表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
なぜか俺のヒザに毎朝ラスボスが(日替わりで)乗るんだが?  作者: 逢坂 蒼
怒涛の再調査と新たなる事実編!
321/322

閑話〈16〉イーヴァイン 〜豪傑の流転〜

大変お待たせ致しました! 本日は閑話を投稿します!

 閑話〈16〉


 遠くから戦いの音が風に乗って聞こえてくる。


 ここはヒトが「魔王の城」と呼ぶ、我ら古代魔族(アンデモン)の王城ベアル・スグス。その巨大な大門の内に陣取られた本陣に座する(わし)の元に、伝令が転がる様に駆け込んできた。


「伝令ッ! 騎士団長! 第一騎士団、『勇者』一行と会敵! 全滅しましたッ!」


 伝令の言葉にその場に居た者達に動揺が走る。その者達を一喝する儂。


「静まれッ! 第一騎士団とは別に戦闘に参加していた竜騎士団はどうなった?!」


「はっ! 竜騎士団は左翼の飛竜(ワイバーン)部隊、並びに右翼の地竜(グランドドラゴン)部隊共にほぼ壊滅状態です!」


 再びの伝令の話に、その場に居た者達全てが再度ざわめき立つ。


「うぬぅ……我が騎士団最強と(うた)われた竜騎士団のみならず、第一騎士団までもが、か……流石は『勇者』だな」


『勇者』──それはヒトの中より『神』により選ばれた、ヒト族全ての『希望』。ヒトにとっては全てにおいて超越した存在であり、我ら古代魔族(アンデモン)にとっては決して相容(あいい)れぬ存在。正に不倶戴天(ふぐたいてん)の『天敵』である。


「……伝令、展開する全騎士団に通達せよ。総員「ベアル・スグス」にまで後退し、守りを固めて籠城(ろうじょう)戦に備えよ。前線には儂が出る」


 その場に居る部下達にそう指示を与えながら、腰掛けていた椅子からゆっくり立ち上がる儂。巨剣(ドラゴンファング)を持つ右手と、大盾(ガルガンチュア)を持つ左手にしっかりと力を込めながら。


 儂の名はイーヴァイン・ナイトリー。古代魔族(アンデモン)にあって「天下無双」とも言われた騎士団長だ。


~~~~~~~~~~


 王城(ベアル・スグス)の本陣から地竜(グランドドラゴン)に乗って、ただ1人戦場の最前線へと向かう。そして地竜(グランドドラゴン)で駆けること(しば)し、最前線へと到達した儂の目の前には──武装した一団が居た。


 白銀の重甲冑(フルプレートアーマー)を装着し、これまた白銀の盾と金色の長剣(ロングソード)を手に持った、独得の威圧感(オーラ)(まと)った()()()()の戦士。やはり白銀の軽鎧(ライトアーマー)を着込んだ明らかに武闘家と分かる男。上半身に黒い軽鎧(ライトアーマー)、下半身はこれまた黒い鱗鎧女袴(スケイルメイルスカート)()いた、金色の錫杖(ロッド)を持った魔導師(ウィザード)(おぼ)しき女。そして白い法服(ローブ)を纏い、やはり白銀の槌矛(メイス)を手に持つ聖人(セイント)と思しき男。


 その者達の風体(ふうてい)は、間違いなく儂が聞き及んでいた『勇者』とその一行と同じであった。儂は地竜(グランドドラゴン)の背から降りると、「有難う」と短くその(ろう)(ねぎら)いながら地竜(グランドドラゴン)を王城に返して、その者達と改めて対峙する。


「勇者殿とその一行とお見受けするが如何(いかが)か?! 儂はイーヴァイン・ナイトリー! 古代魔族(アンデモン)の騎士団長である!」


 背中から大盾(ガルガンチュア)巨剣(ドラゴンファング)を外して両手に持ち替えながら、誰何(すいか)しつつ名乗りを上げる儂。


「いかにも! 私は勇者シア・マルサス!」


「俺はソロン・ディカラ! しがない武闘家だ!」


「我が名はフレイ・ザヴェリューハ。魔導を極めし者」


「そして私はイルッカ・ホームウッド。聖人(セイント)を務めております」


 儂の問いに堂々と名乗り返す、勇者シアとその一行──やはりか! 儂は大盾(ガルガンチュア)巨剣(ドラゴンファング)を構えると、一声吠える!


「もはや是非もなし! この儂と尋常に勝負しろッ!」


 儂の咆哮(ほうこう)に身構える勇者シアとその仲間達!


 それは文字通り死闘開始の合図となったのである。


