種明かしと強襲
大変お待たせ致しました! 本日は第245話を投稿します!
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騙し合いの末、すんでのところでツェツィーリア共和国のダヴィート代表らに、転移の魔道具でツェツィーリアに逃げられた。
だがダヴィート代表の口からハッキリとオールディスとの開戦の意思ありと聞いたので、もう迷う事はひとつも無い。サッサとツェツィーリアに乗り込んで奴等の企みごと叩き潰すのみである。だがその前に── 。
「あーっと、皆んなちょっと落ち着こうか?」
ダヴィート代表らが転移で逃げ果せた後、混乱の極みにいるエウトネラ長老以下の世界評議会メンバーにそう声を掛ける俺。
「ハーヴィー卿ッ! 何をそんな悠長な事を言っているのだ!? 彼等強硬派の手に国鍵が渡ってしまったのだぞ?!」
「うむ、しかもこの場で宣戦布告をしたのだ! 奴等は直ぐにでもゴーレム軍団を起動させて、このオールディスに攻め込んで来るやもしれん!」
だが俺の言葉にエウトネラ長老やエリンクス国王陛下から焦りの言葉が返される。他のメンバーも真っ青な顔をして慌てている。
「いや、アレは国鍵であって国鍵じゃないんだ。コーゼストが作った唯の模倣品さ。アレ自体には何の力も無いから安心してくれ」
その様子に苦笑いを浮かべながら、ひとつの回答を示す俺。
「「「「「「「えっ?! そうなのか?!」」」」」」」
俺の答えに全員が見事なまでに声をハモらせる。
「ああ、こんな事で嘘ついてもしょうがないからな」
全員の声に俺がそうハッキリと答えて、漸く評議会メンバー達も落ち着きを取り戻したのであった。
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皆んなが落ち着きを取り戻した所で、改めて今回の種明かしをすることにした。
「先ずは──リーゼさん、コーゼスト、入ってきてくれ」
「はいッ、失礼します!」
「失礼します」
会議室の扉がノックされ、続けて中に入って来るのはリーゼさんとコーゼスト。特にコーゼストが入ってきた時は、また周りが騒然とした。
「こ、コーゼスト卿が2人ッ?! これは一体どう言う事だ!?」
「あーっと、それは……」
驚きの声をあげるギヨーム皇帝陛下らに向けて、コーゼストは自動人形と魔導擬似肉体の2つの身体を使い分けられる事、特に魔導擬似肉体は容姿や性別を自由に変化出来る事、そして今回はこれ等を最大限に活用して、コーゼストにリーゼさんに化けてもらっていた事を話した。
「ほぉ、コーゼスト卿はその様な事が出来るのか……」
バーナード大統領が2人のコーゼストを見ながら、感嘆の声を上げる。
『ええ、かなり魔力を消費しますが自動人形の身体と魔導擬似肉体を制御するのは可能です──それではマスター、そろそろオートマトンに戻りますね。では』
そう言うが早い、映像表示機で『使徒』を操作していたコーゼストの姿がスっと消え、代わりにオートマトンのコーゼストが操作を受け持つ。
「これは凄い!」
「ほ、本当なのだな……」
周りからの声にドヤ顔のコーゼスト。だからそのドヤ顔はヤメレと言うに。俺は咳払いひとつすると
「えへん、まぁこれが今回の種明かしって訳だ。因みにあの偽物の国鍵にはコーゼストが魔法で位置情報が判る様にしてあるんだよ」
そう言って苦笑いをするのだった。
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「兎に角だ、これで我が国に火急な危機は無いと言う事だな」
ホッとした様子で話すのはエリンクス国王陛下。世界評議会のメンバーも同様だ。
「まぁそう言う事だが……コーゼスト、向こうは何か動きはあるか?」
そんな様子を見ながら『使徒』を操作しているコーゼストに尋ねると
「はい。現在ダヴィート代表達は転移先の議会府の上階から地下に向かって移動しています。向かっている場所は最地下にあるゴーレムの保管庫で間違いないかと」
ダヴィート代表らの動静を克明に報告してくれる。映像表示機の映像にはダヴィート代表の禿頭が映っている。
「それにしても……良くリーゼロッテ媛に化けたコーゼスト卿に、あのダヴィート代表が本物だと判りましたね」
徐ろにそう言うのはエルキュール大公。そういやその辺の種明かしはしてなかったな。
「それはですね、控え室でリーゼロッテさんには映像表示機でダヴィート代表の顔を予め確認しておいてもらったからですよ」
俺が答えようとすると、代わりにコーゼストが答えを返していた──しかもドヤ顔で。それを聞いて「なるほど」と納得してくれるエルキュール大公。本当にお前は美味しい所を持って行くな?!
