謁見の間と過去の超技術と
大変お待たせ致しました! 本日は第240話を投稿します!
今回は束の間、屋敷の食堂で寛ぐウィル達の会話から話が始まります!
-240-
「そう言えばマスター。そろそろマーユちゃんを此方に呼び戻しても宜しいのでは?」
リーゼさんの衝撃の告白と騒動から2日後、皆んなが集まる食堂で徐ろにそう宣うのはコーゼスト。
実はマーユはと言うと、俺のツェツィーリア共和国行きが決まってからオーリーフ島へ一時帰郷させていたのである。何せどのくらいの期間、屋敷を空けるか見当もつかなかったのと、愛娘であるマーユの身の安全を考えて、マディに遠方対話機で連絡を取り、転移魔導機でオーリーフに送っていたのである。因みにネヴァヤ女史には既にギルドの非常用転移陣でシグヌム市に戻ってもらっていたりする。
「そうだなぁ……いや、まだ向こうに居てもらおう」
コーゼストの言葉にそう返事を返す俺。
「何で? 貴方が無事帰って来たんだから呼んであげればいいじゃない?」
俺の言葉を聞き咎めてそう反論するのはアン。エリナ以下、奥様達も「そうだそうだ」と頷いている。
「いや……未だ問題は解決してないからな。寧ろこれからが大変そうだし……」
そう言うと苦い顔をする俺。俺とアン達の会話を聞いていたリーゼさんは顔に「?」を貼り付けており、そんなリーゼさんにオルガが事情を説明してくれている。どうでも良いが毎朝良く欠かさず屋敷にやってくるな、オルガさんや。
「ま、まぁもう少し落ち着いたらちゃんと呼び戻す事にするよ」
俺の言葉に黙って頷く皆んな。本当にこんなくだらない事一刻も早く終わらせて、また皆んなで仲良く暮らしたいものである。
俺はそう思いながら手を止めていた食事の続きを再開するのだった。
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それから更に3日経ち、オルガからエリンクス国王陛下との謁見の日取りが決まったとの連絡を受けた。何と明後日には謁見だそうだ。
「意外に早かったな……」
「それはそうだろう。何せ事はオールディスとツェツィーリア双方に関わる重大な案件なんだからね。国王陛下だってかなり無理をしている筈さ」
俺の独り言みたいな呟きに苦笑混じりに答えるオルガ。そんなオルガの台詞に今度は此方が苦笑する番である。
「まぁ今話した通りなので……リーゼさん?」
「は、はい!」
ここでいきなりリーゼさんに話を振るオルガ。当の本人はいきなり呼ばれて姿勢を正す。
「明日の朝旦(午前)に旦那様と共に王都の私の屋敷に御招待するよ。準備を整えておいてくれたまえ」
「は、はいッ! グラマス、宜しく御願い致します!」
背筋を伸ばしてそう返事を返すリーゼさん。そんなに緊張しなくても、誰も取って食う訳じゃないから安心しなさいって……等と俺が思っていたりすると
「そ・れ・と・旦那様♡」
今度は俺に話を振ってくるオルガさん。何となく悪戯っ子みたいな顔をしている。
「ん? 何だ?」
「そう言う訳だから、彼女のドレスなんかの準備を宜しく御願いね♡当然私もついて行くからね♡」
これ以上無い笑顔でそう宣うオルガ。そう言いながら君も新しいの買う気満々だなッ?! これはまた『スィームシルキー』や『エムメルス』をはしごしないといけないのかぁ…… 。
俺は目の前で燥ぐオルガに、大きな溜め息をつくのだった。
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オルガから話があった日から2日後、俺とオルガとコーゼストはリーゼさんを伴い、王城ブリシト城を謁見の為に訪れていた。
いつもの如く侍従長に先導され長い廊下と幾つもの階段を通ること暫し、俺達は謁見の間に通されて陛下を待つ事に。やがて少し待つと
「待たせたな」
その言葉と共に謁見の間に姿を現したのはエリンクス国王陛下とジュリアス王太子殿下の2人。2人の姿を認めると同時に、右膝を床に着き傅く俺とオルガとコーゼスト。右手を左胸に当てて臣下の礼を執る。リーゼさんは頭を深く下げてお辞儀を執る。正面の玉座に座られる国王陛下。
「エリンクス国王陛下、オルガ・ロア・ハーヴィー、罷り越しました」
「エリンクス国王陛下、仰せによりウィルフレド・フォン・ハーヴィー並びにコーゼスト、罷り越しました」
国王陛下はひとつ鷹揚に頷くと「大義である」と一言。そして視線をリーゼさんに移して声を掛ける。
「そして其の方が?」
「お初にお目に掛かります。ツェツィーリア共和国ベルンハルト・ド・アーベルが娘リーゼロッテ・ド・アーベルと申します。エリンクス・フォン・ローゼンフェルト国王陛下におかれましては御機嫌麗しゅう存じます」
声を掛けられ淀みなく挨拶の口上をスラスラ口にするリーゼさん。うちの屋敷に居た時のあのド緊張加減は何処に行った?
