古の登録と職業と新装備と
大変お待たせ致しました! 本日は第298話を投稿します!
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「オルガ殿とルピィから話は聞いていたが……お前と言う奴は、またなんつーもんを連れ帰って来たんだよ……」
ラーナルー市冒険者ギルドの執務室に響き渡るのは、この部屋の主であるギルマスの声。緊急開催された世界評議会の翌日、早速クロノをギルマスに対面させるべく連れて来たのだが、俺達の顔を見るなりゲンナリした表情で先の台詞を口にするギルマス。はっきり言って理不尽以外何者でもない。因みに今日のメンバーは俺以外だと、コーゼストとヤト達魔物娘’S、そしてイーヴァインとクロノ、それに何故かマーユも一緒である。
デカい執務机の椅子に腰掛けながら
「全く……イーヴァイン殿だけでも手一杯なのに、続けて魔王とか……有り得んだろう」
吐き捨てるかのように、そうした台詞を発するギルマス。
「それに関しては俺が一番吃驚しているんだが……」
事実である。俺だって真逆魔王の命を(まぁクロノは魔法生命体なんだが)助ける事になるとは、夢にも思わなんだ。
「ギルマス殿」
俺がそんな事を考えていると、徐ろに声を上げたのはコーゼスト。
「何だ? コーゼスト殿?」
「クロノは世界評議会の満場一致でその存在を認められました。ギルマス殿はその決定に異議があるのですか?」
「む、それは無いぞコーゼスト殿。ただ単に驚き呆れただけだ」
「そうですか。それならば良いのですが」
コーゼストの論理的攻撃を上手く往なすギルマス。
その辺は流石にコーゼストとの付き合いが長いギルマスならではこそである。
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「それで? ウィルもただ単に、俺にこのクロノ殿を紹介する為だけに来た訳じゃないんだろ?」
無事コーゼストの攻撃を躱したギルマスから、今度は逆にツッコミをされる俺。なかなか鋭い所を突いてくるな。
「ああ、実は──」
俺は変なところでギルマスに感心しながら、もうひとつの用件を話し始める。
それはズバリ、クロノの今後の事である。世界評議会に於いて「自らの名と「英雄」の名に懸けて責任を持つ」と大見得を切った手前、俺が責任を持ってクロノの行動を監視しなくてはならない事や、その為の最適解としてクロノを1人の冒険者として、俺の分隊『混沌』に組み込もうと思い付いた事等など、掻い摘んでギルマスに話して聞かせた。
「──とまぁ、そんな所だな。それでギルマスの意見を聞かせて欲しくてな」
一通り話し終えた所で、今度は俺からギルマスに話を振る。ギルマスは「はぁぁぁぁ……」と、これまたデカい溜め息をひとつ吐くと、物凄いジト目で此方を睨みつけながら口を開く。
「そう言う事ならオルガ殿に話せば、全て一度で終わるだろうが……何でわざわざ俺なんざにそんな話をしたんだ?」
「何言ってるんだ、ギルマス。ここラーナルー市は俺達氏族の本拠地なんだぜ? 当然そうなると、ここの冒険者ギルドの責任者であるギルマスに話を通すのが筋ってもんだろ?」
それに対して至極真っ当な話を口にする俺。実の所、この事を今朝思い付いたばかりなのは、ここだけの秘密である。
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「──ではそのような形にするが、それで良いな?」
「ああ、それで頼むよ」
ギルマスの確認の言葉に、ひとつ頷きながら答える俺。結局あの後、ギルマスを何とか宥め賺して(或いは言いくるめたとも言う)、クロノの冒険者登録を認めてもらったのである。当然の事ながら身元保証人は俺がなり、また登録の際には簡単な試験があったが、クロノは難なく試験で合格を勝ち取ったのである。
その結果、クロノの職業は『魔導師』と決まったのであった。そらまあ実技試験で試験官の魔法士の指示で軽く放った唯の「火炎弾」が、火炎系最上位魔法のひとつ「猛炎砲弾」と同程度の威力を示したのだからな、これで単なる『魔法士』だったりしたら、この冒険者ギルドの沽券に関わる事だ、とはギルマスの弁である。
因みに冒険者としてのクラスはCクラスとなったのだが、折を見て冒険者クラスを上げるそうな。