そう嫌味のひとつでも言おうかと思ったその時
「──ダヴィート代表達が最地下のゴーレム保管庫前に到達しました」
『使徒』を操作していたコーゼストがそう言って来たのである。
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「リーゼさん、強硬派の奴等は何人居るんだ?」
映像表示機に写し出される映像を見ながら、そうリーゼさんに質問をする俺。
「はい、元老院30名の内、強硬派と呼ばれる議員はダヴィート議員を含めて15名ですね。残り15名の内10名は中道派で、穏健派は5名です」
俺の質問にスラスラと答えるリーゼさん。
「今保管庫前に居るのはダヴィート代表を含め丁度15名、するとアレは全て強硬派と言う訳ですね──今保管庫の扉を開けたようです」
『使徒』で奴等を監視していたコーゼストからはその様な言葉が聞こえて来る。
「それとリーゼさん、元老院直属の騎士達は全部で何人居るんだ?」
「ええっと、確か直属の近衛騎士隊となると総勢70名ですね」
「リーゼロッテさんの仰る通り、保管庫外には武装した騎士らしき人物が70名居ますね。その中にはイヴァン近衛隊長の姿もあります」
俺の次の質問にもリーゼさんはキチンと答え、コーゼストがそれを裏付けしてくれる。うーん、それなら何とかなるかな? 俺は意を決すると
「エウトネラ長老、エリンクス陛下、ここは俺の騎士団を投入しようと思うんだが……良いか?」
そうエウトネラ長老らに許可を求める。するとエウトネラ長老は
「良いも何も、君には外郭部隊としての全権を一時的に移譲しているのだ。君の判断に任せる」
そうハッキリと言葉にするのだった。よぉし! これで大手を振ってツェツィーリアに乗り込めるな!
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議長のエウトネラ長老の言質を取り付けてからの俺の動きは早かった。
すぐさまラーナルー市で待機しているエリナに遠方対話機で事情を簡単に説明し、ハーヴィー騎士団に直ちに出撃する様に命令を下した。勿論ツェツィーリアまではコーゼストの転移魔導機を使ってひとっ飛びである。
そうしている間にも映像表示機には、コーゼストが化けたリーゼさんの手から奪った偽の国鍵を使って、ゴーレム軍団を動かそうと躍起になっているダヴィート代表達の姿が映し出されている。
どの様にして1000体ものゴーレム軍団を起動させるのか、気にはなっていたのだが、ゴーレムが置かれている保管庫の中に映像表示機の様な魔道具が設置されており、その魔道具に文字通り国鍵を差し込んで起動させるみたいである。
だが何度やっても魔道具が起動せず、ここに来て漸く手にした国鍵が偽物だと気付いたようで、映像の向こうでダヴィート代表が文字通り地団駄を踏んでいる様子が写し出される。行くなら今だな!
