ニュクス 〜やはりアラクネにも懐かれました〜
大変お待たせ致しました! 本日は第258話を投稿します!
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「お前の名前は「ニュクス」だ」
俺はそう目の前のミロスラーヴァに考えた新しい名を伝える。
「くふ、それはどう言う意味合いがあるのですか?」
当然質問して来るミロスラーヴァ。それに俺は
「「ニュクス」って言うのはこの西方大陸に古くから伝わる神話に出てくる夜の女神の名前だ。お前のその闇の様に黒い蜘蛛の身体の色から、夜の女神が相応しいかなと思ってな」
と自分の考えを開陳する。と言うかヤトが蛇の神の名前で、セレネは月の女神の名前と来たから、何となく神様の名前で揃えたくなったのは俺だけの秘密であるが。
一方のミロスラーヴァ──「ニュクス」は自分に与えられた新しい名前を暫く反復していたが
「くふふ。はい、妾は今日からニュクスを名乗らさせて頂きますわ、主様♡」
と偉く御満悦の様である。まぁそれはそれとして…… 。
「なぁ、その「主様」って……」
「はい、ヤトやセレネが貴方様の事を「御主人様」や「御主人様」と呼んでいますので、妾は主様と呼ばせていただきますわ」
「そうか……それと、前の名前に未練とか無いのか?」
「くふッ、はい。ミロスラーヴァと言う名には未練も執着もありませんわ。それに……」
「……それに?」
「主様のお付けになられた名前、とても気に入りましたし、何よ嬉しかったですから♡」
俺の質問に迷い無く言い切るニュクス。まぁ気に入ってくれたのなら、俺としても名付け甲斐があるんだけどな。
俺はやたら嬉しげなニュクスを見てそんな事を思うのであった。
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「あーっと、兎に角だ。これからも宜しく頼むなニュクス。ファウスト達とも仲良くな」
そう言って右手を差し出す俺。ニュクスは嬉しそうに差し出された右手をしっかりと握り返すと
「くふ、ええ、これからも末永く宜しくお願いしますね主様♡」
これまた満更でも無い様子である──良かった、ニュクスが聞き分けの良い奴で。しかしそう思った次の瞬間、またもやニュクスが自身の豊満な胸に俺を掻き抱いていた──オイオイ?!
「くふふっ、こうして主様を抱き締めているだけでニュクスは幸せですわ♡」
ニュクスは満足そうだが、俺の奥様’Sとヤトとセレネ、そして何故かアドルフィーネまでがニュクスのその行為に殺気立つ。
『『『『ああーーッ?! こらっ!』』』』
「こらッ! ちょっと新入り! アンタ、どさくさに紛れて何してんのよ!? 次は私の番なのに!」
「そうよニュクス! 先程も注意したばかりでしょう!? それにヤト!? 次は私の番ですわ!」
「兄様ッ! 私と言う者がありながらなんと言う事を! そこのアラクネも兄様を離しなさいッ!」
若干1名が妄想を垂れ流しているが、アン達奥様’Sやヤト達の反応は正に十人十色である。まぁそれはそれとして
「ぷはぁッ!? ニュ、ニュクス?! そ、そう言うのを止めろって言ってるんだ!!」
俺がキツめにそう言うと、漸く拘束を解くニュクス。
「くふふ、ごめんなさい主様♡」
そう言って悪びれた様子の無いニュクスに、俺はそっと溜め息を吐くのだった。
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すったもんだの末、晴れて俺の新しい従魔の一員になったニュクス。
しかしまぁアレだ、順位Sの双頭魔犬に剛鉄岩人形に蒼玉岩人形に半人半蛇に女王蛾亜人、そして今回は女郎蜘蛛と来たもんだ。これはもうコーゼストが前に言っていた通り、この6体でひとつの国を堕とせそうである──しないけどな!
