とある村の瑣末な出来事
本日、第二十八話を投稿します!
旅先でも、もれなくトラブルに見舞われる一行であります!
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あれから7時間ほど、途中アンの希望通り(笑)お茶の時間を挟んで夕暮れにはレヴ村に到着した。
このレヴ村は大体1800人ほどの人が住んでいる大きめな村で、幸い小さな宿屋が有ったので直ぐに宿を取った。全員1人部屋が取れたのはツイていたが、この時期は旅人は少ない──なので俺達は大歓迎らしい。
「ふぅ──」
質素なベッドに腰掛け、何とはなく溜め息を漏らす。ファウスト達は俺の従魔と言う事で追加料金を払うのみで済んだ。因みにここは1泊銅貨2枚、従魔の追加料金は1体につき鉄貨3枚だった。
何にしろ3日振りのベッドだ──今夜はゆっくり寝れそうだ。
──コンコン
「ウィル、下に降りませんか?」
アンが声を掛けて来た。そう言えば食事を頼んでいたな…… 。
「──今行く」
さて、降りるとするか──── 。
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暖かい食事を済ませ少し硬めのベッドでぐっすり休んだ翌朝、階下が騒がしいので目が覚めた。何だ── ?
『マスター、どうやらトラブルの様です』
コーゼストがわざわざ報告してくるが──そんな事は判っている。やれやれ…… 。
膝の上に乗るファウストとデュークをベッドから降ろして下に降りると、騒動は食堂から聞こえて来た。
「──だから! 何人か捜すのに出してくれよ!」
「そんな事言ってもなぁ……」
「そもそも、あの森の危うさはセリノの親父さんだってわかってた筈だろう?」
「そんな事言ったって、久し振りの泊まり客に美味い山鳥を食わせたいって頼んだのはそっちじゃないか!?」
「それはそうだが……」
……何だか猛烈に絡みたくない話である。
『どうやら、マスター達に供する食材に関する話みたいですね』
判っているから黙っててくれないか? コーゼスト先生…… 。
「どうしたのであるかね?」
不意に後ろから声がして振り向くと、ラファエルとアン達が降りて来た所だった。
「何か揉めている様であるが……」
「これはお客人、お騒がせして申し訳ありません」
俺とラファエルが話していると、宿屋の主人とは違う初老の男が話し掛けて来た。
「……誰かね?」
「失礼しました。この村の村長を務めているウリセスと言います」
ウリセスと名乗った男が頭を下げる。成程、村長か………… 。
「それで、何か揉め事の様であるが……どうしたのであるかね?」
ウリセスと名乗った村長にズケズケと尋ねるラファエル──本当にお前は上から目線だな。
「いえ、村の猟師の1人が朝早く近くの森に猟に出掛け帰らないのだそうです。ただ……」
急に口篭る村長──ただ何かあるのか?
「ふむ……何やら訳ありであるか。だが村長、その辺の事情も含めて話して貰えると有難いのだが? 或いは私達で助力出来るかも知れないのであるからな」
ラファエルがそう促すと村長は渋々ながら話を始めた。それによると近くの森に早朝、山鳥猟に出掛けたセリノと言う猟師が未だ帰って来ないのだそうだ。改めて水晶地図板を確認すると日が昇ってからかなり経っていた。
何時もならこんな騒ぎにはならないのだが、今回は話が悪過ぎた。猟場の森には最近、猪の魔物が出没していたらしいのだ。なので村長は村人達に注意喚起していたが、セリノは「今日は特別だから」と言って猟場に行き行方不明──更にセリノに山鳥猟を頼んだ宿屋の主人は、村長の義理の息子なのだそうだ。更にさらに、セリノに捕って来てくれと頼んだ山鳥は宿泊客──つまり俺達に食べさせる為だったとの話なのである。
正直言って、このままでは寝覚めが悪い…………はぁ、仕方ないか。
「……ラファエル、アン、ノーリーン。すまんが出発は明日に変更になりそうだ」
するとラファエルはニカッと笑い「そうであるか」と返してくる。アンは「そうですよね!」と熱い視線を向けて来るし、ノーリーンに至っては当然だと言わんばかりの顔をしていた。俺は溜め息をひとつ吐くと、村長に話し掛けた。
「──村長、俺達がそのセリノと言う猟師を捜して来る」
「し、しかしそれは──」
「俺とアンはAクラス冒険者だ、心配は要らない。戦力的には何ら問題は無いが?」
「で、ですがAクラス冒険者様を雇う程では……」
何故か愚図る村長をそのままにして、俺は猟師の息子と思しき少年に声を掛ける。
「君がセリノの息子か?」
「は、はい! ルフィノと言います!」
ルフィノ少年は姿勢を正して返事を返してくる──そんなに緊張しなくても…………
「君はどうする? 俺達に依頼する気があるなら受けるんだが──当然、金は払って貰うが……」
「──! は、はい! よ、よろしくお願いします!」