「それじゃあ俺とコーゼストは騎士団を連れてツェツィーリアに乗り込むとする。世界評議会の皆んなはここで映像表示機を見ていてくれ」
「うむ、ハーヴィー卿よ、吉報を待っているぞ!」
俺の台詞に皆んなを代表して答えるのはエウトネラ長老。エリンクス陛下もただ静かに頷いている。良しっ! そんじゃあ──
「待ってください!」
その時、不意にリーゼさんから声が掛かる。
「どうか私も連れて行ってください!!」
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「……その理由を聞いてもいいか?」
「ツェツィーリアは私が生まれ育った国です。その国の命運が掛かる一大事を1人だけ安全な場所に居て、ただ見ているだけなんて出来ません! お願いします、ウィルさん! 私も連れて行ってくださいッ!」
俺の問いに凄く真剣な面持ちでそう懇請してくるリーゼさん。うーん、気持ちは分かるが……危険じゃないか? 俺がそんな風に逡巡していると
「ハーヴィー卿、いやウィルよ、リーゼロッテ媛を連れて行ってやってはくれまいか?」
ここで真逆のエリンクス陛下からの言葉である。
「良いのか、陛下?」
「うむ、私もリーゼロッテ媛と同じ立場であるなら、きっと同じ事をウィルに頼むであろうしな。それに事は一国の盛衰にも関わる一大事であるからな。それもまた彼女を突き動かしているのだろう」
俺の問い掛けに、そうハッキリと言葉にするエリンクス陛下。はァ……そう言う事なら仕方ないか。
「わかった、わかりました。リーゼさんも一緒に行こうじゃないか」
リーゼさんの懇請とエリンクス陛下の依頼を受けて、両手を上げて降参の意を示す俺。
「ウィルさん、あ、有難う御座いますッ!」
「但し! 決して俺の傍を決して離れない事、これが連れて行く条件だ!」
喜ぶリーゼさんに釘を刺す事を忘れない俺。こうして期せずしてリーゼさんを伴ってツェツィーリアに乗り込む事になったのである。
厄介な事にならないと良いんだが…… 。
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兎にも角にもリーゼさんが同行する事になり、改めてツェツィーリアへの突撃を仕切り直す俺。無限収納から 『天照』と 『神威』を取り出して、2本とも腰に下げると準備万端である。
「良しっ! コーゼスト。それじゃあ頼む!」
「ではお2人とも私の傍にお寄り下さい──はい、それでは──転送」
コーゼストの台詞と共に足元で明滅する魔法陣がひときわ輝きを増して、次の瞬間には俺とリーゼさん、そしてコーゼストはラーナルー市で待機している俺の騎士団の前に転移していた。
「ウィル! コーゼスト!」
転移が明けると同時に駆け寄って来たのは、ご存知騎士団長のエリナ。リーゼさんが一緒に居る事に一瞬怪訝な面持ちになるが、それも直ぐに霧散して
「ハーヴィー騎士団総勢75名、準備は万端よ! 団員達には作戦を既に説明してあるから大丈夫!」
そう報告してくれる。エリナが事前に作戦を説明しておいてくれて正直助かった。それでも一言だけは言わないとと思い立ち
「ハーヴィー騎士団の諸君! 我々は今回世界評議会の外郭部隊としてこれからツェツィーリアに転移で一気に乗り込む! 目的はオールディス王国に戦争を仕掛けようとしているツェツィーリア強硬派の捕縛と事態の鎮静化! 各員がその義務を尽くすことを期待する! 以上!」
と激励の言葉を掛ける。するとそれに呼応するかのような『おぉーーーッ!』と言う勇ましい声が騎士団から上がる。士気も高そうで何よりだ。
そんな様子を見て、コーゼストに予定通りの転移を指示する俺。
良し、いよいよ突撃だ!
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転移の魔法陣から溢れた光が急激にその輝きを失うと、見慣れない部屋の中に俺達は居た。強襲の意味もあり、俺達はダヴィート代表達が居る保管庫の外に待機している直属の騎士隊の真ん前に転移して来たのである。目前には突然現れた俺達に大混乱に陥っている騎士隊の姿が。その中には当然イヴァン近衛隊長の姿もあった。
「ハーヴィー騎士団! 吶喊せよッ!!」
騎士団長エリナの命令を受け、鬨の声を上げパニックに陥っているツェツィーリアの騎士隊へ攻撃を仕掛けるハーヴィー騎士団の団員達! パニックで統率の取れていない騎士隊は瞬く間に制圧されて行く! そんな中
「うぬぬ、小癪な!」
イヴァン近衛隊長だけは、次々に斬り掛かって来るうちの騎士団員達の攻撃を躱すと、歩兵剣を抜剣しリーゼさんの方に突っ込んで来た!
「させるかぁ!」
俺は一言そう言うと『天照』に手を掛けながら、リーゼさんとイヴァン近衛隊長の間に身体を割り込ませる! そして次の瞬間! そのまま斬り掛かって来たイヴァン近衛隊長のショートソードは、柄を残して剣身部分が『天照』によって叩き斬られた!
「な、なにィーーッ?!」
素っ頓狂な声を上げるイヴァン近衛隊長の胸当ての護ってない胴目掛け、切り返した『天照』の峰を勢い良く叩き込む俺! くぐもった声を上げ、その場に崩れ落ちるイヴァン近衛隊長。
残心を解いて周りを見ると相手の騎士達は全て制圧出来たみたいである。
さてと、後は本命のダヴィート代表達だけだなッ!
ここまでお読みいただき有難うございました!
次回は3週間後になります!
お楽しみに!!




