波乱! 世界評議会
大変お待たせ致しました! 本日は第297話を投稿します!
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「これは……また何と言えばいいのか」
世界評議会のエウトネラ議長の、クロノと対面した時の第一声がコレである。ここはオールディス王国の王都ノルベールにある王城ブリシト城、そこにある大会議室である。
今この場に居るのはオールディス王国のエリンクス国王陛下、アースティオ連邦のバーナード大統領陛下、メペメリア帝国のギヨーム皇帝陛下、ミロス公国のエルキュール大公陛下、トルテア自由都市のヤスメイン盟主陛下、世界樹の貴森精霊のエウトネラ議長と言うお歴々と、ツェツィーリア共和国の元首であるリーゼロッテ、冒険者ギルドの最高統括責任者であるオルガ、そして俺とコーゼストとクロノと言う面々だ。
クロノの件で世界評議会から呼び出しを受けた俺は、遠方対話機でエウトネラ議長に連絡を取り、急ぎ世界評議会を参集してもらい、オルガから話を聞いてから3日後には緊急開催された世界評議会に馳せ参じたと言う次第である。
オルガからクロノの件については概略を聞かされていた為か、エウトネラ議長を始めとした世界評議会のお歴々の顔色は冴えない様に見える。そらまぁ、いきなり目の前に魔法生命体とは言え、500年前に世界に対し猛威を振るった「魔王」が姿を現したなら、こう言う反応もやむを得ないのかな、とは思う。
特にエウトネラ議長辺りは生前のクロノ──魔王シュヴァルトと面識が有りそうだし、緊張するのもやむ無しかと、俺は心の中でそっと溜め息を吐くのだった。
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「オルガ殿から話は聞いていたが……本当に魔王なのだな」
俺が心の中でそんな事を考えていると、ポツリと呟くように言葉を漏らすのはエウトネラ議長。
「その口ぶりからすると、議長は生前の魔王の事を知っているんだな」
「まあ、な。あの頃の私はまだ血気盛んな若輩者であったが、魔王とは一度だけ一戦交えた事がある」
俺の問い掛けに苦々しい表情を見せるエウトネラ議長。片やクロノはと言うと議長とは対照的に、実に飄々とした表情で俺の隣の席に座っている。2人には色々と、それこそ事細かく尋ねたい所だが、今はそんな事をしている場合では無いな、と思い止まる俺。
「エウトネラ議長。今はそんな事よりも、もっと重要な事があるのではないのかね?」
「そうであるな。議長の昔話も気にはなるが、今はウィル殿が目覚めさせたこのクロノと言うホムンクルスの存在が、本当にこの世に災いを招かないか、世界評議会として議論するべきであるな」
その時バーナード大統領陛下とギヨーム皇帝陛下が続けてそう声を上げ、それに対してエリンクス国王陛下以下の他の世界評議会の面々が、一様に頷く事で同調を示す。エウトネラ議長はひとつ咳払いをすると
「えへん、確かにそうですな。それでは改めてこのホムンクルスの処遇について話し合いたいと思います。先ずは──」
そう話を切り出して、世界評議会の面々の間で云々かんぬんと、幾つのも意見が喧々囂々、侃侃諤諤と交わされるのであった。
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「皆さん、少々宜しいでしょうか?」
世界評議会の面々が活発な議論を交わす中、徐ろに手を挙げて発言するのはコーゼスト。
「何かな? コーゼスト卿?」
コーゼストの発言を受けて、水を向けるのはエウトネラ議長。
「はい。皆さんに質問と言うか、確認したい事があるのですが……少なくとも今この場に居られる皆さんは、「私」と言う存在を認めてくださっていますよね? それは何故なのですか?」
彼女のこの質問に答えたのはエリンクス国王陛下。
「それは当然、コーゼスト卿はウィルが所有者であるのと同時に、主としてキチンと管理されているからだな。それにだ、現にこうして我々と会話による意思の疎通が可能だからと言う所も、その意味する所が大きいな」
そう自信たっぷりに答えを示すエリンクス陛下。陛下の言葉に、他の世界評議会の面々も一様に頷いているが……皆んなが言うほど、俺はコーゼストを御しているとは思えないんだけどなぁ。基本コイツのやりたい様にやらせているのは、それはもう自明の理である。
俺がそんな事をつらつら考えていると
「質問を変えましょう。マスターによってしっかり管理されている事と、言葉による意思の疎通が可能だと言う2点が、私と言う存在を許容するのなら、私と同じくマスターウィルにキチンと管理され、且つ意思の疎通が可能なクロノの存在も自動的に皆さんに認められるのでは?」
ここに来てコーゼスト先生の、ご存知「理詰め」攻撃が綺麗に決まったのであった。
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「むぐっ、そ、それは……」
コーゼストの理詰め攻撃に思わず言葉に詰まるエリンクス陛下。互いに顔を見合わせて沈黙する他の世界評議会の面々。
まぁコーゼストのはただ単に屁理屈を言い連ねているだけなのだが、何故かこれを論破しようとするヒトは今の所皆無なのだ。これもコーゼストの特殊技能か何かなのだろうか?