~~~~~~~~~~


 戦場に響き渡る轟音! 金属のぶつかる鋭い音に混じり、ときおり鈍い音と爆発音が鳴り轟く!


 鋭い音は儂と勇者シアが互いの剣と剣を斬り結び、(ある)いは斬撃を互いの盾で(しの)ぐ音であり、鈍い音は武闘家ソロンの拳による打突、或いは足による蹴撃(しゅうげき)の音。そして爆発音は魔導師(ウィザード)フレイと聖人(セイント)イルッカによる魔法攻撃の音だ。


 しかし儂の着込むこの重甲冑(フルプレートアーマー)には強力な「魔法無効化」の術式がその内部に刻まれており、凡百(あらゆる)攻撃魔法を無効化してくれるし、手に持つ大盾(ガルガンチュア)巨剣(ドラゴンファング)は頑強な剛鉄(アダマンタイト)製であり、また幾重にも強固な強化魔法が付与(エンチャント)されているのだ。これこそが儂を「天下無双」と言わしめた最大の要因でもあり、そしてこれこそが彼我兵力差が1対4でも、儂が勇者一行に1人で戦いを挑んだ最大の理由であった。


 だがしかし実際に勇者一行と戦ってみて、それ等が間違いであった事に直ぐに気付いた。武闘家ソロンの攻撃はその一撃一撃が鋭く重く、また聖人(セイント)イルッカは儂の重甲冑(フルプレートアーマー)の秘密に気が付くと、魔導師(ウィザード)フレイに氷塊を頭上から見舞わせると言う様な間接的な魔法攻撃へと、攻撃方法を変えて来たのだ。


 そして何より強力だったのは勇者シアが持つ聖剣『デュランダル』の力であった。閃光と共に真の力を解放した聖剣『デュランダル』と勇者一行の連携は、この儂に防御の(いとま)も与えずに、重甲冑(フルプレートアーマー)ごと脳天から真っ二つに斬り倒したのである!


 肉を切られ骨が断たれる嫌な感触の中、儂の意識はそこで途絶え──


~~~~~~~~~~


 ──次に儂の意識が戻ったのは、何処(どこ)かの部屋の一角。仄暗(ほのぐら)い室内の硬い寝台の上だった。


「ん……むぅ……こ、此処(ここ)は一体何処なんだ?」


「──お目覚めになられましたか?」


 (かぶり)を振り、ゆっくりと寝台から起き上がる儂に、部屋の薄闇から声が掛かる。ゆっくりと声のした方に視線を向けると、頭からすっぽりと黒い頭巾(フード)を被り、黒い法服(ローブ)を着込んだ者がそこには居た。この者は確か……


「……死霊術師(ネクロマンサー)のニヌヘンズか……すると儂は間違いなく死んだのだな……」


 ニヌヘンズの姿を認めると同時に全てを察する儂。儂は一度死んで、死霊術(ネクロマンス)生ける屍(リビングデッド)不死者(アンデッド)になったのだろうと。


「流石はナイトリー卿、御理解が早くて助かります。貴方の魂は私が「反魂術」によって、その星銀(ミスリル)製の重甲冑(フルプレートアーマー)に憑依させました」


 (ニヌヘンズ)が感情のこもっていない声で、儂の予想的中を口にする。どうやら儂は不死者(アンデッド)動く鎧(リビングアーマー)に生まれ変わったらしい。


「ふむ……それで儂はどのくらい()()()()()()()()


 寝台の脇に()()されていた愛用の大盾(ガルガンチュア)巨剣(ドラゴンファング)を手に持ちながら、ニヌヘンズにそれだけを端的に問う儂。


(おおよ)そ3日ですね」


 儂の問いにこれまた端的に返答する彼。3日と言う事は(すで)()()が終わっているのだろう…… 。


「……そうか」


 彼の答えを聞いて、力無く(つぶや)く儂。そんな儂に向かって彼は


「色々と思う所はあるでしょうが、先ずは貴方ご自身の身体の事について説明させていただきます」


 表情の読めない声で、淡々と解説を始めるのであった。


