ゴーレムのススメ
大変お待たせ致しました! 本日は第282話を投稿します!
-282-
「旦那様、魔法士ギルドのクワイト・ギオマール様とラファエル・アディソン様がお見えです」
新しく入った侍女が朝っぱらからクワイトギルマスとラファエルの来訪を俺に告げる。彼女の名前は、えーっと……確かハンナだっけか?
因みに今日は俺達分隊『混沌』が、迷宮「魔王の庭」の第十一階層から一時帰還してから4日目になる。
それにしてもこんな朝早くから一体何の用なんだ? 俺はそんな事を考えながら、彼等が通された応接室に向かう。お供はアンとマーユ、そして言わずもがなのコーゼストである。
「これはウィル殿、お邪魔致しております」
「ウィル、邪魔しているであるよ」
応接室に入ると中で待っていた2人が席を立ち、俺に向けて頭を下げて挨拶をしてくる。
「ああ、そんな肩苦しい挨拶はいいから」
そんな2人に手を向けて着席を促しながら、俺も上座の1人掛けのソファに腰を下ろす。
「それで? こんな朝早くから訪ねてきた用件を聞かせて貰おうか?」
挨拶もそこそこに早速用件を尋ねる俺。あまり回りくどいのは苦手だからな。
「そうですな……それでは私から話させていただきます」
俺の言葉にそう返して話し始めるクワイト氏。
「実は先日お話したコーゼスト殿に我が魔法士ギルドの顧問に就任してもらう件についてなのですが……」
「ああ……そういやそんな事言っていたなぁ」
クワイト氏の言葉にひとつ頷く俺。
「どうでしょうか、ウィル殿? ひとつ前向きに検討して貰えませんか?」
クワイト氏は真剣な面持ちで頭を下げるのであった。
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「うーん、そうだなぁ……」
クワイト氏の言葉に唸り声で答える俺。
「俺としては冒険者稼業に差し支えなければ反対する理由は無いんだが……コーゼスト、お前自身はどう思っているんだ?」
俺は胸の前で腕を組みながらコーゼストに話を振る。すると彼女は
「私としても今の冒険者活動に支障が無ければ、特にどうのこうの言うつもりはありません」
とこれまた俺の意見に同意を示す。
「それは勿論、ウィル殿もコーゼスト殿も冒険者がメインなのは承知しております。なので飽くまでもコーゼスト殿の立ち位置は、我が魔法士ギルドの『名誉顧問』と言う立場に就いていただきたく思っておりますのでご安心ください」
俺とコーゼストの話を聞いていたクワイト氏からはそんな話が。聞けばこの『名誉顧問』と言うのは、今回コーゼストの為に特別に考え出された要職なのだそうだ。まぁぶっちゃけた話、今回みたいに古代魔族や古代魔導文明なんかの遺失級魔道具が発見されたら、また魔法士ギルドに彼女の知恵と情報を提供してくれ、と言う事らしい。
「如何かな、ウィル殿? コーゼスト殿?」
そう言うとこちらを探る様な視線を向けてくるクワイト氏。まぁそう言う事なら特に問題は無い……のか?
「私もそう言う事なら否やはありません」
俺の思考を読んだコーゼストから了承の意思が示される。
それを受け俺は、自分に出来る最高の笑顔でクワイト氏に頷き返すのであった。
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「次は私の番であるな」
俺とコーゼストとクワイト氏の話が一段落したところで、徐ろにそう話し掛けてくるのはラファエル。お前が俺やコーゼストに用事がある時は、大体決まって面倒事の気がするのは俺の気の所為か?
