登録と案内と紹介と
大変お待たせ致しました! 本日は第264話を投稿します!
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「良し! それじゃあコレがCクラス冒険者の証の認識札になるからね。決して無くさない様にしてくれたまえ」
「あ、有難うございます!」
そう言って真新しい銅の認識札を手渡すオルガと、認識札を大事そうに受け取るマリオン。ここはオールディス王国王都ノルベールにある王都冒険者ギルド本部、そこに在る最高統括責任者の執務室の中だ。
メペメリア帝国から無事帰還を果たした俺達は、早速帰って来た翌日には新メンバーのマリオンの冒険者登録の為に、オルガの元を訪れていた。そしてオルガは自身が言った通りにマリオンをCクラス冒険者として登録してくれたのである。
まぁコーゼストの見立てでも、マリオンは格53相当だと言う話だし、実力さえあれば何ら問題は無い……と思う。兎にも角にも冒険者登録出来なければ、わざわざメペメリア帝国くんだりまで行って暴れてきた(笑)甲斐が無いからな。それに何よりマリオンの斥候としての実力は『デュミナス』のバルドの「公認」だしな。多少気弱な所があっても磨けば光る逸材と言う訳だ。その為にも冒険者登録は必須と言う事になる。
「これでマリオンさんも実質的に冒険者の一員だ。これからの活躍に期待するよ」
「は、はいっ! が、頑張ります!」
オルガの言葉に頬を紅潮させて答えるマリオン。俺はそんなマリオンの「これから」に期待を寄せるのであった。
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「改めてマリオンさん! これから宜しくお願いするッス!」
「「「宜しくお願いしますねッ!」」」
マリオンの冒険者登録も無事に済んだ所で、一緒に付いて来ていたジゼル、クロエ、ミア、フェデリカがそう異口同音にマリオンに声を掛ける。
「は、はいっ! 皆さん、これから宜しくお願いしますッ!」
それにはにかみながらも元気良く答えるマリオン。
因みに今日俺に同行しているのはジゼル達『戦乙女』のメンバーとヤト達魔物の『混沌』のメンバー、そしてコーゼストだけである。アン達『秩序』のメンバーはラーナルー市の屋敷でマーユと共に大人しくお留守番してもらっていたりする。
まぁどうせ1泊したらラーナルー市に帰るんだし、偶にはこうして別行動も良いだろう。幾ら夫婦と言っても、こうした時間はお互いに大切である……と思う。
「さてと、マリオンの登録も無事済んだし、そろそろお暇しようかな?」
「おや? 今日は私の屋敷に泊まっていかないのかい?」
俺の発言に少し驚いた様に宣うオルガ。その声には不満がありありと感じられる……気がする。
「そうしたい所だが……今日はこの後、寄りたい所があってな」
「そうなのかい? それじゃあ仕方ないけど……ウィルが寄りたい所って言うのは何処なんだい?」
「ああ、王都にある宿屋『銀の林檎亭』のオリヴァー達に会っておこうと思っているんだ。ほら、それにマリオンやニュクス達に王都を案内するのもあるしな」
オルガの問い掛けにそう答えながら俺は苦く笑うのだった。
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そうした事でオルガの居る王都ギルド本部を辞した俺達は、王都ノルベールの市街へと繰り出した。勿論ニュクスやヤト、セレネの魔物娘’Sを顕現させて、である。ニュクスやセレネは王都内を案内するのは初めてなので分かるが、何故にヤトまで出したかと言うと、ヤト曰く「2匹だけじゃズルい」のだそうだ。その辺は普通の女性と何ら変わりないな。
まぁ尤もそのおかげで王都ノルベールの街中はちょっとした混乱に陥ったりもしたが。お陰で周りに「これは俺の従魔達だから」といちいち言ってまわらないと行けなかったのが、割と面倒だったのはここだけの秘密である。
「くふっ、ここが王都なのですか。主様のお暮らしになられるラーナルー市とは違ってヒトが多いですわね。それに建物も多いですし」
