よたび、とある日常 〜諸々の日々〜
大変お待たせ致しました! 本日は第270話を投稿します!
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朝から訓練場に鳴り響く木剣同士のぶつかる音と喧騒。ある者達は訓練場の周りを周回する様に走り込みをし、またある者達は置かれている甲冑を装備した木人形目掛け、離れた位置から魔法で攻撃訓練をし、またある者達は最早恒例となった5体の魔物を相手にした実戦さながらの訓練に傾注していたりする。
「皆んな、なかなか練度が上がったな」
「そうですね。皆さん、格で言えば平均で72はありますからね」
その様子に独り言ちる俺と、その独り言に律儀に答えるのはコーゼスト。
此処はラーナルー市にある「ハーヴィー騎士団」の訓練場、そこで訓練に励む騎士団員達と魔法師団員達、その数総勢112人となかなか壮観な光景である。そして彼等の相手をする5体の魔物と言うのは、ご存知双頭魔犬のファウストに剛鉄岩人形のデュークに、半人半蛇のヤトに女王蛾亜人のセレネに、女郎蜘蛛のニュクスの5体だ。
「5番隊! 相手の動きをよく見て、もっと上手く立ち回りなさいッ! まだまだ攻め手が甘いわよッ! 3番隊は訓練場の周回ラスト10周! 2番隊は──」
そんな中、団員達を叱咤激励しているのは騎士団長のエリナベル。中々の鬼団長ぶりである。だが彼女も騎士団長の仕事ぶりがすっかり板に付き、最初の時から見るとまるで別人の様に堂に入っている。
「そろそろ次の募集をかけるか……」
その様子にまたもや独り言ちる俺。
こうしてアドルフィーネの結婚式より2ヶ月経ち、俺達は漸く平穏な日常を取り戻したのであった。
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それから間もなくしてハーヴィー騎士団の第三次公募が行われ、新たに騎士団員20人と魔法師団員8人そして文官職10人を確保したのであった。
今までハーヴィー騎士団の事務処理はエリナ始め、ベルタ達元『白の一角獣』のメンバーが持ち回りで受け持っていたが、エリナ達全員騎士団の仕事に集中したいとの事で、今回の公募で集まった応募者の中から、騎士団員の公募からは溢れたが経理事務や一般事務の能力が高いヒトを文官職として再雇用したのである。
まぁ騎士団立ち上げの際、協力してくれたヒルデガルトから文官職の事は指摘されていたのだけど、正直そこまで気が回らなかったのが事実である。
「はァ、これで漸く騎士団の実務に集中出来るわ」
文官に事務の引き継ぎを終えたエリナの弁がコレである。
「そんなに大変だったのなら一言言ってくれれば良かったのに……」
エリナの言葉を聞いてそう声を漏らす俺。するとエリナは
「私も最初はそこまで事務に手間暇が掛かるなんて思ってもいなかったのよねぇ。でも実際に騎士団を運営してみると、特に経理事務が大変なのが良く分かったのよ。それに貴方も色々と大変だったから言い出し難かったのよ」
そう言って苦く笑う。それを言われたら俺としてはもう何も言えないんだが?
何れにしても前後してしまったが、これでハーヴィー騎士団も総勢155人のキチンとした騎士団として本格的に活動を開始する事と相成ったのである──やれやれ。
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因みに氏族『神聖な黒騎士団』の他のメンバーはと言うと、俺の分隊『混沌』以外は皆「魔王の庭」に潜っている。
具体的にはアン、レオナ、ルアンジェ、エアハルト、スサナ、ルネリート、アリストフの7人からなるチーム『秩序』は第九階層から第十階層を探索し、ジゼルやクロエ、ミアやフェデリカ、そしてマリオンや蒼玉岩人形のスクルドの5人と1体からなるチーム『戦乙女』は第五階層から第六階層でレベル上げに勤しんでいる状況である。
特にチーム『戦乙女』のマリオンは、近々Bクラスへの昇級試験を控えているので、チーム全体の熱の入れようは凄いものがある。まぁマリオンの場合はレベルだけで言うと充分Aクラスでもやって行けるのだが、いきなりAクラスにとかは流石に不味いので、1〜2ヶ月を目安に順次クラスアップする事になっていたりする。
更に因みに俺を始めとするクランメンバーのレベルだが、俺がレベル85、アンとルアンジェが81、レオナが80、スサナが77、ルネリートが76、アリストフが75、エアハルトが71、ジゼルが61、クロエとミアが58、フェデリカが57、マリオンが56となっており、従魔だとニュクスがレベル84で、ヤトとセレネが82、ファウストとデュークが80、スクルドが78、そしてコーゼストがレベル80相当なのだそうだ。
こうして改めて見ると、うちのクランメンバーは総じてレベルが高いんだなと思い知らされたりする。
いや本当に!