「ウ、ウィルよ、そ、その、も、もう大丈夫なのか?」
俺がそんな他愛もない事を考えていると、エリンクス陛下からそう言葉を投げ掛けられる。見ると陛下一家のみならず、世界評議会の御歴々や列席者達が、事の成り行きに息を呑んでいたりする。俺は皆んなに「大丈夫」と声を掛け
「ニュクス、此方に居る方々はこの国の国王陛下やその家族、それに各国の代表者の方々だ。それと其方に居るのは俺の身内だから、何方にも失礼のないようにな」
ニュクスにもそう言い聞かせる。
「くふ、分かっておりますわ主様。皆さん、先程主様から名前を賜りました、妾はアラクネのニュクスと申します。以後宜しくお願い致します」
ニュクスも心得たもので、優雅に腰を折って皆んなに丁寧な挨拶をし、周りからも口々に「よろしく」との声が聞こえて来る。
「うむむむ……ラミアとモスクイーンに次いで、ヒトの言葉を解する魔物が3体目か。嘗てコーゼスト卿が言っていた通り、ウィルと従魔達だけで「国堕とし」が可能やも知れんな」
そう唸るエリンクス陛下と世界評議会の御歴々。
いや、本当にそんな事しないからな!?
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「私マーユって言うの! これからもよろしくね、ニュクスお姉ちゃんッ!」
俺が1人で憤悶としていると、誰よりも早くニュクスに声を掛けながら駆け寄り、手を差し出すのはマーユ。本当にこの子は物怖じしないな。
「あら、可愛らしい子ね。初めましてマーユちゃん。貴女は妾が怖くないのかしら?」
そんなマーユに対して笑みを浮かべながらも、何処か遠慮がちに言葉を投げ掛けるニュクス。
「全然怖くないよ! だってファウストもデュークもスクルドも、ヤトお姉ちゃんもセレネお姉ちゃんも、見た目は怖いけど皆んな優しいもの! ニュクスお姉ちゃんもきっと優しいと思うの!」
ニュクスの問い掛けに満面の笑みではっきりとそう答えるマーユ。
「くふ、貴女は良い子ね。改めて宜しくねマーユちゃん♡」
マーユの答えを聞いてニュクスは優しく彼女を抱き寄せる。ヤトやセレネもそうだが、ニュクスも母性本能が強そうである。と言うか、マーユの場合は誰が見ても庇護欲を掻き立てられるのだろう。
「それはマスターやアン達にも当てはまりますけどね」
俺が1人納得していると、コーゼストから真逆の突っ込みが入る。お前は絶対ソレを狙っていただろ?!
「それはまぁ、そうなんだが……」
「一応自覚はお有りなんですね、意外です」
「……お前は俺に喧嘩を売っているのか?」
コーゼストの物言いに気色ばみながら、俺は仲良さげにしているマーユとニュクスを暖かく見守る皆んなの顔に、妙な安心感を覚えるのであった。
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マーユがニュクスに懐いた事で、周りにいる列席者達のニュクスに対する警戒心が氷解したようだ。
「くふふっ、改めて初めまして王女様、妾が主様の忠実な下僕のアラクネのニュクスです。主様共々宜しくお願いしますわ」
今ニュクスはステラシェリー王女に対して腰を折って礼を執っている。
「ふわぁ……ヤトさんやセレネさんに続いて、私達とお話出来る魔物さんとまた出逢えるなるなんて! 初めましてニュクスさん! 私はステラシェリーと言いますの! これからも宜しく御願い致しますわねッ!」
「良かったねステラお姉ちゃん! ニュクスお姉ちゃんも!」
片やステラシェリー王女はニュクスと話せて甚く感動していたりする。マーユはマーユで2人(1人と1体)の間に立ち、これまた偉く御満悦の様子だ。そしてその様子にエリンクス陛下だけではなくジュリアスや世界評議会の御歴々も、ニュクスと話したそうにしているのが目に見えてわかる。
「ふむ……さしづめマーユちゃんはヒトと魔物の間を取り持つ調整者みたいですね」
マーユの様子に不意に納得した様なコーゼストの台詞。確かにそれは言い得て妙である。アン達奥様’Sも盛んに頷いてコーゼストの台詞に同調している。
「……奇遇だな、俺もそう思っていたところだ」
俺はコーゼストの台詞にそう頷き返しながら、いつの間にか皆んなの中心に居て、笑顔を振りまく愛娘のマーユの様子に目を細めるのだった。
またコーゼストに親馬鹿と言われそうであるが。
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そうして晩餐会も酣な頃
「そう言えばウィル達の格って、今どれ位あるのかしら?」
そうしたルストラ師匠の何気ない一言に、コーゼストが律儀に答える。
「はい。先ずマスターウィルは現在レベル84ですね。そして一緒に「魔王の庭」に潜ったアンがレベル80、レオナはレベル79、ルアンジェはレベル80相当、スサナはレベル75、ルネリートはレベル72、アリストフはレベル71ですね。あの場に居なかったメンバーですと、エリナがレベル79、ベルタとユーニスはレベル75、フェリピナとマルヴィナはレベル76、地上に還したエアハルトはレベル68、ジゼルは59でクロエとミアはレベル56、フェデリカがレベル55。従魔ですとファウストとデュークがレベル80、スクルドはレベル78、ヤトとセレネはレベル82、ニュクスはレベル84です。因みに私はレベル80相当だと付け加えておきます」
コーゼストの言葉に「何ッ!?」と一斉に俺の方を見やるエリンクス陛下一家と世界評議会の御歴々。
「うむぅ、ハーヴィー卿は兎も角、従魔の面々もそんなにレベルが高いのか……これは益々「国堕とし」が出来そうであるな」
そう唸るのは世界評議会のギヨーム皇帝。それに同調するかの様に首を縦に振る陛下一家と御歴々。
「強過ぎる力は崇められるか、恐れられるかの二択だからね。出来ればウィルには前者であって欲しいわ」
割と切実な顔でそう宣うのは師匠。
俺としては何方も御免こうむりたい!
