The twelve level 〜魔虫戦、そして大蜘蛛〜
大変お待たせ致しました! 本日は第253話を投稿します!
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ラーナルー市S級ダンジョン「魔王の庭」第十二階層2日目── 。
仄暗い部屋の床に敷かれた敷物の上で俺は目覚める。陽の光が無いと時間感覚があやふやな感じになるのだが、手元の水晶地図板を確認すると間違い無く朝だった。
それを確認すると今度は、俺の膝の上を仲良く占拠している短身サイズの従魔達に、膝の上から退去してもらい、漸く自身の身体を起こす事が出来た──やれやれ。
「おはようございます、マスター」
俺が起きるのを待っていたかの様なコーゼストの朝の挨拶が掛けられる。彼女が昨夜の不寝番の最後を受け持ってくれていたりする。
「昨夜は特に異常はありませんでしたよ。まぁ魔物の群れも2度ほど接近しましたが、『魔物避け』の魔道具の結界を嫌ってこの部屋までは来ませんでしたけどね」
そしてちゃんと仕事もしていたりする。因みに『魔物避け』の魔道具とは、魔物が本能的に嫌う波動とやらを周囲に結界として展開する魔道具であるとは、コーゼスト先生の話である。
それなら常時展開しておけば魔物と遭遇しなくて、迷宮の探索も楽になると思うが、こうした手合いの物は所謂『設置型』と言われ、常時移動すると結界の効果が無いのだそうだ。
まぁ世の中そんなに簡単に行けば苦労はしないかと、俺は取り留めもない思考を止めると、遅れて目を覚ましたアン達と朝の挨拶を交わし合う。
さてと、そんじゃあ手早く朝食の準備を済ませてから、ジゼル達の探索を再開するとしますか!
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夜営していた部屋から出ると隊列を組んで再び第十二階層の最奥──ジゼル達が居ると思しき地点へと歩みを進める俺達。コーゼストの見立てだと今日中にはジゼルとフェデリカが居る所に到達する……はずである。
「出来れば今日中にジゼル達と合流出来れば良いんだけど……」
目的地点への途上、そんな言葉を口にするアン。
「それはまぁ、少しでも早く合流出来るに越したことはないが……焦りは禁物だぞ?」
アンの言葉を聞いて、彼女を窘める俺。
「んもう、そう言う事を言っているんじゃ無くて、明日になる前に屋敷に帰らないといけないからでしょ?」
「ああ、明日の俺の誕生パーティーの事だろ? そっちも大切だが今は目の前の事に集中しないとな」
呆れ気味にそう宣うアンに、苦笑いを浮かべながら答えを返す俺。確かに国王陛下なんかを招いているのにも関わらず、パーティーの主役が欠席する訳には行かないからな。でもまあ今はジゼル達と合流する事に集中しないと。
しかしアンの言う通り、時間があまり無いのも事実である。一体どうするか……うーむ…… 。
俺が色々と悩み始めると
「あの、御主人様、ひとつ宜しいかしら? 私とヤトが先駆けすれば御主人様達の負担も減るし、移動速度も上がると思うんですの。どうかしら?」
何とセレネが手を挙げてひとつの案を提示して来た。うーん、それなら何とかなる──のかな? だがヤトとセレネの2匹だけで大丈夫なのか?
