第十階層突破、欲に忠実なモノ達
大変お待たせ致しました! 本日は第274話を投稿します!
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「ヴモォォォォォーーーッ!」
巨大な斧刃の両手戦斧を振りかざし、俺達に襲い掛かって来るのは牛頭人の3体! そのうち1体が俺に迫る!
「──金剛力!」
それに対して金剛力を使い、身体の皮膚を硬化させて同時に筋力を倍加させた俺は、『天照』と『神威』の2本の刀を頭上で交差させて、そのグレートアックスの一撃を受け切る!
一見するとグレートアックスの様な超重質量武器を、か細いカタナで受け止めるのは自殺行為のようにも見えるが、『天照』も『神威』も既知世界最高硬度を誇る神鉄製であり、結果は察して余りある。
瞬間、硬い金属同士が激突する甲高い音と共に飛び散る火花が、仄暗い迷宮の通路を明るく照らし出す! 金剛力により倍加された筋力は、ミノタウロスの重い一撃を受け止めたのみならず、逆に押し返そうとさえしている!
「グモッ?!」
その状況に短く驚きの声を上げるミノタウロス! だがこれで終わりでは無い!
「断兇!」
掛け声一閃、ミノタウロスのグレートアックスの斧刃を左手に持つ『神威』で両断し斬り飛ばす俺! そして!
「──貫甲!」
右手に持つ『天照』でミノタウロスの厚い胸板を貫き、その心臓を串刺しにする!
「ッ!? グモォォォォォ──」
断末魔の叫びを上げながら、その巨体を光の粒子へと変えて消えて行くミノタウロス!
1体を仕留めて油断無く周りに視線をやると、残り2体のミノタウロスはファウストを始めとする頼れる従魔達がそれぞれに仕留めているところであった。
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「お見事です」
そう短い賛辞を伝えて来るのはコーゼスト。ミノタウロス達が遺した魔核は、ニュクスが回収してくれるとの事なので任せていたりする。
「ふぅ、やれやれ、何とかなったな……」
思わず短い溜め息と共に独り言ちる俺。
「こうして見ていると、マスターもなかなか力の使い方に慣れてきたみたいですね」
「……そりゃまあ、な。何せ「実戦に勝る経験は無し」だからな」
コーゼストの言葉に苦く笑って答える。実際の所、自身の共生化による能力向上を確認してから既に数度、遭遇した魔物との戦闘に積極的に参加しているのだ。それこそ金剛力を始めとする身体強化系統から、炎・風・大地の三属性の攻撃魔法までと、文字通り手を替え品を替え、である。
最初の頃は慣れない能力に振り回されている感じがしたが、回を重ねる毎に慣れて来て、今ではご覧の通り普通に使いこなせる様にまでになっていた。やはりこうしたのは実戦で慣れるのが一番である。
「くふっ、魔核を集めて来ましたわ、主様」
そんな他愛もない会話をコーゼストとしていると、魔核を集め終わったニュクスが俺の元に歩み寄って来て、脚を折ると姿勢を低く取って集めてきた魔核を俺の目の前に差し出す。
「ああ、ニュクスも有難うな」
そう言いながらニュクスの頭を撫でる俺。するとニュクスは
「くふふっ、主様。ニュクスは幸せ者ですわ♡」
と黒一色の目を細めて、如何にも幸せそうである。
まぁ、これだけでご褒美になるなら安いもんである。
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そんなこんなをしつつ、この「魔王の庭」第十階層に潜って20日ほど経ち、漸く下層へと向かう階段のある部屋まで到達した俺達。ここを超えればいよいよ第十一階層である。そんな俺達は何をしているかと言うと
「グオオオオーーーッ!!」
絶賛、階段の部屋に居座る大鬼族の群れ4体と戦闘中だったりする。
3体個々のオーガにはヤトとファウスト、セレネとデューク、ニュクスとコーゼストがそれぞれに組んで当たっており、残り1体の青い肌のオーガ(コーゼストの話だと亜種らしい)は俺が相手をする事になった。
俺の「挑発」に誘引され、俺に襲い掛かって来るオーガの亜種──蒼大鬼! 錆び付いた両手剣を片手で振りかざし、脇目も振らずに俺に向かって突っ込んでくる! だが!
「『旋風障壁』!」
俺は言霊を口にし、瞬時に風の障壁を展開する! 『旋風障壁』に弾かれるブルーオーガの攻撃! そして!
