突入、そして守護するモノとの問答
大変お待たせ致しました! 本日は第254話を投稿します!
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「──炎精斬波ッ!!」
そう一声吠えると同時に愛刀『天照』を横薙ぎに振るう俺!
炎を纏った斬撃波は真一文字に「魔王の庭」第十二階層の通路一杯に拡がり、束の間の距離を駆け抜けると、コーゼストの物理結界を通り抜けて、物理結界に動きを阻まれていた闇王蜘蛛達3体に襲い掛かる!
炎の斬撃波は闇王蜘蛛の身体に当たると、熱したナイフが牛酪を溶かし切るかの様に、何の抵抗も無く両断して行く!
闇王蜘蛛達を纏めて斬り裂いた斬撃波の炎は、闇王蜘蛛達の身体はもとより、通路全体を覆い尽くしていた蜘蛛の糸にも引火して紅蓮の炎へと姿を変えると、その赤い炎は舐めるように蜘蛛の糸の上を這って拡がって行く!
一瞬で通路一杯に拡がった炎は蜘蛛の糸を燃やし尽くすと、今度はあっという間に鎮火して行く。その辺は魔法の炎と同じ様で、可燃物が無くなると本当にあっという間である。
「ふぅ…………」
それを見届けて残心を解く俺。幾らコーゼストの物理結界に護られていたからと言って、炎からの熱までは防ぐ事は出来ず、俺自身結構熱かったのはここだけの秘密である。
「お見事でした」
後ろに居たコーゼストから掛けられるのは短い賛辞。同じく後ろに居たアン達からも「お見事」と言う言葉が投げ掛けられる。その言葉に少し面映ゆい気分になり
「よ、よしッ! それじゃあコーゼスト!」
思わずそう1人大きな声を上げる俺。
「そうですね。それでは──」
俺の言葉を受け、コーゼストは再びこの先を慎重に探査するのであった。
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「──使用可能の感覚端末を全起動。『星を見る者』情報処理──この通路の先にある部屋に強力な探知妨害の結界が張り巡らされています。私達の最終目的地点と見て間違いないないかと」
この第十二階層で何度目かの探査を終えたコーゼストの台詞がコレである。と言うか『星を見る者』使えたんだな…… 。
「ここから先の様子を『星を見る者』で観測出来なかった訳は、先程マスターが焼却した蜘蛛の糸です。アレには恐らく魔力が豊富に含有していたのでしょう。なのであれだけ高密度に張り巡らされていた結果、探知妨害の結界として機能していたと思われます」
毎度の事ながら俺の思考を読んだコーゼストから追加の説明が行われた。どうでもいいがお前はいい加減黙ってヒトの考えを読むのをヤメレ。
「はァァ〜ッ、そんじゃあもうこの通路には闇王蜘蛛や他の魔物は居ないんだな?」
俺はデカい溜め息をひとつ吐くと、コーゼストにそう訊ねる。傍らで俺とコーゼストの話を聞いていたアン達もその点を気にしているみたいで、コーゼストが次になんと言うか息を殺して注目している。何せ魔虫系──特に蜘蛛系や暴食魔蜚蠊等は女性陣には生理的に受け付けないのだろう。
「──はい、ここから先の部屋の手前まで他の魔物の反応はありません」
そんな思いを知ってか知らずか、事実だけを報告して来るコーゼスト。実に淡々としている。
女性陣から安堵の溜め息が漏れるのを聞いて、俺はただ苦笑いを浮かべるしか無かったのである。
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闇王蜘蛛が遺した魔核を回収しつつ、速やかに且つ慎重に通路を進む俺達。目的地目前で罠に掛かるなんて、冗談でも笑えないからな。
「ウィルさん、この先は罠はありませんでしたよォ」
先行して通路を調べて来たスサナからそう報告を受けて、小さな安堵の溜め息を漏らす俺。自身の心配が杞憂に終わったからに他ならない。
「……そうか。何にせよ取り越し苦労で済んで良かったよ」
なのでついそんな軽口が口をついて出てしまったりする。
「マスターの場合は単に心配症なだけなのでは? そのうち綺麗に禿げますよ?」
「……お前は俺に喧嘩を売っているのか?」
そこにコーゼストから真っ当なツッコミが入り、それに思わず真顔で言い返す俺。と言うか、もし本当に禿げてもお前が第八階層の生産設備で作っている発毛薬があるから大丈夫だろうが!
