鉤爪と大鎌と
大変お待たせ致しました! 本日は第283話を投稿します!
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「御主人様ァ、今日はこの後どうするのぉ?」
唐突にそう語り掛けて来たのはご存知半人半蛇のヤト。
此処はハーヴィー騎士団の訓練場の一角、そこで行われていたハーヴィー騎士団とヤトを始めとした俺の従魔達との実戦形式の訓練が終了した直後である。俺の朝の鍛錬後に此処に来て騎士団の面々と一戦交える(?)のがこの所の従魔達の日課になっているのだ。
「ん? そうだなぁ……今日はドゥイリオのガドフリー武具店に行こうと思うんだが……」
ハーヴィー騎士団長のエリナや愛娘のマーユと一緒に訓練の様子を見ていた俺は、ヤトの問い掛けに端的にそう答える。
「? ドゥイリオの所に行って、何をするのぉ?」
琥珀色の3メルトもの蛇身をくねらせながら這い寄って来るヤトから、そんな言葉が投げ掛けられる。
「ドゥイリオの店かぁ…… 。ねぇウィル、私も付いていって良いかしら?」
「私もいきたいっ!」
一方で俺の傍に居たエリナやマーユからもそんな声が聞かれた。まぁ別に内緒でもなんでも無いからな、エリナ達を連れて行く事は特に問題は無い。
「それで? どんな用事があるんですの?」
「くふ、そうですわね。妾もセレネと同様に興味があります」
ヤトの後ろから女王蛾亜人のセレネと女郎蜘蛛のニュクスも此方に来て、そう言葉を口にする。
「まぁな……ドゥイリオにセレネとニュクスの件で、是非とも頼みたいことがあるんだよ」
異口同音の魔物娘’Sにそう答えるに留める俺。
そこは行ってのお楽しみである。
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ラーナルー市第三区画から第一層区画の西区の北の端にあるガドフリー武具店に来た。メンバーは俺とエリナとマーユとコーゼスト、そしてヤト達魔物娘’Sである。
相変わらず建て付けが悪い扉を開けると中に全員で進みいる。ニュクスの体が入れるか心配だったが、両開きのドアを全開に開けて何とかギリギリ通る事が出来た。そうして中に入るといつもの通りにノッカーを木槌で叩く。程なくして
「──いらっしゃい、ってぇウィルじゃねえか?!」
店の奥からそんな台詞と共に姿を見せたのは、このガドフリー武具店の店主ドゥイリオその人である。
「やぁ、ドゥイリオ。久しぶりだなぁ」
「おうよ! それでどうだ?! ” 神威 ” の使い勝手は?!」
俺の顔を見るなりその事を先ず確認してくるドゥイリオ。 ” 神威 ” はドゥイリオ渾身の作品だからな、やはり気になるみたいである。
「ああ、お陰で凄く助けられているよ」
若干の苦笑いと共にそう答える俺。俺の言葉にドゥイリオは「そうかそうか!」と満足そうに何度も頷く。
「そんで? 今日は一体どんな用なんだ?!」
そしてしっかりと此方の用向きを確認する事も忘れない。俺はセレネとニュクスを手招くと、ドゥイリオに対して
「実は彼女達が使えそうな武器や防具は無いか、ドゥイリオの知恵を借りようと思ってな」
と笑顔ではっきりと告げる。俺の言葉を聞いたドゥイリオは
「おう! そう言う事なら任せてくれ!」
とこれまた満面の笑みで請け負ってくれたのであった。
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「おーい! グードゥラ! 仕事だぞ!」
そう言って店の奥に居る奥さんのグードゥラを大声で呼ぶドゥイリオ。どうやらセレネとニュクスの三位寸法を測る為に呼んでいるみたいである。
「「(私に)(妾に)使える武器や防具、ですか?」」
そんな中、俺の言葉を聞いて驚きの声を上げるのはセレネとニュクス。
「うん、お前達の中で唯一武器や防具を持っているのはヤトだけだしな。この先、何かあって魔法が使えない場面に遭遇するかも知れないし、その備えの為にもそれぞれが使える武器や武具が必要だと思うんだ」
まぁ、ただ単にヤトにだけ薙刀や軽鎧を使わせていると、ヤトだけ依怙贔屓しているみたいに見えるから、俺自身が釈然としないからに他ならないのだが。
だがセレネとニュクスは俺の言葉を聞いてやたら感激しているみたいである。やたらと視線が熱を帯びている様に感じる。
そうこうしているうちに店の奥からグードゥラが出てきた。彼女は俺達の姿を認めると
「おや?! ウィルさん達じゃないか! いらっしゃい!」
これまた屈託の無い笑顔で迎えの挨拶をして来る。そんなグードゥラに言葉を掛けるドゥイリオ。
「おい、グードゥラ! この2人の身体の採寸をしておいてくれ! ウィルがこの子らに防具と武器を頼むんだとよ! 俺は武器を見繕って来るからよ!」
「はいよ〜、任せときな!」
そしてグードゥラがセレネとニュクスの採寸を始めると同時に、ドゥイリオは店の奥に引っ込んでいった。
流石は夫婦、呼吸がピッタリだな!
