色恋の策謀と波乱の予感と
大変お待たせ致しました! 本日は第265話を投稿します!
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マリオンの「騒動」から1ヶ月ほど経ったある日、俺はエリンクス国王陛下から呼び出され、オールディス王国王都ノルベール、そこに在る王城ブリシト城に来ていた。
因みに今日一緒に来ているメンバーはと言うとアン、エリナ、ルピィ、レオナ、オルガ、リーゼの奥様’Sとマーユとコーゼスト、そして何故かヤト、セレネ、ニュクスの魔物娘’Sである。
アンやエリナなんかは分かるし、マーユは言わずもがななのだが、なにゆえヤト達なのか? まぁエリンクス国王陛下からは、「かならずヤト達を連れて来る様に」と遠方対話機で厳命されてしまったので、仕方ないと言えば仕方ないが……
「それにしても一体何の用なんだ?」
思わず口をついて出てしまうそんな思い。
「さぁ? ウィルだけじゃなくて私達にも同席する様になんて、何かあったのかしら?」
アンがそう言葉を発し、他の奥様’Sも首を縦に振って同調を示す。
「ウィルは何か陛下から聞いていないの?」
「いや、特には何も聞かされていないが……」
続くエリナからの質問に今度は俺が首を横に振る番である。だって本当に何も聞いてないんだから仕方ない。
「まぁ、国王陛下にお会いすれば分かるでしょうし、第一に関係ないヒトを陛下がお呼びになる事は無いかと思いますよ?」
ブリシト城の長い廊下を歩きながらそう宣うのはコーゼスト先生。まぁ確かに呼び出した本人に聞くのが一番早いか…… 。
まぁ兎にも角にも国王陛下に拝謁してからだな!
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いつもの如く侍従長に案内されて謁見の間へとやって来た。
「待たせたな」
その言葉と共にエリンクス国王陛下とマティルダ王妃殿下、そしてジュリアス王太子殿下とステラシェリー王女殿下の国王陛下一家と、マウリシオ宰相が謁見の間に姿を現す。即座に床に右膝を着けて傅き臣下の礼を執る俺とオルガとレオナ。アン以下の他のメンバーはお辞儀を執り、ヤト達も深く腰を折って挨拶をする。
「エリンクス国王陛下、仰せによりウィルフレド・フォン・ハーヴィー並びにオルガ、リーゼロッテ、アンヘリカ、エリナベル、ルピタ、レオナ、マーユ、コーゼスト、ヤト、セレネ、ニュクス、罷り越しました」
皆んなを代表して俺が挨拶の口上を述べる。玉座に座ったエリンクス陛下はひとつ鷹揚に頷くと「大義である」と一言。そして少し格好を崩して
「さて、堅苦しい挨拶はここまでにしようでは無いか。ウィルもその方が楽であろう?」
いきなり明朗な物言いになるエリンクス陛下。その後ろでは控えているマウリシオ宰相が額に手を当て、首を左右に振るのが見える──何か済まん。
「それじゃあ……エリンクス陛下、マティルダ王妃殿下、ジュリアス殿下、ステラシェリー殿下、マウリシオ宰相、久しぶりです」
エリンクス陛下からそう言われたので俺も明朗な言い方に切り替える。それに満足そうに頷くエリンクス陛下とその一家。
さてと……聞きたい事は多々あるが、先ずは俺達を呼んだ理由から聞かせていただくとするか、うん!
