引越しと西の不穏な動きと
大変お待たせしました! 本日は第234話目を投稿します!
ハーヴィー騎士団の引越しから話が始まります!
-234-
完成したての訓練場のど真ん中に展開される巨大な魔法陣! コーゼストの転移魔導機の転移陣だ。
やがて魔法陣の輝きが薄れると、俺とエリナ達を含めた77人の姿がそこにはあった。ご存知ハーヴィー騎士団と魔法師団の団員達である。団員達の間から
「おお……」
「こ、これが転移か……」
「す、凄いわね……」
等と言う声が漏れ聞こえて来る。今日は以前から建設を進めていたハーヴィー騎士団専用の宿舎が訓練場共々完成し、騎士団総出で引越しと相成ったのだ。
事前にコーゼストには転移魔導機を改良してもらい、10数人規模から100人規模の転移を可能にしてもらっていたりする。コーゼスト本人は「そんな簡単に出来ると思わないで下さいね」とボヤいていたが、軽く無視したのは言うまでもない。
「各班の班長は点呼を実施! 点呼終了次第、部屋割りに従い各自荷物を持って速やかに宿舎へ移動! 自室に荷物を置いたのち、1時間後には再度ここに集合!」
『『『『『はいッ!』』』』』
騎士団長エリナの指示が飛び、テキパキとした動きで直ちに行動に移る騎士団員達。此方もまた3日前に部屋割りを済ませてあるので、極めてスムーズに行動出来ていて、見ていて壮観である。
「エリナもなかなか騎士団長が様になって来ていますね」
俺の横で何やら偉そうにそう宣うのはコーゼスト先生。どうでも良いが何故にそんなに偉そうなんだ?
俺は頭の中でそう軽くツッコミを入れると、エリナ達騎士団を頼もしげに見つめるのだった。
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それから数日経ち、ハーヴィー騎士団も新しい本拠地、新しい環境に慣れたみたいである。今日も今日とてファウストやデューク、ヤトやセレネの従魔達を相手に実戦さながらの訓練を重ねている。また一部の班には「魔王の庭」で実戦を経験させてもいる。
因みにひと班あたりの人員構成は騎士が5人に魔法士1人に神官1人と丁度良いバランスとなっている。
更に因みに「魔王の庭」に潜っている班は、コーゼストによってBクラス冒険者並の格に達している事が確認されているので、余程無茶をしない限り大丈夫の筈だ。
更にさらに因みに、今回の件はちゃんとギルマスにも話を通してあり、ギルドから臨時の通行許可証を発行してもらっていたりする。この前のマーユの一件で俺も学習したのである。
「ふむ……今セレネと戦っている班は第何班ですか?」
俺の横で訓練の様子を見ていたコーゼストからそうした台詞が聞こえてくる。
「んん? あーっと、アレは確か第7班だな」
コーゼストの質問に律儀に答える俺。すると彼女はひとつ頷くと
「私の検分だとあの班自体のレベルは十分規定値に達しています。次回は彼等を「魔王の庭」に派遣する事にしませんか?」
そう進言してくる。
「そうか。それなら後でエリナに言っておかないとな」
その進言に腕を組んで大きく頷きながら返事を返す俺。そろそろこの前潜った班も帰って来る頃合いである。
勿論ギルマスにも話を通しておかないとな。まぁまた愚痴られるのがオチだが。
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そんなある日、俺達『神聖な黒騎士団』が「魔王の庭」第八階層に久々に潜っている時、俺の持つ遠方対話機から呼び出し音が鳴った。
何となく嫌な予感がして急いで腰袋から取り出すと、釦を押して話し始める俺。
「ウィルだ」
『ウィルよ、私だ、エリンクスだ』
何と相手はオールディス王国国王エリンクス・フォン・ローゼンフェルト陛下その人だったのだ。これは益々嫌な予感しかしない。
「これは陛下、何かありましたか?」
『うむ、「何か」と聞くか。流石はウィルだ。実は困った事態になっていてな……』
