激突! 師匠と魔なる者達①
大変お待たせ致しました! 本日は第300話を投稿します!
-300-
俺がクロノを「魔王の庭」第十二階層から連れ帰ってから数日が経過した。本当にこの数日間はと言うと、バタバタしていた記憶しかない──主にクロノ絡みで。だがそれも漸く落ち着きを見せ、ここ何日かはいつも通りの『日常』を送れていた。
そして今日も今日とてハーヴィー騎士団の早朝からの訓練に、ファウスト達分隊『混沌』と共に参加していたりする。具体的には俺とコーゼスト、ファウストとデューク、ヤトとセレネ、ニュクスとイーヴァイン、そしてクロノが、である。
特にエリナが主に率いる騎士団にはイーヴァインの、フェリピナとマルヴィナの2人が主に率いる魔法師団にはクロノの訓練参加が、殊の外、大きな意味を持つ事となった。
先ず騎士団の方だが、イーヴァインの持つ技能同族召喚で召喚され、指揮で統率された動く鎧の「軍団」が、各隊単位での格好の対集団戦訓練の相手になったのであった。
またそれとは別に魔法師団の方はと言うと、冒険者ギルドに『魔導師』と認知されたクロノと言う存在が、フェリピナを始めとする魔法士達の良い刺激となり、それに伴いマルヴィナを始めとする神官達にも良い刺激となっていて、結果として双方がお互いを高め合うと言う形となった。
「そのうちフェリピナが魔導師に、マルヴィナが聖女になりそうね」
とは騎士団長のエリナの台詞だ。何れにしてもイーヴァインとクロノの存在が、フェリピナとマルヴィナの成長の切っ掛けとなったのは間違いなさそうである。
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そんなありふれた日常を送っていたある日──
「時に主殿、ひとつ頼みがあるのじゃが……良いかの?」
いつもの様にハーヴィー騎士団との訓練を終え、朝食を摂るべく屋敷に帰ってきた所で、唐突にそう宣うのはイーヴァイン。
「ん? 何だイーヴァイン、頼みって?」
「うむ……正確には主殿のお師匠のルストラ殿に、なのじゃが……」
そこまで言うと急に言い淀むイーヴァイン。それだけで彼が何を言おうとしていたかを察する俺。
「それってアレか?……師匠に一度手合わせを頼みたいとか、言っていたヤツか?」
「うむ、流石は主殿、察しが良いのう。ルストラ殿がこの屋敷におる時でないと、中々に頼めんからのう。それでどうじゃろうか? 頼まれてはくれまいか?」
「うーん、そうだなぁ……師匠に聞いてみない事には何とも言えないが、駄目で元々、一応頼んでみるとするか……」
イーヴァインの願いに腕を組んで唸る俺。こればかりは俺が安直に約束をする訳にはいかないからな。
「御主人様ァ! イーヴァインばかりズルいわ! ルストラと試合するなら私も参加したい!」
俺がそんな思いでいると、それまで黙って話を聞いていたヤトから真逆の要求が?! ヤトの傍らではセレネやニュクスまでもが「私(妾)も参加したい」と言って、目を爛々とさせていたりする。ちょっと待てぇ! イーヴァインだけじゃなく、キミらもかいな?!
