鍵の真実と口付けと 〜修羅場の予感?〜
お久しぶりです。昨年はお世話になりました。本年も宜しく御願い致します。
さて新年第一回目の投稿は第239話からです。リーゼロッテさんを正式に匿う事になった翌日から話が始まります。
-239-
リーゼさんを正式に匿う事になった翌日
「ただいま──あら、ウィル達も帰って来ていたのね。お疲れ様ッ」
「「「「「「ただいま戻りました!」」」」」」
「魔王の庭」に潜っていたルストラ師匠とエアハルト達が朝イチで屋敷に戻って来て、食堂に顔を出したのである。
因みに師匠とエアハルト達は全くの別行動であり、師匠に至ってはオルティース──オルトの鍛錬が一応の終わりを見せたに伴い、単独で「魔王の庭」に潜っていたのである。相変わらずの無双ぶりである。
「おかえり。師匠もハルト達も丁度良かった。実は皆んなに紹介したいヒトが居るんだ」
出迎えの言葉を口にする俺は続けてそう言葉を発する。
「うん? 誰かしら?」
師匠が代表して返事を返す。俺は近くに居たネヴァヤ女史に手を向けると
「先ずこのヒトはシグヌム市の冒険者ギルドのギルド統括のネヴァヤ・ファーザムさん。ネヴァヤさん、このヒトは俺の武術の師匠であるルストラ・フォン・モーゼンハイムさん。あとは『戦乙女』のエアハルト・ベルネット、ジゼル・バリエ、クロエ・アズライラ、ミア・ファリオ、フェデリカ・アマートの5人だ」
俺は初顔の師匠達を紹介する。
「あら、貴女が有名な二国間ギルドのネヴァヤさんね! 初めまして、私はウィルの師匠のルストラよ! 宜しくお願いするわね」
俺の紹介に真っ先に笑顔で右手をネヴァヤ女史に差し出す師匠。
その辺は流石師匠、年の功である。大きな声では言えないが。
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「此方こそ初めましてルストラさん、そしてエアハルトさん達も。私がウィルさんから紹介に与りましたネヴァヤ・ファーザムです。宜しくお願いしますね。特にルストラさん、貴女のお噂はかねがね聞き及んでおりますよ」
差し出されたルストラ師匠の手を握り、笑顔で言葉を交わすのはネヴァヤ女史。こうして聞くに付けてやはり師匠は有名人なんだな、と改めて思わされるのである。まぁそれはさておき
「それと……彼女はリーゼロッテさん。ツェツィーリア共和国の──ベルンハルト元首の娘さんだ。訳あって暫くうちの屋敷に居る事になった。師匠もハルト達もひとつ宜しく頼む」
同じく近くに居たリーゼさんに手を向けて紹介する俺。一瞬、身分の事を黙っていようか、と言う考えが頭を過ぎったが、ここはやはり包み隠さずに話す事にした。
「は、はい! 皆さん初めまして! 今ウィルさんから紹介に与りました、ベルンハルトが娘リーゼロッテ・ド・アーベルと申します! 暫くの間宜しく御願い致しますッ!」
俺の紹介を受けてお辞儀をしながら、元気良く自己紹介をするリーゼさん。それに対して「此方こそ宜しく」と彼女に挨拶を返す師匠とエアハルト達。すると不意に師匠が俺を手招きして来たので傍に寄ると
「……ねぇウィル。リーゼロッテさんって訳ありでしょう?」
と真顔でそう言い当てる。
「流石は師匠。実は──」
俺も真顔でそう返すと、師匠やエアハルト達に今のツェツィーリアの状況を掻い摘んで説明するのだった。
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「そう言う訳があったのね……」
俺の話を聞き終えてポツリ呟くのはルストラ師匠。エアハルト達もツェツィーリアの現状を聞いて顔を強ばらせている。
「リーゼロッテさんも色々と大変だったわね。とりあえず落ち着くまでは、ウィルの厚意に甘えなさいな。ウィルも大変だと思うけど頑張りなさい」
