ニュクス騒動記、そして再編
大変お待たせ致しました! 本日は第259話を投稿します!
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「はいっ、これでニュクスの従魔申請は受諾されましたっ! それじゃあウィル、此方をニュクスの腕に着けてね!」
そう言ってルピィから手渡される従魔の証明である腕輪──もちろんニュクスのだ。
自身の誕生日晩餐会の翌日、俺はニュクスの従魔の登録をする為にラーナルー市冒険者ギルドを、当のニュクスとヤトとセレネ、そしてアンとマーユとコーゼストを伴って訪れていた。勿論ニュクスは短身サイズで顕現している。
「良し──さてとニュクス、何方の腕に腕輪を着ける?」
俺はチビニュクスに腕輪を見せながらそう尋ねる。
「はい、主様。それでは是非とも妾の左腕に♡」
そう言って自らの左腕を差し出すニュクス。何となく嬉しそうである──と言うかキミも左腕かいな。俺は苦笑いを浮かべながらチビニュクスの左腕に腕輪を着けてやる。
「それではニュクスを再顕現します」
コーゼストのその台詞と共に光に包まれ、本来の大きさとなって姿を現すニュクス。その姿に冒険者ギルドの広間に居た他の冒険者達が俄に騒めく。
ニュクスは自分の左腕に着けられた腕輪をまじまじと見て
「くふっ、これで妾も晴れてヤトやセレネと同じ主様の下僕ですわ♡」
と喜びを声に表し、そのまま俺に抱き着いて来る。因みに俺の右腕側はヤトが、左腕側はセレネが死守しているので、自然と真正面から抱き着く事になるが。受付のルピィやアンなんかは苦笑いを浮かべている。
皆んな、スマンが離れてくれないか? これじゃあ身動きが取れない…… 。
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それじゃあと言う事になり冒険者ギルドを出て、ニュクスにラーナルー市内を案内しながら屋敷に帰る事にした。
まぁ街中に出たら出たで、街のヒト達が吃驚して遠巻きに此方の様子を眺めている。そらまあいきなり順位Sの高ランクの魔物が出現して、街中を闊歩しているんだ。気にするな、と言う方が無理がある。それにヤトやセレネの時もこんな感じだったしな。
しかもニュクスはアラクネだけの事はあり、蜘蛛の身体の大きさがちょっとした荷車並のサイズはあるし、体高も頭ひとつ抜きん出ているから、更に目立ってしまうのはしょうがない。まぁ尤もニュクス本人(?)はそんな事は何ら気にしていない様子であるが。
「くふふ、ココが主様の住んでおられるヒトの町なのですね」
今だって市場の通りのあちらこちらへと顔を巡らせていたりする。
「どうだニュクス? 大勢のヒトの住む町の感想は?」
「くふ、そうですね。大変賑わっていて活気がありますわね。迷宮の中とは大違いですわ」
俺の問いにそう笑みを浮かべて答えるニュクス。ヤトの時はそれこそもう本人が大騒ぎだったのだが、ニュクスの場合はセレネ並かそれ以上に理知的に見えるのだが──偏見か? まぁそれはそれとして。
俺はマーユやヤトやセレネに色々と街の事を聞きながら、興味深そうに辺りを見渡しているニュクスを見るにつけ、同じ魔物でも随分と個性が違うんだなと改めて実感するのであった。
その辺はヒトの女性と大差ないな、うん!
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屋敷への帰路の途中、マーケットの在る東区の衣服店に立ち寄った。ニュクスの豊満な胸を隠す為の衣服を買う為に、である。ヤトの時と同じく幾ら魔物とは言え、女性に裸体でうろつかれると目のやり場に困るからだ──主に俺が。
そして案の定と言うかなんと言うか、店からはヤトの時と同じように水着を勧められたりする。そらまあ普通のヒト用の衣服を取り扱っている店に魔物専用の服が売っていたら、それはそれで吃驚である。
「くふっ、何だか着慣れない物を着ると落ち着きませんね」
そう言って何とも言えない顔をするニュクス。そんなニュクスに俺は
「まぁニュクスも俺の仲間になったんだし、慣れてくれ。ヤトだって着ているだろ?」
と言って無理矢理納得させる。と言うか、君に決定権は無いからな! 因みにセレネの場合は全身が白い絨毯の様な毛に覆われているので、そんなに意識しなくても済んでいたりするが、やはり水着は着用である。
兎に角ニュクスを説き伏せて水着を着させた後、それだけでは心許ないので、その足でリットン商会に行ってニュクスに胸当てを買ってやった。序に物欲しそうにしていたセレネの分の胸当ても買ってやったのは言うまでもない。
余談だが、両方の店でニュクスやセレネの胸のサイズを聞かれたのだが、幾ら俺が此奴らの使役者だからと言って、いちいちそんな事まで知ってませんって!