~~~~~~~~~~


 ニヌヘンズの説明によると──儂のこの星銀(ミスリル)重甲冑(フルプレートアーマー)には、生前のアーマーより強力な「魔法無効化」の術式がその内部に刻まれており、また大盾(ガルガンチュア)巨剣(ドラゴンファング)と同じく強化魔法が幾重にも付与(エンチャント)されているとの事だった。これにより物理攻撃にも魔法攻撃にも、より強固なものとなっているらしい。


 また儂自身の技能(スキル)同族召喚(サモン)が新たに追加されたとの事だった。同族召喚(サモン)とは儂と同じ動く鎧(リビングアーマー)軍団(レギオン)を、100体単位で召喚するスキルなのだそうだ。勿論今まで覚えた剣技等は無理なく使えるらしい。


「──ふむぅ、何とも強化されたものだな」


 彼の説明を聞き終えて、改めて驚愕する儂。しかし……


「……そんなに強化されても……儂はこれから何をすれば良いのか?」


 思わず口を()いて出る(なげ)きにも似た言葉。そんな儂に(ニヌヘンズ)


「──あと貴方には「王」より「遺命」がございます」


 全く抑揚(よくよう)のない声でそう告げてくる。


「何っ!? 遺命だと?!」


「はい。『イーヴァイン・ナイトリー卿に()いては、この部屋に留まり、外より侵入する者達を(ことごと)く排除せよ』との事です」


「王の遺命ならば(いな)は無し! その命令、確かに(うけたまわ)った!」


 彼の言葉を聞いて、俄然やる気になる儂。王の遺命ならば、必ず意味があるはずと信じて。


「確かにお伝えしましたよ」


「うむ、心得た! して此処は一体何処なのだ?」


 1人(たかぶ)る気持ちのまま、儂は彼に改めてそう尋ねる。


「此処は王城(ベアル・スグス)の地下に広がる「実験場」、その第十一階層の部屋のひとつです」


~~~~~~~~~~


 ()くしてベアル・スグス地下の「実験場」の住人となった儂。因みにニヌヘンズは「他にもまだ王の遺命がありますので」と、儂を1人残して何処(いずこ)かへと姿を消した。


 まぁそれはそれとして。


 (いず)れこの部屋に来るであろう勇者らを倒す為にも、今のうちに対抗策を練らねばならないのが急務となる。


 そこで儂は勇者シアが使っていた『斬撃を飛ばす剣技』を、儂なりに模倣する事にした。あの飛んでくる斬撃波は勇者シアとの戦闘で非常に厄介だったからだ。幸いこの動く鎧(リビングアーマー)の身体は生身と違って、疲れ知らずで眠る事も食事を摂る必要も無かったので、何百何千何万回と鍛錬を積む事が可能となっていた。


 そして数知れぬ鍛錬の結果、儂は勇者シアの『斬撃を飛ばす剣技(アギト)』と同等の斬撃波を、習得(マスター)する事に成功したのである。儂はこの剣技に「絶空斬」と言う名前を付けた。


 そんな事をしていた有る日、久々にニヌヘンズが儂の元にやって来たのである。


「おお、久しいなニヌヘンズ」


「そうですね、凡そ10年振りかと」


 相変わらず感情の読めない声でそう話すニヌヘンズ。


「10年振りか……時の経つのは早いものだな。それで今日はどうしたのだ?」


「はい。今日はイーヴァイン殿に大切なお知らせがあり、こうして(まか)り越しました」


「知らせだと? どんな知らせなのだ?」


「「王」の最後の遺命により、この「実験場」は間もなく迷宮(ダンジョン)化されます」


 ニヌヘンズは何と言うことも無いとばかりに、その事実のみを淡々と儂に告げるのであった。