徐ろにリーゼさんに優しい言葉を掛ける師匠。そして一方では俺には激励の言葉を投げ掛ける。師匠の言葉にリーゼさんは「有難うございます!」と感激しているが、ここ一応俺が家主なんだが? まぁ良いけど…… 。
「ただいまァ……はぁ疲れたわ」
「「「「ただいま戻りました」」」」
俺が師匠の言葉に返事を返そうと口を開こうとした時、皆んなが居る食堂に次に顔を出したのはエリナとベルタ達だった。皆口々に「お帰り」とエリナ達に出迎えの言葉を投げ掛ける。無論俺もネヴァヤ女史も「お帰り、エリナ。ベルタ達も」と出迎える。
「あっ、あなた! 戻って来ていたのね! お帰りなさいッ! ネヴァヤ様もお久しぶりです!」
「「「「ウィルさん、お帰りなさい! ネヴァヤ様もお久しぶりです!」」」」
俺とネヴァヤ女史の姿を認めると嬉しそうに声を上げるエリナとベルタ達。エリナに至っては俺に抱き着いて来たりする。
「何日ぶりかしらね! それで今日は皆んな揃って何かあったのかしら?」
俺の感触を思う存分楽しんでから、やおら周りを見回してそう宣うエリナさん。
「ああ、それはな──」
俺はエリナ達にも師匠らに話した事を話して聞かせるのであった。
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「そんな事になっていたなんて……」
今のツェツィーリアの状況を聞いたエリナは半ば絶句していた。それはそうだろう、下手をするとツェツィーリアがオールディスに向けて挙兵し、下手をするとその際にエリナ率いるハーヴィー騎士団がツェツィーリアとの戦争の急先鋒に立たされていたのかも知れないのだから。
「それ等を阻止する為に、その国鍵を持つリーゼロッテさんを匿っているのね……」
因みに既にリーゼさんにはルストラ師匠の事に続いて、エリナの事も話してあったりする。リーゼさんは「このヒトもまた奥様のおひとりなんですね……」と、またもや衝撃を受けていたみたいだが……先日7人居るって説明しましたよね? もう一々会う度に説明するのも何なので、今ここには居ない奥様達の話も改めてしておく事にした俺。まぁそれはそれとして── 。
「エリナ、騎士団の方はどうなっているんだ?」
そう彼女に騎士団の状況を確認する俺。
「ええ、全員陛下やあなたの命令ひとつで即時に動けるようになっているわ。練度もかなりの水準まで達しているし、実戦も問題ない筈よ」
俺の問い掛けに自慢げに胸を張って答えるエリナ。
「この4ヶ月足らずで良くそこまで育て上げたな、凄いぞエリナ」
その事を素直に賞賛する俺。本当に大したものである。
「まぁ、それほどでもあるわよ。うん!」
俺の言葉にドヤ顔のエリナさん。どうやら彼女にとって騎士団長は天職だったみたいである。
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期せずして屋敷の食堂に全員が集まる事になったのを見て、俺はリーゼさんに未だ聴いていなかった事を思い切って尋ねてみた。
「リーゼさん、ひとつ聞いても良いか」
「は、はい、な、何ですかウィルさん?」
俺の問い掛けに振り向くリーゼさん。相変わらず噛み噛みである。いい加減に緊張しないで欲しいんだが?
「強硬派が狙っている国鍵って一体どんな物なんだ?」
「あっはい、これがそうなんですけど……」
そう言うと着ている服の前襟を開けて、ふくよかな胸元から認識札とは別に、銀の鎖を取り出してその垂飾を俺に示す。そこにあったのは持ち手の所に親指の爪ほどの魔水晶が嵌め込まれた長さ7セルト幅3セルトほどの蒼く輝く ゛ 鍵 ゛ !
「これが国鍵、権力の象徴か……」
蒼く輝くのを見ると材質は星銀製か? 魔水晶が嵌め込まれているところを見ると、何らかの魔道具っぽくもあるが。
「リーゼロッテさん、これはもしや何かの魔道具を起動させる為の文字通り「鍵」なのでは?」
俺が感じた疑問を口にするのはコーゼスト。本当にお前は美味しい所を持って行くな?!
