発見! 行方知れずのヒメ様
大変お待たせ致しました! 本日は第237話を投稿します!
魔導頭脳『アルカ』の導きにより、リーゼロッテの潜んでいると思われるセーフエリア前から今回の話は始まります!
-237-
ツェツィーリア共和国のイオシフ村、ザフィロ山にある迷宮『混沌の庭園』、その第六階層に俺達は今居た。より正確には第六階層のとある避難所の前に、である。
「さて、と……ここに件のリーゼロッテ媛が居るのか……」
セーフエリアの木製の扉の前に立ちながらそう独り言ちる俺──勿論小声で。
「それで? ここからどうしますか?」
「どうするも何も……会って直接尋ねるしかないだろう?」
やはり小声のコーゼストからの質問にそう返す俺。ここまで来たのに本人確認もせずに帰る、なんて選択肢は無いからな。
「でも、会っていきなり「あなたはリーゼロッテか?」かと尋ねるのも考えものですよ? 向こうはそうした事を警戒しているでしょうしね」
ここで至極真っ当な意見を口にするコーゼスト先生。
「うーん、それはそうだが……兎にも角にも先ずは、本人と直接話してみないことには何とも言えないなぁ……」
コーゼストの意見にそう答えざるを得ない俺。こればかりは本人がどんな反応をするか、予測がつかないからな。
「そうですね。とりあえず先に此方の身元を明かして彼女の猜疑心を取り除くのが良いかと。何れにしても彼女には信頼してもらわないと話になりませんからね」
そう意見を述べるのはネヴァヤ女史。全くもってその通りである。
俺は小さく息を吐くと目の前のドアに手を掛けて、ゆっくりと押し開ける。少し軋んだ音を立てながら開いて行くドア。
魔導照明の仄暗い灯りの下、彼女はそこに居たのである。
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「……誰?」
セーフエリアの隅で膝を抱えて顔を埋めていた女性が、部屋に入ってきた俺達に気付くと顔を上げる。明るい所で見たなら綺麗であろう長い金髪も、仄暗い灯りの下ではくすんで見える。彼女の足元には魔導提燈と背嚢がひとつあるだけだ。
俺達の様子を見て取った彼女は最初は「何だ、ご同業か……」と言うと興味を失ったかのようだったが、その次に俺達の一番後ろにいたヤトとセレネの存在に気が付くと
「な、何で魔物がこの部屋にッ?!」
一瞬で立ち上がり、歩兵剣に手を掛けて身構える。
「あーっと、驚かせて申し訳ない。コイツらは俺の従魔だから安心してくれ」
身構える女性にそう言いながらヤトとセレネの肩をぽんぽんと軽く叩く俺。その様子に女性は
「何だ……そうなのね……はァ、吃驚したわァ」
明らかに安心したように大きく息を吐く。
「驚かせて済まなかった。俺はウィルフレド・フォン・ハーヴィー、Sクラス冒険者だ。彼女達は俺の氏族のメンバーだ」
そんな女性にそう自己紹介をする俺。すると女性は
「ウィルフレド・フォン・ハーヴィーですって?! あの『英雄』の職業持ちの?!」
いきなりハイテンションになる。
「そ、そう言えば確か彼はラミアやモスクイーンを使役しているってギルドで聞いたわね……」
そしてやおらブツブツと呟く金髪の女性。これは流れ的に名前を尋ねても大丈夫かな?