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「それで? 今回俺だけじゃなくてアン達も呼んだ理由を聞かせてもらいたいんですが?」
ズバリそう単刀直入にエリンクス陛下に尋ねる俺。因みにマーユはマティルダ王妃とステラシェリー王女が面倒を見てくれていたりする。
「うむ、実はヴィルジール卿──アドルフィーネ嬢に関する事なのだが……」
俺の問い掛けにそう言って言葉を濁すエリンクス陛下と、アドルの名を聞いて何とも言えない顔をするアン達。俺も真逆ここでアドルの名が出るとは思わなかった。
「アドルが? どうかしたんですか?」
とりあえず当たり障りのない話し方で尋ねる俺。するとエリンクス陛下は
「うむ……より正確に言うとヴィルジール伯爵領での面倒事なのだ」
「詳しく聞かせて下さい」
「うむ、実はな──」
先を促して聞いた話によると──アドルが治めている領地の名代として任されている子爵が、アドルに隠れて悪事を働いているらしいのだ。より正確に言うと公金の横領や領民に対する租税の不当な引き上げ等であるらしい。その事を知ったアドルは王都の査察官と共に近々領地に赴き、それ等の悪事が事実なのか自分の目で確かめてくるのだそうだ。
「──そこでアドルフィーネ嬢と少なからぬ縁があるウィル達に、アドルフィーネ嬢とその査察官の護衛を頼みたいのだ。どうだろう、この話受けてはもらえまいか?」
そう懇請して来るエリンクス陛下。さて、陛下の頼みとあらば聞き入れるのは吝かでは無いが……何か裏がありそうな話だな。
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ひと通りの話を聞いて訝しむ俺の様子を見て
「……とまぁ、表向きの理由はそう言う事なのだがな」
ニヤリと口角を上げ、笑みを浮かべるエリンクス陛下。何となく悪戯っ子が自身の悪戯を成功させたみたいな顔である。
「実はな、今回アドルフィーネ嬢に同行する査察官なのだが──アドルフィーネ嬢の伴侶として私が選んだ男性なのだよ」
『『『『ええっ?! は、伴侶ッ?!』』』』
そして続けて陛下の口から紡がれた言葉に、驚きの声を上げる俺達。奥の方ではマーユが俺達の大声に吃驚している。
「うむ、アドルフィーネ嬢があの様な性癖の持ち主なのは周知の事実だが、いい加減にそろそろ身を固めなくては伯爵家の存続問題もあるし、何よりもウィルよ、お前自身が落ち着くまい? そこで今回の機に乗じて伴侶となる男性を宛がってしまおうと、まぁそう言う訳なのだ。勿論アドルフィーネ嬢には内緒であるがな!」
そこまで言うと「どうだ」と言わんばかりのしたり顔のエリンクス陛下。その隣ではジュリアスが苦笑を浮かべていたりする。
「すると、今回俺達を呼んだのは……」
「うむ! ウィル達にも協力して貰おうと思ってな!」
陛下の台詞に俺は思わず床に突っ伏す所だった! 陛下の気持ちは分かるし俺としては嬉しい! 嬉しいのだが! 頼むから俺達まで巻き込むのはやめて欲しい! いや、割と本気で!!
俺は満面のドヤ顔でいるエリンクス陛下にそうツッコミを入れたくなったのであった。
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「はァ……まぁ、それで陛下。アドルと添い遂げてくれると言う奇特な男性って何処の誰なんですか?」
あまりの急展開に暫く声も出なかったが、何とか再起動してそれだけを言葉にする俺。だって言っちゃ悪いが、あの重度の兄恋慕のアドルと結婚してくれるだなんて、奇特以外何物でもないからな。
「うむ、ジョミエル・フォン・オルコットと言って、オルコット伯爵家の三男で爵位は子爵だな。歳は今年で22歳と聞いている。れっきとした査察部の所属で、この歳で査察部統括官の任に就いている中々の切れ者だ」
俺の質問に自慢げに答えるエリンクス陛下。何故にそんなに陛下が自慢げなんだ?
「それで……当の本人であるそのオルコット卿はアドルとの事を何て言っているんだ?」
陛下の答えに更に突っ込んだ聞き方をする俺。もう話し方が完全に素であるのは勘弁して欲しい。
「うむ、実はオルコット卿に話を持っていったら本人も大いに乗り気でな。何でも以前仕事の関係で一度アドルフィーネ嬢と会っていてな、その時に好意を持ったらしいのだ。所謂一目惚れと言う奴だな。まぁ今回はアドルフィーネ嬢のヴィルジール家に婿入りする事になるのだが、全くと言っていいほど気にしていないな」
俺の更なる問い掛けにそう明確に答えを返すエリンクス陛下。まぁ本人が良いと言っているんだから、問題は無い……のか? しかし本当に奇特な男性も居たもんだ。
俺は何となくアドルのあの見た目に皆んな騙されている気がしないでも無いのだが?
