魔王の庭、未踏破と魔のモノ達と
大変お待たせ致しました! 本日は第272話を投稿します!
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そんなこんなをしながら何日か経ったある日、王都冒険者ギルドのオルガから
「そろそろ「魔王の庭」の第十二階層の調査をお願いしたいんだけど……どうかな?」
と懇願された。丁度うちの氏族の分隊『戦乙女』のマリオンが、Bクラスへの昇級試験を無事終えた時に、である。
「ん? あぁー、それがあったっけな……」
オルガの願いに今更ながら思い出した俺。そういやそんな事を言っていたっけな。あの後、色々とやっていたのでしっかり忘れていたのはココだけの秘密である。
「もしかしなくても……忘れていた訳じゃないよね? 旦那様?」
そんな俺をジト目で見やるオルガ。どうでもいいが俺の奥様達は妙に勘が鋭いな!? 隣では実質第一夫人のアンさんが笑っている。
「ハイ、モウシワケゴザイマセン……ワスレテマシタ」
ここは変に言い訳せずに正直に答える事にした俺。だって下手に言い訳すると「言い訳禁止!」と言われかねないのだ、我が奥様達に。俺の言葉にオルガは大きく溜め息を吐くと
「はぁ……まぁこの所色々とあったからね。仕方ないか……」
やや呆れ気味だが理解を示してくれた。そして
「では冒険者ギルドの最高統括責任者として、改めてクラン『神聖な黒騎士団』に依頼するよ。「魔王の庭」第十二階層を調査してくれたまえ」
グラマスとしてそう指示を出すのであった。
因みにマリオンの昇級試験は文句無く満点での合格であった。
うん、実に目出度い。あとでちゃんと祝ってやらねば。
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さてさて、兎にも角にもこうして「魔王の庭」の調査を正式に指示されたのだ。これは此方としても本腰を入れてやらねばなるまい。それで一旦ラーナルー市の屋敷に戻って、クランのメンバー全員と緊急の作戦会議を開く事になった訳だ。
「よし、皆んな聞いてくれ」
俺の言葉に大広間に集まった皆んなの視線が集まる。俺はひとつ咳払いをすると
「えへん、先ずは現状確認だ。アン、君達は今第十階層のどの辺りまで探索し終えたんだ?」
アンにそう端的に尋ねる。彼女がリーダーのチーム『秩序』がこのメンバーの中でも、一番迷宮の奥深くに潜っているだろうからな。
「ええっと、そうね……大体半分ぐらいかしら?」
俺の質問に自身の頤に手を当てながら考え考え答えるアン。聞けば第十階層に出現する魔物は意外と強く、アン達チーム『秩序』と言えども容易ではないみたいである。それに何より俺とコーゼストが一緒では無いことも、少なからず影響を及ぼしているみたいである。
まぁ確かにコーゼストと一緒に居れば、攻撃力や防御力、果ては移動速度にまで、能力強化の恩恵を受ける事が出来るからな。俺は常にコーゼストと一緒だから忘れていたが、コレが普通の冒険者パーティーのダンジョンの攻略速度なのだ。と言うか、改めてコーゼストの『共生化』の能力強化の恩恵は大した物なんだな──口には出さないが。
俺がそんな事を考えていると、傍らではヒトの思考を読んでドヤ顔をしているコーゼストの姿が。
だからソレはヤメレと言うに。
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大広間での話はまだ続いている。
「あーっと、そうすると一番効率が良いのは……」
「「魔王の庭」第十階層の最深の避難所までアン達チーム『秩序』と共に行き、そこから先はマスターウィルのチーム『混沌』で向かうのが最善かと。その方が全体的に見ても時間の短縮にも繋がります」
俺の言葉に被せる様にそう宣うのはコーゼスト。やっぱりそれが一番ベストな方法らしい。アン達の方を見やると特に反対意見も無さそうである。俺はひとつ頷くと
「よし、それじゃあコーゼストの案を採用しよう。アン、俺達チーム『混沌』を第十階層の最深のセーフエリアまで連れて行ってくれないか?」
チーム『秩序』のリーダーたるアンにそう依頼する。アンも大きく頷くと
「ええ、良いわよ。任せておいて♡」
快く引き受けてくれたのである。これでひとつ懸念が無くなったが──
「そういやコーゼスト。アン達チーム『秩序』のメンバーのレベルは今どのくらいなんだ?」
その時ふと頭に浮かんだ疑問を口にする俺。
