混沌の庭園、再び 〜再会の魔導頭脳〜
大変お待たせ致しました! 本日は第236話を投稿します!
今回はコーゼストとラウゴットギルマスの会話から話が始まります!
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「それで、ベルンハルト元首の一人娘は今何処に?」
「彼女──リーゼロッテ媛の行方は……」
シィスムル冒険者ギルド本部の執務室では今、コーゼストにズバリ核心を突かれたラウゴットギルマスがベルンハルト元元首の一人娘リーゼロッテの行方を打ち明けようとしていた。
「……イオシフ村の迷宮『混沌の庭園』に今は身を潜めている筈だ」
「『混沌の庭園』か……」
懐かしい名前に蟻亜人の住まう地底の街ガナンや、最下層の魔導人工頭脳「アルカ」の事が思い出される俺。アンやルアンジェも懐かしげだが、今は懐かしんでいる場合では無い。
「そもそも『混沌の庭園』は難易度A級のダンジョンだろ? そんな所に女性1人きりで潜っているのか?」
その話を聞いて至極真っ当な意見を口にする俺。だって向こうは冒険者でも何でもない一般人だろ? するとラウゴット氏は
「それがなぁ……我がギルドで調査した所、ベルンハルト元首お抱えの冒険者パーティーが護衛に付いて、リーゼロッテ媛を『混沌の庭園』内部に連れて行ったらしいんだ。しかも彼女自身もかなりの剣の腕前でな、我がギルドでは彼女をBクラス冒険者として認定しているくらいなんだ。だから下手に外に居るよりはダンジョン内の方が安全な筈だと踏んだんじゃないのか? こればかりは本人に聞いてみないと何とも言えないがな」
真逆の真実を教えてくれる。つまりリーゼロッテは現在絶賛単独でダンジョン内をウロウロしていると言う訳だ。
それを聞いて俺は思わず頭を抱えてしまうのだった。
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「はァ……それじゃあ一旦情報を整理しようか」
俺は痛むこめかみを揉みながら、そう言葉を発する。
「ベルンハルト元首がひと月前に失脚させられたのは事実、レオニート議員を含む一部の民会議員が行方不明なのも事実。んで元首失脚を主導した元老院は ゛国鍵 ゛を持って行方をくらませた元首の一人娘リーゼロッテを必死になって探している。元老院の目的は飽くまでも ゛国鍵 ゛であって、リーゼロッテの生死は問わない、と言っている。それで肝心のリーゼロッテはソロで『混沌の庭園』に身を隠している、と言う訳だな」
俺の言葉に頷くラウゴット氏とネヴァヤ女史、そしてアン達。
「あとひとつ、失脚させられたベルンハルト元首の行方はどうなっていますか?」
この台詞はコーゼスト。それに対してラウゴット氏は
「これは確かな情報だが、ベルンハルト元元首は夫人共々自分の屋敷に事実上軟禁されているとの事だ。まぁリーゼロッテ媛に対しての「人質」と言う意味合いもあるんだろうがな」
とこれまた率直に受け答えする。本当に彼は腹芸が苦手らしい──まぁ俺もだが。
「ん? そういやツェツィーリアの軍部はどうなっているんだ?」
そんなラウゴット氏にふと思った事を聞いてみる俺。
「とりあえずは静観だそうだ。そもそも指揮権は元首が持っていてな、議会だけからの命令は受け付けない様になっている」
それについてもキチンと事情を教えてくれるラウゴット氏。
他の国の事情が分からない俺達にとってはこうした情報は非常に有難い事だ。
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「そうなると……誰よりも早くリーゼロッテさんの身柄を保護し、 ゛国鍵 ゛が元老院関係者の手に渡らない様にするのが肝要かと」
ここまで話した所でコーゼストからひとつの意見が述べられ
「私もコーゼストさんの意見に賛成です。 ゛国鍵 ゛が元老院に渡らねば彼等もこれ以上動きようが無いでしょうし、もし ゛ 国鍵 ゛が元老院の手に渡れば強硬派が実権を握ってしまい、私達が危惧しているオールディスとの戦争を起こすかも知れませんからね」
その意見にネヴァヤ女史も同意を示す。確かに、強硬派が数を占める元老院の手に ゛ 国鍵 ゛が渡れば、軍部に命じて次はオールディスとの戦争を起こす可能性がある。そもそもツェツィーリアとの戦争を危惧してここまで来たのだから、少しでも可能性があるならその芽を早めに摘んでおくに越した事はない。
「そう……だな」