胸のサイズはコーゼストが知っていたので事なきを得たが、理不尽な目にあった…… 。
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「そういやニュクスに聞きたい事があったんだ」
屋敷に戻ってひと息ついた所で、俺は前々からニュクスに聞きたかった事を尋ねてみる。俺の声にその場に居る皆んなの視線が集まる。
「何でしょうか、主様?」
「うん──何でニュクスは第八階層の生産設備で目覚めた後に、第十二階層のあの部屋なんかに居たんだ?」
そうなのだ。何故生産設備で目覚めた後に「魔王の庭」を出ずに、わざわざ下層である第十二階層まで潜ったのか? それがずっと疑問だったのだ。それに対するニュクスの答えは
「それは妾が眠っていた工廠──主様達が言う所の生産設備の管理機構から『命令』を受けたからですわ。妾が居たあの部屋は生産設備の予備施設でした。妾はそこを護る様に命令をされたからです」
と、これまた此方の予想以上の答えである。以前生産設備を再調査した時、ヤトとニュクスが長きに渡る冷凍睡眠から目覚めさせられた経緯は目にしたが、真逆あの第十二階層の守護者部屋が生産設備──ニュクスの言う所の工廠の予備施設だとは思いもしなかった。
「これは──後でしっかり調査しなくては行けませんね」
ニュクスの言葉にコーゼストはそう意見を述べるが、俺としてもこれは看過出来ない話だ。
「そうだねぇ、これは冒険者ギルドとしては無視出来ない話だね」
俺とニュクスの話を聞いていたオルガも苦い顔をしてそう呟く。これは何方にしても俺達が行かざるを得ない話なのは間違いない──はァ、鬱だ…… 。
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俺とニュクスの話はまだ続いている。
「それじゃあ、あと食糧は今までどうしていたんだ? やっぱり人造肉を喰っていたのか?」
「はい、それも有りましたが、基本は他の魔物を狩っていましたわ。妾のこの牙には麻痺毒が有りますので、魔物を生け捕りに出来ましたの」
第十二階層の秘密に驚きつつもあと1つ、疑問に感じていた事を尋ねると、蜘蛛の身体の上顎に有る鋭い牙を指差しながら答えを示すニュクス。細く鋭い牙の先がぬらりと濡れているのが分かる──アレがどうやら麻痺毒らしい。
「恐らくニュクスの格がヤトより高かったのは、この十数年間の狩りの成果なのではないかと。ずっと高レベルの魔物を狩っていたから、少しずつでも「魂の階位から得る力」が積み重なったのでしょう」
俺とニュクスの会話を聞いていたコーゼストがひとつの可能性の話を示唆し、確かにそれならと納得する。つまりは昔から言う所の「塵も積もれば山となる」と言う奴だ。それなら確かに僅かずつでも長い期間を経れば、それなりに「魂の階位から得る力」は蓄積されるからな。
「でも──」
俺がコーゼストの説に1人納得しているとニュクスがそう口を開く。
「妾はヒトが作る「料理」を初めて食べて、とても美味しくて気に入りましたの。もう余程の事が無ければ生肉は食べたいと思えませんわ」
そう力説するニュクス。なんと言うか、ヤトやセレネもそうだが、魔物と言うのは皆んな健啖家で美食家ばかりらしい。
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「それにしても──これはもうウィルの従魔達だけで1つの分隊が出来そうね」
ニュクスとの話をひと通り終えた所でルストラ師匠がポツリと言葉を漏らす。
まぁ確かにファウストにデュークにスクルド、それにヤトにセレネにニュクスの6体が揃っていれば大体の事に対処出来そうではあるが…… 。
「なぁオルガ。従魔達だけでチーム編成をしても問題ないのか?」
ここは冒険者ギルドの最高統括責任者たるオルガに意見を求めてみる。
「うーん、そうだねぇ。前例は無いけど出来る……と思うよ。ただ冒険者ギルドで認識札を作るのは難しそうだねぇ。今まで魔物単体に認識札を発行した事例は皆無だからね。ただ1つ解決策があるとすれば、分隊を彼等の使役者であるウィルが率いるのなら問題ないと思うんだけどね」
オルガはグラマスとしての視点で可能性を示唆し、それを傍で聞いていたアン達も興味を示しているようだ。何方にしても分隊の再編はしなくてはいけない事だし、この際だから真剣に考えてみるのもアリかな?
