鍛錬と日々の日常と 〜幕間の終わりに〜
大変お待たせ致しました! 本日は2025年最初の話である第285話を投稿します!
-285-
今日も今日とて早朝から喧騒に包まれる訓練場。ある者は木剣木盾を装備して、他の者を相手に打ち込みをし合い、またある者は広い訓練場の外周を、他の者達と走り込んでいたりする。そしてまたある者達は7人ずつ組んで、5体の魔物を相手に云わば「模擬戦」をしていたりもする。
ここはご存知ラーナルー市にあるハーヴィー騎士団の訓練場、これはそこでの一幕である。
5体の魔物と言うのは、これまたご存知俺の従魔の双頭魔犬のファウストに剛鉄岩人形のデュークに、半人半蛇のヤトに女王蛾亜人のセレネに、女郎蜘蛛のニュクスの事である。
因みに俺達分隊『混沌』が迷宮「魔王の庭」の第十一階層から一時帰還してから、10日経っていたりする。
「皆んな、また練度が上がった様だなぁ」
そんな周りの様子を見て、独り言の様にそう呟く俺。
「そうですね。エリナに聞いた所によると、全員「魔王の庭」の第八階層を余裕で踏破出来るみたいですよ。まぁ全員格が軒並み70オーバーですからね」
俺の呟きに律儀に答えを示すのはコーゼスト。
「……その割には未だにヤト達から1勝も挙げてないけどな」
「それはそうでしょう。何せヤト達は軒並みレベル80オーバーなんですからね。マスターと比較対象する事自体、そもそも間違っています」
続く俺のぼやきにも似た呟きにも、これまた丁寧に答えるコーゼスト先生。
「そう言うもんかね……」
ついつい、自分を基準に考えるのも善し悪しか……世の中ままならん。
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ここでいきなりだがハーヴィー騎士団の構成について触れておこうと思う。
オールディス王国国王エリンクス・フォン・ローゼンフェルト陛下の、文字通りの「天の声」で結成されたハーヴィー騎士団だが、その中核には俺の氏族『神聖な黒騎士団』の中でも、元Sクラス冒険者パーティー「白の一角獣」のメンバー5名が据えられており、三度の公募で集まった騎士団員100名に、魔法師団員40名、そして文官10名の総勢155名がハーヴィー騎士団の構成となっている。
その構成は騎士団員5名に魔法師団員2名で「班」を組み、班の数は総数20班にも及ぶ。更にその班を2班合わせて、1つの「隊」として機能させており、第1番隊から第10番隊までの10個の隊として機能している。
騎士団長は元「白の一角獣」のリーダーで俺の第二夫人(形式上は第五夫人)のエリナことエリナベルが務め、第1番隊から第4番隊までを直接指揮し、第5番隊から第7番隊は副団長のベルタが、第8番隊から第10番隊はベルタと双璧を成すもう1人の副団長ユーニスが指揮を執る事になっている。
また魔法士のフェリピナと女神官のマルヴィナの2人は魔法師団の団長と副団長となっており、通常はエリナベルの指揮下に入る事になっている。
平時は指揮権は騎士団長であるエリナベルが握っているが、緊急時には騎士団の全指揮権は、辺境伯である俺が握る事になっていたりする。
まぁ俺としては何事も無く、平穏無事に過ごせれば一番良いのだが……それもまた辺境伯の責務なので覚悟だけはしている……つもりだ。
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そんなハーヴィー騎士団の訓練風景だが、その中でもひと際異彩を放つのはやはり、俺の従魔5体との実戦さながらの「模擬戦」だろう。
ファウストを始めとする5体の魔物は、ニュクスのレベル84を筆頭にどの個体もレベル80オーバー、順位に至っては軒並みSランクの強力な魔物達だ。因みに今ここには居ないが、分隊『戦乙女』の盾役である蒼玉岩人形のスクルドも、つい先日レベルが80に到達したのだとは、コーゼストの弁である。
「「ヴァンヴァンヴァン!!」」
「……ヴ、ちカラ加減が難しいデスが、何トカしまス」