俺は短くそう言うとアン達ひとりひとりと目を合わす。俺と目が合うと一様に頷くアン達。どうやら彼女達も同じ思いでいるらしい。それを確認すると
「それじゃあ次の目標は決まったな。俺達はイオシフの『混沌の庭園』に向かい、リーゼロッテ媛を保護する」
全員に向かいそう宣言する俺。
「だが『混沌の庭園』はそれなりに広大だぞ? そんな所で1人の人物をどうやって探すつもりだ?」
俺の言葉に至極真っ当な疑問を口にするラウゴット氏。
「まぁ、それはソレでやりようがあるからな」
俺は笑ってそう言って退けるのだった。
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とりあえずその日はそこまでとなり、ラウゴット氏が用意してくれた宿屋「山鹿亭」に泊まった翌日、俺達はシィスムル冒険者ギルド本部の非常用転移陣からイオシフ村のギルド支部へと飛び、イオシフ村から馬車を1台借り切りし、ザフィロ山の『混沌の庭園』へと向かった。馬車で凡そ2日の道程である。そして2日目の午下──俺達は『混沌の庭園』の入口の前に立っていた。
「さて、皆んなどうする? このまま直ぐにダンジョン内部に入るか? それとも宿屋で1泊して、明日朝一番でダンジョンに潜るか?」
ダンジョンの入口で連れて来たメンバー全員にそう問う俺。
「そうね……流石に2日もただの馬車に揺られて来たから、疲れをとる為にも1泊したいけど……」
俺の問いに真っ先に口を開くのはアン。レオナやアリストフ、ルネリートも一様に頷いている。
「ウィルさん、私もアンさん達に賛成です。「急いては事を仕損じる」とも言いますし、ここで一度休息をとりませんか?」
最後にネヴァヤ女史も1泊する方に賛成の意を示したので
「わかった。それじゃあ何処かその辺にある宿屋で1泊するとしよう」
皆んなの意見通り宿泊を選択する俺。前に訪れた時よりダンジョン前は遥かに発展を遂げており、宿屋も何軒か経営をしているのが見て取れる。今からなら何処かで泊まれるだろう、と俺は目算を立てるのだった。
さて、先ずは近くにある宿屋から当たってみますか。
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そうして運良く空きがあった宿屋「木漏れ日亭」で1泊した翌日早朝、俺達は改めて『混沌の庭園』の入口の前に立っていた。
「それじゃあ、行こうか」
俺の言葉に頷くアン達とネヴァヤ女史。それを確認しダンジョンの広間に入ると、管理端末の前に立つ俺達。
「それでウィルさん。リーゼロッテさんをどうやって探すつもりですか?」
そう聞いて来るのはネヴァヤ女史。だがそれについては既に目処が立っている。
「とりあえず第九階層まで降りて、その後は──」
「──最下層にある「アルカ」の協力を仰ぐつもりですね」
俺の台詞を引き取ってコーゼストが話を継ぐ。お前は本当に美味しい所を持って行くな?
「成程、以前の騒動の時も「アルカ」に協力を仰いでいましたね。今回も同じ様にするのですね?」
合点がいったらしくネヴァヤ女史がひとつ手を打つ。アンやルアンジェも同様だ。
「まぁ、そう言う事だ」
俺はそう言うと、ヤトとセレネの2匹を顕現し、ホールに有る管理端末に嵌め込まれている水晶に手を掛けて、管理端末を目覚めさせる。
そして転移陣を起動させると、一気に第九階層の避難所に転移。部屋の隅に隠蔽されている転移陣を起動して更に下層に降りたのだ。そして
「お久しぶりでございます、ウィルフレド様。アンヘリカ様、ルアンジェ、そしてお連れの方々もようこそいらっしゃいました」
俺達はダンジョンの最奥にある地下施設の管理用自動人形UNIT・RO-81225──ユニトロの出迎えを受けたのだっだ。
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「久しぶりだな、ユニトロ」
「お久しぶりね、ユニトロ」
「ユニトロ、久しぶり」
「え、えーっと、ひさしぶり!」
俺、アン、ルアンジェ、ヤトがユニトロに懐かしげにそう声を掛ける。それ以外のヒト達はただ吃驚して見ているだけだ。
「本当にお久しぶりです。とりあえず皆様こちらにどうぞ。「主」がお待ちしております」
そう言って「アルカ」が安置されている最下層の部屋への最後の転移陣に案内してくれるユニトロ。そして最後の転移が明けると目の前には──