「……何か失礼な事を考えているように見えるが?」
「それこそ気の所為だな」
単眼鏡越しに俺にジト目を向けて来るラファエルに、内心はその勘の良さに吃驚しつつ、華麗に無視する俺。ラファエルは少しの間だけ俺をジト目で見ていたが、気を取り直して
「……さて、私の話とは他でもない、コーゼスト殿に教えて欲しい事があるのだよ」
とコーゼストに話を振る。
「私にですか? 答えられる事なら教えるのは吝かではありませんが……」
一方話を振られたコーゼストはそう言ってラファエルを牽制する。知らず知らずのうちに俺も自然と身構えていたりする。
「2人ともそんなに警戒しなくても大丈夫であるよ」
そんな俺とコーゼストの様子に苦笑を浮かべながら、顔の横で掌をヒラヒラと振るラファエル。
「……それで? コーゼストに教えて欲しい事って何なんだ?」
ラファエルの物言いに少し警戒を緩めながら訊ねる俺。するとラファエルは
「うむ! 実はコーゼスト殿にゴーレム作成についてご教授願おうかと思ってな!」
モノクルを掛け直しながら、満面の笑みを浮かべてそう声高らかに宣う。
なんのかんの言って結局面倒事には違いないことに、俺はそっと溜め息を吐くのだった。
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「それは──デュークみたいな生きた鉱物製では無く、純粋な魔法工学としてのゴーレムと言う事で宜しいのでしょうか?」
そんなラファエルに確認を入れるコーゼスト。それはまあそうだろう、何せ生きた鉱物製となるとそれはもう完全な魔物だからな。
「それは勿論、魔法工学で作り出される方のゴーレムであるよ」
対するラファエルはそう言って首肯する事で彼女の台詞に同意を示す。
「ふむ……そう言う事ならば私に否やはありませんね。それでゴーレムの何を聞きたいのですか?」
「うむ! ゴーレムの身体構造は古代魔導文明製のを解析したので理解しているので、その心臓部である動力源と制御系について教えて欲しいのであるよ!」
彼女の言葉に鼻息を荒くしてそう答えるラファエル。正直言って少し、いやかなり怖いんだが?
「そ、そうすると、ゴーレムに使われている魔皇炉と制御核について教えて欲しいと言う事ですね?」
それに対して若干引き気味に言葉を返すコーゼスト──然もありなん。
だがしかし、幾ら東方大陸の『黄昏の城』で回収した古代魔導文明製のゴーレムを土産代わりに見せていたとは言え、その構造を全て解析・理解する事が出来たラファエルはやはり非凡な才能の持ち主なんだろうな。
当の本人には決してそんな事は言えないが! 言ったら言ったでコイツは調子づくに決まっているからなぁ。
コーゼストと小難しい話を始めたラファエルを見ながら、俺は今度はでかい溜め息をひとつ吐くのであった。
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「──以上の魔法術式を基礎に、ゴーレムの魔皇炉と制御核は出来ています。魔皇炉の術式は大気中の魔素を魔力に変換すると言う役目があり、また制御核に使われている術式は『基礎制御術式』と呼ばれ、この術式無しにゴーレムや自動人形は行動する事すらままなりません」
そう話を締めるコーゼスト。いつの間にかラファエルだけでなく、クワイト氏も彼女の話す内容に真剣に耳を傾けていたりする。
「ほほう、成程! その様な魔法術式があるのかね! 実に勉強になった!」
「ふむ……ところでコーゼスト殿、魔法工学で生み出したゴーレムによりヒトらしい動作をさせるにはどうすれば良いのかね?」
コーゼストの話を手放しで賞賛するラファエルと、飽くまで冷静に技術的な質問を重ねるクワイト氏。実に対照的である。
「それは基礎制御術式を根幹にそれぞれ違う知識術式を複数組み合わせる事で、ゴーレムや自動人形はよりヒトらしく振る舞える様になるのです」
クワイト氏の質問にもしっかりと答えるコーゼスト。するとそれを聞いたラファエルから更なる質問が浴びせかけられる。
「何とその様な術式があるのかね?! すると我々が創り出すゴーレムと魔物としてのゴーレムとの明確な線引きは、その「知識」の有無と言う事になるのかね?」
「そうですね。その認識で間違い無いかと」
口角泡を飛ばす勢いのラファエルを、そう言って軽くいなすコーゼスト。その辺はやはりそれなりに彼との付き合いの長さが如実に現れていたりする。
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「私から逆に質問させて頂きたいのですが……宜しいでしょうか?」
ひと通り話を終えた頃、徐ろにそうラファエルに声を掛けたのはコーゼスト。
「うん? 何かね、コーゼスト殿?」
「はい、質問と言うよりは確認なのですが……ラファエル殿が作りたいのは自動人形では無くゴーレムで良いんですよね?」
コーゼストの問い掛けに「その通りであるな」と大きく頷くラファエル。コーゼストは言葉を続ける。
「今話した通り、基本的な構造はゴーレムも自動人形もあまり変わりありません。何故自動人形では無くゴーレムを作ろうと思ったのでしょうか?」
コーゼストの質問にラファエルは「ふむ」と、自身の頤に手を当てながら
「そうであるな……敢えて言うなら「順序立てて」と言うべきか……ゴーレムで己の技術を良く磨いてから、その次に自動人形を作製した方がより良い性能の自動人形を作れると思ったのだよ」
とコーゼストに訥々と打ち明ける。それを聞いて俺は
(ああ、コイツも意外とちゃんと考えて行動しているんだな)
と変な感心をする。まぁ寧ろ今までコイツは直情径行だと思っていたので尚更である。
「成程……ラファエル殿がその様に考えているのなら、私から兎や角言う事はありませんね。失礼しました」
俺がそんな事を考えていると、コーゼストからラファエルにそうした言葉が掛けられる。どうやら彼女も俺と同じ事を考えていたみたいである。
それこそ然もありなん、だな!