『人聞きの悪い事を言わないで下さい、マスターウィル。そこはせめて論理的と言って下さらないと』
俺が頭の片隅でそんな事を思っていたら、絶賛コーゼストから念話で抗議を受けた。どーでもいいがお前は、いい加減にヒトの頭の中を勝手に覗き見るのをヤメレ。
俺が念話でコーゼストにツッコミを入れようとした時
「それにですよ? クロノの生殺与奪権は所有者であるマスターウィルが握っているのです。これほど強力な抑止力は他に類を見ないモノがあります」
駄目押しとばかりにコーゼストが言葉を続ける。コーゼストの発言にたっぷり数分沈黙が続いた後
「やれやれ……コーゼスト卿にここまで言われてしまっては、私達に反論の余地はありませんわね」
肩を竦める仕草と共に、その様に宣うのはエルキュール大公陛下。
「うむ……確かにコーゼスト卿の言う事の方が理にかなっているな」
続けてそう発言するのはヤスメイン盟主陛下。他の世界評議会の面々も、ヤスメイン盟主陛下の言葉に同調するかのように、首肯する事でその意思を示し、クロノの一件は一応の決着を見たのである。
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「──それでは、そろそろこの評議会としての評決を下したいと思うのだが、皆さん宜しいか?」
エウトネラ議長がそう声を上げ、それに対して「異議なし」と言う台詞と共に大きく頷く世界評議会の面々。
「では最後に──クロノ殿。何か言いたい事があるなら聞こうではないか」
皆んなが同意するのを確認して、やおらクロノに意見を求めるエウトネラ議長。 議長の言葉にクロノは居住まいを正すと話し始める。
「そこに居るオルガ殿に話した事と重複する所はあるが……今ここで私が過去の罪に対して謝罪の言葉を口にしても、誰の、何の慰めにもならないであろう。私とて自身の犯した罪の深さは重々承知しているつもりだし、今更己のした事に一切言い訳をする気は毛頭ない。ただひとつ許してもらえるなら、ウィル殿から与えられたこの第二の「生」を生きさせて欲しい。それさえ叶うなら私は多くは望みはしない」
そう滔々と話し終えて、最後に深々と頭を下げるクロノ。
「議長、皆んなも。今聞いての通り、このクロノには嘗ての魔王の様な悪意も邪気も一切ないんだ。もし仮に此奴が悪意を持って何かしそうになったら、コーゼスト同様責任を持って俺が全力で止める。俺の名と「英雄」の名に懸けて誓おう。だから此奴の事を信じてやってくれ」
クロノの台詞に被せる様に、議長以下世界評議会の面々に向かってそう言って、やはり深々と頭を下げる俺。
まぁ俺にコーゼストを制御出来ているかと、聞かれても答えに困るが!