「皇竜砕牙・衝破!」
右手に持つ『天照』で武技皇竜砕牙・衝破をブルーオーガの厚い胸板目掛け、旋風を纏いながら一気に解き放つ!
一点に絞り込まれた衝撃波が強烈な旋風を纏いながらブルーオーガを深く穿ち、その分厚い胸板に大穴を開ける! 大穴を開けられたブルーオーガはその巨体をひとつ痙攣させると、断末魔の声を上げる間もなくその場に倒れ伏し、瞬く間に光の粒子へと変換されて消えて行く!
あとには大振りな魔核と錆びたグレートソードが遺されていたのである。
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ブルーオーガを倒した後、直ちに油断無く周りの状況を確認する。すると
「くらいなさいっ! 豪炎鉄槌!」
「うふふ、これもあげるわ♡突風投槍」
「くふ、逃しませんよ? 巨岩杭」
ヤト、セレネ、ニュクスがそれぞれに言霊を唱え、相対するオーガ目掛け、得意とする魔法を解き放つ!
豪炎で形作られた巨大な槌が、濃密な渦巻く風の投槍が、巨岩で出来た岩杭がオーガ達を襲う! 豪炎の槌に叩き潰され、旋風の投槍と巨岩の杭にその身を貫かれ、断末魔の叫びを上げる間もなく光の粒子へと還っていくオーガ達! その後にはオーガ達が装備していた大槌や棍棒と共に、これまた大振りな魔核が遺されているだけであった。
それを見届けて漸く安堵の溜め息と共に、そろそろと戦闘態勢を解きながら全員に声を掛ける俺。
「ふぅ……ファウスト、デューク、ヤト、セレネ、ニュクス、そしてコーゼスト、皆んな大丈夫か?」
「「ヴァンヴァンッ!」」
「ヴ……何ともありまセン、マスター」
「私も平気よ! 御主人様ッ!」
「勿論私も平気ですわ、御主人様♡」
「くふっ、無論妾も何ともありませんですわ、主様」
「私も特に身体に異常無しですよ、マスター。そもそも私達は平均格が80オーバー、順位Sの分隊ですから、そんな心配は無用かと思いますが?」
俺の言葉にファウスト達が各々答え、最後にコーゼストが呆れ気味にそう答えを返して来る。
お前はそう言うが、皆んな大切な仲間だからな。心配過ぎても損は無い。
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兎に角オーガとの戦闘も無事終えて
「なぁコーゼスト」
俺は『天照』を鞘に納めながら、コーゼストにそう声を掛ける。
「なんですか?」
「確か今戦ったオーガ達の平均レベルって68だっけか?」
「そうですよ? 因みにマスターが戦ったブルーオーガはレベル71ありましたね」
俺の問いに事も無げに言うコーゼスト。するとあのブルーオーガはこの第十階層の守護者だったのか? その割には呆気無かったし、何より何故かコーゼストはあのブルーオーガを仲間にしなかったが…… 。
俺が頭の片隅でそんな事を考えたら
「マスターにも以前話しましたが、魔物なら何でも良い訳ではありませんよ? ヒトの言葉は話せなくとも明確な知性があるか無いかで私は判断していますからね」
そう改めて口にするコーゼスト。言い方がかなり上から目線であるが、この際それはどうでもいい。
「それは前にも確かに聞いたけど……選り好みがかなり激しいよな、コーゼストは」
「それを言うならせめて慎重派と仰って下さらないと語弊がありますよ?」
俺が一言言うと即座に切り返して来るコーゼスト。
思えばコーゼストとのこうしたやり取りも久しぶりの様な気がしなくも無い。最近はアン達と一緒に行動して来たからかもしれないが、本当に最初の頃の単独に戻ったような気分である。まぁデュークやヤト達魔物娘’Sはその頃は居なかったが。
俺はセレネがオーガ達の魔核を回収してくれるのを見ながら、ふとそんな事を思うのだった。
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そんな事をしながらも下層への階段を使い、第十一階層へと到達した俺達。
「この階層にはどんな魔物が居るのかしらねぇ、楽しみだわぁ」
「あら奇遇ねヤト、私もそれは気になっていたのよ」
「くふふ、宜しいですか先輩方。この階層にはですね──」
「「ごめん(なさい)ニュクス、それは話さないで」」
俺の目の前ではヤト達魔物娘’Sが姦しくしており
「ヴ……マスター、ご命令を」
「「ウー、ヴァンヴァンッ!」」
その傍らではデュークやファウストがやる気に満ち満ちていたりする──何だ!?この構図は?!