俺はセレネの提案をどうするか、慎重に考えるのであった。
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『どうだセレネ? ヤト?』
『此方は問題ありませんわ、御主人様』
『私も大丈夫よ! 御主人様!』
『セレネ、ヤト。その先の通路は右折して下さい。右折して少し進むと、魔物の群れが居るはずです。『星を見る者』で観測した限りでは相手は暴君百足かと思われます。数は3体』
念話でそう会話を交わす俺とセレネとヤトとコーゼスト。結局コーゼストの進言もあり、セレネの提案を飲む形となったのだ。勿論先行するヤトとセレネには決して無理はしない事、そして此方からの指示には絶対従う事を良く言い聞かせたのは言うまでもない。
本来なら迷宮探索でこうした手法は取りたくはないのだが、今回に限り「速さ」を優先する形となったのだ。まぁ今この場にいるメンバー全員、コーゼストの共生化の組織網に組み込まれているから、ヤト達だけで魔物を倒しても「魂の階位から得る力」はメンバー全員に等しく与えられるから良いんだがな。
兎にも角にもヤトとセレネのお陰で、俺達の迷宮内を移動する速度は間違いなく早くなった。単純に言って凡そ2倍か? ヤト達がサクサクと魔物の群れを倒しながら先に進み、俺達はその後ろから来ては、ヤト達が倒した魔物の遺した魔核や遺失物を拾い集めると言う構図となった。これではまるで俺達がヤト達に寄生しているみたいである。
正直本当にこんな事、今回限りにしないとな。普段から命懸けで迷宮探索している他の冒険者達に申し訳ないからな。
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そうしてヤトとセレネには先行してもらい、俺達が後から続くと言う構図が出来て2時間ほど経った頃
「はァ〜、疲っれたァ〜。御主人様、干し肉おかわりッ!」
「もうヤトったら……もっとゆっくりお食べなさいな。あ、御主人様、私には蜜桃をくださいな♡」
「……本当に自由だな、お前達」
その先行していたヤト達と俺達は一旦合流していたりする。流石に2時間ぶっ通しで戦い続けた結果、肝心のヤトから「腹が減った」と休憩を要求されたからに他ならない。
因みにこの2時間程の間に彼女達が遭遇した魔物の群れは、暴君百足を始め兵刃蟷螂に岩窟蜘蛛に闇大蜘蛛、果ては武将蟻と武者蟻の群れとこれまた見事な迄に魔虫──虫系魔物ばかりだったりする。その事に何となく既視感。
「ねぇウィル、この流れってイオシフのダンジョン『混沌の庭園』で経験した気がするんだけど……」
「……奇遇だなアン、俺もそう思っていた所だ」
今までのヤト達の戦果に戦々恐々として尋ねて来るアンと、それに同調して答える俺。するとアンの表情がズーンと重苦しい物に変わる。どうやら『混沌の庭園』での暴食魔蜚蠊の事を思い出したらしい。アレは確かに、特に女性陣にとっては生理的に絶対駄目だろうな。まぁオトコにとってもアレは生理的にキツいもんがあるけどなぁ。
やたら暗い顔をしたアンが、他のメンバーに暴食魔蜚蠊の事を話すのを見ながら、俺は二度とあの小さな暴喰者に出会わない事を密かに願うのであった。
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そうした休憩を挟みながら半日ほど経過した頃──
『御主人様ァ! 急いでこっちに来て!』
『ヤト、慌てないで。御主人様、申し訳ありませんが至急コチラに来てくださりませんか?』
ヤトとセレネから緊急の連絡が飛び込んで来た! どうやら彼女達だけでは判断出来ない、若しくは対処し難い事態が発生したみたいである。
「コーゼスト!」
「『星を見る者』による観測に不具合──どうやらヤト達は結界による探知妨害の端に到達したみたいですね。位置は特定出来ています──彼処の方です」
ヤト達からの緊急連絡を受け、頼りになる相棒の名を叫ぶ俺。それだけで次に何をすべきか、的確な答えを返してくるコーゼスト。コーゼストが指し示す方向に速やかに移動を開始する俺達。
「ウィル、ヤト達は一体何があったんだろうね?」
スサナが先行して罠の有無を素早く確認し、その後ろを急ぎ足でヤト達が居る地点へと進む中、そう不安気に俺に尋ねて来るのはレオナ。
「さぁな、こればかりは行ってみない事には分からないな……」
歩きながらそう答えるに留める俺。念話の雰囲気だけじゃあ何とも分からないからな。
「そうですね──推測するだけなら幾つか挙げられますが……」
コーゼストはコーゼストで思い当たる節があるみたいである。
「何だよ? その奥歯に何か挟まった様な物言いは?」
コーゼストの物言いに突っ込みを入れる俺。こんな時に隠し事は宜しくないからな。
そう言っている間にも、俺達は急ぎ奥へと歩を進めるのであった。
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そうして先に急ぐこと暫し、やがて仄暗い魔導照明の灯りの中にヤトとセレネの姿が見えてきた。俺達の姿に気が付いたヤトが此方に向かって手を振っている。その姿に思わず声を掛けようとすると
『御主人様、そのまま皆んな静かにこっちに来て!』
とのヤトからの念話が!? 良かった、もう少しで声を発するところだった…… 。俺はデュークとスクルドを短身サイズにすると、アンとレオナに抱かせて静かに、そして素早くヤト達の元へと歩み寄り念話で話し掛ける。
『ヤト、セレネ、何があったんだ── ?!』
『『『『『えっ!?』』』』』
話し掛けながら彼女達が見ている視線の先に、自身の視線を向けて思わず絶句する俺とアン達。そこにあったのは、通路全体を覆い隠す様な密度の蜘蛛の糸が、幾重にも重なり通路の奥まで延々と続いている光景であったのだ。
『な、何だよ? これ?』
辛うじて何とかそれだけ言葉にする事が出来た俺。アン達は未だ絶句したままである。
『早かったですね御主人様。ご覧の様な有様で私達も判断に苦しんでいましたの』
通路の闇の奥に注意深く視線を向けていたセレネが、やはり念話で話し掛けて来た。俺が何か言おうとしたその時
「「グルルルルゥゥ」」
それまで大人しかったファウストが不意に犬歯を剥き出しに唸り声を上げた!
