8番目との結婚と戻り来る日常と
大変お待たせ致しました! 本日は第249話を投稿します!
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窓から差し込む朝日が部屋に居座る闇を隅へと追いやり、俺はいつも通りにベッドの上で目を覚ます。
「朝……か」
そう呟きつつ自分の足元に目をやると
「「……くぅーん」」
「…………」
「えへへへぇ……御主人様……好きぃ♡」
「ううーん……御主人様、好きよォ……」
短身サイズのファウスト、デューク、ヤト、セレネがいつも通りに俺の膝の上を仲良く占拠していたりする。どうでもいいがヤトにセレネよ、キミら寝ながら「好き」とか言うんじゃありません。俺が短く溜め息を漏らすのと同時に
「おはようございますマスター」
ベッド脇に置かれている椅子に座るコーゼストがそう声を掛けてくる。これもまたいつも通りである。
「ああ、おはようコーゼスト」
そんなコーゼストに短く答えを返す俺。同時に膝上ではファウスト達が目を覚ました。
「「ワンワンッ!」」
「ヴ……マスター、おはようございます」
「んーっ、あっ、おはよう御主人様ッ!」
「……ふわァァ……ん、あら御主人様、おはようございます♡」
「ああ、皆んなおはよう」
4体が4体ともそれぞれに朝の挨拶をして来るのに答える俺。こうして起きるのもまたいつも通りなのだが、今日はここからがいつも通りではないのだ。
「はァ……さてと、起きるとするか……」
俺は顔を洗う為にベッドから身体を起こすと、階下の洗面場へと向かうのであった。このあと身嗜みを整えたら、ツェツィーリアまで出向かないと行けないのだ。
勿論リーゼさんとの結婚式の為、にである。
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あの騒動から1ヶ月半経ち、漸く平静を取り戻したツェツィーリア共和国の首都シィスムル、そこにある大聖堂で俺とリーゼさん──リーゼとの結婚式が厳かに執り行われた。
参列者は俺側がエリンクス国王陛下、ジュリアス王太子殿下、ネヴァヤ女史、愚妹アドルフィーネ、そしてルストラ師匠とアン達7人の奥様達とマーユ。リーゼ側が父親のベルンハルト元元首と母親のイゾルダ夫人、元老院議員の代表と民会議員の代表──2人とも名前を聞いたが忘れたが、それとツェツィーリア冒険者ギルドギルマスのラウゴット氏と、国民から選出された代表が数人。その他には世界評議会からエウトネラ長老が、メペメリア帝国からはギヨーム皇帝が、アースティオ連邦からはバーナード大統領が、ミロス公国からはエルキュール大公が、トルテア自由都市からはヤスメイン盟主がそれぞれ代表として参列していた。
そしてここツェツィーリアでも大聖堂の中に安置されている創造神ライゼファの神像を前に結婚の誓約をし、リーゼと結婚指輪と誓いの接吻を交わした。真っ白な結婚衣装に身を包んだリーゼが少し大人びていた様に見えたのは秘密である。あとアドルフィーネが真っ白に燃え尽きていたのも。
そのあとは大聖堂から議会府までの大通りを、豪奢な馬車に乗り結婚行進と相成ったのだが、シィスムルの数多くの市民達から熱烈な祝福を受ける事になった。その事からもリーゼが如何に国民から人気が高いか伺い知れた。
兎にも角にもこうして俺とリーゼは晴れて正式な夫婦になったのであった。
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「皆さん、改めて宜しくお願いしますッ!」
結婚式を終えて色々と落ち着きを取り戻したリーゼを、屋敷へと迎えてのアン達への第一声がこれである。
「改めてようこそリーゼさん。私達はあなたをウィルを愛する同志として歓迎します」
それを受ける形でのアンの返事がこれである。アンの後ろではエリナ以下6人の奥様達が皆んな笑顔で頷いている。こうして見るとやはり家庭内序列はアンが第1位である。
「それではア・ナ・タ。これからが大変でしょうけど、私達をちゃんと分け隔て無く可愛がってくださいね♡」
俺がそんな事を考えていると満面の笑みで俺にそう宣って来るアンさん。それを聞いて思わず顔を引き攣らせて「お、おう」としか答えられない俺。やはり家族の中で俺のヒエラルキーは底辺なのを実感する。
「リーゼお母さん! こちらこそよろしくお願いしまーーすッ!」
そんな中ただ1人マーユだけは変わらず愛くるしい笑顔で、新しい母親のリーゼにペコリと頭を下げて可愛く挨拶をしている。それを見て「きゃーっ、可愛いーーーっ♡」とこれまた盛り上がるうちの女性陣──中々に姦しい。
「あっはい、マーユちゃん」
ここでも律儀に答えるリーゼ。本当に君は真面目か?