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兎にも角にも場所を店の裏庭にある試用場に移して、引き続きセレネとニュクスの武器と武具の選定が行われる事になった。因みに今日で「魔王の庭」第十一階層から一時帰還して6日が経過していたりする。
「よし、そんじゃあ先ずは──セレネだっけか? お前さんからだな」
そう言ってセレネを手招くドゥイリオ。呼ばれたセレネは、つ、と前に進み出ると
「宜しくお願い致しますわ、ドゥイリオさん」
ドゥイリオに向かい優雅に腰を折る。
「おう、こちらこそ宜しくな。そんじゃあ早速だがコイツを持ってみてくれないか?」
「はい、こうですか?」
ドゥイリオの指示通りに渡された長剣の柄の握りを握るセレネ。其の様子を見て「やっぱりか」と呟くドゥイリオ。
「何が「やっぱり」なんだ? ドゥイリオ?」
彼の呟きを聞いた俺はそう疑問をぶつける。
「いやな、セレネは普通のヒトと違って指が長いだろ? それでもって鋭い爪もあるから剣をちゃんと握る事が出来ないみたいなんだよ」
俺の疑問にちゃんと答えるドゥイリオ。そして暫く顎髭を撫でながら考え込むと
「ちょっと待ってろ」
と言って武器を置いてある卓から、長さ20セルト程もある短剣の様な鋭い爪が3本生えた篭手を一対持ってきた。
「何だそれ?」
「ああ、コイツは東方の武器で『鋼鉄鉤爪』って言うんだ!」
俺の問いにドゥイリオは自慢げにその武器の名を口にするのだった。
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試用場に舞う白い翅。その前腕には鈍い輝きを放つ鉤爪が装着されていた。的の木人形の周りを白い翅が舞い飛ぶ度に、木人形には複数の斬撃痕が増えて行く!
「おおっ、大したものだなぁ」
「そらまぁ、俺の見立てだからな!」
その様子に感心する俺と、自慢げに胸を張るドゥイリオ。そうしている間にも白い翅──セレネの攻撃は続き、文字通りズタズタに切り裂かれる木人形!
一通り攻撃を終えると、翅を羽ばたかせながら俺の元にやってくるセレネ。
「御主人様! どう、でしたかァ、私の勇姿は?!」
「ああ、凄かったぞセレネ。初めての武器なのに大したもんだ」
息を弾ませながらそう声にするセレネに、賞賛の言葉を掛ける俺。するとセレネは
「うふふっ、嬉しい♡御主人様に褒められたわぁ♡」
さも嬉しいとばかりに目を細めて喜びを体全体で示す。鋼鉄鉤爪を着けたまま抱き着かれなくて良かったと、心の中で胸を撫で下ろしていたのは秘密である。
「よし、とりあえず武器はそれで良いだろう。セレネの場合は空を飛ぶ事を前提に、防具は特注品になるからな。少し時間を貰うぞ」
セレネの様子にひとつ頷くとそう言ってくるドゥイリオ。
「ああ、それはドゥイリオに任せるよ」
その言葉に首肯して同意を示す俺。その辺は武具の専門家のドゥイリオに一任するのが得策である。
「さて、と。そんじゃあ次は──ニュクスだっけか? お前さんの番だな」
次にドゥイリオの意識はニュクスへと向けられたのであった。
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「くふっ、宜しくお願い致しますわね、ドゥイリオ殿」
セレネに続き、ニュクスもドゥイリオに対して優雅に腰を折る。
「おうよ、そんじゃあ早速で悪いが、ニュクスもコイツを持ってみてくれないか?」
「はい、こうでしょうか?」
そう言ってドゥイリオから差し出されたロングソードを手に取ると、グリップを両手でしっかり握り構えを取るニュクス。その構えがなかなか様になっている事に吃驚する俺。
「くふ、主様の構えの見様見真似ですわ」
とはニュクスの弁である。そして彼女はそのままロングソードを素振りして見せる。こうして見るとヤトやセレネもそうだが、ニュクスも大した膂力があるのが良く分かる。
「ふむ……ニュクス、次はコレを持ってみてくれ」
そんなニュクスの様子を黙って見ていたドゥイリオは何かを思いついたらしく、次には彼女に長さ1.7メルト程もある鉾槍を差し出す。
ロングソードを差し出されたハルバードへと持ち替えると、それをまた軽々と片手で振り回し、目の前に置かれていた木人形目掛け斬りつけるニュクス!
