世は……講義! 再び
本日、第三十一話を投稿します!
共通の話題で良く盛り上がる人達が居ますが……今回は正にソレです!
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「それじゃ、色々ありがとうございました!」
イヴァン達「星屑」のメンバーが手を振りながら、ラーナルー市に向けて出発した。ちゃんと頼まれた通り木樽いっぱいに水を提供してやったのは言うまでもない。
元は「久遠の水瓶」が生み出す為、殆ど元手は掛かっていないが取り引きとして銀貨1枚だけ受け取った。
何時までも振り返りながら手を振るイヴァン達を見送り、漸くこちらも出発である──やれやれ。
「御苦労であるな、うん」
ラファエルが客車から顔を出して労いの言葉を掛けて来た。いや、お前は星屑に久遠の水瓶を自慢しまくっていただけだったよな?!
俺が文句を言おうとすると隣りに座っていたノーリーンから叱られていた──やれやれ。
「はぁ……それじゃあ、こちらも出発するか」
俺は御者台に乗ると手綱を握り「それっ」と声を掛けながら馬達に合図を出す。そろそろとした動きで動き出す馬車──この二頭の馬は馬主に似ず性格も穏やかで扱い易いが、一応軍馬として訓練を受けていたのでかなり強靭である。お陰でだいぶ楽をさせて貰っている。
馬車が野営地から街道に出ると、俺は更にひと声掛けて手綱を揺らし並足からやや早足に速度を上げた。この速度だと途中で小休止を挟んでも、ほぼ今日予定する距離は走破出来るだろう。
途中更に1回野営をして、目的地のミシル村には2日後の午下に着いた。今日の宿泊を安宿に定め、馬車と馬達は宿屋の表に留め置かせて貰った。またレヴ村みたいな事が起きるかと内心冷や冷やしていたが、何事も起きずホッと胸を撫で下ろしたのはラファエル達には内緒である。
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翌日、早朝にミシル村を発ち一路街道を西に進む。次は凡そ360キルト先のアドン村だ。
「ふむ……次の村で凡そ半分ほどであるか」
4時間後──昼頃の小休止で地図を見ながらラファエルが呟く。俺は地図水晶板の方位表示と時間を確認して同意の意を示した。そして地図の上に指を滑らせながら──
「このままの感じで馬車を走らせれば大丈夫だと思うんだがな……」
国境に在るシグヌム市まで辿る。次のアドン村でラーナルー市から凡そ880キルト、歩度配分させ間違えなければその先320キルトのワクト市まで一気に行けそうである。尤もワクト市では2〜3日ほど馬達を休息させないと駄目だろうが………… 。
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その後アンと御者を替わり、客車の席に座る。ここまでの行程は全て、俺が客車に乗り込むとコーゼストとラファエルが決まって議論を交わすのだ。下手に盛り上がると、この前みたいな事をやらかすので要注意である。
「さて……今日はコーゼスト殿に聞きたい事があるのだが」
──そう言うがラファエル、お前はほぼ毎日コーゼストに聴きまくって無かったかな?
『何でしょうか?』
「うむ、ウィルがコーゼスト殿の能力で従わせているヘルハウンドとゴーレムに関しての事であるのだよ」
いや、ファウストとデュークは大切な仲間なんだが?
『その2体の何についてお聞きになりたいのですか?』
「いや何、ウィルから聞いた話では2体共にコーゼスト殿の共生化に於ける繋がりにより、通常とは異なる進化を遂げているらしいではないか。私はそれを解き明かしたい」
ラファエルは単眼鏡の向こうで目を輝かせながら熱く語る。そう言えばコイツは魔物研究者でもあったのをすっかり忘れていた。
『それには先ず、「共生化」がどの様な物なのか簡単に説明をせねばなりません』
コーゼストの台詞を聞いて俺も興味が湧いてきた。一番最初にざっくりとしか聞かされてないからだ。
『マスター・ウィルには端的に、凡百魔物との意思の疎通と双方の能力の向上図る為の物である、と説明しましたが──もう少し詳しく説明致しますと──古代魔導文明全盛の折り生まれた『魂魄主義』から来ており、高次元での魂の連結による経験・知識そして思考の共有化を目的にした魔導技術です』
──うん、さっぱり解らん!