あまりの出来事に、俺は思わず目眩を覚えるのであった。
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兎にも角にも話してみなくては分からないと言う事なので、朝食後に部屋にいるルストラ師匠を訪ねることにした俺とイーヴァイン、そしてヤト達魔物娘’Sと何故かクロノ。
俺が師匠の部屋の扉の前に立ち、ノックをしようとしたら
「開いているわよ」
と部屋の中から師匠の声が?! その声に驚きつつも
「……失礼します」
と一言断ってから扉を開けて、ぞろぞろと部屋の中に入る俺達。部屋の中では師匠が椅子に腰掛けながら
「あらっ、ウィルにヤト達も、良く来たわね。いらっしゃい」
と快く俺達を出迎えてくれた。そして続けて此方の用件を問い質して来る。
「それで? 皆んな揃いも揃って、どうかしたのかしら?」
「あ、ああ、実は──」
問われた俺は掻い摘んで、イーヴァインやヤト達の願いを師匠に話して聞かせる。
「──と言う事なんだが...…師匠はどうだ? 受けてくれるかい?」
「うーん、まぁ試合ぐらいなら構わないわよ? 但し戦い方を教える事は出来ても、ヤト達がそれを覚えられるかは分からないけど……それでも良ければ」
俺の問い掛けにそう答えを返す師匠と、師匠の返答を聞いて俄に色めき立つイーヴァインとヤト達。割と即決だな、師匠。
「さて……そうと決まれば場所を変えましょうか?」
そんなヤト達に苦笑いを浮かべながらも、部屋の壁に立て掛けてあった愛用の黒檀拵えの戦杖を手に取り、俺やイーヴァイン、そしてヤト達やクロノにそう声を掛ける師匠。
その辺は流石にルストラ師匠である。
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そんなこんなでどうにかルストラ師匠の協力を取りつけ、師匠の部屋から屋敷の裏庭の修練場へと場所を移して来た俺達。
「さて、と。それじゃあ先ずはイーヴァインからかしら?」
「うむ、先に言い出したのは儂じゃからな。ルストラ殿、すまんが胸を借りるぞい」
修練場に着くなり戦杖を手にそう口にする師匠と、深々と頭を下げながらそう答えを返すイーヴァイン。
「はいはーい! その次は私とやり合いましょうッ! ねっ! ルストラ!?」
「あん、ヤトったら狡い! ルストラ様、ヤトの次はこのセレネと手合わせお願いしますわ♡」
「くふっ、妾は一番最後で構いませんわ。よしなにお願い致しますね、ルストラ殿?」
すぐ傍で師匠とイーヴァインのやり取りを聞いていたヤト達魔物娘’Sからも、立て続けにその様な要望が銘々から聞かれたりする。と言うか、キミら本当に師匠とやり合う気満々だな!?
「はいはい、それじゃあその順序で手合わせしましょうか?」
ある意味怖いもの知らずなヤト達の言動に、苦笑しながらも承諾の意を示す師匠。そして続けて
「それではウィル。貴方が審判役を務めてくれるかしら?」
俺の方へと話を振って来る。
「ああ、分かったよ師匠」
元よりそのつもりでいた俺は師匠の申し出を快諾する。
「では始めましょうか」
短くそう言うとバトルスタッフを背に構える師匠と
「応! ひとつ宜しくお願いいたす!」
背中の大盾と巨剣を手に取り、身構えるイーヴァイン。
その瞬間、修練場の空気が明らかに変わった。
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修練場にときおり鳴り響く、鈍い斬撃の音と甲高い硬質な音! ルストラ師匠が自身と対峙するイーヴァインの斬撃を、ある時は身を翻して躱し、またある時はバトルスタッフで巨剣を往なしている音だ。
普通に考えるとエボニー拵えのバトルスタッフでは、剛鉄製のドラゴンファングの斬撃には耐えられない筈なのだが、師匠ほどの名人の腕前にもなると、相手が例えアダマンタイトでも関係ないみたいである。
「それにしても相変わらず凄いですね、ルストラさんは。あのイーヴァインの剛剣を紙一重で避けるだけでなく、木製のバトルスタッフで軽々と往なすなんて」
師匠とイーヴァインの試合を俺の傍で観ていたコーゼストの感想がコレである。
「そうなの? 私には防戦一方に見えるんだけど……」
コーゼストの台詞を聞いてそう宣うのはヤト。確かにパッと見ではイーヴァインが押している様に見えなくもないが…… 。
「まぁ黙って見ていろ、ヤト。そろそろだから」
「?? 御主人様、何が「そろそろ」なの?」
俺の言葉の意味が分からず疑念を拭えない顔のヤト。セレネやニュクスも同様の顔をしている。それに俺が答える前に、事態が動いた。
一際甲高い音と共に、師匠の攻撃が初めてイーヴァインに炸裂したのだ。大盾の防御を掻い潜り、イーヴァインの腹部に突き刺さるバトルスタッフの一撃!
「「「えっ!?」」」
突然の事に驚きの声を上げるヤト達魔物娘’S。
さて、ここからが本番である。
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「ぐっ?!」
腹部にバトルスタッフの鮮烈な一撃を受けて、たまらず苦悶の声を上げるイーヴァイン! 彼の体は剛鉄製の重甲冑に魂が憑依した、所謂「動く鎧」なので、当然痛覚は無い。無いのだが、生前の感覚で思わず声が出たのだろう。
「い、一体何が起こったんじゃ?!」
そう言いながらも腹部に突き立てられたバトルスタッフ目掛け、己の持つドラゴンファングを振り下ろすイーヴァイン! だがしかし、その時には既にその場にはバトルスタッフは無く、ドラゴンファングは虚しく宙を泳ぐのみ。
次の刹那、今攻撃を受けた方とは逆方向から殺気を感じ、思わず其方の方へとガルガンチュアを向ける! と同時にガルガンチュアが物凄い衝撃に襲われる! ルストラ師匠のバトルスタッフが横薙ぎに振るわれ、ガルガンチュアに衝突したのだ! 息つく間も無く、文字通り連続でイーヴァインを襲うバトルスタッフの攻撃! ある時は薙いで、またある時は突き立てられて来る師匠のバトルスタッフ!
