決着 〜事後処理までが冒険です〜
大変お待たせ致しました! 本日は第256話を投稿します!
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「隷属術式、構築」
「魔王の庭」第十二階層、守護者部屋の中に響き渡るコーゼストの声。
「個体:アラクネへ魂の刻印完了」
「素体質量。虚数変換開始」
ミロスラーヴァの身体が変換の光に包まれる──そして。
「変換完了──収納」
次の瞬間、光になったミロスラーヴァはコーゼストの身体へと飲み込まれていったのであった。
『『『『『おおっ』』』』』
その光景に思わず声を上げるのはアン達。特にジゼルとフェデリカの反応が凄い。確かにこの光景を初めて見たヒトは皆んなこんな反応だよなぁ。まぁ、それはそれとして。
「ゲホゲホッ……はァ……やっぱりミロスラーヴァは従魔にするんだな……」
俺は咳き込んだ後デカい溜め息をひとつ吐くと、いつの間にか傍に来ていたコーゼストに語り掛ける──ミロスラーヴァに締められた首が未だ痛くて声が出しづらいが。
「はい、あの女郎蜘蛛──ミロスラーヴァには明確な自我がありましたし、何より私の申し出を聞き入れましたしね。それにあれほど手強かった魔物をむざむざ死なせるのは惜しいかと思いまして」
「まぁ、セレネの時も言ったけど、その辺の判断はお前に任せているが……」
コーゼストの毎度おなじみの尤もらしい理由に苦く笑うしかない俺。全く……お前は本当にブレないな?! 俺はコーゼストとの他愛もない会話をしながら、盛んに手を振るアン達の元へと歩んで行く。
漸く難敵ミロスラーヴァとの対決が終わった事を心から実感しながら。
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「ジゼル、フェデリカも大丈夫か?」
改めて皆んなと合流した俺は、真っ先にジゼルとフェデリカの具合を2人に尋ねる。
「いやぁ、酷い目に会ったッス……」
「本当に生きた心地がしませんでした……」
アンとアリストフの看護を受け、回復した2人は銘々にそう答える。その辺の事を詳しく聴くと、強制降下の罠で第十二階層まで落とされた2人は、迂闊に動き回るのは止めて救助が来るまで落とされた地点に留まっていたのだが、死角からミロスラーヴァに急襲されたらしい。
「死角って……何処からだ?」
俺の質問に黙って天井を指差す2人。何でも急に天井から蜘蛛の糸で囚われたとの事だった。どうやらミロスラーヴァは迷宮の通路の天井に張り付いて移動していたらしい。そしてそのまま天井伝いにこの部屋まで連れて来られたそうな。
しかし天井かぁ……確かに死角だわなぁ…… 。まぁそのお陰で他の魔物の群れとは遭遇しなかったんだから喜ぶべきか。
「マスター、ここまで色々とありましたが、こうして無事ジゼルさん達とも合流出来たので、そろそろ地上に帰還しませんか? マスターの誕生日パーティーも明日に控えていますし」
俺が色々と物思いに耽っていると、コーゼストからそう進言された。そういや明日は俺の誕生日パーティーと言う名の晩餐会だったな。しっかり忘れてた。
「よ、良し! それじゃあ皆んなで地上に戻ろう!」
コーゼストの台詞に独り気炎を揚げる俺。
こうして俺達は全員で無事に地上に還れる事になったのである。
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「「ウィル!」」
『『『『『ウィルさん!』』』』』
地下第十二階層から第八階層の避難所へコーゼストの転移魔導機で転移して来ると、其処にはルストラ師匠とエリナとベルタ達、そしてなんとエアハルト達が待ち構えていた。
「師匠やエリナ達は兎も角、何でハルト達まで……真逆地上に帰らずに此処に居たのか?」
なのでつい咎める様な聞き方をしてしまう俺。すると師匠が笑いながら
「エアハルト君達はちゃんと一旦屋敷まで私が送り届けたわ。彼等は行方不明のジゼルさんやフェデリカさんの事が気掛かりで、居ても立ってもいられなくて一晩休んでからココに来たのよ」
とエアハルト達の事を説明してくれた。まぁそう言う事なら構わないが…… 。俺はジゼル達と手を取り合って喜んでいるエアハルト達の様子に思わず苦笑を浮かべるのだった。
「そういや師匠やエリナ達は何時から此処で待機していたんだ?」
エアハルト達の事は分かったので、今度は師匠達の事を尋ねる俺。
「ん? ああ、私は貴方が今日辺り帰って来るんじゃないかとアタリを付けていてね。それで今朝「魔王の庭」に向かおうとしたら、エリナさん達やエアハルト君達に一緒に付いて来たいって言われて、そのまま引率して来たのよ」
俺の問いにあっけらかんと笑って答える師匠──その辺は流石師匠である。
