旅は道連れ、世は……講義!
本日、第二十七話を投稿します!
いよいよ「魔王の庭」を飛び出し旅に出ました……が、相変わらずのメンバーの相変わらずな旅路です(汗)
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──ゴトゴトゴト
街道を二頭立ての馬車が進んで行く。暖かい木漏れ日の中、ついつい気が緩みそうになるが辺りに視線を巡らせて停められる場所を探す────
──うん、あそこなら大丈夫そうだな。
疎林を抜けると街道の脇に少し拓けた場所があった。俺は馬車をそこに入れて停車させると御者台から客室に声を掛けた。
「そろそろ朝食にしようか──」
そう言うと俺はコーチマンシートから降りて凝り固まった身体を解しながら大きく伸びをし、馬達を長柄から外して草場まで連れて行き休ませる。客車からアンに続いてノーリーンが降りて身体を伸ばすと早速食事の準備に取り掛かる。最後にラファエルが降りて来て腰を伸ばしながら大袈裟に叩いている。
「うむむむぅ、やはり体は動かすべきであるかな」
「旦那様は研究以外は怠惰ですからね」
「うぐっ……」
今日も朝から2人のやり取りは絶好調である。助けてやるか………… 。
「ラファエル、地図を出してくれないか? 今の位置を確認したい」
「う、うむ。今出すのであるよ」
ラファエルはそそくさと鞄から地図を出し俺に手渡す。俺は水晶地図板を確認し表示された道程と旅程から距離を割り出し、ラファエルが出した地図と見比べる。えっと、すると今は……地図を指で伝うと………… 。
「大体この辺りだな……」
ラーナルー市を発って都合3日目、約190キルト西に来た感じである。
「ふむ……すると今夜はこの先……レヴ村に泊まる事になるのかね?」
ラファエルが俺の指の先に有る表記を指し示した。そこには「レヴ村」と書き記されており大体50キルト程の行程だ。上手く進めれば日暮れ前には到着しそうである。昨夜は距離を稼ぐ為に夜駆けしたが、思いの外稼げたみたいである。
「食事の準備が出来ますよ」
アンが呼びに来た。続きは食事を摂りながらするとしよう。
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麻の敷物の上にテーブル代わりの箱型のバスケットが置かれ、ノーリーンとアンが手早く木皿に客車に備え付けの魔導焜炉で炙った干し肉と燕麦粥を配膳していく。同じく備え付けの木樽からワインを木杯に注いで準備完了である。
「それでは食べようか。『良い食事を』」
俺達はラファエルの掛け声で食べ始めた。しかしラファエルの掛け声は確か………… 。
「夜駆けの御者役お疲れ様でした。食事の後は私が替わりますね」
そんな事を考えていたらアンが話し掛けて来た。因みに敷物の座り順は俺とラファエルが向かい同士でアンは俺の左側に、ノーリーンはラファエルの右側に座って食事をしている。
馬車の中でも食事を摂る事は出来るのだがノーリーンが「天気が良い時は出来るだけ外で食事を致しましょう」と押し通したのだ。まァ俺達は外だろうと中だろうと構わないんだが── 。
「この後はウィルが中なら、コーゼスト殿に古代魔族と古代魔導文明の話を是非聞かせて貰いたいものであるな」
ラファエルが燕麦粥を掻きこみながら、そんな事を宣う。お前は俺を寝かせない気か? 俺は黙って岩塩が効いた干し肉を齧りながら聞き流していた。
そう言えばついこの前取り交わした約定だが、今回の護衛依頼の報酬に化けた。何か良い様に使われている気がしないでも無いが、迷宮探索の成果の如何で追加の報酬を出すそうなのと、俺達には少なくとも損が少なそうなので了解した。まぁ、依頼に掛かる費用はラファエルの負担だしな。
「私も馬車の中では、ずっと自分の氏族の事を聴かれてました……」
アンがゲンナリした顔で呟く──ラファエルよ、お前は何をしつこく問い質していた?