ふと後ろを振り返ると、俺とコーゼスト2人の掛け合いセリフを聞いていたアン達が、笑いを堪えて肩を震わせていたりするのが見える。キミ達も大概失礼だな?!
「えへん! と、兎に角アレだ! 部屋の前まで進むとするか!」
そんなアン達に聞こえるように態とらしく咳払いをひとつすると、俺は無理矢理に話題を元に戻す。そうでもしないと延々と堂々巡りになりかねないからだ。決してアン達に話を聞かれて小っ恥ずかしかったからではない。
兎に角そうして気を取り直した俺達は、最終目的地点である部屋の前まで改めて移動するのであった。
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さて件の部屋の前まで問題なく到達する事は出来たが、ここからまた難関が待ち受けていたりする。
「コーゼスト、今一度、お前の感覚端末を使って、この部屋の中を探ってみてくれ」
「了解──・──やはりセンサーによる走査が強力な探知妨害の結界に阻まれています」
俺の指示を受け再度部屋の内部を探査したコーゼストから案の定な返答が。その返答に思わず頭を抱えたくなる。
「はぁ……やっぱりかよ」
何でも見通せるコーゼストのセンサーによるスキャンを受け付けない強力な結界、それはつまりこの部屋の中には第十二階層の守護者が存在する事を示唆している訳に他ならない。
この「魔王の庭」でデュークやヤトなどの守護者との戦闘を経験しているアンやルアンジェの表情も冴えない。きっとあの時の苦戦を思い出しているのだろう。
「十中八九間違いなく、この中には守護者が居るでしょうね。しかも今までの魔物の出現パターンから、間違いなく格75オーバー、順位Sの強力な魔物だと思われます」
そこに駄目押しとばかりにコーゼストから嫌な意味での推測が語られる。コーゼストの推測を聞いて今度はスサナ、ルネリート、アリストフの3人の顔色が優れない──然もありなん。
だがここが俺達の目指していた最終目的地点だとすれば、この部屋の中に間違いなくジゼルやフェデリカが居る筈なのだ。
「……これは行くしかないな」
俺はそう短く呟くと部屋の扉に手を掛けて、ゆっくり力を込めるのだった。
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部屋の入口の扉が少し軋みながら開かれる。
部屋の内部は魔導照明の仄暗い灯りに照らされており、部屋の最奥には真っ黒な闇が沈黙と共に横たわっていたのである。その光景に何となく既視感を感じる俺。
その室内を良く見ると微かに何かが見える?! 薄闇に良く目を凝らして見ると、其れは紛れもない蜘蛛の糸だった。部屋の床にも壁にも天井にも幾重にも張り巡らされた蜘蛛の糸! その所為か、タダでさえ薄暗い魔導照明の灯りが更に薄暗く感じられるのだ!
「「ウウウーーッ、ガルルゥゥゥゥーーッ」」
その時不意に唸り声を上げるファウスト!
「御主人様ッ! あの闇! 何かいる!!」
そして同時に奥の闇を指差しながら身構えるヤト! ヤトの台詞を聞くと同時に獲物を手に身構える俺達!
「御主人様! 彼処を見てッ!」
次の瞬間、セレネが部屋の一点を指差して叫ぶ! 彼女が指差す方には蜘蛛の糸で出来た繭が2つ。その1つから覗いているのは見慣れた戦斧──アレはジゼルの戦斧じゃないか!? するとあと1つの繭は──真逆フェデリカか?!
アン達もそれに気付いたらしく、俺の後ろでざわつくのを背中越しに感じる!
「──クフフッ、フハハハハハハハッ!」
その時、闇のある方から不意に笑い声が?! 声からすると女性の様にも思えるが…… ?
「ッ!? 誰だッ!? 姿を現せ!」
闇に向かってそう誰何する俺。アン達の間にも緊張が走るのを背後に感じる!
その時、巨大な闇が確かに蠢いたのである!
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「クフッ、これは失礼しました」
声の主はそう答えると闇の中からゆっくりと姿を現す。
先ず現れたのは濃い黒を湛えた黒髪の短髪の見目麗しい女性の半身──但し一糸まとわぬ裸体であるが。だが良く見ると美しい顔立ちには普通のヒトとは違い、セレネと同じような瞳の無い黒一色の大きな眼が1対2個に小さな眼が額に3対6個、計4対8個の眼が付いている。
それだけでも充分に異質なのだが、続けて上半身に遅れて闇から出てきた下半身は更に異質な物だった。暗黒の闇を吸い込んだかのような真っ黒な体毛に覆われた巨大な蜘蛛の身体──丁度ヒトの上半身が蜘蛛の上顎の上に乗っかっている様な姿を想像して貰えればわかり易いか? コイツは初めて遭遇した魔物だ──だがその名は冒険者ギルドの魔物図鑑で見て知っている!