『……どうやらまたお出ましの様ですわ』
闇に目を凝らしていたセレネがファウストの唸り声と同時に憎々しげに言い放つ。
その時、闇が確かに蠢いた。
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ソレは大きな黒蜘蛛だった。脚も含めると横幅3メルトは有ろうか? 一見すると闇大蜘蛛にも似ているが、身体のあちこちから禍々しい棘が生えているし、何より大きさが一回りも違うのだ。
『コーゼスト、何だアレは?』
『──アレは闇王蜘蛛ですね。闇大蜘蛛の上位種です』
驚いて思わずコーゼストに訊ねると真逆の答えが返って来た。そうしている間にも闇王蜘蛛3体はゆっくりと近付いて来る。
『セレネ、奴等にお前の「魅惑」や「女王の威厳」は効かないのか?』
『それが……一時的になら魅惑や女王の威厳は効きますが、少しするとまた解除されてしまって……先程からずっと堂々巡りなんですわ』
今度はセレネにそう訊ねると、此方も真逆の答えである。セレネの「魅惑」や「女王の威厳」が効かないなんて、そんな事があるのか? 俺が疑問に思っていると
『──恐らくあの闇王蜘蛛にはセレネの「女王の威厳」を上回る支配が施されているのではないかと。「女王の威厳」で上書きが出来ないくらいの強力な支配権です』
コーゼストが自身の推測を含めた解答を口にする。そんなに強力な支配権を行使出来る相手って一体どんな奴なんだ?
そうしている間にも闇王蜘蛛の群れは徐々に接近し、そして遂には目前まで迫ると
「ギ、ギギギィィィ!」
鋭い牙の生えた上顎を頭ごと振りかざして一斉に此方を威嚇して来た! どうやら此方の気配に気が付いたみたいである。
俺達は武器を一斉に構えると、迎え撃つ体勢をとるのだった!
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『コーゼスト!』
『了解。物理結界展開へ』
俺の一声で即座に俺達を闇王蜘蛛の攻撃から守る為の物理結界が展開される! それと同時に物理結界に激しく衝突する闇王蜘蛛の6本の牙!
よく見ると牙の先端付近には穴が開いており、そこから毒液らしきモノがぬらりと垂れているのが見てとれる。危なかったな、あと少し物理結界の展開が遅かったら誰かがあの毒の餌食になっていたかも知れない。
『この闇王蜘蛛達は格72、順位はA+ですね。技能は有りません』
そんな中でも飽くまでも冷静に確認出来た相手の情報を報告して来るのはコーゼスト。お前は本当に冷静だな?!
『この通路の奥はどうなっているか分からないか?!』
『はい──約150メルト先で左に折れていますね。多分その先が目的の最深部だと思われます』
『つまりココが最後の関門って訳だな!』
コーゼストから報告を聞いて俺は『天照』を持つ手に力を込める! そして!
「──猛る炎よ!」
力ある言葉を紡ぐ! 『天照』の刀身に炎が生まれる! そして!
「皆んな、後ろに下がれ!」
物理結界の手前に居るアン達やヤト達を下がらせると、『天照』の柄を両手でしっかりと握り締めて
「──炎精斬波ッ!!」
そう叫ぶと同時に横薙ぎに大きく振るう! 『天照』の刀身から解き放たれた炎の斬撃波は、通路一杯に拡がりながら物理結界を透過する!
そしてその先で物理結界で動きを阻害されていた闇王蜘蛛達に襲い掛かって行ったのであった!
ここまでお読みいただき有難うございました!
次回は2週間後になります!
それではお楽しみに!!