「んもう! 私の事はマーユって呼んで!」
そんなリーゼにマーユから真逆のクレームが入った。マーユ、意外に厳しいな。
「あ、えっと、マ、マーユ?」
「はい! リーゼお母さんッ!」
慌てて言い直すリーゼと今度は満足気に返事を返すマーユ。
まぁこうして2人を見ると母娘と言うよりは姉妹だよな…… 。
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因みに今回の結婚に際して俺はツェツィーリアの元老院から『栄誉伯』と言う爵位を賜った。
聞くところによるとこの『栄誉伯』なる爵位は今回特別に創られた爵位で、領地は無いが権限は普通の伯爵並に有している爵位であり、いつでも自由にオールディス王国からツェツィーリア共和国に渡航入国出来るとの事だった。正直コーゼストの転移魔導機で2つの国を行き来する俺にとっては実に都合が良い爵位なのは間違いない。
それと同時に俺の名前もツェツィーリア国内限定ではあるが「ウィルフレド・ド・ハーヴィー」と言う雅名も頂戴した。これでリーゼも「リーゼロッテ・ド・アーベル」から「リーゼロッテ・ド・ハーヴィー」となる訳だ。まぁ俺の立ち位置はリーゼの「王配」(女王の配偶者)となる訳で、流石にツェツィーリアの国政に口を出す気は毛頭ない。
それよりもこの後、世界評議会に加盟している西方大陸の主要国が、軒並み俺をツェツィーリアと同じく「栄誉伯」に叙爵したのだ。具体的にはメペメリア帝国、アースティオ連邦、ミロス公国、トルテア自由都市の4カ国が、である。オールディス王国は既に俺を辺境伯に叙しているから今回は特には無いが、まぁ俺の母国だしな。
更に因みに付け加えると、俺を「栄誉伯」に叙した5ヶ国と世界評議会には、頼まれていた遠方対話機を既に手渡してあったりする。
当然の事ながらこの5ヶ国と世界評議会からは対価は頂いたのは言うまでもない。
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そしてバタバタの結婚式を終えた翌日の朝
「……すぅすぅ」
俺のベッドには全裸のリーゼが気持ち良さげに眠っていた。そうである、彼女とは一夜の甘い夜を過ごしたのである。アンを始めとする7人の奥様達に負けず劣らずリーゼもやはり美少女であり、その反応のひとつひとつのあまりの初々しさにコチラが我を忘れる所だったりする。
隣で寝息を立てている美少女は女性らしい起伏に富んだ裸体を投げ出して、本当に気持ち良さげに眠っている。裸体に掛かる金髪は朝日に煌めき、その姿をまるで天使か妖精かのように見せていた。そんなリーゼの肩に優しく手を掛けて優しく揺り起こす俺。
「……リーゼ、朝だぞ」
「う、うーん……」
ひとつ身動ぎすると閉じていた瞼をゆっくり開けるリーゼ。そしてぼんやりとした顔で俺の方を見やると
「あっ……お、おはようウィル」
急に意識が覚醒したらしくあっという間にその頬に朱が差す。
「ああ、おはようリーゼ」
俺はそう答えると彼女の唇に自分の唇を軽く重ねる。因みにこの目覚めの接吻は、アン達ともベッドを共にした時にしている事でありリーゼだけが特別では無い事を強調しておく。
「さぁそろそろ起きようか? 皆んなが食堂できっと待っているからな」
「はい、ウィル♡」
重ねた唇を離してそう言葉を発する俺と、それに嫋やかな笑みで答えるリーゼ。
まぁ食堂に行ったら行ったで皆んなに何を言われるか、大体想像がつくんだけどな!