「ア、アラクネ、だと?」
驚きのあまり辛うじて何とかそれだけを声に出した俺。アン達も俺と同様に言葉を失い、ヤト達は今にもアラクネに飛び掛りそうでいる。
「如何にも。妾は女郎蜘蛛。アラクネのミロスラーヴァと申します」
一方此方とは対照的に、優雅に腰を折って礼を執るのはアラクネ。此奴がこの階層の守護者か! しかもコイツはヤトと同じ名持ちである! こいつは厄介な予感しかしない!
「くふっ、今日はまた賑やかですわね。こんなにヒトが大勢でこの階層にお見えになるなんて、今まで無かった事ですわ」
俺達の間に緊張が走る中、アラクネ──ミロスラーヴァは愉しげにそう喋るのであった。
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アラクネのミロスラーヴァの1人喋りはまだ続いている。
「しかも強そうなヒト達だけではなく、強そうな魔物も使役しているとは……中々に楽しませてくれそうですね」
そう言って俺達1人1人に目をやって愉しげに話すミロスラーヴァ。やがてその視線がヤトの所で止まると
「これはこれは、貴女はイーヴィリアードではありませんか。貴女も無事に目覚めたのですね」
懐かしげにそう話し掛けて来る。
「ッ?! 何でお前がヤトの前の名前を知っているんだ?!」
思わず間抜けにもミロスラーヴァに質問してしまう俺。その脳裏には「真逆」と言う疑念が浮かんでは消える。
「ヤト……? そう、貴女はそこのヒトから名を与えられたのですね」
俺の台詞に一転、今度は羨ましげな声色で話すミロスラーヴァ。
「俺の質問に答えろミロスラーヴァッ! 何故お前はヤトの事を知っているんだ!?」
その様子に思わず声を荒らげる俺。するとミロスラーヴァは
「くふっ、そこのヒトの疑念も尤もですわね。妾とそこのイーヴィリアードは同じ工廠で産み出された者同士……と言えば納得して頂けますか?」
その顔に笑みを湛えたまま、今度はキチンと俺の質問に答える。
「するとお前が第八階層の工廠──生産設備の行方不明の個体なんですね?」
すると今度は今まで沈黙していたコーゼストからその様な言葉が紡がれ、それに笑みを崩さず答えるミロスラーヴァ。
「その通り。魔族に創り出された100体目の魔物が妾ですわ」
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「なん……だと?」
驚きのあまり声を詰まらせる俺。アン達に至っては絶句している。
確かに第八階層の生産設備を俺やアンやルアンジェ、そしてヤト自身やコーゼストと調査した時に、ヤトが古代魔族に造られた生物兵器の完成体だと言う事、完成体は全部で101体造られた事、凡そ500年前に『勇者』を迎え撃つ為に完成体の内99体を投入した事、そしてヤトとあと1体は遺されていた事、その1体がヤトが目覚めるほんの数日前に目覚めて行方不明な事までは判明していたが、真逆こんな所に居たとは思いも寄らなかった。
「ところで──妾からも1つ質問があるのですが宜しいでしょうか?」
俺達が突然突きつけられた事実に茫然としていると、何とミロスラーヴァの方から真逆の逆質問である。
「……な、何だ?」
「いえ、こんな所に来られたのはもしかしなくとも、此方に居られるお仲間を助けに参られたのでしょうか?」
そう言ってジゼルとフェデリカの繭を指差すミロスラーヴァ。
「その通りだ。そこに居る2人は俺達の大切な仲間なんだ。だから返して貰うぞ」
何の気負いも無くそう答える俺。するとミロスラーヴァは急に厭らしい嗤い声を立てる。
「くふふっ、そうですか。しかしあの者達は妾の大切な糧、返して欲しくば……」
「……力ずくで奪い取れ、と言う事だな!」
「その通り!!」
その台詞と同時に部屋の中は一瞬でミロスラーヴァの殺意で満ちる!
今、ミロスラーヴァとの避けては通れぬ戦いが始まろうとしていた。
ここまでお読みいただき有難うございました!
次回は2週間後になります!
それではお楽しみに!!