~~~~~~~~~~


 ベアル・スグス地下の「実験場」が迷宮(ダンジョン)化すると儂に告げた後、再びニヌヘンズは何処かへその姿を消した。「もう会う事も無いでしょう」と言う言葉と共に。


 それから一体どれ程の年月が経ったのか…… 。刻々と迷宮(ダンジョン)へと変わり行くこの「実験場」の部屋の中で、儂はただただ愚直(ぐちょく)に「王」の「遺命」を果たすべく、侵入者が現れるのを待ち続けたのであった。


 そして不死者(アンデッド)の儂でさえ、正に気の遠くなるような時を経て──遂にこの部屋に()()()侵入者が現れた。


 その「一団」は一言で言うと「実に奇妙な一団」であった。明らかにヒト族と分かる古代大陸語を話す男の剣士と、明らかに古代魔族(アンデモン)の特徴を持った魔導士風情の女。それだけでも奇妙なのに、何とその男は双頭魔犬(オルトロス)剛鉄岩人形(アダマンタイトゴーレム)半人半蛇(ラミア)女王蛾亜人(モスクイーン)に、そして女郎蜘蛛(アラクネ)と言った複数の魔物を引き連れていたのである。

 実に奇妙ではあるが儂がするべき事はただ1つ、それは『侵入者の排除』だ。


「……ふむ、どうやら侵入者の様だな」


 侵入者達に対して、やはり古代大陸語で話し掛ける儂。


「!? お前は話せるのか!?」


如何(いか)にも。儂の名はイーヴァイン。暗黒霊騎士イーヴァインである」


 驚くヒトの剣士の問いに、儂はそう鷹揚に名乗り返す。因みに「暗黒霊騎士」とは儂が魔物(リビングアーマー)になった際に、ニヌヘンズから贈られた儂の新たな種族名だ。魔物になったのにいつまでも騎士団長と言う訳にもいかないからな。


 それでは……久々にひと暴れしようではないか!


~~~~~~~~~~


 結果として、儂はこのヒトの剣士──今世の『英雄』であるウィルフレド・フォン・ハーヴィー殿に、激戦の末に(たお)され、魔導士風情の女──『共生の腕輪』コーゼスト殿の力で再び黄泉がえり、オルトロスのファウスト殿やアダマンタイトゴーレムのデューク殿やラミアのヤト殿、そしてモスクイーンのセレネ殿やアラクネのニュクス殿らと共に、ウィルフレド殿──(あるじ)殿の従魔として「第三の生」を歩む事となった。


 儂が勇者シアとその一行に完敗した()()()から、実に500年もの時間が経っていた事をコーゼスト殿から教えられ、内心驚いたりしたのもまぁ些細な事だ。


 何せ主殿は儂の素性を知りながらも、その様な事に全くと言って良いほど頓着(とんちゃく)せずに、他の従魔達と同じく接してくれて等しく「仲間」として扱ってくれたのだ。それだけでなくこの儂に従魔としての名付けの際に、儂の生前からの名である「イーヴァイン」を付けてくれたのだ。そしてそれが、益々儂を主殿に心酔させる事となったのである。それは「魔王」シュヴァルト殿以来、実に二度目となる出来事だ。


 そして今、儂は相棒の大盾(ガルガンチュア)巨剣(ドラゴンファング)を手に、主殿に新たに誓いを立てる。これからはこの儂が主殿の盾となり剣となって万難を打ち払うことを。


 それこそがこの儂に新たな「居場所」を与えてくれた主殿に、唯一(むく)いる事が出来る事なのだと信じて。


 主殿、どうかこれからも幾久(いくひさ)しく宜しくお願いするぞい!



ここまでお読みいただき有難うございました!


次回は2週間後になります!


それではお楽しみに!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=818401577&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