『歓迎する、魔物の主人ウィルフレド殿。涅森精霊アンヘリカ殿。Ω1000ーZ99、いやルアンジェ。半人半蛇のヤトも。そしてお連れの人達に改めて自己紹介を。私はこのダンジョンを管理する魔導人工頭脳「アルカ」と言う』
中央に大きな魔水晶を戴く大きな尖塔が聳え、その周りに小さな魔水晶を戴く小型のスティブルが五芒星魔法陣の形に配置された、魔導人工頭脳「アルカ」が鎮座していたのである。
その圧倒的な光景に言葉を失うレオナやアリストフやルネリート、そしてネヴァヤ女史。セレネに至っては完全に硬直しているし。その光景に何となく既視感を感じるのは俺だけだろうか。
俺とアン、そしてルアンジェとヤトはユニトロにしたのと同じ様に「アルカ」と再会の挨拶を交わす。その一方で「アルカ」の威容に唖然としているレオナ達の様子に、思わず苦笑を禁じ得ない俺。
まぁエリナも通った道だ。是非とも頑張って欲しいものである。
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『ルアンジェ、身体を自動人形から魔法生命体に更新したようだな。実に重畳。あとコーゼスト殿も単なる魔導機から自動人形になったようで何よりだ』
「ん、有難う「アルカ」」
「有難うございます」
先ず「アルカ」からルアンジェとコーゼストへ祝福の言葉が贈られ、それに対応する2人。続けて
『ウィルフレド殿も新しき従魔が増えた様で何よりだ。積もる話は多々有るが……先ずはウィルフレド殿、今回の再度の来訪はどの様な要件であるかな?』
「あ、ああ、実は──」
アルカの問い掛けに、ここを訪れた要件を手短に話す俺。これもまたデジャヴだな。
「──と言う訳でまたアルカの協力が必要なんだ」
兎に角此方が今掴んでいる情報と事情を「アルカ」にひと通り説明し終える。すると
『ふむ、するとこの1ヶ月間ダンジョンに引き篭っている女性を見つければ良いのだな?』
と至極簡単げに言って退ける「アルカ」。
「出来るのか?」
『うむ、私はこのダンジョンに入った全ての者の魔力波形を全て観測、記録しているからな。その時系列記録を1ヶ月分見直してみれば一目瞭然だ。因みに君達の魔力波形も記録しているので、第九階層に転移して来た時点で直ぐにユニトロを迎えに行かせたのだ』
そしてここで真逆の事実発覚である。成程、道理でタイミング良くユニトロの迎えを受ける訳だ。変な感心をしながらも「アルカ」に依頼する俺。早速「アルカ」は調べ始める。
『では──・・──データ確認した。早速全階層を走査する』
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アルカの筐体の6つのクリスタルが一瞬輝きを増したかと思ったら、次の一瞬には報告してくる。
『──この1ヶ月間ダンジョン第六階層の避難所のひとつを拠点にダンジョン内で活動している女性が1人。君達から提供された情報から推測して、この女性が対象者だと思われる』
「!? その女性は今はどうしている?!」
『現在は拠点にしているセーフエリアに居るようだ。今の所、動きは無い』
その報告に色めき立つアン達メンバー。
「有難う「アルカ」。どうやらその女性が目標と見て間違いないみたいだ」
俺も「アルカ」に礼を述べる。
『うむ、お役に立てて何よりだ。何ならこの者がいるセーフエリア手前まで送ろうか?』
ここで「アルカ」からの真逆の提案である。ここは素直に「アルカ」の好意に甘える事にした。
「お願い出来るか?」
『勿論。それでは全員私の前の転移陣に集まってくれたまえ』
「アルカ」の指示通りにメンバー全員で転移陣の上に乗ったのを確認する俺。
「──よし、皆んな転移陣に乗ったぞ!」
『了解──では転送する』
一瞬で転移の魔法陣が眩い光に満たされると、次の一瞬にはダンジョン内の通路に転送が完了する。
「ふう……さて、と……どっちだ?」
小さな溜め息を吐きながら、独り言ちる俺。
「──確認しました。あちらの方にセーフエリアがありますね」
俺の言葉に通路の一方を指差すコーゼスト。
さてと! そんじゃあリーゼロッテ媛と御対面といきますか!
久々過ぎの登場、迷宮「混沌の庭園」の管理魔導頭脳「アルカ」と自動人形「ユニトロ」です! まぁウィルも良く彼等の事を忘れずにいた物です(笑)。そして次回はいよいよ目標のリーゼロッテと御対面と相成ります! 其方もどうかお楽しみに!
ここまでお読みいただき有難うございました!
次回は3週間後になります!
お楽しみに!!