「ほらほら! 次! どんどん掛かって来なさいッ! 全部返り討ちにしてあげるわッ!!」
「ヤトったらそんな事言って……ちゃんと手加減しないと御主人様にまた怒られるわよ?」
「くふふっ、ですがこうして専用の武器があると、手加減も楽ですわね」
兎にも角にも軽口をたたきながらも、ファウスト達もやる気に満ち満ちていたりする。特にヤトとセレネとニュクスはそれぞれに専用の武器を持たせた事で、実戦訓練にプラスに働いているのだ。
具体的にはヤトには刃を潰した薙刀、セレネも刃を潰した鋼鉄鉤爪、ニュクスに至ってはやはり刃を潰した戦鎌を使用させていたりする。そのどれもがドゥイリオ謹製の代物だ。
「うーん、そろそろ「魔王の庭」に潜るとするか……」
ファウスト達が騎士団員達を盛大に吹き飛ばすのを見ながら、俺はぼんやりとそんな事を思うのであった。
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ファウスト達が大暴れ(笑)している傍らで、俺は俺でエリナやベルタ以下数名の選抜された騎士団員達に剣術の稽古を付けていたりする。
先ずエリナ以外全員に「正持の型」を基礎として習得してもらってから、今は木剣で真っ向への斬り下し、右上から左下への斬り下し、左上から右下への斬り下し、右から左への横薙ぎ、左下から右上への斬り上げ、右下から左上への斬り上げ、そして正面への突きと、7つの動作を流れる様に連続して行う素振りを、何十回も繰り返しさせている。
単調な稽古と言うなかれ、何事も基礎は大切なのである。
『『『『『ハッ! ハッ! ハァーーッ! ハッ!』』』』』
「ほらほら! 体幹がブレているぞ! もっと木剣の切っ先に精神を集中させろ!」
『『『『『は、はいっ! ハッ! ハッ!』』』』』
「良し! だいぶ良くなったぞ! それじゃあ、ラスト素振り20回!」
一心不乱に木剣を素振りするエリナ達に向かい、そう檄を飛ばす俺。
「なかなかどうして厳しいですね。流石は『指導者』の技能持ち」
その傍で俺の指導ぶりを茶化してくるのはコーゼスト先生。因みに『指導者』のスキルは、オルコット卿に剣術を指導したら、いつの間にか身に付いていたスキルだったりする。
「うるせーぞ、コーゼスト」
そんな彼女に思わず気色ばむ俺。お前ももう少し言い方を考えろって…… 。
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「ふぃーーーっ、良い汗かいたな」
そんなこんなで朝食前まで、俺はハーヴィー騎士団との合同(?)訓練でみっちりと汗を流してきた。ここ最近は自己鍛錬をするよりも、騎士団での指導が多い気がする。まぁ、それはそれで構わないんだが。
兎にも角にも一汗かいてから、自分の屋敷の食堂にやって来た俺とヤト達魔物娘’Sとコーゼスト。ファウストとデュークは短身モードになってヤト達に抱っこされている。
「旦那様、コーゼスト様、ヤトさん達も、おはようございます」
「「「おはようございます!」」」
食堂では家政婦長のタティアナと、侍女のフローラとエマとクレアが、俺とヤト達に朝の挨拶をして来る。それに続けて
「あなた、コーゼストさんも、ヤトさん達も、おはようございます」
「お父さんも、コーゼストお姉ちゃんも、ヤトお姉ちゃん達も、おはようございます!」
俺の第六夫人(形式上は第一夫人)であるマデレイネ──マディと、彼女の愛娘で俺とアン達奥様’Sの義理の娘のマーユが、食卓から朝の挨拶と共に俺達を出迎えてくれた。
マディは昨日の午下に、彼女が女王として治める魚人族の住まう島オーリーフから、転移魔導機でやって来ていたのである。
まぁマディの場合は月に1回、こうして暇(?)を見つけては、転移魔導機でラーナルー市にある俺の屋敷に泊りがけで遊びに来ていたりする。当然の事ながらマディが留守の間は、摂政のヨエルさんが政務を熟してくれているのだが。彼曰く、『行方不明になるより行方が知れている分、安心できる』なのだそうだ。
それで良いのか?! オーリーフ島!?