俺は深く頭を垂れながら、偉く場違いな事を考えていたりするのだった。
いや、本当に本気で!
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「リーゼロッテ媛、漸く会えたな」
そう感慨深げなエリンクス国王陛下。疲れた顔をしているのは気の所為では無い筈だ。
「概要はそこに居るハーヴィー卿から聞いている。すまんが今一度、貴国で起きている事実を詳しく教えてくれまいか?」
挨拶もそこそこに早速本題に入るエリンクス陛下。俺達も臣下の礼を解いて楽にしている。
「はい。身内の恥を晒す様で恥ずかしいのですが……」
陛下の問い掛けにそう一言断ってから、訥々と話し始めるリーゼさん。
ひと月ほど前に自身の父親であるベルンハルト元首が突如元老院の手で失脚させられた事、その直前に父親から国鍵を託された事、元老院の強硬派が国鍵を狙っている事、自身は追手の手を逃れる為に迷宮『混沌の庭園』に身を潜めた事、そして議会府の地下の保管庫に1000体もの巨大戦闘ゴーレムが眠っている事、強硬派の真の目的はそのゴーレム軍団を手中に収める為では無いかと言う事、諸々全てを。
「……そして私はウィル──ハーヴィー辺境伯閣下に助けられて、今ここに居るのです」
そう言って話を締め括るリーゼさん。なんのかんの言っても一国の代表者の一人娘がそこには居たのである。
「真逆その様な事になっているとはな……」
衝撃の事実に言葉を失う国王陛下。それはそうだろう、もし俺がリーゼさんの保護に失敗していたら、今頃ツェツィーリアと戦争になっていたかも知れないのだから。
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「しかし……1000体ものゴーレムか……俄には信じ難い話でもあるな……」
そう独り言ちるエリンクス国王陛下。それは施政者としては当然の反応である。
「私は確かに見ました。議会府地下の広大な保管庫を埋め尽くすゴーレム達を。それでは証拠になり得ませんか?」
陛下の呟きにそう反論するのはリーゼさん。それもまた当然の反応である。
「いや、リーゼロッテ媛の言葉を信じていない訳では無いのだが……やはりこの目で見ない事には俄には信じられないのだよ」
「そ、それは……そうですが……」
至極真っ当な陛下の言葉に返す言葉が無いリーゼさん。それもまた施政を預かる者としては当然の言葉であるが、幾ら何でもリーゼさんが可哀想である。何とかならないものか…… 。
「国王陛下」
俺がリーゼさんを何とか支援しようと口を開こうとした時、コーゼストが先に声を上げる。
「うむ、何だねコーゼスト卿?」
「そのゴーレムの存在が確認出来れば良いのですね?」
「うむ、その通りだ。ん? もしや卿には何か秘策があるのか?」
コーゼストの言葉に食い気味に訊ねて来る陛下。俺もオルガもジュリアスも、そしてリーゼさんもコーゼストに注目する。
「ただひとつ、古代魔導文明の遺した観測システムを使って、ツェツィーリアの議会府地下の保管庫を覗く事は可能かと」
コーゼストはそう事も無げに真逆の秘策を陛下に言ってのけるのであった。
何だよ、観測システムって?!