俺は師匠に変な関心をしつつ、地上へ帰還すべく皆んなに声を掛けてから、第八階層の転移陣の端末に手を掛けるのだった。
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かくして無事に地上に戻った俺達。「魔王の庭」を出ると既に日はだいぶ西に傾いていたが、迷宮を出たら出たで俺達全員の無事をギルマスに報告しなくてはならない。なのでその足でラーナルー市冒険者ギルドに向かった──無論全員で。そして──
「ウィル! お帰りなさいッ! 無事で良かったァ……」
受付帳場で受付をしていたルピィが俺の姿に気が付くと、そう言いながら一目散に駆け寄って来た。どうでもいいが仕事を放り出して来るんじゃありませんって…… 。
「ルピィも心配していたのよ。察してあげなさいな、ウィル」
俺の考えを読んだのか苦笑を浮かべながらそう言って窘めて来るのは師匠。そう言われると俺も弱いな。
「済まなかったな、ルピィ」
そう言ってルピィの肩をそっと抱く俺と
「ううん……良いの……」
そう言いながら甘えて来るルピィ。アン、エリナ、レオナも「仕方ないな」と今回は大目に見てくれているようだ。そして束の間、2人の世界が展開されると
「んん、それじゃあルピィ、悪いがギルマスに取り次いでくれないか?」
先に身体を離した俺がルピィに本来の目的を口にする。
「え、ええ、分かったわ。少し待っていてね」
俺に言われて彼女もひとつ頷くと、階段を早足で上がっていく。そうして少しすると2階から戻って来たルピィから
「ウィル、皆んな、ギルマスが直ぐにお会いになるそうです」
そう告げられ俺達は2階へ、ギルマスの執務室へと階段を登って行くのであった。
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「ウィル! 良くぞ全員無事に帰って来たな!」
執務室の中に入った俺達を出迎えたギルマスの第一声がコレである。それだけを聞いても、如何にこのヒトが俺達の事を心配してくれていたか良く分かる。
「そらまぁ、無事に帰って来る事は約束したからな」
それに対して割と素っ気なく答える俺。少し照れくさかったからなのは秘密である。
「それで? 前人未到と言われた第十二階層はどうだった? 簡単で良いから報告を聴かせてくれないか?」
「ああ、先ず俺達は──」
ギルマスの言葉にそう言い出して話し始める俺。第八階層から第十階層、そして第十二階層に行った事は軽く流して、第十二階層には謎の存在が居て、その所為でジゼル達を捜して最奥の守護者部屋まで行かざるを得なかった事、その途中で遭遇したのは見事なまでに魔虫系の魔物ばかりだった事、ボス部屋で第十二階層のボスと対峙した事、そのボスこそが謎の存在だった事、そのボスはアラクネのミロスラーヴァと言う名持ちだった事、苦戦の末ミロスラーヴァを討伐した事、そして其のミロスラーヴァをコーゼストが従魔に加えた事等等、それこそ余すところ無く全てを話して聞かせた。因みに師匠達にはミロスラーヴァの事は既に話してあったりする。
俺の話を黙って聞いていたギルマスの表情は徐々に驚きに満ちて行き、最後のミロスラーヴァの件では目をひん剥き、顎が外れるくらい口をあんぐりと開けて呆然としていたりする。
何か色々とすまん、ギルマス。
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「お前はまた、なんつーモンを従魔にしたんだ……」
俺の話を聞き終えたギルマスが執務机の上で頭を抱えながら漏らした第一声がコレである。
「そんな事言われても……コーゼストの判断だし、なぁ?」
ギルマスの言葉にそう反応を返す俺。別に俺がミロスラーヴァを従魔にしたいとか言った覚えは無いから、文句はコーゼストに言って欲しい。
「「なぁ?」ぢゃねぇだろうーーーッ! そもそもコーゼスト殿のマスターはお前なんだから、お前が責任持つのが当たり前だろがッ!?」
俺の物言いに軽くキレながら真っ当な反論で言い返して来るギルマス。だが俺にだって言い分がある。
「こう言うのも何だが、俺にコーゼストを御せるとギルマスは本気で思っているのか?」
「うぐっ!? そ、それは……」
俺の反論に今度は声を詰まらせるギルマス。それはそうだろう、俺もコレで目一杯コーゼストを抑えているつもりなんだからな。まぁ責任は無い、とは言いきれないが…… 。
「何となく私が謂れの無い誹謗中傷を受けている気がするのですが……気の所為ではありませんよね、マスター?」
俺とギルマスの一連の会話を黙って聴いていたコーゼストから抗議の声が上がる。ちょっと待て、それには俺だって言いたい事が山ほどある。
「気の所為なもんか。お前は自分自身の傍若無人ぶりを一度で良いから省みて見ろって」
俺はかなり本気でコーゼストにそうツッコミを入れるのであった。
いや、本当に!