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兎にも角にもこうして俺の日常は再び戻ってきたのだ。リーゼとの結婚式に合わせてマーユも呼び戻したし、あの騒動から考えれば日常が戻ってきたと言えよう。
リーゼはツェツィーリアの自宅に居て平日は議会府でバリバリ仕事をこなし、週末になると転移魔導機で俺の屋敷へと来ている云わば「通い婚」状態である。そんな事していたら疲れないか? と言う俺の疑問に対して
「良いんです。私が好きでやっているんですから! それに疲れても屋敷に帰ってくれば貴方やアンさん達やマーユがいますから♡」
とこれまたにこやかに答えるリーゼ。それを言われたら俺はもう何も言う事が出来ない。まぁ本人が大丈夫だと言っているんだから、そこは俺が彼女を信用しないとな。
そしてそれもまた何時もの日常へとなって行く中、俺も久しぶりに「魔王の庭」へと潜っていたりする。そもそも冒険者の方が俺の本分だからな、元に戻ったとも言えよう。それにそろそろ冒険をしないと腕が鈍りそうで怖いのだ。
「まぁマスターの場合は単なる貧乏性なだけなんですけどね」
「それはそれで酷い言われようだなッ?!」
こうしたコーゼストとのやり取りも、最早定番である。そしてそれを聞いて横を向いてプルプルと肩を震わせるアン達の姿もやはり定番だったりする。
「と、兎に角だ、先に進むぞッ!」
その様な事を断然華麗に無視して声を上げる俺。どうでも良いが、君らここが迷宮の中なのを忘れてないか?
頼むからもう少し緊張感を持とうな!
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そんな日常が戻って来てから半月ほど経ったある日、俺はアン、エリナ、ルピィ、レオナ、オルガ、リーゼとマーユ、そして言わずもがなのコーゼストを伴って、王都ノルベールを訪れていた。より正確には宿屋『銀の林檎亭』のオリヴァーとイグリットらに会う為に、である。
前回のアン達との結婚式の時は王都で式を挙げたので彼等も都合がつけられたが、今回は店が忙しくて都合がつけられず、俺からオリヴァー達に結婚相手のリーゼを紹介する為に挨拶がてら訪れたのだ。
「「「ウィルさん、リーゼロッテさん、ご結婚おめでとうございますッ!」」」
そして今、俺とリーゼの目の前ではオリヴァー、イグリット、リズちゃんの3人が声を揃えて、俺とリーゼに祝福の言葉を贈ってくれているところである。
「はァ……それにしてもこれで8人目ですか…… 。ウィルさんには驚かされてばかりですねぇ」
アンさん達7人と結婚式を挙げた時も驚きましたけどね、とはオリヴァーの弁である。
「それに関しては俺が一番驚いているんだけどな……」
そんなオリヴァーの台詞に苦く笑って答えるしかない俺。まぁ今回のリーゼの場合は周りに押し付けられ……ゲフンゲフン、もとい俺が状況に流された結果なのだが、だからと言ってリーゼと結婚した事をこれっぽっちも後悔はしていないのは確かである。
それに何よりもだ、リーゼが幸せそうにしているんだからな。
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「えへん、まぁそれはさておき、だ」
俺はわざとらしい咳払いをひとつすると隣の席に目をやる。
「何でお前がここに居るんだ、アドル?!」
そう、そこには何処で聞きつけて来たかわからないが、我が愚妹のアドルフィーネがちゃっかり座っていたのである。俺の棘のある言葉にもめげず
「それは勿論! 兄様の新しい奥様に御挨拶をする為に!」
そう声高らかに宣うアドル。
「そう言うが本音のところはどうなんだよ?」
「ふふん、それは勿論! 私の愛で兄様の目を覚まさせる為に──キャン?!」
本音を訊ねると妄想垂れ流しまくりの回答をするアドルの頭に軽くチョップをかます俺。
「兄様……痛い……」
「誰が悪いんだ? だ・れ・が!」
頭を押さえて涙目のアドルと突っ込む俺。そんな顔をしても同情はせんぞ? アン達はアン達で何とも言えない顔で事の成り行きを見ているし、マーユに至っては吃驚していたりする。
俺は小さく溜め息を吐くと、リーゼとアドル双方にそれぞれを紹介する。リーゼには結婚式の時に軽く説明しておいたのだが、俺の話にやはり驚いていた。まぁコレもまたアン達も通った道なので何とか頑張って欲しい。
そう言えばアドルにも今度は歳下の義姉が1人増える事になるのだが、出来れば仲良くやって行ってもらいたいものだが…… 。
俺は目の前で小さなマーユに慰められているアドルの様子を見て、またもや溜め息をそっと吐くのであった。
アドル、お前は本当に大人か?
ここまでお読みいただき有難うございました!
次回は2週間後になります!
それではお楽しみに!!