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まぁ兎に角そんな訳で、マディとマーユの出迎えを受けながらダイニングテーブルに着く俺とコーゼストとヤト達。
俺達が席に着くと直ぐに、屋敷の料理長のジアンナと2人の料理人アイヴィンとミリアーナが作った美味しそうな料理が、次々にダイニングテーブルの上に並べられていく。
「良し、それじゃあ食べるとするか」
「「「は〜い!」」」
俺の一言で食事が始まり、返事と同時にそれぞれに目の前の料理に手を伸ばすヤト達魔物娘’S。マディやマーユも俺達と一緒に食べ始める。食事を必要としないコーゼストは、チビデュークを膝上に置き、チビファウストに深皿に盛られた生肉を与えていたりする。
因みにエリナやベルタ達は、今日は訓練場に併設されている騎士団の宿舎の食堂で食べてくるのだそうだ。何でも騎士団員達との親睦を深める為らしい。
更に因みに俺の第一夫人(形式上は第四夫人)であるアンと、第四夫人(形式上は第七夫人)のレオナが率いる分隊『秩序』と、氏族『神聖な黒騎士団』のジゼル率いる分隊『戦乙女』、そしてルストラ師匠は、俺達より先んじて「魔王の庭」に潜っていたりする。
更に更に言うと、今この場に居ない俺の奥様’Sのルピィとオルガは冒険者ギルド、ジータは伍の群島、そしてリーゼはツェツィーリア共和国と、それぞれの場所で仕事を熟していたりする。
まぁそんなこんなで、今日の食卓はいつもより静かだったりする──ヤト達は相変わらず賑々しいが!
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なんのかんのと賑々しくも穏やかな一日を過ごした翌日、つまりは俺達が「魔王の庭」から一時帰還して11日目の昼前──
「旦那様、ガドフリー武具店のドゥイリオさんご夫妻が参りました。セレネさんとニュクスさんの防具が完成したとの事で、その納品に伺ったそうです」
──書斎に居た俺は、我が屋敷の執事のディナールからそう告げられていた。確かに5日前にドゥイリオの店で、セレネとニュクス2体の防具を特注品として依頼したが……流石はドゥイリオ、仕事が早い。
俺は心の中で一頻り感心すると
「分かった。それじゃあドゥイリオ夫妻を屋敷の裏庭の修練場に通しておいてくれ。俺はセレネとニュクスに声を掛けて来る」
ディナールにそう指示を与える。「分かりました」と会釈して下がるディナール。セレネとニュクスに声を掛けるべく、書斎を後にする俺とコーゼスト。
「大急ぎで仕上げて来ましたね。流石はドゥイリオ」
俺の思考を読んだコーゼストからは、その様な発言が。
「まぁ、それだけドゥイリオ達も頑張ってくれたんだろう──ああ、それとコーゼスト」
「はい?」
「お前はいい加減にヒトの頭の中を覗き見るのを止めろよなぁ……」
「良いじゃないですか? 減るものでも無いんですから」
「俺の神経がゴリゴリすり減るんだよ!」
そんな事を言い合いながら、俺とコーゼストはセレネ達の部屋へと向かうのであった。
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「……これで良し、と。おい、グードゥラ! そっちはどうだ?!」
「こっちも大丈夫さ、ドゥイリオ!」
ドゥイリオとグードゥラの夫婦が手早く、そして慎重にセレネとニュクスに防具を装着し終えた。
セレネには白く染め上げた祖竜の革に要所要所を薄い星銀の板で補強してある胸当てと脛当の革鎧が、ニュクスにはミスリル製のブレストプレートと肩甲、そして下半身の4対8本の蜘蛛の脚にはそれぞれにミスリル製のグリーブが配された軽鎧が、それぞれに装着されていた。
当然の事ながらセレネのブレストプレートは、背中の翅の動きを阻害しない様に特別に大きく空いていたりする。
「よし! どうだセレネにニュクス、動き辛い所とか締まり過ぎている所とか緩い所とか無いか?」
ドゥイリオの問い掛けにセレネとニュクスは、あちこち体を動かして可動域を見たりしていたが
「「はい、特に問題ありませんわ(ですわ)」」
とこれまた見事なまでに声を調和させて答える。その様子に「そうか」と笑みを浮かべるドゥイリオ。
「たった5日で完成させてくるとは……流石だなドゥイリオ」
「おう! まぁ既製品に手を加えただけの代物なんだが、性能は保証するぜ!」
俺の賛辞の言葉に、そう満面の笑みで答えるドゥイリオ。
どちらにしてもこれで俺達が、「魔王の庭」第十一階層に再挑戦する準備は整った事になる。
ファウストやデュークは勿論の事、ヤトさん達も既にやる気満々であったりする。
まぁ後は俺が全員の手綱をしっかり締めて行かないとな!
ここまでお読みいただき有難うございました!
次回は2週間後になります!
それではお楽しみに!!