周りが遠巻きにしている中、ひとり感慨深げなニュクスの台詞。
「私も初めて王都の街中を歩きますが、ニュクスの言う通りですね。本当にこんな経験は滅多にありません。有難うございますね、御主人様♡」
ニュクスの台詞に続けてセレネもそんな感想を口にする。マリオンに至っては「ここがオールディス王国の王都……メペメリアの帝都またとは違いますね」とこれまた感慨深げである。ジゼル達は何度か来ているらしく落ち着いている。
「ねぇ御主人様! 早くオリヴァー達の『銀の林檎亭』に行きましょう! またアソコのステーキをお腹一杯食べたいの!」
あとうちの胃袋担当ヤトさんは相変わらず食欲に忠実でブレがない。
そんな一行に王都をゆっくり案内しながら、俺は『銀の林檎亭』へと向かうのであった。
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そんなこんなをしながらも割と面倒事に会わずに、目的の『銀の林檎亭』に到着した。尤もここに来るまで街のヒト達からヤトやセレネ、そしてニュクスには奇異な視線を向けられていたが。
とりあえずヤトを連れて『銀の林檎亭』の門扉を開けて店内に入る。いきなりセレネやニュクスを連れて入ってオリヴァー達や他の客を驚かす訳にはいかないからな。そうして入った『銀の林檎亭』店内はまだ午下3時前と言う事もあり閑散としていた。
「いらっしゃい──ってウィルさんにヤトさんじゃないですか?!」
帳場の中で俺達の来店に気付いたオリヴァーが、俺とヤトの顔を見るなりそう声を張り上げる。
「やぁオリヴァー」
「オリヴァー、久しぶりッ!」
カウンターから出てきたオリヴァーにそう声を掛ける俺とヤト。
「お久しぶりですね! 今日はまたどんな御用向きで?」
「ああ、王都に用事があって来たんだが……次いでにオリヴァー達にうちの新メンバーや従魔を紹介しておこうと思ってな。外に待たせているんだが呼んでも良いか? 従魔の方はまた特殊なヤツなんだが……」
「ほう?! そう言う事ですか! どうぞ店の中に呼んで下さっても結構ですよ! おーい、イグ! リズ! リム! ウィルさん達がお見えになったぞーーッ!」
俺の話を聞くが早い、店の奥に向かって声を張り上げるオリヴァー。どうでもいいが俺の話をちゃんと聞いていたか? それにリムって誰だよ?
そんなオリヴァーに俺は苦く笑うしかなかったのである。
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オリヴァーの声に反応して「えっ?! ウィルさんが?!」と言う声が聞こえ、続いてパタパタと言う慌ただしい足音が響いて、店の奥から顔を出したのはオリヴァーの奥さんのイグリットと娘のリズちゃんと見た事が無い男の子。オリヴァーに聞くと彼がオリヴァーとイグリットの息子なのだそうだ。名前はリム君だそうな。イグリットとリズちゃんの2人は俺とヤトの顔を見るなり「お久しぶりですッ!」とこれまた元気良い言葉を投げ掛けて来た。一方でリム君は初めて見るヤトにおっかなびっくりだ──然もありなん。
そんな3人に俺は笑顔を返すと、オリヴァーに聞かせた話を話して聞かせる。イグリットとリズちゃんも「ウィルさんのお仲間なら大丈夫」と言ってくれたので、外に待機させていたジゼル達とセレネ、ニュクスを店内に招き入れる。リム君だけは話に付いて来れずキョトンとしている。
先ずはジゼル達5人が入って来て、オリヴァー達に「お邪魔します」と頭を下げる。次いでセレネが入って来て
「お邪魔しますわね」
とオリヴァー達に頭を下げて挨拶をし、更にその後からニュクスが入って来て
「くふ、お邪魔致しますわ」
これまた丁寧に腰を折って挨拶をする。オリヴァーやイグリットやリズちゃんやリム君は、先ずセレネを見て驚き、次にニュクスの姿を見て声を失い文字通り固まっていたりする。そんなオリヴァーの肩に手を置きながら
「だから言ったろ? 特殊なヤツだって」
と苦笑いする俺。これが普通のヒトの反応なんだろうが、お願いだから何とか慣れて欲しいものだ。
いや、割と本気で本当に!
