星銀の暗黒霊騎士
大変お待たせ致しました! 本日は第287話を投稿します!
-287-
俺達分隊『混沌』が、この「魔王の庭」第十一階層の探索を再開してから15日ほど経った。
この頃になると泥人形や自動人形はすっかりなりを潜めて、岩石人形や黒鉄人形の混成群や、動く鎧との戦闘が増えていた。
幸いな事に遭遇したリビングアーマーは黒鉄製の重甲冑だったので、誰も苦戦を強いられる事は無かった。因みにそのリビングアーマーの残骸だが、コーゼスト先生の推測通り光の粒子となって消えていったのである。やはりここら辺が迷宮が回収するしないの境界線らしい。
そして俺達は──
「──各感覚端末による走査、並びに『星を見る者』による観測が、見事なまでに妨害されています。この部屋に守護者が居ると思われます」
──第十一階層最奥部の最後の部屋の前に到達していた。いつもの如く部屋に入る前に、コーゼストがセンサーや『星を見る者』で部屋の中を確認したが、結果はお聞きの通りである。彼女の台詞を聞いて、でかい溜め息をひとつ吐く俺。
「はァ……覚悟はしていたが、やっぱりかよ……」
分かっていた事だが、実際になるとやはり憂鬱になる。
「そんなに戦うのが面倒なら帰りますか?」
そんな俺の独り言に近い呟きに律儀に答えるコーゼスト。お前も怖い事言うな!?
「ここまで来て帰ると言う選択肢は有り得ないんだが?」
「知っていますよ。言ってみただけです」
思わずジト目を向ける俺に、しれっと答えを返すコーゼスト。お前なぁ…… 。
「と、兎にも角にも中に入るぞ」
俺はそう言って部屋の扉に手を掛けるのであった。
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部屋の扉が少し軋みを上げながら、ゆっくりと開かれて行き、俺達は部屋の中へと進み入る。部屋の内部は仄暗い魔導照明の灯りで満たされていた。
その仄暗い灯りに照らされた部屋の奥には、1体の重甲冑が鎮座する姿が見える。どうやらこの階層の守護者は、案の定と言うか何と言うかリビングアーマーらしい。しかも薄明かりに浮かび上がるアーマーの色合いは青みがかった銀色──つまりは星銀製と言う事だ。それを見て、またもやデカい溜め息を漏らす俺。
「はァ……最後の最後でミスリル製のリビングアーマーってか」
「全センサーによる室内の走査完了。特に罠は仕掛けられていませんね。敵リビングアーマーの情報も取得完了。材質は──マスターの言う通りミスリルですね。格は79、順位はA+、技能は──同族召喚と指揮を保有しています」
一方のコーゼストは俺のボヤきなど何処吹く風、実に鷹揚にセンサーによる解析結果を口にする。だがちょっと待て、今何か物凄く聞き捨てならない事を口にした気がするんだが?
「……何だよ、その「同族召喚」ってのは?」
「読んで字の如し、リビングアーマーを召喚するスキルかと思われます」
俺の突っ込みに顔色ひとつ変えずに淡々と答えるコーゼスト。その答えを聞いて、思わず頭を抱えたくなる俺。だがまぁ、それでもやる事はたったひとつなんだけどな!
「はぁ……よし、それじゃあやるとしますか!」
俺はそう言って、自分自身に気合を入れるのであった。
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俺とファウスト達は戦闘態勢をとりながら、ゆっくりと部屋の奥にどっかりと腰を下ろしているリビングアーマーに近付く。そしてある程度近付いた所で、不意に背後の扉が閉まり、それと同時にリビングアーマーの双眸が紅く輝くと、ゆっくりと立ち上がる。
「……ふむ、どうやら侵入者の様だな」
と同時に、太く低い男の声が部屋に響き渡る。驚いた事にその声は、明らかに目の前のリビングアーマーから発せられていたのだ。
「!? お前は話せるのか!?」
あまりにも突然の出来事に、ついリビングアーマーに声を掛けてしまう俺。すると目の前のリビングアーマーからは
「如何にも。儂の名はイーヴァイン。暗黒霊騎士イーヴァインである」
これまた真逆の返答が?!