「はい──先ずアンはレベル81と変わらず、レオナもレベル80と変わらず、ルアンジェはレベル81相当でやはり変わりません。一方でエアハルトがレベル77、スサナがレベル78、ルネリートがレベル78、アリストフがレベル77と、この4人はレベルアップしていますね」
俺の問い掛けに淀みなくスラスラと答えるコーゼスト。
流石「既知世界一番の魔道具」の面目躍如である。
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明けて翌日、いつもと同じ様に市場で干し肉やら燕麦粥やら黒パンやら携行食なんかの買い出しを行う俺とアン達。まぁ「魔王の庭」に潜ったら最後、踏破するまで何ヶ月も帰らない訳でもないし、一応買い出しの量は常識の範囲内で収めた……つもりである。
それに何より荷物はコーゼストの無限収納とアン達の無限収納背嚢に仕舞い込んだので、俺達自身は非常に身軽で迷宮探索が出来るのが最大の強みだな──等と思っていたら
「御主人様ァ、私ダンジョンでは干し肉より分厚い炙り肉を食べたいの!」
「あっ、ヤトったら狡い! 御主人様、私は出来れば蜜桃を食べさせて欲しいですわ♡」
「くふっ、主様。妾はジアンナの作ってくれる料理でしたら何でも宜しいですわよ?」
「…………お前ら、本当に自由だな」
一緒に市場を見て回っていたヤトやセレネやニュクスから、真逆のお強請りである。そらまあコーゼストの無限収納は出来たての料理でも入れておけるから、ヤト達のお強請りにも充分対応は出来る。出来るのだが、ソレをやったら厄介事を巻き起こす気がしなくも無い。
だがしかし、今更無限収納の事はもう秘密でも何でもなく、街のヒトのみならず他の冒険者達も知っているからな。俺はそう思い直すと、彼女達の我儘に答えるべく、上質の生肉や最近ラーナルー市でも出回る様になった蜜桃を多めに買い込むのであった。
それにだ。屋敷の料理長ジアンナにもうんと腕を振るってもらわないとな──主にヤト達のやる気の為に。
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結局買い出しの翌日はヤト達魔物娘’Sのリクエストに答える形で、「魔王の庭」に持って行く料理をジアンナに丸一日頑張って作ってもらっていた。ジアンナは「ダンジョンの中で私の料理を食べたいなんて……料理人冥利に尽きます!」とやたら張り切って作ってくれたが、ヤト達魔物娘’Sは皆んな健啖家で美食家だからな。そんな所がジアンナの琴線に触れたのかも知れない。
兎に角丸一日ジアンナに頑張ってもらい、準備も万端整ったので、今日はいよいよ「魔王の庭」に潜る事になった。朝早くからアン達のチームを伴い「魔王の庭」の入口の大門に向かう。警護に着いている領兵に声を掛けて入宮手続きをして、大門をくぐると大広間にある管理端末の水晶にアンが手を置き、第十階層から再探索する事を告げる。当然の事ながらファウスト達は顕現済である。
『──現在第十階層までの転移陣が使用可能です。使用しますか?』
管理端末の声に答えるアン。
「使います」
『使用要請受領しました──転移陣に入ってください』
案内の声に従って床に描かれた転移陣に入る俺達。
『転移陣機構起動。転移対象確認──座標確認。第十階層のポータルに送ります』
その声と同時に足元の転移陣が輝き、俺達の身体は光に包まれた。次の一瞬、目の前の光が薄れて視界が鮮明になると、俺達は「魔王の庭」第十階層の避難所へと転移していた。
さて、ここからはいよいよ俺達チーム『混沌』の出番である。
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「よし……ここから先は俺達が先行する。アン、君達は今まで通りの歩調で進んでくれ」
そう言ってアン達チームと別れる旨を口にする俺。
「ええ、分かったわ。貴方も気を付けてね♡」
「ウィルなら問題ないだろうけど……それでも気を付けて♡」
「ああ、君らもな」
アンとレオナの2人とお互いの健闘を祈って軽く接吻を交わす。スサナやルネリートが物欲しそうな顔で此方を見ているが、定員です、諦めて下さい。そんな事を思っていると
「ウィル……気を付けてね」
そう言いながら俺に抱き着いて来たのはルアンジェ。この子も自動人形の身体から魔法生命体の身体になって、益々ヒトっぽくなってきたな……等と思いつつ、抱き着くルアンジェの頭を優しく撫でてやる。
「ルアンジェもな。アン達の事を守ってやってくれよ?」
「ん、分かったわ。任せて」
頭を撫でられて満足したルアンジェが漸く俺から身体を離した。そしてそれをまた物凄く物欲しそうな顔で見ていたスサナとルネリート──頭ぐらいならいつでも撫でてやるが?