ハルバードの斧刃は木人形の胴に当たると、その胴に半分以上食い込んで止まった。幾らニュクスに膂力があってもそれだけでは駄目なのだ。ここから先は本当に技術の話になってしまう。
「……ニュクス、ちょっと待ってろ」
その様子にまた何かを思いついたらしく、店内へと引っ込むドゥイリオ。
まぁ何度も言う様だが、そこは武具の専門家のドゥイリオに任せるとするか、うん!
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「──待たせたな」
そう言いながらドゥイリオが店内からひとつの大型武器を手に試用場に戻ってきた。
「鎌……?」
それは鎌と言うにはあまりにも大きかった。柄の長さ1.5メルトあまり、少し湾曲した刃渡りも1メルト程もある大きな鎌だったのである。
「おう、コイツは戦鎌と言ってな、ここの大陸から遙か西に点在する「果ての群島」で使われている立派な武器さ!」
ドゥイリオがここぞとばかりに、得意気に自身の知識を言い連ねる。聞けばドゥイリオが人伝てに、東西南北問わず色んな武具を買っていた頃に手に入れた代物らしい。その辺は流石と言うかなんと言うか……ドゥイリオらしくもある。
「ほれ、ニュクス。今度はコイツだ」
兎に角その持ってきたウォーサイズをニュクスに差し出すドゥイリオ。勿論ちゃんと代わりにハルバードは受け取って、である。
「はい、有難うございますドゥイリオ殿」
そう言ってドゥイリオから受け取ったウォーサイズを両手で軽々と持つと、これまた軽く数度素振りをしてみせるニュクス。振り回す度にブォン、と言う如何にも重々しい風切り音をたてるウォーサイズ。
「ニュクスもなかなか様になっているなぁ……」
その様子に誰とはなく呟く俺。
「おう、このウォーサイズってえのはかなりクセの強い武器だからな。それをここまで操れるのはニュクスの感覚が良いからなんだろうな!」
俺の呟きに律儀に答えるドゥイリオ。その辺はやはり流石である。
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そうして素振りする事数度、徐ろに先程とは違う木人形目掛けウォーサイズを横薙ぎに、勢い良く草を刈るかの様に振るうニュクス! 次の瞬間、木人形の胴が横に真っ二つに斬り飛ばされた! その様子に思わず目を剥く俺。
「くふっ、主様、ドゥイリオ殿、如何でしょうか? 妾はこのウォーサイズ、甚く気に入りましたわ」
ニュクスはニュクスで獲物を頭上に掲げながら、満面のドヤ顔でそう宣う。
「……しかし凄い斬れ味だな、ドゥイリオ」
「まぁな、ソイツの斬れ味もだろうが、あとはニュクスの腕だろうなァ……」
ウォーサイズのあまりの切断力を前に、思わずそう言葉を漏らしてしまう俺とドゥイリオ。
「……凄い、凄いわ! ヤトに続いてセレネにニュクスにも武器を持たせるなんて!」
一方で今まで黙って事の成り行きを見ていたエリナから、そんな賛美の声が聞こえる。続けて「これならハーヴィー騎士団の訓練メニューを見直さないと」と呟く声も聞こえてくる。騎士団の皆んな、何かスマン。
「うわぁー、セレネお姉ちゃんもニュクスお姉ちゃんもかっこいい!」
マーユはマーユで、それぞれに武器を装備したセレネとニュクスの間を行ったり来たりして1人はしゃいでいる。
「よし、そんじゃあ後はニュクスの防具だが……こっちも特注品になるからな。やっぱり少し時間を貰うぞ」
グードゥラの書いた備忘録に目を通しながらそう言ってくるのはドゥイリオ。まぁそれは仕方ないな。
兎に角こうしてセレネとニュクスの武器は決まったのであった。
あとは只管慣熟訓練あるのみ、だな!
ここまでお読みいただき有難うございました!
次回は2週間後になります!
それではお楽しみに!!