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その後ギルマスと幾つかの話を交えて、冒険者ギルドを辞して屋敷に戻る事にした俺達。当然の事ながらルピィも一緒に、である。
「明日のパーティーの準備はシモンを始め、使用人達がマーユと一緒になって準備しているから安心して良いわよ。勿論オルガさんやマディや私、それにルピィやジータやリーゼも手伝ったけどね♡」
屋敷への道すがらエリナからそうパーティーの準備に関して話を聞かせてもらった。俺の奥様’Sやマーユやシモン達も、俺が居ない間に良くやってくれたな。これは晩餐会の終わった後に臨時で特別手当を出さないとな。
そんな事を考えながら、皆んなを引き連れて第三層区画北街区を屋敷に向かって歩く。ここは所謂高級住宅地で、神官や高位の冒険者や貴族が住んでいる区画であるが、偶にこうしてファウスト達従魔を連れて歩いていたりする。
最初の頃はここに住む住人達に思わず2度見された事もあったが、最近はすっかり慣れたみたいで、ファウストやデュークやスクルド、そしてヤトやセレネにも気軽に声を掛けて来てくれる様になった。今だって道行くヒトから色々と声を掛けてもらっているし。
それに聞くところによると、ファウスト達が街中を歩く様になってから、この辺の窃盗等の犯罪がめっきり減ったらしい。まぁ話の出処はマイヤーズ卿──エヴァン夫妻からなんだが、それを聞いて悪い気はしない。
そんな事を思っているうちに、俺の目前には2日ぶりの我が家が見えてきたのであった。
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「お父さぁーーんッ! お帰りなさいッ!」
屋敷に着いて早々、マーユがそう言いながら俺に抱き着いて来た。
「はははっ、ただいまマーユ」
そのマーユの頭に優しく手を載せて撫でる俺。こうしていると無事に家に帰って来たなと言う実感が湧く。俺に撫でられ、くすぐったそうにしていたマーユだが、俺の感触を確かめると「アンお母さんもレオナお母さんも、お帰りなさい!」と言ってアン達の方へと駆けて行った。
「お帰りなさいませ旦那様、皆様も。無事の御帰還おめでとうございます」
その後にうちの完璧家令シモンが出迎えの言葉と共に綺麗な礼を執る。
「ああ、ただいまシモン。俺が居ない間、良くやってくれたな」
「いいえ、私の手だけでは御座いません。お残りになられた奥様方やマーユお嬢様のご尽力あればこそです」
俺の言葉に謙遜してそう返事を返すシモン。その辺は流石我が家の完璧家令の事はある。コレは臨時手当倍額決定だな。
「「「「ウィル! 皆んなもお帰りなさい!」」」」
そんな事を考えていると、今度はマディ、オルガ、ジータ、リーゼの4人が出迎えの台詞と共に俺に抱き着いて来る。そしてやおら皆んな身体を離すと
「今回もご苦労様! 無事に帰って来てくれて嬉しいよ♡どうだったんだい、今回の冒険は?」
4人を代表してオルガが笑顔を見せながら俺に尋ねて来る。他の3人やマーユ、シモン達使用人達も聞きたそうな顔をしている。
「さて、何処から話せばいいかな……」
その様子に苦く笑いながら、俺は今回の事を屋敷に残っていたヒト達に語って聞かせるのだった。
ここまでお読みいただき有難うございました!
次回は2週間後になります!
それではお楽しみに!!