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そして俺達が暮らすラーナルー市にも大きな変化があった。
先ず俺の屋敷の両隣に居を構えるクレイアス子爵とアーロイド子爵、更にアーロイド子爵の隣に住むフェビアン子爵だが、エリンクス国王陛下からラーナルー市の代官職を解任させられたのだ。理由は至極簡単、俺が辺境伯に陞爵した際にこの3人はかなりの借金を負っていた事が分かり、俺とオルガが陛下にその事実を奏上申し上げたのだ。それを聞いた陛下は憤慨し、3人を解任したのである。解任された3人は領地を持たぬ無役の貴族となり、王都に呼び戻されたのであった。
まぁ借金の方は俺が贈った『聖晶貨』を白金貨に両替して返済したらしいが、俺としても自分の領地をそんな金にだらしない奴等に任せる気は毛頭ないからな。褫爵されなかっただけでも感謝して欲しい。
兎に角こうしてラーナルー市の代官は必然的に、ヒギンズギルマスことディオへネス・ヒギンズ子爵とうちの屋敷の又隣に居を構えるエヴァン・フォン・マイヤーズ子爵の2人に一任される事となり、またそれに伴い2人はそれぞれ伯爵位へと陞爵される事となったのである。
まぁ実の所を言うとギルマスとエヴァンを伯爵位にと陛下に推挙したのは俺なんだが……俺としてもこの2人は信用出来るし信頼しているからな、安心してラーナルー市の代官を任せられるってもんだ。
「マスターも中々に腹黒いですね」
俺の思考を読んだコーゼストから真逆の腹黒発言が?!
いや、お前にだけは言われたくないんだが?
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またそれに伴い空き家となったクレイアス子爵とアーロイド子爵とフェビアン子爵の屋敷は、その土地もろとも一旦オールディス王国に召し上げられる形となり、その後すぐに陛下から俺に下賜されたのである。
まぁ此方としてもハーヴィー騎士団の規模が大きくなって来ているので、広い土地と屋敷を与えられるのは願ったり叶ったりだ。なので陛下の許可を得て、下賜された屋敷のうちフェビアン子爵の屋敷を残して、あとはハーヴィー騎士団の訓練場へと作り替えたのである。残したフェビアン子爵の屋敷もそのまま騎士団の宿舎へとコチラも作り替えた。その序に俺の屋敷も増築する事にもなり、現在絶賛増築工事中である。
勿論訓練場の工事や宿舎への改装工事も含めて、全ての工事費用は俺が手持ちの『聖晶貨』をクザーツ商会のホルスト会頭に依頼して10枚ほど競売に出品し、その売上を公共工事として充てていたりする。
実際の所オークションにかけたら、最終売上が20億フルと凄まじい事になった事だけは言っておく。そのうち2割はホルスト会頭に手数料として受け取って貰ったが、それでも16億フルは大金である。それでも公共工事に突っ込めばあっという間に無くなってしまう金額ではあるが。
しかしこうして公共工事で大金を領地にばら撒いておかないと、領民に金が回らず経済が滞ってしまいかねないからな。
正に『金は国家の血液』と言うだけの事はある。
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それと──屋敷を増築するに当たり、侍女や従僕なんかを10人ほど新たに増員する事になり、使用人ギルドに募集を掛けたりもした。うちの完璧家令シモン曰く
「旦那様は辺境伯であらせられるのですから、今後の事も考えてそれ相応の人材を確保しておかねばなりません」
との事だった。今後の事とはズバリ! この間の誕生日晩餐会の時みたいに、国王陛下一家や世界評議会の御歴々がひょっこり訪ねて来る可能性があるからに他ならない。と言うかエリンクス陛下やジュリアスは元より、マティルダ王妃殿下やステラシェリー王女殿下なんかは、また俺の屋敷に遊びに来る気満々であるらしい、とオルガが苦笑混じりに教えてくれたのだ。
いやいや、そんな事で大丈夫なのかオールディス王国?!