「イーヴァイン?! 真逆貴方は古代魔族最強の騎士団長イーヴァイン・ナイトリーなのですか?」
名乗りを挙げたリビングアーマーの言葉にいち早く反応したのは、俺の傍にいるコーゼスト。
「ほほう? 儂を知る者がまだこの世にいるとは驚きだな」
コーゼストの台詞を聞いて何やら感慨深げなリビングアーマーのイーヴァイン。
「何だよコーゼスト。お前はこのイーヴァインとやらに覚えがあるのか?」
そんなコーゼストに問い質す俺。すると彼女は
「はい、情報としてなら知っています。イーヴァイン・ナイトリーとは先程言った通り、古代魔族の中でも最強と言わしめた猛者の1人です」
爆裂魔法級の衝撃発言をするのであった。
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コーゼストとイーヴァインとの話はまだ続いている。
「でも確かイーヴァイン・ナイトリーは勇者との戦闘で真っ先に戦死した筈……」
「如何にも。儂は勇者との戦いにて命を落とした──が、その魂はこうして最強の鎧に宿り、今日に至ると言う訳だ」
「成程……死霊術師による「反魂術」で魂をその重甲冑に憑依・固着させたのですね」
「少し話しただけでそこまで的確に言い当てるとは……貴様は一体何者なのだ?」
「私の名は『共生の腕輪』、と言えば理解出来ますか?」
「何? うむぅ、すると儂と同じ古代魔族の手によって生み出された存在か? だがそれが何でヒトと共に居る?」
そう言うと俺に視線を向けてくるイーヴァイン。
「それはまぁ……色々と紆余曲折がありまして。ただ1つハッキリしている事は、彼は500年もの月日を経て、この私が認めた唯一の存在だと言う事です。それに彼は強いですよ? 何せ今世の「英雄」ですからね」
イーヴァインの言葉に胸を張ってドヤ顔で返すコーゼスト。どうでもいいが、どうか余計な事を言わないでいて欲しいものである。
「何っ!? 「英雄」だと?!」
案の定、コーゼストの返しに反応するイーヴァイン。そして
「ヒトの剣士よ! 貴殿の名は何と言う?!」
いきなりハイテンションで名前を訊ねて来る。
「……俺の名前はウィルフレド、ウィルフレド・フォン・ハーヴィーだ」
俺の答えを聞いてイーヴァインは
「良し!! ウィルフレドよ! この儂と尋常に勝負しろ!」
やたら興奮した物言いでそう言うのだった。
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「……それは」
「そんな事させる訳無いでしょう!」
俺が答えようと口を開くより早く、ヤトがイーヴァインに向かって一声吠える。するとイーヴァインは
「儂とウィルフレドの勝負を邪魔させる訳にはいかんなぁ!」
そう言って紅い双眸をひときわ輝かせる。とイーヴァインの足元の床に、突如浮かび上がる幾つもの魔法陣! 次の瞬間には、イーヴァインの周囲には数多くのリビングアーマーの軍勢が出現した!
出現したリビングアーマーの軍勢は瞬く間に押し寄せて、瞬く間にファウストやデュークやヤトやセレネやニュクスに襲い掛かり、俺とコーゼストから引き剥がし、分断して行く!
「ちょ、ま、御主人様ァァァ!!」
「この!は、離しなさい! だ、御主人様ッ!!」
「く?! ぬ、主様! ど、どうかご武運を!!」
「ヴウ、マスター、申し訳あリませン」
「「ヴァンヴァン! ヴァンヴァン!!」」
「ワァーハハハッ! お前達は儂の軍団と暫く遊んでいるがよい!」
俺の後ろに引き離されて行くヤト達を一瞥し、そんな言葉を掛けるイーヴァイン。そして俺の方に向き直り
「さぁウィルフレドよ! これで邪魔は入らん! 儂と思う存分戦おうぞ!」
そう愉しげに言いながら、背中に背負っていた大盾と巨剣をそれぞれ片手で構えて、俺に向かってそう吠える。
どうでもいいがイーヴァインを見ていると、『デュミナス』のオルティースを思い出すんだが?
戦闘狂な所もそっくりだし…… 。
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俺は内心溜め息を吐きながら、腰に佩刀していた『天照』と『神威』を抜き放ち、目の前で対峙するイーヴァインへと向き直る。
対するイーヴァインは大体身長は2メルト程か? その大きな重甲冑が大盾と巨剣を持っている様は、改めて見ると威圧感が半端ない。うちのデュークとはまた違った意味で、正に「巨壁」の様である。
「何と?! それは神鉄製の刀か? しかも二刀流か?! これは面白いッ! 儂の大盾『ガルガンチュア』を切り裂けるものなら切り裂いて見よ! さぁ来いッ!」
俺の二振りの刀を見て、そう言葉にするイーヴァイン。実に戦闘狂的な発言である。
「行くぞッ!」
俺は一言鋭い声を発すると、迅風増強を発動させてイーヴァインに斬り掛かった!