「………つまり、人や魔物が持つ魂を何らかの方法で繋ぎ合わせていると言う事で良いのかね?」
『概ね、その理解で良いかと。これにより共生化したどちらか若しくは双方の魂の経験値は共有される事になります。また獲得した技能も魂魄の繋がりにより共有化されますし、更に副次的効果として、身体能力の増強も行われます。双方向の意思の疎通も副次的効果です。そもそも魂魄とは精神と肉体を示すものですし』
「ふむ……つまりそれがファウストやデュークの異質な進化を促した、と言う事かね」
『恐らくは──そもそも共生化を実用化させた魔導機は、私だけですので推測にしかなりませんが』
「ふむ…………」
ラファエルは顎に手を当て考え込む素振りを見せた。相変わらずこの2人の会話は難し過ぎてさっぱりである── 。
だが、魂の話ならある程度理解出来る。小さい頃に母親から、魂とはあらゆる生き物に宿る命そのものだと教えられたからな。そこには人も魔族もエルフも関係無く、家畜にも魔物にも等しいのが魂であると──そして誰にも縛られない物でもあると──── 。
「ではコーゼスト殿は、その魂を繋げる為の魔法術式を再現出来るのかね?」
『──高次元魂魄連結術式『比翼連理』は概要は解りますが、魂と体の同期を司る魔法術式の量が膨大で今の所再現は不可能です』
それを聞いて明らかに落胆するラファエル──ちょっと待て、お前は作る気満々だったのか?! ノーリーンに冷めた目で「全く……旦那様には無理だと理解してくださいませ」と突っ込まれていた。
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そんな喧騒を余所にファウストは俺の足元で丸くなって寝ているし、デュークはノーリーンの横に座り頭を傾げている。お前達は長閑で良いよな………俺は客室の座席に凭れながら、窓から景色が流れゆく様を眺めて深い溜め息を付いた。
コーゼストとラファエルは既に別の話題で議論を交わしているみたいである───『ここからは推測の話になりますが──』どうやら本来の質問への回答をコーゼストが答えているらしい。本当に飽きない奴らである。
馬が鼻を鳴らす音が微かに聞こえ、馬車は街道をひたすらに西に進んで行く。俺は客室の連絡窓を開けアンに話し掛けた。
「アン、大丈夫か?」
「はい! この馬達のお陰で助かっていますよ」
「そろそろ今夜の野営地を気にしておいてくれよ? 良さそうな場所に出たら教えてくれ」
「わかりました、風の精霊達にも聴いてみます。任せてくださいね!」
今日もアンは上機嫌に馬車を操る。馬車の車輪の軋む音に混じってアンの澄んだ声が聞こえる──どうやら精霊達に尋ねているらしい。
それはまるで詩を口ずさんでいるかの様に、ひたすら軽やかに、限りなく透き通った声が風に流れて来る。
それに聞き惚れながら、俺はこの旅の安穏を密かに神に祈った──── 。
今回は前回から引き続き旅路のひとコマを描きました。戦闘シーンを期待されている人達には退屈でしょうが──まだ暫く戦闘はありません!
*午下……午後の事
*魂魄主義……魂(精神)と魄(肉体)の同一性と、魂同士の連結による肉体的進化を求める思想。『天使』に人々を作り替える事が最終目的。
*比翼連理……高次元魂魄連結術式。複数の魂を連結し一つの大きな魂として認識し複数個別の肉体を器にその魂の力を分配して、そのどれか一つの器が得た経験・知識・思想を共有する。
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