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謁見の間での話はまだ続いている。
「何なのだ、その……観測システムと言うのは?」
コーゼストの言っている意味が解らず、思わず質問を返すエリンクス陛下。俺も知りたいが何となく聞くのは躊躇われる。
「はい。観測システムと言うのはその昔、古代魔導文明がこの大地の上の天空、その更に上にある宇宙に浮かべた『使徒』と呼ばれる機械の星です。システム自体は『星を見る者』と呼ばれていましたが。オルガ様ならお解りになられるのでは?」
陛下からの質問にそう答えて話をオルガに振るコーゼスト。俺はもう既に話について行けなくなっている。
「……確かに古代魔導文明には『stargazer』と言う名の天体観測システムが有ったけど……真逆コーゼスト殿がそのシステムの事を知っているとは驚きだね」
驚きとも呆れともつかない声でコーゼストに答えるのはオルガ。俺はオルガに
「その天体観測……って言うのは一体何なんだ?」
と聞くので精一杯である。
「凄く簡単に言うと夜空に浮かぶ星を観測するシステムの事さ。古代魔導文明では一時期そうした天体観測がブームだった時があったんだよ」
俺の質問に丁寧に噛み砕いて説明してくれるオルガ。なるほど、だから『星を見る者』なのか。
「その、星を観測するシステムとやらをどうするつもりなのだ? コーゼスト卿?」
コーゼストに恐る恐る訊ねる国王陛下。するとコーゼストは
「はい。これを宇宙から地上を精査出来る様に転用するのです。その為に多少時間が必要ですが」
これまた事も無げに言ってのけるのであった。
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「そんな事が出来る、のかい?」
コーゼストの台詞にそう質問を投げ掛けるオルガ。
「出来ますよ。多少下準備が必要ですが」
その質問に端的に返事を返すコーゼスト。そしてエリンクス陛下に「今此処で行なっても?」と許可を求める。
「う、うむ、許可しよう。私もコーゼスト卿がどの様にするか、興味があるからな」
コーゼストの台詞に鷹揚に首を縦に振る陛下。
「それでは──『スターゲイザー』管制機構に接続」
陛下の許可を得て早々にそう呟くコーゼスト。同時にその頭上には複雑な魔法陣が複数展開される!
「『スターゲイザー』基幹情報計算機に接続──読取開始──・──読取完了。全『使徒』の制御命令を確認──・・──・──新規の制御命令を構築──」
コーゼストの台詞に呼応して魔法陣が目まぐるしく書き換えられて行く!
「『スターゲイザー』基幹情報計算機に制御命令を挿入。記述命令復元確認────動作確認完了。全『使徒』の制御を掌握しました」
やがて頭上の魔法陣が消えると同時にそう宣言するコーゼスト。
「『使徒』G-09、観測対象を変更。対象:ツェツィーリア共和国首都シィスムルにある議会府地下」
続けてそう指示を出すと陛下や俺達の方に向き直り
「さて、これで地下の保管庫を覗けますが……あとは皆さんが見れる様にしないといけませんね」
そうニッコリと笑顔を見せるのだった。
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コーゼストが目前で行なった一連の出来事に、エリンクス陛下以下の面々が完全に茫然自失としている中、サッサと自身の無限収納から縦横奥行1メルト程の正立方体の姿をした魔道具を引っ張り出すコーゼスト。
「何だよ、それは?」
コーゼストが出した魔道具について訊ねる俺。
「これは『使徒』で写した映像を見る為の映像表示機です。これで皆さんにお見せしようかと」
俺の質問に無駄に大きな胸を張って答えるコーゼスト先生。
「──ッ! こ、コーゼスト卿!? こ、これで本当にそんな遠くの、しかも地下にある物を見る事が出来るのか?!」
いち早く立ち直った陛下が、やや興奮した面持ちでコーゼストに問い掛ける。
「はい、それは勿論──どうやら映像が届いたみたいですね。今から映像表示機上に表示します」
そう言いながら映像表示機を操作するコーゼスト。すると映像表示機の上の空中に何やら写し出される。それは特徴的な巨大な建造物らしき物。
「こ、これは! ツェツィーリアの議会府です!」
ここでいきなり声を上げるのはリーゼさん。どうやらあまりの出来事の連続に完全に呆けていたらしい。然もありなん。
「これから地下を写し出します。この映像は機械的では無く、飽くまでも魔力による観測なので地下でも問題無く写す事が出来る筈です」
そう言うと再び映像表示機を操作するコーゼスト。映像が切り替わると、そこには夥しい数のゴーレムの姿が?!
「発見しました。恐らくこれでしょう」
誰かが息を呑む音だけが聞こえてきた。
遂にエリンクス陛下とリーゼロッテさんの謁見が実現しました! これは大きな一歩ですね!
そして同時にしれっと過去の超技術を披露するコーゼスト! まぁお陰でリーゼロッテさんの発言ににわかに信ぴょう性が増しましたが……はっきり言ってやり過ぎな気がしないでもありません(笑)
ここまでお読みいただき有難うございました!
次回は3週間後になります!
お楽しみに!!