「だがそうすると、分隊を幾つに分ければ一番効率が良いのか? よーく考えないとな」
オルガの台詞にそう言葉を漏らす俺。そこで急遽どの様な組み合わせで『神聖な黒騎士団』をチーム分けするか、皆んなで打ち合わせする事になった。考えてみれば『神聖な黒騎士団』は結構な大所帯だからな。
アン達やエアハルト達から活発な意見が出るのを見ながら、俺は皆んなの意見を集約して行くのだった。
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そうして話し合う事暫し
「……良し、それじゃあそれで行こうと思うんだが、皆んなはどうだろう?」
この場にいるメンバー皆んなから色々と意見が出尽くした所で取り纏めに入る俺。
「そうね、もうこれ以上は意見も出ないみたいだし、私は良いと思うわよ──皆んなも良いわよね?」
皆んなを代表してアンが口を開き、他のメンバー達も「それでいい」と頷いている。
そうして取り纏めた『神聖な黒騎士団』の新たなチーム分けは──先ずは俺をリーダーにコーゼスト、それにファウストにデュークにヤトにセレネ、そしてニュクスを加えた2人と5体の体制のチームを1つ。次いでアンをリーダーに据えてレオナとルアンジェ、エアハルトとスサナ、そしてルネリートとアリストフの7人体制のチームを1つ。最後にジゼルをリーダーにクロエ、ミア、フェデリカ、そしてスクルドを加えた4人と1体の体制のチームと、合計3つのチームへと分ける事にしたのだ。
これには今現在の個人個人のレベルの高低差も加味されているのは言うまでもない。必然的に俺が率いるチームはレベル80以上と一番レベルが高く、次いでアン達のチームはレベル80のアンとルアンジェを筆頭に平均レベル75のチームであり、最後のジゼル達はレベル78のスクルドを除き、平均レベル56程のチームとなっている。
またそれと共にジゼル達のチームには新たに斥候を1人募集する事も合わせて決まったのであった。
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「それじゃあ斥候を募集するので良いんだね?」
ひと通り話し終えた所でオルガがそう言葉を発する。
「ああ、そうしてくれ。頼んだぞ、オルガ」
オルガの言葉に1つ頷く俺。ここは冒険者ギルドの最高統括責任者である彼女に任せよう。
「うん、任せておきたまえ」
一方で俺に頼られて嬉しそうなオルガ。まぁその辺は専門家に任せるのが一番安心だからな。「船の事は船頭に聞け」と言う奴だ。
「ところでウィル、新しく発足させるチームの名はどうするんだい?」
俺が1人納得しているとレオナからそんな指摘が?
「あーっ、そういやそっちもあったな……うーん」
レオナの言葉に考え込む俺。アン達も一緒に頭を捻っている。やがて熟考する俺の頭にとある名前が浮かび上がる。
「あーっとな、俺のチームはヒトと魔物と自動人形がメンバーだから『混沌』で、アン達のチームはヒトが中心のメンバーだから『秩序』って言うのはどうだ? そんでもってジゼル達のチームは今まで通りの『戦乙女』にしたいんだが……」
そう自分の考えを言葉にすると俄に騒めくアン達メンバー。だがそのざわめきの中
「『混沌』と『秩序』ね……私は「名実一体」で良い名前だと思うわよ」
ルストラ師匠が先ず賛成の意を示してくれて、それに続けてアン達も次々と賛成の意思を示す。
「良し! それじゃあ決定な!」
特に反対意見も無く割とすんなりと決まった新しいチーム名。
「本当にマスターは命名感覚だけは良いんですからね」
それまで黙っていたコーゼストがそんな事をボソッと宣う。
良ぉし、コーゼスト。後で徹底的に話し合おうな!
ここまでお読みいただき有難うございました!
次回は2週間後になります!
それではお楽しみに!!