「はい、クロノさん! これがCクラスの認識札になります! 無くさないように気を付けてくださいね!」
1階の受付でルピィから真新しい銅の認識札を手渡されるクロノ。
「クロノ殿、これからCクラス冒険者としてしっかり務めてくれよ?」
そんなクロノにそう声を掛けるギルマス。
「ウィル殿、ギルマス殿、奥方殿、誠にかたじけない」
そう言いながら俺とギルマスとルピィに向かって、クロノは軽く頭を下げる。
兎にも角にもこうして、嘗ての「魔王」は冒険者として新しい一歩を踏み出したのであった。
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とりあえず用事も済んだので、冒険者ギルドを辞する事にした俺達。そのままギルドがある西区の北の端へと歩を進める。そうである、クロノの装備を整える為にドゥイリオのガドフリー武具店に向かっているのだ。その道中──
「なぁコーゼスト」
「何ですか、マスター?」
「実際の所クロノの魔力量って、一体全体どの位有るんだ?」
「私の計測では凡そマスターウィルの10倍はありますね」
何気なくコーゼストにそう尋ねると、真逆の答えが返ってきた。しかし俺の10倍かぁ…… 。
「意外と少ないんだな」
俺の呟きにも似た言葉にまたもや反応するのはコーゼスト。
「何を言っているんですか? 氏族のメンバーの中でも、マスターウィルの魔力量は断然首位なんですよ? そのマスターの10倍だと言っているんです。マスターはもう少し自身の強さを、ご自覚なさってくださらないと此方が困ります」
「な、何だって?! 俺ってそんなに魔力量があるのかよ!?」
コーゼストの物言いに思わずデカい声を上げてしまう俺。
「ねぇ、コーゼストお姉ちゃん。それホントなの?」
傍で一緒に話を聞いていたマーユも吃驚して、思わずコーゼストに聞き直す。ヤト達魔物娘’Sも吃驚した顔でコーゼストの方を見やる。
「本当ですよ、マーユちゃん。マスターの魔力量は単純比較で、魔法を多用するヤトの魔力量の凡そ8倍はありますね」
皆んなが注目する中、1人いつも通りの鷹揚さで淡々と話すコーゼストがそこには居たのである。
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皆んなでそんなこんなと話しているうちに、目的地のガドフリー武具店に到着した。いつもの様に立て付けの悪い扉を開けて中に入り、内側に備え付けられているノッカーを叩きながら声を掛ける。
「ドゥイリオ、居るか?! 俺だ、ウィルだ!」
程なくして店の奥から「何ッ、ウィルだと?!」と言う声と共に、髭面の小柄な初老と思われる男が姿を現す。ご存知ガドフリー武具店の店主ドゥイリオだ。
「おお! ウィル! 久しぶりだなァ! 今回も無事に「魔王の庭」から帰って来れたんだな!」
「ああ、本当に久しぶりだな、ドゥイリオ」
「ドゥイリオさん、お久しぶりですッ!」
「おう! マーユちゃんも久しぶりだな! 元気そうで何よりだぜ!」
俺とマーユの顔を見るなりそう言って破顔するドゥイリオ。
「そんで? ただ挨拶しに来た訳じゃないんだろ?」
「ああ、新しく氏族のメンバーが増えたから、その紹介がてら装備をドゥイリオの所で整えようと思ってな」
ドゥイリオにそう言いながら、イーヴァインとクロノに手を向けて紹介する俺。
「先ず此方がイーヴァイン。ヒトに見えるが、これでも暗黒霊騎士で俺の新しい従魔なんだ。そして此方がクロノ。彼は訳あって俺の氏族に新しく入った魔導師なんだ。イーヴァイン、そしてクロノ。彼はドゥイリオ。俺達の装備を任せている凄腕の武具職人だ」
俺の紹介にそれぞれ「よろしく」と、ドゥイリオに頭を下げるイーヴァインとクロノなのであった。
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「ほう?! コイツは魂消たなぁ! そっちの重甲冑の御仁がリビングアーマーで、そっちの兄ちゃんが魔導師だってか?! 何方もそうは見えねぇなぁ!」
イーヴァインとクロノの挨拶に、急にハイテンションになるドゥイリオ。と言うか、ドゥイリオはいつも声がデカいよなぁ。
「それで今日は、クロノの装備を整えようと思っているんだが……」
そんな事はおくびにも出さずに、ドゥイリオにそう告げる俺。