割と切実に!
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「そういやそうと、コーゼスト。ニュクスの技能や能力とかに変化はあったのか?」
俺は事の序とばかりにコーゼストにニュクスの事を訊ねる。共生化に組み込んだ結果、デュークやセレネの様に進化する場合がある事に今更思い至ったのだ。
「はい。ニュクスのスキルは糸操術と罠設置の他に糸傀儡が増えています。アビリティは眷属支配が眷属の威厳へと変化。魔法は大地属性魔法をひと通り使えるようになっていますね」
俺の問いにこれまた丁寧に答えるコーゼスト。聞くところによると、糸傀儡とは対象を文字通り糸で自由自在に操る事が出来るスキルで、眷属の威厳と言うのは蜘蛛なら蟲であろうと魔物であろうと、全て自身の完全支配下に置き、尚且つ基礎能力も向上させる事が出来るアビリティだそうな。因みに眷属支配は蜘蛛型の魔物を支配出来るアビリティだったらしい。
「ソイツはまた……随分強化されたな」
コーゼストの説明にそう唸る俺。これ……また次にニュクスと戦ったら勝てる気がしないんだが?!
俺はいつの間にかヤトやセレネと同じ様に列席者達の輪の中に入って料理を堪能しつつ、アン達と共にエリンクス陛下一家や世界評議会の御歴々、それにネヴァヤ女史ら俺の直臣やフォルテュナ義父さん達身内の面々と、話に興じているニュクスの様子を見ながら、そんな事を考えていたのだった。
と言うか、皆んなもニュクスに慣れるのが随分早いな?!
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「ではウィルよ、またな」
そう言って転移の光と共に還って行くエリンクス国王陛下とその家族、そして世界評議会の御歴々。
俺の誕生日パーティーも夜半前には散会となり、列席者達達はそれぞれ帰路に着いていた。勿論遠くのヒト達はコーゼストの転移魔導機でちゃんと送り届けていたりする。まぁ何人かは今夜は屋敷に泊まって行くみたいだが。因みにアドルフィーネは断然泊まって行くとの事だった。
「ふぅ……」
兎にも角にも最後にエリンクス陛下達が還るのを見送って、ひとつ溜め息をつく俺。何となくだが俺が主役の誕生日パーティーなのに、俺が一番気遣いして疲れを感じているのは理不尽な気がする。まぁその分、色々な贈呈品を様々なヒト達から頂いたので文句は言えないが。
『『『『ウィル、お疲れ様♡』』』』
大きく溜め息をついた所でアン達奥様’Sから労いの言葉が投げ掛けられる。
「ああ、本当に疲れたよ。アン達もお疲れ様」
そう言って苦く笑う俺。本当に疲れた──主に精神的にであるが。
こうして俺の27歳の誕生日パーティーは波乱で始まり、混沌で終わりを迎えたのであった。実質、ニュクスを皆んなに紹介するパーティーになっていた気がする──それはそれで良かったんだけどな。
来年もしまた誕生日パーティーをやるのなら、次こそは身内だけにしてもらいたモノだ。
そういや明日は冒険者ギルドに行って、ニュクスの従魔の登録手続きをしてこないとな! でないと、またギルマスにどやされる──はぁ鬱だ。
ここまでお読みいただき有難うございました!
次回は2週間後になります!
それではお楽しみに!!