俺は顎に手を当て呟き続ける女性の様子を見ながら、そんな事を思うのだった。
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「えっと、それで君の名はなんて言うんだ?」
それならと意を決して女性に名前を聞く俺。すると彼女は急に姿勢を正すと
「あっはい! 私はリーゼロッテ・ド・アーベル! こちらのギルドでBクラスに認定されています! 職業は剣士ですッ!」
あっさりと自らの名前を口にしたのである──おいおい。どうやって彼女がリーゼロッテ本人かを確認するか……なんて色々考えていた俺達の気苦労も何もあったもんじゃない。
「結局杞憂に終わりましたね、マスター」
流石のコーゼストも呆れ顔だ──尤も一番余計な心配していたのは他ならぬお前なんだが? 思わずジト目でツッコミそうになったがグッと堪える俺。色々言いたいが今はそんな事をしている場合では無い。
「そうか……やはり君がリーゼロッテ本人なんだな」
俺が再確認の為にそう言うと、彼女──リーゼロッテさんは「しまった」と言う顔をして、ほんの少し返答が遅れる。が覚悟を決めたらしく
「……はい、そうです」
と改めて返答する。そして続けて
「貴方達は私を捕らえる為に遣わされたのですか?」
と今度は此方を警戒するかの様な鋭い視線を向けながら問い掛けて来る。そんな彼女の警戒心を解く意味で俺は大きく首を左右に振ると
「その逆だ。俺達は君を保護する為にシィスムル冒険者ギルド本部のラウゴットギルマスから話を聞いてここまで来たんだ。だからどうか信じて欲しい」
自分に出来るだけの笑みを浮かべながら、右手を彼女に向けて差し出すのだった。
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「本当……に?」
そう言いながらリーゼロッテさんの瞳が揺れる。俺は今度は大きく頷くと
「本当だとも。こんな事で嘘をついてもしょうがないからな。ラウゴットギルマスからは君の事情は聞いている。その上で俺は君を助ける為にここに来たんだ。だからどうか信頼してもらえないだろうか?」
出来る限りの優しい言葉を彼女に投げ掛ける。俺の言葉に彼女ははらり涙を落とすと
「ほ、本当に私を助けてくれるんですね? 信じても良いんですね?」
俺の差し出した右手に縋る様に自らの両手を絡めてくる。
「ああ、俺の名前とそして何より『英雄』の名に賭けて誓おう」
そう言うと真っ直ぐリーゼロッテさんに視線を向ける俺。もう既に彼女の顔は泣き顔である。
「はい……はい! お願いします! どうか私を……助けて下さい……!」
そう言うとリーゼロッテさんは俺の胸に顔を埋めて嗚咽を漏らす。困ったな、まさか突然泣き出すとは思っていなかった。
ふと背後に視線を向けるとアン達が「しょうがないわね」と言う顔をしているのが見える。一方でコーゼストは
「ここはやはり優しく抱き締めて差し上げないと」
とやたらニヨニヨしながらそう宣って来る。お前はこの状況を絶対楽しんでいるだろ?! コーゼストの台詞を聞いたアン達の視線が凄まじく冷たいものに変わる。冷たいと言うか痛い。
(……ったく、しょうがないか)
結局俺はリーゼロッテさんを泣き止ませる為に彼女の肩を優しく抱き締めるのだった。背後からアン達の冷たい視線を浴びながら。
何なんだ、この状況は?!
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「すいませんでした……」
ようやく落ち着きを取り戻したリーゼロッテさんが、俺から身体を離すと申し訳無さそうに深々と頭を下げる。顔が羞恥で真っ赤である。
「いや、まぁ、落ち着いたんなら良いが……」
そんなしどろもどろな彼女に端的に答えるに留める俺。背後からアン達から無言の圧を感じるが、何とか無視する事にした。
「えへん、そ、それでだ! この『混沌の庭園』に1ヶ月も潜っていたのは、追手から身を隠す為に、と言う事でいいのか?」
軽く咳払いをして無理矢理話題を変える俺。まだ背後から冷たい視線を感じるが無視だ無視。
「あっはい、その通りです。ここなら安全かなぁ、と思って」
俺の問いにほぼほぼ予想通りの答えを返してくるリーゼロッテさん。やはりと言うかなんと言うか…… 。
「だけどその割には手持ちの荷物が少なくないですか? 1ヶ月分もの食糧だけでもかなりの量になる筈なんですけど……」
この質問はネヴァヤ女史。確かにリーゼロッテさんの持っている荷物はソーサリランタンにザックだけと非常に身軽だ。だがそんな疑問にリーゼロッテさんは
「ああ、それはですね……このザックが収納庫魔法背嚢と言う遺失魔道具でして、これひとつで馬車一台分の物資が仕舞えるんですよ」
真逆のネタばらしをしてくれたのだ。しかしアーティファクトか…… 。
俺は自分が持っている無限収納ザックもアーティファクトなのを棚に上げて、変な感心をするのだった。
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「──ところで」
セーフエリアでの話はまだ続いている。
「こうして無事に合流出来た訳だが、リーゼロッテさん、君はこれからどうするつもりなんだ?」
ズバリ核心を突いた質問をする俺。彼女がどうするかによっては、今後の行動方針も違って来るからな。まぁ大体は想像がつくんだが。
「私は──元老院の強硬派に奪われた父ベルンハルトの権限をこの手に取り戻したい。そしてこの国の主権を人民の手に取り戻したいです。今のままでは何れこの国は強硬派のダヴィート・ド・ベルツによる独裁政治になりかねません。事実、前回の事件だって主導したのはダヴィート達強硬派なんですし……」
リーゼロッテさんはしっかりした口調で此方の予想通りの答えを返してくるが、だがちょっと待て。今聞き捨てならない事を聞いた様な?