「ぬ?! 速いな?!」
そう言いながらも俺の『天照』による斬撃を大盾『ガルガンチュア』で受け止めるイーヴァイン! 耳障りな金属音を響かせて『ガルガンチュア』に防がれる俺の一撃!
同時に左の『神威』がイーヴァイン目掛け斬り掛かるが、彼の持つ巨剣にやはり弾かれて届くことは無かった! 神鉄製の刀による斬撃を防ぐとは、大盾だけでなくあの巨剣ももしかして…… 。
『マスターの推察通り、あの大盾も巨剣も剛鉄製ですね。しかも両方ともに幾重にも強化魔法が付与されています。生半可な攻撃は通用しないと思われます』
俺の思考を読んだコーゼストが、念話で俺の推察を是認する──やはりそうか!
コーゼストの念話に俺は内心で舌打ちをするのだった。
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「ほう! 儂の『ドラゴンファング』に打ち負けないとは! 流石はオリハルコン、中々に硬いなッ!」
片やイーヴァインの方はと言うと、殊更愉しげだ。本当にお前は戦闘狂だな?! それにその巨剣にも名が有ったんだな!?
だがしかし、最初の一合でイーヴァインの力量は推し量れた──コイツは間違いなく強者だ。一瞬でも油断をすると、それが命取りになりかねない! ここは反撃の隙を与えてはならない!
俺は刹那の瞬間にそう考えを纏めると、そのまま『天照』と『神威』の二刀による流れる様な連撃を、イーヴァインに向けて叩き込む! が! やはり大盾の防御を抜く事は出来ない! それでも幾度となくイーヴァインに連続で斬撃を叩き込む俺! だが!
「よォし! 今度は儂から行かせてもらうぞ! 吠えろ『ドラゴンファング』ッ!」
此方のほんの僅かな隙をついて、一転攻勢に転ずるイーヴァイン! その剣筋は鋭く、そして一撃一撃が重い! こんな重い一撃を受けるのは、ルストラ師匠とオルティースの2人以来だな?!
だがその鋭く重い攻撃を『天照』と『神威』で全て捌ききる俺!
「何と! やるではないか、ウィルフレドッ!!」
「ッ! そいつはどうもッ!」
自身の攻撃がひとつも俺の防御を抜けなかったにも関わらず、何処か凄く愉しげなイーヴァイン!
(全く! 戦闘狂にも程がある!)
『その割にはマスターも楽しそうですね』
俺の心の中の悪態に、そんな言葉を念話で返してくるコーゼスト。
俺、そんな顔していたか??
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「なかなかに楽しませてくれるな! ウィルフレド! では儂も本気を出すとしよう!」
互いに剣を交えること数分、イーヴァインは一言そう言うと、いきなり剣速を上げて来た! と言うか、今の今まで本気じゃなかったのか?!
そう思わず頭の中でイーヴァインに突っ込みを入れる俺! イーヴァインの巨剣の一撃を捌く度に、俺が手に持つ『天照』と『神威』が軋みを上げる! このままではあと数合で俺が押し切られるのは間違い無い!
瞬時にそう判断した俺は、イーヴァインの攻撃を受け止めた反動を利用して、わざと体勢を崩して奴から十分に距離をとる!
「もらったァ!!」
そう吠えながら突っ込んで来るイーヴァインに対し、俺は短い詠唱を口にする!
「荒ぶる雷よ!」
すると『天照』と『神威』の刀身に沿って、雷が走り、激しい火花が巻き起こる! そして!
「喰らえッ! 「雷精断斬」!」
『天照』による雷撃の空裂斬──雷精断斬を、突っ込んで来るイーヴァイン目掛け解き放つ!
「な、なんとォーーーッ!」
だがイーヴァインも、俺が雷精断斬を放った瞬間に超反応で大盾を構えて、雷撃の斬撃波を正面から敢えて受け止める! 大盾に激突する雷精断斬!
「ぬオォォォォーーーッ!!!」
激しい雷撃を辺りに撒き散らしながらも雷精断斬に耐える、イーヴァインの大盾!
やがて激しい雷撃が収まると
「かぁーーーっ! 痺れたのう!」
完全無傷のイーヴァインがそこには立っていたのである。
なんて奴だ、全く!
ここまでお読みいただき有難うございました!
次回は2週間後になります!
それではお楽しみに!!




