方の蟻亜人は左の腰(?)に下げたショートソードの柄に4本指の手を添えて、大きな黒とも紫ともつかない複眼で俺達を見据え、顔(?)の正面から突き出した大きな顎を忙しく動かしながら声を発した。
『ギ、ギギ──又ヒト族カ? 大蜘蛛カト思ッタ──』
「?! あんた、話せるのか!」
俺が驚いて尋ねると首を傾げる仕草をしながら
『イク人カハ……ソモソモ大陸語ナラ話セヌ者デモ、意味ハ理解デキル』
と中々の知性を感じさせる言葉が聞けた。それより──だ。
「あんた、名はなんと言う? 俺はウィル」
『──ジド』
ジドは頭の触角を忙しく動かしながら答えてくれた。
「ジド──か。あんたはさっき又、人族かと言ったな? もしかして俺達の前に5人の女のパーティに出会わなかったか?」
『? アア……確カニコノ前5人ノ雌ノ群レヲ助ケタガ……オ前達ノ仲間カ?』
ジドが確認してくる。
「──俺達は彼女達を捜しに来た者だ」
俺はそう正直に答えると、ジドは大きな顎や触角を更に忙しく動かし──やがて
『──ソウカ。ナラバ案内シヨウ。雌ノ群レノ待ツ地マデ』
「? それって……」
『我ラノ住マウ街、「ガナン」ダ。女王ノ許可ハ得テイル』
ジドはくるり、と振り向き出てきた箪笥の扉の中に向かい『付イテコイ』と告げて来た。俺はファウストとデュークを送還して後に続く。アンはその後に、ラファエル達も慌てて付いてくる。
腰を屈めて箪笥の扉を潜ると、奥にヒトが並んで6人程立てるだけの空間が──床石に転移陣らしい魔法陣が刻まれている。
『コノ中ニ手ヲ繋ギ入レ。身体ヲ寄セロ』
指示通り全員が魔法陣の中に入ると、ジドの触角がまた忙しく動き
『転移スル』
足元の転移陣から淡い光が滲み出して──俺達はその場から姿を消した────── 。
事態は急展開します! が、安心してください──次回以降、ネタバラシします!
*岩窟蜘蛛……体長1メルトの蜘蛛の魔物。所謂ハエトリグモ。
*茸人……体高1,5メルトのキノコの魔物。所謂マタ○ゴ。
*岩短槍……魔法で形成した岩槍を対象に向かって放つ。土属性魔法。
*蟻亜人……次回、詳しく!
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