「前の事件って……蟻亜人の街ガナンの襲撃未遂事件の事か?」
俺がそう聞くとこくりと頷き肯定するリーゼロッテさん。あの時は何とかと言う名の貴族が独断で起こした事件だと、ツェツィーリアは世界評議会に説明していた筈だが、まさか裏で元老院強硬派が絡んでいたとはな。
「でも何故その事件の事をウィルフレドさんが知っているんですか?」
俺がそんな事を考えていると、今度はリーゼロッテさんが疑問をぶつけて来る。
「ああ、それはな……」
俺はリーゼロッテさんに、その事件を解決したのが他ならぬ俺達だった事を話して聞かせるのであった。
これも何かの縁なのかね?
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「そんな事があったんですね……」
ひと通り説明を聞き終えると深く溜め息を吐くリーゼロッテさん。
「有難うございましたウィルフレドさん。それとすいませんでした。今この場に居ない父に成り代わり深い感謝と謝罪を」
そう言うと彼女は深々と頭を下げる。
「それはもう済んだ話さ。それよりこれから先の事を話さないか?」
ちょっと照れくさくて素っ気ない感じで言葉を返す俺。するとリーゼロッテさんは「そ、そうですね」と下げていた頭を上げる。
「話が逸れてしまったが、君の考えはわかった。それならこれから具体的にどうするか、行動方針を決めたいんだが……どうかな?」
「そうですね……ウィルフレドさん達は既にご存知かと思いますが、私はこの国に於いて権力の象徴たる ゛ 国鍵 ゛ を父ベルンハルトから預けられています。この ゛国鍵 ゛ を手に出来ない限り、彼等強硬派がこの国の実権を掌握する事は叶わないでしょう。私がこの手に ゛ 国鍵 ゛を持っているうちに穏健派を立て直し、誰か信頼の於ける方に元首として立って欲しいところです」
俺の本質的な質問にも淀みなくスラスラと答えるリーゼロッテさん。どうやら裏は無さそうである。
「あとひとつ、聞いてもいいか?」
「はい、何でしょうか?」
「ツェツィーリアがオールディスに戦争を仕掛けると言う噂があって、俺達はその真偽を確かめる為にここまで来たんだ。それで実際の所はどうなんだ?」
俺は彼女に一番重要な案件について質問するのだった。
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「……実権を握ろうと躍起になっている強硬派は開戦派でもあります。彼等が実権を握ったら直ぐにでも挙兵するかもしれません。事実、オールディスへの侵攻を声高に口にするダヴィート議員と、私の父ベルンハルトの確執が今回の事態を招いたのですからね」
俺の質問をそう答えると少し辛そうな表情を見せるリーゼロッテさん。それはそうだろう、下手をするとツェツィーリアとオールディスの間で戦争が起きかねないのだから。
そんな最悪の可能性に押し潰されそうになりながらも、彼女は彼女なりに抵抗を続けていたのだ。今俺達が出来る事は彼女リーゼロッテさんが安心出来る様にしてやる事だけである。
「……ここまで色々教えてくれて有難う。だがもうこんな逃亡生活も終わりだ。これからは俺達が君を守るからな。とりあえずはこのダンジョンから外に出ないか? 繰り返す様だが君の身の安全は俺の「英雄」の名に賭けて保証するからな」
俺は改めて右手を差し出すと彼女をダンジョンの外へと誘う。
「あっはい! そ、それではお世話になりますウィルフレドさん!」
そう言うとしっかりと俺の右手を握り締めるリーゼロッテさん。
こうして無事にリーゼロッテさんと合流出来た俺達は、彼女を伴い『混沌の庭園』第六階層の管理端末から地上へと戻ったのである。リーゼロッテさんにとっては1ヶ月ぶりの地上への帰還となった。
さて、と……先ずは美味い飯と柔らかいベッドで彼女を饗すとしますか!
遂に邂逅したウィルとリーゼロッテ! 何だか話が別の方向に行きかけていますが、皆さんの気の所為ではありません(笑)本当にこの男は無自覚(笑)
ここまでお読みいただき有難うございました!
次回は3週間後になります!
お楽しみに!!