「アン! レオナも! 御主人様の事は私に任せておいてッ!」
「もうヤトったら……アンさん、レオナさん、御主人様の事はヤトだけでなく、私にもお任せくださいね♡」
「くふっ、妾も主様の事はちゃんと御守り致しますわ♡」
一方でヤトやセレネやニュクスの魔物娘’Sからは、そんな言葉が聞かれる。
お前達だけじゃなくてファウスト達も期待しているからな、いや本当に!
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兎にも角にもアン達のチーム『秩序』と別れて、第十階層の未踏破区域に足を踏み入れた俺達チーム『混沌』。アン達は転移して来たセーフエリアから先、この第十階層の詳細な地図を作成しながらゆっくり慎重に進むことになっている。
「良し……コーゼスト、お前の出番だ。第十一階層への最短経路を頼む」
そうコーゼストに指示を出す俺。ここからは完全にコーゼストの独壇場だ。俺の指示を受け頭上に複雑な文様の魔法陣を複数展開させると
「お任せ下さい──使用可能の感覚端末を全起動。生命感知センサー、魔力波センサー積極化。熱感知センサー覚醒。『星を見る者』情報処理──第十階層の情報を取得しました。これより地図作成を開始。ならびに最短ルートを策定──策定完了しました。こちらです」
そう言って自ら先頭に立ち、道案内を始めるコーゼスト。その後について歩を進める俺とファウストを始めとする従魔達。因みにこの段階でこの階層の罠の類はコーゼストが全て把握しており、俺が斥候の技能を使う事無く、安心安全に移動が出来るのだ。
「「グルルルルルゥゥ」」
「マスター、進行方向200メルト先に複数の魔物の反応です。この反応は──梟熊ですね。数は5体、格は平均で63、順位はA+相当です」
それにこの様にファウストとコーゼストのコンビによる早期警戒があるから此方としては実に有難い。
俺はファウスト達に短く指示を与えながらそんな事を思っていたのである。
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「グワァーーーッ!」
雄叫びを上げながら統率者と思しき体高3メルトの梟熊が俺の前に立ちはだかる! だが!
「──行きます」
同じく体高3メルトのデュークが前に出て、そのアウルベアとガッシリ組み合う! 残りの4体のアウルベアは、それぞれファウストやヤトやセレネやニュクスと睨み合っている! その時!
「うふふっ、ほぉら熊ちゃん達。アナタ達の相手はソチラにいるわよォ♡」
セレネの「魅惑」が発動して、彼女と目を合わせていたアウルベア達が他のアウルベアと同士討ちを始めた! 忽ち混乱に陥るアウルベアの群れ! 鋭い鉤爪で引っ掻き合い、噛み付き合って手傷を負っていくアウルベア達! そこに更に追い打ちをかけるかのように
「「ウーーッ、ウヮォーン!」」
「──豪炎槍!」
「──大嵐槍!」
「──くふ、大岩槍」
ファウストの爪撃破が、ヤトの豪炎槍が、セレネの大嵐槍が、ニュクスの大岩槍が、トドメとばかりに叩き込まれる! 断末魔の叫びを上げる間もなく倒れ伏すアウルベア達! 最後に残ったリーダーのアウルベアも
「ヴ──金属槍」
組み合うデュークの身体から生み出された無数の長槍で、文字通り串刺しになって光の粒子へと還って行く。あとに残ったのは5つの大振りな魔核だけであった。
「……ヲイヲイ」
その光景に言葉を失くす俺。流石は全員レベル80超えのランクSだけの事はあるが……はっきり言ってこれは過剰攻撃過ぎる!
俺は魔物を倒してドヤ顔をしている従魔達に、思わず頭の中でそうツッコミを入れるのであった。
コレ、俺要らなくね?
ここまでお読みいただき有難うございました!
次回は2週間後になります!
それではお楽しみに!!