俺の問い掛けに言葉を濁すエリンクス陛下。よく良く聞いてみると、以前から不穏な空気が流れていたツェツィーリア共和国だが、貴族からなる元老院の強硬派が執政官である元首を追い落として実権を握り、穏健派が多い民会──つまりは平民の議会の議員の多くも粛清されているらしいとの噂が。
「それって反乱じゃないのか?!」
言葉遣いも今居る場所も忘れて思わず遠方対話機に向かって叫ぶ俺。周りにいたアン達が吃驚している。
『そこが問題なのだ。飽くまでも漏れ伝わって来る話だけで確定は出来ん。何せ噂の域を出ぬ話だからな。だがもし事実だとしたら非常に由々しき事態だ』
遠方対話機の向こうの陛下の声は、いつもの明るさは影を潜め、やたらと重苦しい声色だ。それはそうだろう。下手をするとツェツィーリア共和国と戦争になるかもしれないんだからな。
それを思うと俺も暗澹とした気持ちにならざるを得なかった。
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エリンクス陛下と俺との通話はまだ続いている。
『ときにウィルよ、お前の騎士団は今どうなっているのだ?』
「あーっと、今は──」
陛下の質問にハーヴィー騎士団の現状を説明する俺。毎日訓練は欠かしていない事、既に全員「魔王の庭」に潜って魔物を相手にした実戦を経験済である事、等々詳しく。
「──と言う訳で実戦に差し支えない位には鍛え上げたつもりです。足りないとすれば対人戦闘の経験値ぐらいかと」
『ふむ……ならばエリンクス・フォン・ローゼンフェルトの名においてハーヴィー辺境伯に命ずる。麾下の騎士団をシグヌム市へと派遣せよ』
遂に遠方対話機を通して王命が下り、途端に緊張に包まれるアン達。
「それは構いませんが……騎士団を派遣したらそれで戦端が開かれないでしょうか?」
俺がひとつの懸念を伝えると
『うむ、その懸念はあるが何もせずと言う訳にもいくまい。もし噂が本当なら我々は「最悪」に備えなければならない』
それ以上の懸念が存在すると言う陛下。まぁその懸念は尤もではあるが。
「はァ……ではこうしましょう。俺達『神聖な黒騎士団』が冒険者としてツェツィーリア共和国に入国して、ツェツィーリアの内情を確認して来ますよ。彼等も流石にまだ冒険者の入国を禁止はしてないでしょうし」
俺は大きな溜め息をひとつ吐くと、陛下にその真否を確かめる術を進言するのだった。
自分達が危険に身を置く事は別にして。
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それからが早かった。
俺達は現在位置から最短距離にある管理端末に行くとすぐさま地上へと帰還、その足で屋敷に戻って騎士団の訓練をしていたエリナに事情を説明し、騎士団の派遣準備を整えさせると、今度はすぐさまラーナルー市の冒険者ギルドに向かい、ギルドの非常用転移陣を使いシグヌム市の二国間冒険者ギルドへと飛んだのである。
無論ラーナルーではギルマスにざっくり事情を説明し、急ぎシグヌム市のギルドへと連絡しておいてもらっていたし、オルガにも遠方対話機を使って連絡しておいた。
非常用転移陣の部屋から出ると急いで2階にある執務室へと向かう。
「ようこそ『神聖な黒騎士団』の皆さん! 今回はまた大変な事になっていますね」
執務室ではネヴァヤ女史がやや緊張した面持ちで出迎えてくれた。
「グラマスとビギンズギルマスからも連絡が来ていますよ。グラマスからは「出来るだけ便宜を図る様に」との言付けもありますしね」
「そうか……今回は世話を掛けるが宜しく頼む、ネヴァヤさん」
ネヴァヤ女史の言葉に軽く頭を下げる俺。
「頭を上げて下さいウィルさん。事はオールディスのみならずツェツィーリアの平和にも関わる話ですからね。私も最大限の協力は惜しみません」
頭を下げる俺にそう言葉を投げ掛けて来るネヴァヤ女史。
「有難うネヴァヤさん」
俺はネヴァヤ女史の言葉にそう返事を返すと、今度はしっかりと彼女と握手を交わす。
さて、と! まだまだやる事が山積みだが、何とか頑張るとしますか!