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「それでな、ウィルよ」
俺が失礼な事を考えているとエリンクス陛下からそんな声掛けがされる。どうやらまだ話の途中だったらしい。
「陛下、何が「それで」なんだ?」
そんな事はおくびにも出さずに陛下に端的に尋ねる俺。
「うむ、実はな、今日このブリシト城に当のオルコット卿にも来て貰っているのだよ。勿論ウィル達に会わせる為にな」
「いや、結局呼んでるのかーーーいッ!」
俺の問い掛けにまたニヤリと口角を上げて爆裂魔法級の衝撃発言をかます陛下と、それに素でツッコミを入れる俺。
俺の再びの大声に再びマーユが吃驚して此方を見ているし、マティルダ王妃やステラシェリー王女も此方に顔を向けているが、それに構っている場合ではない。
「それでこの場に卿を呼びたいのだが構わないだろうか?」
「はぁ……それはまぁ構わないが……」
俺の大声にも動じる事無く話を進める陛下と、色々と諦めて投げやりな言葉になる俺。ハッキリ言って思考放棄である。それにまぁ実の所、俺もアドルを選んでくれた奇特な男性に会ってみたいしな。
「そうかそうか! それでは早速! オルコット卿、入ってきたまえ!」
俺の返事を聞くなり、陛下はそう声を上げて手を叩く。それと同時に隣りの控え室の扉が開けられ、1人の男性が少し緊張した面持ちで謁見の間に入って来る。
「し、失礼します」
胸まである金髪を垂髪にした眉目秀麗な若者──どうやら彼が件のオルコット卿らしい。
と言うか隣に居たんかい!?
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「改めて紹介しよう。彼が話にあったオルコット子爵だ。オルコット卿、彼がハーヴィー辺境伯だ」
「は、ハーヴィー辺境伯閣下におかれましては御機嫌麗しく! わ、私が陛下のご紹介を賜りましたジョミエル・フォン・オルコットです!」
エリンクス陛下の紹介を受け緊張の為か、ぎこち無く臣下の礼を執るオルコット卿。そんなに緊張せんでも取って食ったりせんぞ?
「御丁寧な挨拶痛み入る。俺がウィルフレド・フォン・ハーヴィーだ」
そう言って出来るだけの笑顔でオルコット卿に会釈する俺──顔、怖くないよな?
「は、はい! こ、此方こそ宜しく御願い致します!」
俺の会釈に更に深く臣下の礼を執るオルコット卿。うーん、このままでは堂々巡りになり兼ねないな…… 。
「あーっと、オルコット卿? 堅苦しい挨拶はここまでにしようじゃないか。辺境伯なんて地位に就いてはいるが、俺自身冒険者が本分でね。もっと気軽に接して貰えると有難いんだが……」
「は、はいッ! そ、それでは御言葉に甘えまして……」
俺の言葉を受けて漸く臣下の礼を解き、そろそろと立ち上がるオルコット卿。やれやれ、これで漸く普通に話しをする事が出来るな…… 。俺はそんな事を思いつつ、アン達奥様’Sやヤト達魔物娘’Sに手を向けて、改めてオルコット卿に紹介する。
オルコット卿がアン達6人の奥様達に吃驚し、ヤト達3匹に目を白黒させる様を見るにつけ、俺はこれが普通のヒトの反応なんだなと改めて思ったりしていた。
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「オルコット卿、少しは落ち着いたか?」
「は、はい、取り乱して申し訳も御座いません……」
とりあえずマーユやコーゼストも紹介し終えた所で、オルコット卿にそう声を掛けて落ち着かせる。あまりの急展開にワタワタしていたオルコット卿だが、何とか落ち着きを取り戻したいみたいである。
「それでオルコット卿、早速で申し訳ないんだが……アドルの件なんだが、君の本心を聞かせてくれないか?」
俺の問い掛けにそれまでの様子から一転、文字通り襟を正して真剣な表情を見せるオルコット卿。
「はい、辺境伯閣下はアドルフィーネ媛の異母兄妹だとお聞きしました。何卒私のヴィルジール伯爵家への婿入りを認めていただきたく」
それまで見せていた気弱な感じからは想像もつかない、実に漢気溢れる良い表情で俺に向かって頭を下げるオルコット卿──これはかなり本気だな。
『マスターは御自身に対する色恋の機微には疎いのに、他者の事になると良くお分かりになられる様で意外です』
俺がオルコット卿の事をそう評していると、念話でツッコミを入れてくるコーゼスト。
『ほっとけッ!』
そんなコーゼストのツッコミにやはり念話で返す俺。アン達奥様’Sが下を向いてプルプル肩を震わせているじゃないか! 俺はココロの中でコーゼストに悪態をつくと、改めてオルコット卿に向かって言葉を掛ける。どうしてもコレだけは聞いておきたかったから。
「その前に──オルコット卿、アドルの何処がそんなに好ましかったんだ?」
ここまでお読みいただき有難うございました!
次回は2週間後になります!
それではお楽しみに!!