「……流石ですねコーゼストさん。貴女の言う通り、これは単なる権力の象徴だけではなく、議会府の地下の保管庫にある1000体の巨大戦闘ゴーレムの起動の為の鍵とも言い伝えられています」
コーゼストの台詞に驚愕の事実を述べるリーゼさん。彼女の爆裂魔法級の衝撃的発言に、その場が一気に凍りついたのであった。
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「そもそもは今から200年前にツェツィーリアが国として形作られた頃、私達の祖先達はその1000体の巨大戦闘ゴーレムで国土に居た魔物達や異民族を蹴散らし、国を成したとされています。そしてそれは今も当時の姿のまま、議会府の地下保管庫に置かれているのです。もしツェツィーリアが国難にあった時、再び国を護る為として」
そこまで言うと香茶で喉を潤し、ほぅ……と息をつくリーゼさん。突然の告白に誰もが凍りついたみたいに咳きひとつ立てずにいる。
「……幾つか良いか?」
「はい、どうぞウィルさん」
誰よりもいち早く再起動した俺はリーゼさんに言葉を投げ掛ける。
「ひとつ。その事は強硬派の連中も……?」
「はい、当然知っていますね。そもそもダヴィート議員はこのゴーレムを使ってオールディスに攻め込むべき、と息巻いていましたから」
偉く物騒な奴だな、ダヴィートって奴は! 何となくこいつだけをどうにかすれば、全ての問題が解決しそうな気がしなくもない。
「ひとつ。リーゼさんはそのゴーレムを見た事が……?」
「はい、父が元首に任じられた時に一度だけ見ました。確かに地下の保管庫に凄まじい数のゴーレムがいました」
はっきりとそう言い切るリーゼさん。つまり強硬派の真の狙いは、権力の掌握よりもその戦闘ゴーレムの軍団を手に入れる為の行動、と言う方が正しいのかも知れないな。
なるほど、道理で連中が躍起になってリーゼさんの持つ国鍵を欲しがる訳だ、と俺はひとり納得するのだった。
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「あとひとつ、どうしてその事を最初に会った時に教えず、今になって教えたんだ?」
強硬派の目的はわかったがあとひとつ、一番聴きたかった事をズバリ尋ねる俺。
「それは……この事自体、国の秘事でしたので他の国のヒトに話すのが躊躇わられたからです。正直に言うと貴方達の事を完全に信頼していませんでしたので。そして今になって教えたのは、貴方達の事を本当に信頼しても良いかなと思えたからです。それについては深く謝罪致します。本当に申し訳御座いませんでした」
そう言うと頭を深く下げて謝罪の意を示し、そのあとは何処までも真っ直ぐな視線を俺に向けてくるリーゼさん。止めて下さい、その視線とその表情は反則です。
「どうやら此方の負けですね、マスター?」
コーゼストがそう宣い、俺は自身の頭をガシガシ掻くと
「まァ、本当に信頼してくれたのなら文句は無いけどな……」
割と素っ気ない態度で返事を返す。するとリーゼさんは満面の笑みを浮かべた顔で
「はいっ! 改めて宜しく御願い致しますね、ウィルさん!」
そう言うといきなり俺の頬にキスをして来る──ってちょっと待てーーーッ!
『『『『『あああああっーーーッ!?』』』』』
食堂に響き渡るアン達の絶叫。
「いきなりの修羅場ですね」
それと同時に何やら愉しげにそんな台詞を宣うコーゼスト。
いやいや、そもそもなんでキスされなきゃならんのだ?!
俺はリーゼさんの行動に困惑を深めるのだった。
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「本当に申し訳御座いませんでした……」
ひと騒動あった後、現在絶賛アン達の前で土下座を敢行しているのはリーゼさん。そして何故か俺も土下座させられていたりする。
「良いですか? リーゼロッテさん」
その一方で土下座する俺とリーゼさんの前に仁王立ちなのはアンさん。エリナやレオナも同様だ。
「貴女は確かに大切なお客様ですが、ヒトの旦那様にあの様な事をするなんて……少しは節度と言うものを持って下さいませんか?」
言葉遣いは偉く丁寧だが明らかに怒ってらっしゃるアンさん。
「それにア・ナ・タ」
その怒りの矛先が今度は俺に向く。
「幾ら何でも油断し過ぎです! そこはちゃんと防御して下さい!」
「面目次第も無い……」
ここは素直に謝る俺。だって一言返すと「言い訳禁止!」と言われかねないからだ。
「あ、あの、アンさん?」
そんな最中におずおずと手を挙げるのはネヴァヤ女史。
「何ですか、ネヴァヤさん?」
未だ怒りが収まらないアン。言葉の端々が鋭い棘の様である。
「あのですね、ツェツィーリアでは信頼の証として異性の頬にキスをする習慣があるのですが……」
『『『え゛っ?』』』
ネヴァヤ女史の説明に変な声を上げて固まるアン達。因みに今の声には俺の声も含まれたりする。
「そ、そ……」
それを聞いたアンがいきなりしどろもどろになる。
「「そ」?」
思わず復唱してしまう俺。するとアンは顔を真っ赤に染めて大声を張り上げる。
「そんな風習があるなら最初から言って下さい! 私はてっきり……ゴニョゴニョ……」
てっきり? 何だと思ったんだ、アンさんや?
色々あって感極まったリーゼロッテさんの突然の頬への口付け。本当にウィルはトラブルから愛されていますね(笑)。
まぁ最後のアンさんのゴニョゴニョがすべてを物語っておりますが(笑)。
ここまでお読みいただき有難うございました!
次回は3週間後になります!
お楽しみに!!