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結局多少のすったもんだ(?)はあったが、何とか無事にクロノの事を世界評議会に認めてもらえた。
正直言ってこのままクロノの事が認められなかったり、若しくは俺がクロノを目覚めさせた事も咎められる様なら、何処かでアン達とひっそり隠遁生活をしなくてはならないのかと、思っていた事はここだけの話だ。更に言うと、最悪クロノを即時処分しろと言われるかもと、心中穏やかで無かったのは、更にここだけの俺の秘密だったりする。
まぁ兎に角そんな訳で、コーゼストの絶妙な論理誘導(または屁理屈)により、クロノに対する世界評議会内での悪感情は綺麗に霧散した。今はエウトネラ議長らが主にクロノに対し、雑談と言う名の情報交換を行っている最中である。議長らの疑問に丁寧にひとつひとつ答えて行くクロノ。自分が何故世界征服を目指したのか、その理由と真の目的についても細々と。その辺の話は俺が数日前にクロノから聞いた過去の「真実」とやらだ。
「何と……その様な理由があったのか……」
その話を聞いて言葉を失うのはギヨーム皇帝陛下。
「確かに……古代魔族の侵攻当時には良く「神の名の元に」と言った風潮が顕著であったな……」
そしてそんなクロノの話を裏付けるかのように、エウトネラ議長がひとつの事実を口にする。
過去の歴史の証人たる議長の発言に、クロノの話は俄に信憑性を帯びはじめたな、と俺を始めとした評議会の出席者一同は、その認識を新たにするのであった。
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そんなこんなで何とか無事に世界評議会は閉会した。結局クロノの事は評議会のお歴々の満場一致で、この俺が責任を持ってしっかりと管理する事で話はついたのだった。
「ではウィルよ。しっかり頼むぞ」
評議会全員を代表してエウトネラ議長がその様に俺に向かって宣う。まぁ俺が自身で「名に懸けて誓おう」と大見得を切ったのだし、ソレが認められて良かったのだが……何となく釈然としないのは気の所為か?
『マスターの気の所為ではありませんね。明らかに議長達はクロノの一件をマスターに丸投げしたようですよ』
俺が何とも言えない顔をしていると、それを察したのかコーゼストから念話でそんな台詞が?!
『……やれやれ、やっぱりかよ』
コーゼストの指摘に、同じく念話でそうボヤく俺。まぁボヤきはしたが、少なくとも議長達お歴々に俺が悪感情を持つ事は無い。俺が議長達の立場だったら絶対同じ事をしていただろうからな。それに折角クロノの事を認めてもらったんだ、その事に対しては感謝こそすれ恨み節を言うつもりは毛頭無い。
『マスターも漸くヒトが出来て来ましたね。私と出会った時から見ると雲泥の差があります』
『……お前は俺に喧嘩を売っているのか?』
俺とコーゼストが念話でそんなやり取りをしてる事など知る由もなく、世界評議会の面々は文字通り三々五々解散し、各自自国へと専用の転移陣で帰国して行く。
そして俺達もブリシト城から屋敷への帰路に就くのであった。
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「マスターよ。私に対して数々の配慮、本当に痛み入る」
コーゼストの転移魔導機でラーナルー市の屋敷に帰宅した時の、クロノの第一声がコレである。
「うん? ああ、まぁ良かったじゃないか。これで人目を憚らず、堂々と外を見て歩けるんだからな」
それに対して、なんの事は無いとばかりに笑顔で答える俺。実際の所、クロノには「魔王の庭」第十二階層で目覚めた後、ろくに外を出歩かせていないのだ。いつもなら気軽に、俺の本拠地であるラーナルー市内を案内して歩いているのだが、今回は事が事だけに自重したのである。
だが今日、世界評議会のお歴々にクロノの事をしっかり認知してもらったので、明日から堂々とクロノを連れて歩ける。
「はァ……先ずはギルマスにクロノの事を紹介しないとな……」
「すっかり報告が前後してしまいましたけど、仕方ありませんよね」
俺の独り言に近い呟きに、律儀に答えるコーゼスト。まぁギルマスにはオルガやルピィが話しているとは思うのだが、しっかり順番が逆になってしまったのは否めない。全く……ギルマスにはキチンと報告・連絡・相談をしろよ、ときつく言われていたが、今回は想定外な出来事が多過ぎたので、ギルマスをすっかり仲間外れにしてしまったな…… 。
何となくだが……ギルマスがこめかみに青筋立てながら、卒倒する姿が幻視出来るな、などと思いつつ、俺はコーゼストの中からヤト達従魔’Sを、玄関広間に顕現させるのであった。
ここまでお読みいただき有難うございました!
次回は2週間後になります!
それではお楽しみに!!