ルフィノ少年はそれこそ土下座する勢いで深く腰を折って請願する。
「わかった──冒険者ウィルフレド・ハーヴィー並びにアンヘリカ・アルヴォデュモンドはレヴ村猟師セリノの息子ルフィノの依頼を受領する。宣誓」
宣誓の言葉を口にした瞬間、首から掛けてある認識札が輝き誓約印が浮かび上がる。これは冒険者が想定外に依頼を受ける時に使う「宣誓」である。これにより受けた依頼を依頼者が「完了」と唱えるまで認識札に記録され続ける事になる。当然、冒険者ギルドで有効と見なされ不履行の場合は依頼不達成と言う罰則が課せられる。
「この宣誓は私、ラファエル・アディソンが立会人として認めるものである」
ラファエルが気を利かせて、そう宣誓してくれた。これで誰にも文句は言わせない。
「よし──それじゃあ、誰か森まで案内してくれないか?」
すると、ルフィノ少年が勢い良く手を挙げたが「君は家で父さんを待っててくれないか?」と言いくるめ、結局村の若者に案内して貰う事になった。
最後まで村長はブツブツ文句を言っていたが──── 。
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準備を整えて、レヴ村の南側に広がる森まで案内して貰った。徒歩で大体40分程か? 木々が繁茂する面積はそこそこ有りそうだ──さて、ここはアンの出番である。
「アン。精霊達に聞いてくれないか? この森に立ち入った人の事を」
「はい──『ヴェン・エト・アラバ・イクティ・ヴゥ・スゥエート』──風と木よ、願いを聞いて───」
「成程、アンの精霊交信能力を使うのであるか」
ラファエルが感心したみたいに頻りに頷く。何でお前達は付いて来たんだ? まぁ良い──俺はファウストにルフィノ少年から預かってきたセリノの昨日着ていた服の匂いを嗅がせた。これはコーゼストが『ファウストの嗅覚も使えばより正確に発見出来ます』と事前に薦めて来たのでやらせてみる事にしたのだ。因みにセリノの服は他の匂いが付かない様に麻袋に入れ無限収納に入れておいた。子犬サイズのファウストはスンスンと服の匂いを嗅ぐと、鼻で辺りの匂いを嗅ぐ様に森の中に駆けて行った。
「──判りました、こっちです!」
程なくしてアンが精霊達との話を終えて、先頭に立って森に入って行く。俺とラファエル達はその後を追って森に入る。森の中は意外と歩き易かったが、どうやら獣道らしい。
アンは時折、精霊達との会話を挟みながら進んで行く───彼此2時間程歩き続けると小さな沢に出た。今度はその沢に沿って上流に歩を進めると「ワンワンワン!」とファウストの声がした! アンの方を見ると頷いた、どうやらこの先みたいだ! 急かされるみたいに歩みを進めると徐々にファウストの声が大きくなって、やがて小さな滝がある少し拓けた崖地に出た。
「ワンワン、ワンワンワン!!」
ファウストの声が一際大きく聞こえる! とアンが「あちらです!」と駆け出した! 急いで付いて行くと滝壺の近くの大きな岩の陰から足が──見えた! そこからファウストが絶え間なく吠えている! 駆け付けると、岩の後ろに気を失っている男を見つけた──セリノか?! 口元に手を翳すと呼吸している──が、左脚があらぬ方向に曲がっている。どうやら3メルト上の崖から転落したのだろう。
「おい! しっかりしろ!」
軽く頬を叩くと、男は身じろぎながら薄ら目を開けた。
「──うぅぅぅ、だ、誰だ……」
「しっかりしろ! あんたがセリノで間違い無いか?!」
「……そ、そうだ…………! ………い、いかん……早く………ここから……は、離れろ……!」
「? おい、しっかりしろ!」
何だ? 怪我と落下の衝撃で朦朧としているのか? そんな風に考えながら腰のポーチから回復薬を取り出し、それをセリノに飲ませようとすると、不意にファウストが「グルルルルゥ」と低い唸り声を上げた──何だ?
『マスター、魔物と思しき反応が急速接近中です。この移動速度だと、あと2分で接触します』
「?!」
コーゼストが警告を発する! この森に出没している魔物か?!
やがて大きな蹄の音と共に、崖の上に黒い塊がぬっと姿を現した。大体、体高2メルトは有ろうかと言う全身剛毛に覆われた猪の魔物──牙猪だ! その片目には矢が刺さり激昴しているみたいに見える──手負いか?
『あの牙猪は極度の興奮状態にあります』
そんな事は言われないでも判っている!!
コーゼストの冷静な状況分析に、軽く突っ込みを入れて俺は剣をゆっくり抜いた。
牙猪の長い牙が、陽の光にぬらりと輝いて見えた───── 。
旅の楽しみは矢張り、見知らぬ土地での地元民との触れ合いと美味しい料理!
でも今回はトラブルに迎えられてしまいました……やっぱりウィルは巻き込まれ体質(笑)
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