トラブルと喚び合う魔具
本日、第三十二話を投稿します!
いよいよ一行は国境に到達しますが……巻き込まれます! トラブルメーカーの面目躍如です(笑)
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「良い旅を──」
宿屋の主人に見送られて雨の中を出立する。ここはワクト市の『風精霊』と言う宿屋だ。
あの後アドン村で1泊したのち、順調にワクト市まで馬車は走破したのだ。尤もこれまた予定通りに馬達を休ませなければならなかったのだが……余裕を見てこの風精霊で3日逗留し、人も馬も十分休養しての出発だ。この後は国境のシグヌム市まで凡そ470キルトを野営を3回ほど挟んで到達する予定である。
しかし、雨……か。鬱陶しい事この上ない。俺は雨避けの貫頭衣を被りながら、空を見上げて顔を顰めた──この分だとあまり速度を上げられないので遅れそうだな……… 。
「ウィル、大丈夫かね?」
客車の連絡窓からラファエルの心配する声が聞こえた──お前は旅程の遅れと俺と、どちらが心配なんだ?
ラファエルにはひと言「大丈夫だ」と告げて、俺は馬車の操車に専念する事にした。
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2時間程で雨も止み、並足からやや駈歩気味に歩を速め、遅れを取り戻す様に街道をひたすら西に進んで行く。
途中幾度もの小休止と3度の野営を経て、4日目の午下に王都やラーナルー市と見紛う城壁が目の前に現れた。
「皆んな、見えたぞ」
連絡窓の向こうにそう話し掛ける。国境の街シグヌム市に漸く到着したのだ。
東側に有る門に並ぶ入場待ちの列に馬車を付けると、1時間程して内側に入れた。門を潜り大通りに出ると奥手にもうひとつの城壁──国境が見えた。あれを越えるとツェツィーリア共和国である。
「漸く入れたであるか」
客車の窓を開けて、ラファエルが溜め息混じりで呟く。何故かこいつは入場する際、ひと言も話さず手続きを全て俺に押し付けやがった。
「お前が手続きすれば速かったんじゃないのか?」
俺は窓越しにラファエルを咎める様な視線を向けたが本人は何処吹く風である──やれやれ。兎に角先ずは、泊まる宿を確保しないとな……俺は馬車を宿屋の看板が犇めく場所に向けた。
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結局、20軒程有る宿屋の中で少し大きい「翡翠石」と言うホテルを選んだ。本当なら1泊して直ぐにツェツィーリア共和国に入る筈だったのだが、入国して直ぐにザフィロと言う山脈を越えなければならず又、最終目的地のイオシフ村まで到達するのに予定より遅れそうなので、この際このシグヌム市で準備を整え直す事にしたのだ。
「──はい、それではこれが部屋の鍵でございます」
帳場で3つの鍵を受け取る。俺とラファエルはそれぞれ一人部屋で、アンとノーリーンは二人部屋で部屋を取った。まァ料金はラファエルが支払うんだし構わないんだが…… 。
因みにファウストとデュークはいつも通り俺の従魔として扱われたので、別料金のみで部屋に随従が許されたのは言うまでもない。
「やれやれ、4日振りのベッドであるな」
ラファエルがホッとした様に言葉を漏らす。
「すまんが俺達はここのギルドに用事があるので、先にノーリーンと部屋で寛いでいてくれ。決してホテルの外には出るなよ?」
すっかり寛いでいるラファエルに俺はそう声を掛ける。
「それは構わないが……何用かね」
俺の台詞にラファエルが少し不機嫌そうに訪ねて来る。別にお前を働かせる訳じゃないんだからな?
「到着の報告と日程超過についての申請と……届け物だ。夕食までには戻る」
冒険者としては旅程の変更を連絡しないといけないし、ラーナルー市の冒険者ギルドのギルマスから頼まれたのを届けないと……な。
俺は部屋に荷物を置くと、ザックのみ背負って鍵を掛け、同じく荷物を置いてきたアンと共にギルドに向かう。
「ギルマスから頼まれた手紙ですよね」
アンはデュークでは無くファウストを抱きしめながら確認してくる。そのデュークはノーリーンの元に残して来た。もし何か有ればデュークの技能で護りは安心だからである。
「ああ、そうだ」
全く、俺は郵便脚夫じゃないんだが………ギルマスの奴、シグヌム市から国境を越えると言ったらこっちのギルド宛の手紙を持たせやがった。料金ケチるのも大概にして欲しいものである。
「それで……何方に渡すんですか?」
「さぁ? ギルマスはただ渡せば良いとしか……」
──これでは正に郵便脚夫でしかない──やれやれ。
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幾人かに道を尋ねながら、シグヌム市冒険者ギルドに来た。何と国境の壁にめり込む様な形で建っていたのには驚かされたのだが──何でもオールディス王国とツェツィーリア共和国、両方に所属する冒険者を管轄する為この様な独特な建築になったとか……真面目な話、中も仕切られているのか? まァ、中に入るか………… 。
俺は総合受付で報告と申請を済ませ女性職員に手紙を手渡した。職員は手紙を受け取ると、宛書きを見るなり慌てた様子で奥に居た男性を呼んだ──何かあったのか? 呼ばれた男性は職員から手紙を手渡されると俺達の方に向き直り「申し訳ありませんが、一緒に来ていただけますか」と言ってきた──唯の手紙じゃないのか?