「国王陛下御一家だけじゃないよ? アースティオ連邦のバーナード大統領陛下やメペメリア帝国のギヨーム皇帝陛下、ミロス公国のエルキュール大公陛下とトルテア自由都市のヤスメイン盟主陛下、そして世界樹の森精霊の長老である貴森精霊のエウトネラ議長なんかも、ウィルの屋敷にまた遊びに行きたがっているらしいからね」
そう笑顔で言い切るオルガ。それはもうとても爽やかな笑顔で。そらまぁ普段は国の重責を担っている面々なので息抜きしたくなるのも分かる、分かるのだが! 俺の屋敷を娯楽施設か何かと間違えていないか? それを聞いた俺は割とマジで叫びたくなった。
各国のお偉方は皆んなして暇なのか?
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あとは──以前に巡行で使用した竜車とそれを牽引する地竜の世話を専門にする人材も、今回冒険者ギルドで募集を掛けた。
何故冒険者ギルドで募集かと言うと、取り扱ってもらうのが馬では無く地竜と言う「魔物」だからだ。なので普通の馬丁と言う訳にも行かず、必然的に魔物調教師に白羽の矢が立ったのである。
まぁ元々魔物調教師自体、割と稀有な職業なのであまり期待はしていなかったのだが、募集を掛けて直ぐにラーナルー市冒険者ギルドに応募があったと、ギルマスから連絡が来たのだ。そこで早速ギルドで面接と相成った訳だが──
「初めましてッ!」
褐色の短髪とサファイアの様な碧眼の快活そうな好青年が、人懐っこい笑顔でそこに居たのである。
「おうウィル、良く来たな。彼がお前の募集に応じた魔物調教師の……」
「カイルです! 辺境伯閣下のお噂はかねがね聞いています! 宜しくお願いします!」
俺に青年を紹介しようと手を向けるギルマスと、元気良く自己紹介をするカイル青年。
良く聞けば彼──カイルは元々Bクラスの冒険者で、所属していた冒険者パーティーからある日突然クビを言い渡されたそうだ。理由は単に「パーティーの戦力にならないから」だそうだ。確かに魔物調教師は使役する魔物の強さによって戦力が大きく左右されるモノだが、それこそ強力な魔物をテイム出来れば大きく化けるジョブでもある。
それにも関わらず「戦力外通告」とは……随分見る目が無いパーティーも居たものだなと、俺は呆れるばかりだった。
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俺とカイル青年の話はまだ続いている。
「俺の屋敷で働いてくれるのなら嬉しい限りだが……冒険者の仕事はどうするんだ?」
「はい閣下。今回の地竜の世話係の仕事を任せてもらえるなら、冒険者は辞めようと思っています」
俺の問い掛けに真っ直ぐな目でそう言い切るカイル青年。実に真っ直ぐで良い目をしている。
「俺の事はウィルでいいよ──それで君は良いのか? 冒険者に未練とかは無いのか?」
そんなカイル青年に問いを重ねる俺。だって下手をするとヒトひとりの人生を左右しかねない話だからな。幾ら俺でも慎重にならざるを得ない。
「はい、かっ……ウィルさん。僕は冒険者に未練はありません。偶々生まれ持ったジョブが魔物調教師だったので冒険者になったんですからね」
それに何より荒事は元来苦手な性格なんです、とはカイル青年本人の弁である。ここまでハッキリ言われたら俺にはもう何も言えない。
「カイル、君の想いは良く分かった。そう言う事なら俺は君を雇わせてもらおう。是非うちの地竜の世話を頼むよ」
だから俺はそれだけ言うと笑顔で彼に右手を差し出す。
「は、はい! こちらこそ改めて宜しくお願いします、ウィルさん!」
俺が差し出した手をしっかりと握り締め、満面の笑みでそう答えるカイル青年。こうして心優しき魔物調教師が俺の屋敷で働く新たな仲間の1人となったのであった。
俺も一応魔物調教師だが贋物だし、一度本職の魔物調教師の話を聞いてみるのも良いかもしれん。
主に後学の為に!
ここまでお読みいただき有難うございました!
次回は2週間後になります!
それではお楽しみに!!