「おう! そう言う事なら任せておけって! おーい! グードゥラ! 仕事だぞ!!」
そう店の奥に向かって大声を張り上げるドゥイリオ。彼の言葉に「はいよ〜ッ」と言う台詞と共に店の奥から姿を現すドゥイリオの奥さんであるグードゥラ。
「おやッ! ウィルさん、お久しぶり!」
俺の顔を見るなり笑顔でそう言うグードゥラ。
「やぁ、グードゥラ。本当に久しぶりだな」
「魔導師や魔法士の錫杖や短杖に関しては、俺なんかよりもグードゥラの方が詳しいんだぜ!」
何故グードゥラを呼んだのか、と尋ねようと思っていたら、ドゥイリオからその理由が告げられた。成程、良く「馬は馬方」とも言うしな、何事もその道のプロに任せるのが一番だな……等と俺が1人で納得していると
「よしッ、そんじゃあクロノの兄ちゃん。何かこうして欲しいとか、こうしたいとか言う要望とかあるか?」
クロノにそう尋ねるドゥイリオ。そんなドゥイリオの問い掛けに、これまた訥々と答えを示すクロノ。
まぁその辺は武具の専門であるドゥイリオ夫妻にお任せである。
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「……よし。どうだクロノの兄ちゃん? 何処か動きを阻害している所は無いか?」
クロノに黒い革鎧と外套を装着させて、そう確認を行うドゥイリオ。問われたクロノは腕や足腰を色々と動かして感触を確かめてから
「ふむ……大丈夫だ、ドゥイリオ殿」
全く支障が無い事をドゥイリオに一言告げる。それを聞いて「そうか」と満足気に頷くドゥイリオ。
何故クロノが法服では無く革鎧を着込んでいるかと言うと、それはクロノ自身からの強い要望に他ならない。彼曰く「魔力が尽きたりした場合に自らの身を守る為には、必要最低限の防御装備は必要だから」だそうだ。まぁ確かに今装備しているレザーアーマーは、要所要所を星銀の板金で補強されており、防御力は高そうだ。ただ、だからと言って左腰に長さ76セルトの濶剣を下げているのは如何なモノか。まぁこれも彼曰く「飽くまで自衛用」なのだそうだが、幾ら自衛用だと言っても些か過剰な気がするのは気の所為では無い筈だ──等と俺がつらつら考えていると
「はいよ、クロノさん! これで良いかい?!」
「グードゥラ殿、かたじけない」
グードゥラがクロノに1本の短杖を手渡す。何でもこのワンドはグードゥラの自信作の1本で、『魔法の加速度』とやらを上げる為にワンドの芯材には、精製され純度が高いミスリルがふんだんに使われているらしい。その辺の事は俺にはさっぱりである。
何れにせよ、これでクロノの装備一式は整えられたのであった。
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クロノの装備も整えられた所で、場所をガドフリー武具店の裏庭にある試用場へと移した俺達。実際にクロノに整えた装備を使用してもらい、その様子を見てドゥイリオ夫妻が装備の微調整をする為にである。
「……よしッ、そんじゃあクロノの兄ちゃん、先ずは剣からだ。彼処にある木人形を試し斬りしてみてくれ」
「ふむ、相分かった」
ドゥイリオの言葉にそう答えると、指し示された木人形の前に立ち、腰のブロードソードを抜いて構えるクロノ。そして──
「はァァッ!」
──鋭い気合の声と共に、木人形の左上から右斜め下に、目にも止まらぬ速さでブロードソードを振り抜くクロノ! 同時に斜めに断ち切られ、硬い音と共に斬り倒される木人形! クロノ、中々の腕前である。
「ほう! 兄ちゃん、なかなか良い剣筋だな!」
その様子に満足気なドゥイリオ。そして続けて
「それじゃあ次だ! 今度はそこから奥の壁際に見える重甲冑の木人形目掛けて、魔法を放ってみてくれ! あの壁は魔法で強化されているから、安心して魔法をぶっ放してくれ!」
ずっと奥に見える木人形を指差して、そう指示を出す。クロノはブロードソードを鞘に納めると、次に腰のベルトに挿したワンドを右手に持ち替えて
「『火炎弾』」
と言霊を口にし、的である木人形目掛けて魔法を放つ!
やはり目にも止まらぬ速さで撃ち出された「火炎弾」は、的の木人形をその肥大化した火の玉に飲み込んで爆散した!
しまった! 加減しろと言うのを忘れてた!!
ここまでお読みいただき有難うございました!
次回は2週間後になります!
それではお楽しみに!!