正に変幻自在とも言えるバトルスタッフの攻撃の嵐に、徐々に動きを押され込まれて行くイーヴァイン! 辛うじて持ち前の超反応で何とか対応しているが、師匠の攻撃の速度はイーヴァインの超反応に匹敵する速度で繰り出されており、均衡を保つのがやっとであった。
これこそがルストラ師匠の得意とする技のひとつ、その名も『嵐檻乱打』。今まさにイーヴァインはバトルスタッフの生み出す嵐の檻に閉じ込められつつあったのである。
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「い、一体何が起きているの……?」
師匠とイーヴァインの試合の様子を見ていたセレネからは、そんな言葉が漏れ聞こえて来る。
「もしかして……先程主様が口にしていた「そろそろ」とは、この状況を予期されていたからなのですか?」
次に徐ろにそう口にするのはニュクス。流石なかなかに鋭いな。ヤトは口を閉ざしたまま、食い入るように試合を凝視している。
「まぁ、そうなんだが……実はな、最初に師匠がイーヴァインの攻撃を躱し続けたのには理由があって、師匠はあの流れの中でイーヴァインの動きの癖を見極めていたんだよ。動きの癖が判れば、当然その隙も判る。師匠の攻撃はイーヴァインの動きの癖から判明した隙を、的確に狙った攻撃なのさ」
そんなヤト達魔物娘’Sに、解説と言う名のネタばらしを話して聞かせる俺。勿論『嵐檻乱打』の説明もしていたりする。
「「そんな事が出来るなんて……」」
俺の解説を聞いて言葉を失うセレネとニュクス。ヤトは相変わらず無言で、師匠とイーヴァインの試合から目を離さずにいた。
そうこうしている間にもイーヴァインは、師匠の『嵐檻乱打』で退路をも絶たれ、絶体絶命の危機へと陥っていったのであった。
因みにこの試合の間、師匠は一言も言葉を発していない。ただただ無言でイーヴァインを追い込んでいたのだ。その師匠の無言を貫く姿勢は、イーヴァインにとっては文字通り圧力となっていたのである。
流石は師匠、勝負と名の付く事は一切手加減抜きだな!
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だがしかし、イーヴァインも苦戦しながらもルストラ師匠の攻撃の意図する所に気が付いたらしく、その超反応を活かして何とか師匠と彼我の距離を取り始めた。
そして遂にはバトルスタッフの猛烈な突きをわざとガルガンチュアで受ける形を取り、その反動を利用して、とうとう『嵐檻乱打』の包囲網から距離を取る事に成功したのである! その辺は流石イーヴァインと言うべきか。
「ぬぅんッ!!」
そしてすかさず全力全開の「絶空斬」を、師匠に向けて解き放つイーヴァイン! 轟! と言う音と共に最上段のドラゴンファングから放たれる「絶空斬」! 束の間の距離を飛び、師匠に襲い掛かる「絶空斬」の斬撃波!
だが師匠は慌てる事無く、バトルスタッフを引き寄せて槍の様に構えると、自分に向かって来る斬撃波目掛け
「はッ!!」
鋭い気合の声と共に目にも止まらぬ速さで、連続の突きを繰り出す! 到達する直前で師匠の連続突きをモロに受けて、あえなく霧散する斬撃波!
「な、何じゃと!?」
渾身の「絶空斬」が簡単に迎撃されて、思わずそんな声を上げるイーヴァイン! だがそこに師匠の更なる追撃が!?
イーヴァインとの僅かな距離を縮地で一気に詰めると、地を這う様な低い軌道で下から上へと繰り出される師匠のバトルスタッフ! 次の瞬間、イーヴァインの兜の顎先に鮮烈な一撃が入る!
一瞬、2メルトの重甲冑の体が宙に浮き、そのまま後ろへ仰け反る様に吹き飛ばされて行くイーヴァインの姿がそこにはあった。
ここまでお読みいただき有難うございました!
次回は2週間後になります!
それではお楽しみに!!