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シグヌム市に急ぎ渡った俺達は、ネヴァヤ女史の居る二国間冒険者ギルドで早速打ち合わせを開始した。先ずは少しでも事前に情報は欲しいからな。
「ウィルさん達がこれから向かうツェツィーリア共和国ですが、地方都市では無く直接首都に乗り込むべきかと」
ネヴァヤ女史の第一声がこれである。
「いきなり首都か……」
「ええ、理由は幾つか有りますがツェツィーリアは中央集権国家だと言うのが首都を目指す最大の理由です。何かあったのか知るには間違いなく元老院等の議会が置かれている首都が一番情報を収集し易いでしょうしね。その分危険度は大きいですが」
いきなり相手の中心に飛び込む事に躊躇する俺に、首都に行く利点欠点両方を挙げて説明するネヴァヤ女史。うーん、今の状況からだとリスクを伴っても一刻も早く正確な情報が欲しいからな。地方都市でダラダラ情報収集しているよりもやって見る価値はあるか…… 。そこでふとアン達の顔を見ると頷いて同意を示す。
「わかったよネヴァヤさん。それじゃあそのツェツィーリアの首都について教えてくれないか?」
「はい、ツェツィーリアの首都の名はシィスムル。人口100万人規模の大都市です」
そう言うと執務机に地図を広げて一点を指し示すネヴァヤ女史。この西方大陸でオールディス王国と国土面積で双璧をなすツェツィーリア共和国のほぼほぼ中央に、ツェツィーリアの首都シィスムルは存在していたのである。
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「それでどうします?」
そこまで話が進むとコーゼストがいきなり疑問を呈して来る。
「どうしますって?」
コーゼストの疑問に疑問で返す俺。
「ツェツィーリアに乗り込む為の口実ですよ。真逆「オールディス王国に攻め込むのかどうか直接確かめに来た」とは言えないでしょう?」
『『『『『ああ……』』』』』
そういやそれもあったな。うーん、迷宮ならいざ知らず、何も用事も無いのにいきなりツェツィーリアの首都に向かうのは無理があるかぁ? コーゼストの至極真っ当な指摘に頭を捻る俺達に対し
「それでしたら私の護衛として付いて来る、と言うのはどうでしょうか? 向こうの冒険者ギルドになら怪しまれずに行けますしね」
ネヴァヤ女史が真逆の知恵を出してくれた。
「冒険者ギルドは国家と言う垣根を越えた組織です。私が護衛を伴ってツェツィーリアのギルド本部に行っても怪しまれずに済む筈です。訪問する理由は……そうですね、向こうのギルド本部のギルマスとの懇親を図る為、と言うのはどうでしょうか?」
確かにその線でなら怪しまれずに済むか……でもなぁ…… 。
「俺達はそれでも構わないが……ネヴァヤさん、貴女にまで危害が及ぶ可能性もあるんだぞ?」
「それは百も承知です。ですが私も一線を退いたとは言え元Sクラス冒険者です。自分の身を守る術は持っていますし、何よりウィルさん達を信頼していますから」
俺の言葉に迷い無くハッキリと言い切るネヴァヤ女史。そんな彼女にひとつ頷く俺。
こうして俺達はネヴァヤ女史の護衛としてツェツィーリアに向かう事になったのであった。
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「さてと、其れとは別に聞いておきたいんだが……」
ツェツィーリアへの道筋が立ったのを見計らって、改めてネヴァヤ女史に尋ねる俺。
「向こうの元首や元老院議員なんかの事を、知っている範囲で教えてくれないか?」
「はい、先ず元首ですが名前はベルンハルト・ド・アーベル、二度ほどお会いする事がありましたが穏やかそうな方でしたね。確か一人娘が居るとかで、盛んに自慢していました。施政者としては及第点、と言う所でしょうか。派閥としては弱い部類に入るかと思います。一方元老院を束ねているのはダヴィート・ド・ベルツと言う議員です。以前から強硬派の先鋒として知られていて、今回の元首失脚の一件も彼が主導した可能性は大きいかと思います。私は会った事はありませんがかなりの野心家だと言う噂は聞いた事があります。民会の中心人物はレオニート・クラッセン議員。彼は穏健派の代表格ですね。民会が粛清を受けていると言う話ですが、彼は強かだと聞きました。なので彼自身はまだ無事だと思われます」
俺の問い掛けに明確に答えてくれるネヴァヤ女史。全く……こうした政治の話には関わりたくないんだが、今回はそんな事も言ってられないからな。曲がりなりにも俺だって今や王国貴族なんだしな。
俺はネヴァヤ女史の話を聞きながら、そっと溜め息を吐くのだった。
突然エリンクス陛下から聞かされた隣国ツェツィーリアの不穏な動き。何かまた厄介事がウィルの元に訪れたようですね…… 。と言うか厄介事に自ら頭を突っ込むスタイルのウィル(笑)
ここまでお読みいただき有難うございました!
次回は3週間後になります!
お楽しみに!!