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「そう言う事ならば、私からひとつ提案があります」
そこでまたもやコーゼストからの発言である。どうやらまだ話は終わっていなかったらしい。
「ほう? それはどんな提案かね?」
コーゼストの物言いにそう尋ねるラファエル。その顔は彼女が次にどんな提案をするか、興味津々の顔付きだ。
「はい。マスターウィルからラファエル殿に貸し出されている『黄昏の城』のゴーレムの魔皇炉と制御核に書き込まれている魔法術式を読み取りして複製する事を先ずはお勧めします。そうすればラファエル殿達も実物から魔法術式を学べますし、何より確実です」
「おお!確かにそれは妙案であるな!」
「成程! そうすれば一石二鳥ですな!」
コーゼストの話を聞いてラファエルとクワイト氏が揃って膝を打つ。そういやラファエルにはまだゴーレムや幾つかの魔道具を貸しっ放しだったっけな。アレから今日まで色々とあり過ぎて、しっかり忘れていたわ。
しかしアレだな、今の話の流れからすると魔道具は兎も角、ゴーレムは今しばらく貸し出し継続になるんだろうなぁ。
「ウィル! 貴様のゴーレムを今しばらく、我々に貸して欲しいのだが?!」
「ウィル殿! 私からも是非にお願い致します!」
ほらな! やっぱりこうなった! やれやれ、仕方ないなぁ…… 。
「ま、まぁ、そう言う事なら……」
俺はラファエルとクワイト氏の2人からの熱心な頼みに、そう言って苦く笑うしかなかったのである。
フタリトモ、メガチョットコワイデス…… 。
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そんなこんなで慌ただしく来訪したかと思えば、これまた慌ただしくラファエルとクワイト氏は帰って行った。因みにコーゼストの『名誉顧問』の件は、王都の魔法士ギルド本部にクワイト氏が話を通してから、と言う事になった。
「はァ……朝っぱらから慌ただしかったなぁ……」
2人が帰った後、思わずそんな台詞が俺の口をついて出てくる。それを聞いて「あははは……」と、ただ苦笑いを浮かべるのはアンさん。
「そう? 私はにぎやかで楽しかったよ! ゴーレムのお話はむずかしくて分からなかったけど!」
一方で愛娘のマーユはそんな感想を口にする。アレを賑やかと言い切ってしまうマーユは、将来大物になるやも知れん。
「何をまた親バカなことを……」
コーゼストから絶賛突っ込みを受けるが、親が愛娘の将来に期待して何が悪い?
「そう言うお前はどうなんだよ? 『名誉顧問』なんだろ?」
意趣返しのつもりで少し嫌味ったらしく彼女に言う俺。
「まぁ私の能力ならば妥当な立場でしょうね」
だがそんな嫌味も何処吹く風、飽くまで鷹揚なコーゼスト。本当に変な所はヒトっぽいよな…… 。
そしてそれから数ヶ月後、ラファエルはコーゼストの教えに則り、魔法士ギルドの助けも得て見事1体のゴーレムを作り上げてみせたのであった。勿論それに伴い、俺は貸し出していたゴーレムや魔道具類は返してもらったのは言うまでもない。
ラファエル、やればできる子と証明した瞬間であった。
後はあの偏屈さが無ければ問題ないんだけどなぁ……やれやれだぜ。
ここまでお読みいただき有難うございました!
次回は2週間後になります!
それではお楽しみに!!
 