「旦那様は欲望の赴くままで、本当に申し訳ございません………」
ノーリーンが深い溜め息を漏らす。いや、そこは止めてくださいノーリーンさん。
「何か酷い言われ様であるな……」
ラファエルがぐちぐち零すが……そもそもお前が元凶なのわかっているのか? ノーリーンに立ち向かうラファエルを眺めながら俺は頭の中で突っ込みを入れた。とりあえず今日の行程の打ち合わせだけはしないとな──── 。
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慌ただしく且つ賑やかな食事を終え、御者役をアンに替わってもらって客室の中でラファエルと向かい合わせに座った。ラファエルの隣にはノーリーンがデュークを抱きかかえて座り、ファウストは俺の足元で丸くなっている。
本当なら護衛依頼なのだからこんな護衛対象の馬車の客室に乗る事など有り得ないのだが、客車を覆う形でコーゼストが自動防衛システムの効果範囲を設定したので大丈夫だと、コーゼスト自身が言ったのが主な要因ではある。
要するに馬車ごと丸々コーゼストの護りが効いてるとの事らしい。それに依頼主の意向もあるしな──それにしても寝かせて欲しい。
「──ふむ、すると古代魔導文明から枝分かれしたのが古代魔族の文明なのかね?」
『はい。古代魔導文明は今から1000年前に滅んだと言われていますが、正確には現在より983年前に滅亡しました。古代魔族は今から1224年前に古代魔導文明から分離れた一部の人々が興した文明であると記憶されています』
「ほぅ……イディアルとアンデモン、であるか。私達はただ単に古代魔導文明と古代魔族としか言い表さないが………」
『イディアルは「理想」、アンデモンは「魔なる者」と言う意味です。勿論、古代魔導文明の言語ですが──』
「しかし、何故に古代魔導文明と古代魔族は訣別したのかね?」
『理念よりも教理の決定的な相違が起きた為である、と記憶されていますが──詳しくは私もわかりません。ただ一つ、古代魔導文明を滅ぼしたのは古代魔族です』
「──やはりそうであるか。私の研究でもその公算が高かったのだが、コーゼスト殿からの証言でほぼ確定であるな」
──さっきからラファエルとコーゼストの2人は小難しい話をしている。尤も俺もコーゼストに取り憑かれた時に、ざっくりとは聞かされていた話であるが─── 。
「……だが、何でお前が水晶地図板の事を知っていたり、地図板追跡盤なんて知っていたんだ?」
俺は、この前感じた疑問をコーゼストにぶつける。
『当然の疑問です。元々、水晶地図板は古代魔導文明が原型機を作り出したのを、古代魔族が改良して使用していましたので知っていたのです。又その際に開発されたのが追跡盤です。現在使用されている物は間違い無く古代魔族製です』
「!? なんと! 私達が古代魔導文明の遺産として使っている物が実は古代魔族が創り出した物なのであるか!?」
ラファエルが驚愕の声を上げる。俺もあまりの事実に一瞬思考が停止した。
『現在この時代で使用されている魔道具のうち、大体60パーセント──6割は古代魔族が創り出した物だと推察します。尤も元は1つの種族ですので仕様がかなり酷似している部分も多いのもまた事実。それによる事実の錯誤は仕方ないかと』
コーゼストがフォローになっていないフォローを入れるが最早手遅れである。
「うむッ! 決めたッ!」
ほらな、面倒臭い奴の琴線に触れた…… 。
「コーゼスト殿! この事実を是非私に論文として書かせて貰いたい。お願いする!」
『私は別に構いませんが──』
コーゼストの言葉には「どうしましょうか」と言う俺に対する含意を感じる、が当然の報いである。しかし、現在有る魔道具の六割が古代魔導文明ではなく古代魔族の遺産とは…………
まさに「真実とは神のみが知る」だな。
「ですが、旦那様は何方からこの話をお聞きになったと仰るつもりなのでしょうか? まさかウィル様やコーゼスト様の事をお話になられるのですか? それは名を懸けた誓いを反故にするのではありませんか?」
「うぐっ………」
至極真っ当なノーリーンの正論に返答に窮するラファエル。お前、ノーリーンには全戦全敗だな…… 。
ノーリーンにやり込められているラファエルを他所に、俺は連絡窓を開けてアンに声を掛ける。
「変わった事は無いか?」
「はい、風の精霊もこの先には異常は無いと言ってます!」
アンは手綱を握りながら上機嫌である。良く視ると彼女の周りにはフワフワした何かが纏わりついているのが見えた──恐らくそれが風の精霊なのだろう。
「お茶の時間には声を掛けてくださいね☆」
アンの台詞に思わず苦笑いをしながら返事を返しておく。ちゃんとその時には言うから── 。
馬車は一路、街道を進んでいく。どうやら今日は予定通りに人の居る村に泊まれそうである。とりあえず軽く寝ておくか。
何しろ旅は未だ始まったばかりだからな───── !
いよいよ旅立ちましたが……特に何もありません。期待された方に謝罪します!
そして馬車の中ではコーゼスト先生がラファエルに講義してましたけど、実は前回迄の話の一部ネタばらしです!
*1キルト=1キロメートル。長さの単位は100セルト→1メルト、1000メルト→1キルトと言う感じです。
*古代魔導文明……約5千年前に発生した古代文明。現在より進んだ魔法技術・科学力・文明を築いていたが983年前に突如滅亡する。
*古代魔族……1224年前に古代魔導文明から別れた一部の人々により産まれた文明。基本的に古代魔導文明の流れを受け継いでいるが独自の発展を遂げる。尚、古代魔導文明を滅ぼしたのは古代魔族。
宜しければ評価をお願いします。
 