「それで、ここからはどうします? 先に進みますか?」
一方で俺の傍で飽くまでも鷹揚なのはコーゼスト。
「そうだな……ここは一度地上に戻ろうかと思うんだが……」
「「「えっ?!」」」
俺の台詞にグリンと言う音が聞こえて来るかのように、勢い良く首を此方に向けて来るヤト達魔物娘’S。
「えーっ、何で地上に戻らなくちゃならないのよ?!」
抗議の声を上げるのはヤト。セレネやニュクスもウンウン頷いている。
「理由ならあるぞ」
「何よ、その理由って?!」
俺の言葉に尖った声で尋ねてくるヤト。
「ジアンナの料理や蜜桃が残り少ない。ここから先、ずっと干し肉だけで良いなら未だ潜っていても良いが──」
「御主人様! 直ぐに地上に戻りましょう!!」
俺の台詞が終わるか終わらないかのうちに、そう答えてくるヤト。セレネやニュクスもヤトに同調して盛んに頷いている。
実にチョロいな。
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ヤト達とのやり取りの後、第十一階層に仮設置した転移陣で地上へと帰還した。
ヤト達には言わなかったが久々に地上の空気を吸いたくなったのも、一時帰還の理由なのは俺だけの秘密である。
まぁ兎に角20日ぶりの屋敷では
「お父さぁん! お帰りなさいッ!」
玄関先で我が愛しの愛娘マーユの熱烈歓迎を受けていたりする。マーユの後ろには我が家の完璧家令シモンも居て
「旦那様、皆様方も、お帰りなさいませ。無事のご帰還おめでとうございます」
と帰還した俺達に声を掛けてくる。
「はははっ、ただいまマーユ。ただいまシモン」
俺を見るなり、脇目も振らず駆け寄って来て抱き着くマーユとマーユの後ろに立つシモンに、そう優しい声を掛ける。マーユは俺の感触をしっかりと確かめると
「ファウストもデュークもヤトお姉ちゃんもセレネお姉ちゃんもニュクスお姉ちゃんもコーゼストお姉ちゃんも、皆んなお帰りなさい!」
今度はファウスト達の方へそう労いの声を掛ける。
「「ワンワンワンッ!」」
「ヴ、マーユちゃん、シモンさん、ただいま戻りまシタ」
「マーユ! シモン! ただいまッ!」
「はいマーユちゃん、シモンさん、ただいま」
「くふ、マーユちゃんにシモンさん。ただ今戻りましたわ」
「ただいま戻りましたよ、マーユちゃん。シモン」
マーユとシモンの言葉にファウスト達やコーゼストが各々異口同音に答えを返す。彼等彼女等もそう返事をするのが楽しみみたいである。
これもまた安定のやり取りだな、うん。
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「そう言えばシモン、アン達は今は屋敷に居ないのか?」
そんなやり取りを交わした後、徐ろにシモンに尋ねる俺。
「はい。アン奥様とレオナ奥様のチームは昨日「魔王の庭」に出発したばかりです」
俺の問いに端的に答えるシモン。どうやら俺達とは入れ違いだったらしい。こんな事なら事前に遠方対話機で一時帰還について話しておけば良かったな…… 。俺は自分の無神経さに自戒していると
「それで旦那様にアン奥様とレオナ奥様から伝言を託かりました」
シモンがニコリと笑みを浮かべてそう告げて来た。
「伝言?」
その台詞に思わず聞き直してしまう俺。するとシモンは笑みを浮かべたまま
「はい。ただ一言「頑張って」と伝えて欲しいと」
そう言って軽く腰を折る。
「そうか……」
それだけ口にすると、いまだ抱き着いているマーユの頭を撫でる俺。彼女達は彼女達なりに俺に色々と気を使ってくれているみたいである。
「……分かった。有難うシモン」
「いえ、お役に立てて何よりです」
俺の言葉に笑みを浮かべたまま再び腰を折るシモン。流石は我が家の完璧家令である。
「──よし、それじゃあひと休みしたらまた買い出しに行くぞ! ジアンナにもまた腕を奮ってもらわにゃならんしな!」
自分の頬を両手でパンッと叩くと、ヤト達に向かいそう言葉を掛ける俺。俺の台詞に色めき立つヤトやセレネやニュクス。早速どの店で何を買うか、3体で話し合いを始めた。
そう言う所は普通のヒトの女性と大差ないな、君達は!
ここまでお読みいただき有難うございました!
次回は2週間後になります!
それではお楽しみに!!