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「いやぁ、ウィルさんには本当に驚かされました……」
溜め息混じりにそう言葉を零すオリヴァー。その台詞にイグリットやリズちゃんやリム君も首を縦に振って同調を示す。
「だから最初に言ったんだがなぁ……」
そんなオリヴァー達4人の反応に苦く笑う俺。
「確かに……特殊とは仰いましたが、まさかここまでとは思いませんでしたよ……」
「そうですよぉ、私なんか心臓が止まるかと思いましたものもの……」
「あ、あたしもビックリしちゃいましたぁ……」
「ぼ、ぼくもびっくりしちゃったよ……」
そう言ってそれぞれに自らの驚きを示すオリヴァー達。でもまぁ、さっきも言ったがこれが普通のヒトの反応なんだろうけどな。俺は日常的にファウストやデューク、そしてヤトやセレネやニュクスなんかと触れ合っているから、そうした感覚が麻痺してるのかもしれないな。
「あーっと、何だか色々と済まん」
「あ、いえいえ! 決してウィルさんが悪い訳では有りません! ですからどうか顔を上げてください!」
「そうですよ! 私達が慣れれば大丈夫ですから!」
俺の謝罪の言葉に今度は慌てふためくオリヴァーとイグリット。その横ではリズちゃんとリム君がセレネやニュクスに「お姉ちゃん達、よろしくね!」と挨拶を交わしていたりする。その辺は子供の方が大人より適応力が高いみたいである。
「ええ、宜しくねリズちゃん、リム君」
「くふ、妾の事も宜しくお願いしますね」
リズちゃん達から声を掛けられてセレネやニュクスも嬉しそうに返事を返すのを見て、俺はホッと安堵の溜め息を漏らした。
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オリヴァー達が落ち着きを取り戻したのを見計らって、改めてジゼル達『戦乙女』のメンバーを紹介する俺。
「あーっと、先ず彼女達が新しいメンバーだ」
「ジゼルっス! 宜しくお願いするッス!」
「クロエです。宜しくお願いします!」
「ミアですッ! 宜しくお願いしますッ!」
「フェデリカと言います。宜しくお願い致します」
「あ、えと、あたしはマリオンです! よ、宜しくお願いします!」
俺が手を向けるとそれぞれ銘々に自己紹介を口にするジゼル達。
「そして新しい従魔の──」
次いでセレネとニュクスに手を向ける俺。
「改めましてオリヴァー様、イグリット様、リズちゃん、リム君、私は女王蛾亜人のセレネですわ。どうか宜しくお願いしますわね」
「くふっ、オリヴァー様、イグリット様、リズちゃん、リム君、改めまして。妾は女郎蜘蛛のニュクスと申します。主様の従魔の中でも新参者ですが、どうか宜しくお願い致しますわ」
此方もやはり手を向けられて銘々に自己紹介を言う2匹。それに対して「皆さん、こちらこそ宜しくお願いします」と全員に歓迎の言葉を口にするオリヴァー達4人。どうやら驚いたのも最初だけで、こうして話すと安心感が得られたらしい。
「ねぇ御主人様、もう良いでしょ?! 私お腹ペコペコなの!」
そんな中でもヤトさんだけは全くと言っていいくらいにブレが無いな?! 俺が苦笑いと共にひとつ頷くと早速「イグリット! ステーキ3人前!」と注文をするヤト。
どんだけ食欲に忠実なんだ? ヤトさんや?!
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「しかし……こうして実際に話してみると、セレネさんもニュクスさんもそこら辺のヒトと何ら変わりは無いんですね……」
漸くひと通り互いの紹介を終えると、オリヴァーが感慨深そうに呟く。その横ではイグリットも盛んに頷いている。
「まぁな、俺もたまに普通のヒトと勘違いする時があるからなぁ」
「マスター、それはそれで問題有りかと思いますが?」
オリヴァーの言葉に俺がそう同意するとコーゼストから的確な突っ込みが入った。ヤトはヤトでイグリットに焼いて貰ったステーキを美味しそうに頬張っていたりする。
「でもまぁ、俺にとってはヤトやセレネやニュクスだけじゃなく、ファウストやデュークも大切な仲間だからな。魔物だからと言って差別とか偏見は無いし……」
「もぐもぐもぐ、ごっくん! 私も御主人様の事は大好きよ! 美味しいモノを沢山食べさせてくれるし!」
「ヤトだけではありませんわ! 私も御主人様の事は大好きですからね♡」
「くふっ、妾も当然ですわね♡ファウストやデュークも妾達と全く同じ気持ちですわ」
ヤト、セレネ、ニュクスがそれぞれに異口同音で己の気持ちを声にして発する。お前達、嬉しい事を言ってくれるな。
「はははっ、ウィルさん、愛されていますなぁ」
ヤト達の台詞を受けそう宣うオリヴァー。そしてジゼル達も激しく同意らしく盛んに頷いている。
そんな周りの反応に苦笑いを浮かべながら、俺は温くなった香茶で喉を潤すのであった。
ここまでお読みいただき有難うございました!
次回は2週間後になります!
それではお楽しみに!!




