旅程のススメ
本日、第二十六話投稿します!
何でも無い日から一変、急な出来事って結構有りがちですよね(確信)
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「──ふむ、今日は此処までであるか」
ラファエルが単眼鏡を掛け直しながら、俺の左腕から顔を上げた。
今日はゆっくりしようと思ったのだがコーゼストから『ラファエルとの約定を済ませよう』との一言で1日空けて再び訪れたのだ。まぁ、宿屋でゴロゴロしていても仕方ないし特にやる事も無いから構わないのだが…… 。
因みにアンとノーリーンはファウスト達をモフりながらソファでお茶会である。ノーリーンよ、君もモフり教の信者になったのか?
「それにしても──コーゼスト殿は正に魔具制作者の目標の極みであるな。制御核に使われている魔水晶は優に及ばず、腕輪部分に使われている未知の材質、精緻にして詳密な魔法術式。そのどれもが我々が憧れる究極の到達点である」
ラファエルは些か早口で言葉を紡ぐ。
「それで──コーゼストは外せるのか?」
俺はとりあえず聞いてみる──尤ももうコーゼストを外す事には拘らないのだが。
「それは無理であるな。ウィルの左上腕とコーゼスト殿はしっかりと融着している。これを分離するのは現在の魔法工学では不可能である」
案の定の答えが返ってきた。
『──現在、マスターの肉体への侵食率65パーセント。同化作業は51パーセント完了しています。この段階での物理的排除は事実上不可能です──マスターはまだ私を排除したいのですか?』
コーゼストが些か不機嫌な物言いの念話で問い掛けてくる──が、心配するな。今の所はその気が無いから。
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「ラファエルさんはコーゼストさんに使われている魔法言語が読めるんですか? 確か古代魔族が使っていた『旧き言霊』ですよね?」
いつの間にかアンがこちらに来て話に参加して来た。もうモフるのは終わりか?
「全ては読めないがね……だが古代魔族の言語は古代魔導文明で使われていた言語に極めて近しいモノであるが故、幾つかの単語が解れば後は文章として構成するのは造作もないのであるよ」
『それでも私の制御核を解読出来るのは、ラファエル様が優秀な証だと思います』
「いやいや、それ程でも無いのであるよ! うん!」
ラファエルがドヤ顔でふんぞり返る。コーゼストもあまりコイツを持ち上げない様にな!
「旦那様、唯の社交辞令を鵜呑みにしないでくださいませ」
ノーリーンが透かさず突っ込みを入れる。本当にこの二人の呼吸はぴったりである。
「そう言えば……この前の超振動短剣の事は解る様になったのか?」
「うむ! それは勿論、理解出来ているのである! 」
俺が何気なく聞いた事にも、更なるドヤ顔で答えるラファエル。正直言って鬱陶しい事この上ない。
「その割りには昨日一日、憤悶としてませんでしたか?」
再びのノーリーンのツッコミでラファエルの動きが停止し、そのまま首だけをギギギッと音がするかの如く廻してそちらを見やる。そうなのか?
「……ノーリーン、それは言わないでくれないかね? 私の名誉に関わるのだよ………」
「そんな愚にもつかない名誉などお捨てくださいませ」
ノーリーンは今日も絶好調である。
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「ところで……依頼を受ける気はあるかね?」
ノーリーンにおちょくられて激昴したラファエルをどうにか宥める事に成功したと思ったら、落ち着いたラファエルから不意に切り出された。
「……俺達は暫くのんびり過ごすつもりなんだが…………」
「まぁ聞きたまえ──依頼と言ってもオールディス王国の近隣の、ツェツィーリア共和国までの護衛なのだよ」
「この時期に隣の国まで用事とか……何かあったのか?」
「中々察しが良いであるな。実はツェツィーリアのイオシフと言う山間の閑村の廃坑で、迷宮が発見されたのだよ──より正確に言い換えれば鉱山の廃坑が迷宮に変化したらしいのであるがな」
それが本当なら一大事である。確か隣のツェツィーリア共和国は山岳部が国土の大半を占め近隣諸国に鉱山で採掘される鉱物資源を輸出して国民を養っていた筈だから、これで実入りの良い迷宮が発見されれば、かなり国が潤う筈だからだ。しかし─── 。