俺達は男性に案内されて2階の執務室まで連れて来られた。聞けば男性はこのギルドの副統括なのだそうだ。案内された執務室には1人の女性が執務机に座って、書類と格闘していた。見た目妙齢とは言い難いが、銀青色の長い髪を垂髪に纏め理知的な雰囲気を持つ女性である。
「ギルマス、ヒギンズさんからの書簡ですよ」
副ギルマスが声を掛けると、漸く書類から顔を上げ
「"剛破" から……ですか?」
その呼び名に思わず転けそうになったのは秘密である。
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ラーナルー市のギルマスからの手紙をシグヌム市のギルマスが読んでいる。何かややこしい…… 。
やがて読み終わったギルマスが手紙から顔を上げると「全く…… "剛破" は……」と苦笑いを浮かべた。そして────
「ウォーレン」
と副ギルマスに手紙を渡す──副ギルマスはウォーレンって名前なのか。ウォーレン氏が手渡された手紙を読み流すと、ふぅ……と溜め息を付いた。この時点で既に厄介事に巻き込まれそうな気がするんだが?
「手紙の内容は理解しました。改めてようこそシグヌム市に。私達はあなた方を歓迎します」
そう言うと両手を机の上で組みながらギルマスが正面を向き直る。紫晶色の瞳がこちらを射抜く様に見詰める。
「私はネヴァヤ・ファーザム。このシグヌム市に有る大陸唯一の二国間ギルドの統括責任者を務めています。この執務室は文字通りの『緩衝区域』です」
「宜しく頼む。俺はウィルフレド・ハーヴィー、こっちは───」
「わかってますよ。 "空裂斬" のウィルさんに " 黒の美姫 " のアンさんでしょう? ヒギンズさんの手紙に書かれてましたから。勿論お二人ともAクラスと言う事も」
そう言いながらギルマス──ネヴァヤ女史が微笑む。ヒギンズのおっさん、何を手紙に書いたんだ?!
「丁度良かった。ヒギンズさんからの推薦も有る事ですし、手伝っていただきたい事案があるのです──勿論あなた方の目的地であるイオシフの迷宮絡みですが」
顔はにこやかだが、有無を言わさせない眼力でこちらを見据える──やっぱり厄介事かよ!?
「……それはシグヌム市冒険者ギルドのギルマスとしての依頼か? それともAクラス冒険者への勅命か?」
俺は油断無く、ネヴァヤ女史の瞳を見詰めながら問い質す。
「本来ならギルマスの勅命として頼みたい所ですが……貴方達には私個人の依頼としてお願いしたいのですが……勿論、特別依頼として報酬は上乗せします」
それでも逡巡する俺を見つめながら女史の口から有り得ない言葉が紡ぎ出された。
「──ウィルさん、格44……アンさん、格40……その従魔のヘルハウンドは格52ですね。この格なら何ら問題無く依頼を遂行出来ると思うのですが………」
──?! 俺達の格が判る──いや、見えているのか?! 明らかに警戒の色を見せた俺達に更に有り得ない事実を告白した!
「安心してください。私もアナタと同じ魔具に憑かれた者なんですよ」
そう言いながらネヴァヤ女史は、ニッコリ微笑んだ──── 。
漸く国境迄来たのに……やはりウィルは巻き込まれ易いのか、それとも別の誰かが……おや、誰か来た様だ……
*ネヴァヤ・ファーザム……女性。年齢? 国境の街シグヌム市に有る二国間冒険者ギルドのギルド統括。銀青の垂髪。紫晶色の瞳。何らかの魔道具を所有している模様。他にも何か隠している……?
*ウォーレン……シグヌム市二国間ギルドの副ギルマス。32歳。
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