「ギルドではそんな話は聞いた事が無いんだが──?」
「それは情報の伝達の違いであるな。私の所にはある信頼出来る伝手から連絡が入り迷宮探索を打診されたのだよ。魔物の落とす素材は勿論、元廃坑と言う事であるから多少なりとも鉱物資源が発見されるやもしれない。全ては向こうのギルドとの折半であるが星銀や剛鉄でも見つかれば、それだけでも価値があるのだよ」
「だが、それには条件が有るんだろ? かなり難しいんじゃないのか?」
「うむ、条件は新しい迷宮内の魔物の種別と分布を調べるのが先ず第一であるな。そして出来れば最深部迄への到達と水晶地図板での地図作成である。そして──これが重要なのであるが、最深部まで踏破した者に迷宮の命名権を与えられのだそうだよ!」
ふーん、そうなのか。まァ命名権なんか要らないが、新しい迷宮には興味は有るのだが──
ん? ちょっと待て。何だかこの流れだと………… 。
「ラファエル……結局お前をツェツィーリアに送り届けると、俺達が迷宮探索させられる流れじゃないのか……?」
「いや、私達も迷宮探索に同行するのだが?」
「あのなぁ~、俺達はゆっくり休むと言っただろが!! それが何でお前達と一緒に──ん? 何でお前達なんだ?お前だけじゃないのか?!」
「それは当然! 私とノーリーンの2人である」
俺は思わず頭を抱えてしまった。唯でさえ休みを潰して目的地までの護衛のみならず、護衛対象2人を護ったまま真新しい迷宮探索とか──無茶苦茶だ!!
だが、俺が断ればギルドに依頼して誰かがコイツらの面倒を見る事になる──最悪依頼が受け付けられなかった場合、ラファエルの事だから1人でも行くだろうし──もし万が一にでも何かあったらこの貴重な友人を失いかねないし……うむむむ………… 。
何ともお気楽なラファエルの依頼に思わず思い悩む俺であった。
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『ウィル。この話受けてくださっても私は構いませんよ。彼は親友なのでしょう?』
俺が思い悩んでいるとアンが念話で背中を押してくれた──いや、親友じゃなくて腐れ縁なんだが──はァ。
「………それで何時出発する予定なんだ」
「うん? と言うと?」
「こちらにも準備が有るんだ。何時なんだ?」
「──ウィルフレド、依頼を受けてくれるのかね?」
「あぁ。お前みたいな向こう見ずな奴を他人に任せる訳には行かないだろうが」
「向こう見ずとは些か心外であるな。勇猛果敢と言ってくれたまえよ」
ラファエルが鼻息も荒く主張して来る。
「旦那様の場合、単細胞若しくは直情径行の方が適切だと思いますが」
ノーリーンの極めて冷静な突っ込みに再び凍り付くラファエル。何やってるんだ、お前達?
「兎に角先ずは準備だ。場所がツェツィーリア共和国なら──移動手段は徒歩か?」
「う、うむ。私は二頭立ての馬車を所有しているので、それを使おうと思う」
すぐさま復活したラファエルが地図を呈示して目的地まで指し示す。
「なら──ツェツィーリア共和国まで大体片道20日、更に目的地まで約5日。余裕を含んで大体1ヶ月の用意だな。それなら3日で準備が出来そうだから出発は──5日後でどうだ?」
地図を見ながら道程を頭に思い浮かべて大体の日数を予測してラファエルに提示する俺。
「うむ! それで構わないのであるよ!!」
「んじゃ、早速準備するか──ラファエル達は直ぐに領兵詰所に行って旅行手形を貰って来てくれ。それと食料と着替えと防具と野営準備も。あと馬車の準備もしっかり頼む。俺達は護衛依頼と迷宮探索に向けた準備をしておく」
「分かったのである!」
「わかりました。お任せ下さい」
ラファエルとノーリーンはすぐさま準備を始めた。どれ、俺達も市場で買い込むかぁ……ギルドにも報告しないと…………はァ。
「アン、済まない。ゆっくり休もうって言ったのに……」
「いいえ、これはこれで楽しいかもしれないですよ♡」
アンは明るい笑顔を見せて元気付けてくれる。
まぁ、たまには旅に出るのも良い──のかもな。
因みに──今日は約定通り、金貨1枚キチンと取り引きしたのは言うまでもない。
結局、流されてラファエル達と旅に出る事になったウィル達のお話でした!
やはりウィルは押しには弱い? 意外とラファエルの性格とコーゼストの性格が重なるのは私だけでしょうか?(汗)




