騎士団誕生! 〜色々あったりしました〜
大変お待たせ致しました!
本日は第230話を投稿します!
いよいよ始まったウィルの騎士団の入団テスト! さてさて、どんなテストになる事やら…… 。
-230-
俺達が新しい騎士団を立ち上げる事になってから凡そ1ヶ月経ち、王都ノルベールの王城ブリシト城に併設された騎士団の訓練場には、朝早くからエリンクス国王陛下が発布した公募を見た王国内の腕自慢達が集まっていた。
その数総勢305人。因みに男女比は6:4だったりする。
「はぁ〜、結構集まったんだな」
その様子を訓練場の物見塔から見下ろして、そう素直な感想を口にする俺。アン達もその盛況振りに「凄いわね」と驚いていたりする。
「それはまあ、今回の公募は陛下の下知になるからね。それに旦那様の知名度とかも加味されているからヒトが集まる訳さ」
俺の横で笑いながらそう宣うのはオルガ。今回彼女には色々と補佐してもらう事になっている。
「それで? これだけの入団希望者をどの様に定員まで絞り込むんですか?」
入団希望者達を見ながらそう言うのはコーゼスト。その心配はごもっともである。
「うん、彼等には幾つかの試験を受けてもらうつもりだ」
その疑問にニヤリと笑って、考えてきたテストの内容をアン達そしてコーゼストに教える俺。聞いた皆んなは何とも言えない顔をしていたが、それもこれもちゃんとした人材を入団させる為である。
「ウィル殿、準備整いました」
そんな中、ヒルデガルトがやって来て準備が出来た事を告げる。彼女にもオルガ同様、色々と補佐してもらう事になっているのである。
「よしっ、それじゃあ下に降りて始めるとするか!」
一言気合いを入れる俺。
さてさて、どんな人材がいる事やら…… 。
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「一同、注目!」
訓練場に響き渡るヒルデガルトの声。その声ひとつで訓練場に響いていた喧騒は瞬く間に静まり返る。
「これよりハーヴィー辺境伯閣下からお話しがある。皆、心して聴く様に──閣下、どうぞ」
ヒルデガルトから手を向けられ演壇に登る俺。皆んなの視線が俺に集まる。
「俺がウィルフレド・フォン・ハーヴィー辺境伯だ。この度は俺が新設する騎士団への入団希望に大勢集まってくれて実に喜ばしい限りだ。これから入団テストと面接を行うが、その前にこの騎士団の団長を紹介させてくれ。エリナベル騎士団長だ」
俺の声に今度はエリナが演壇に登壇する。因みにこの一連の台詞はオルガと話し合って決めた話し方だったりする。
「皆さん、今紹介に預かりましたエリナベルです! 今回創設されるハーヴィー騎士団の初代騎士団長を任じられました! 見ての通り私は女です! もし今、女の下で働くのに抵抗があるヒトはこの場からお帰り下さい!」
張りのあるエリナの声が訓練場に響くと、何人かのヒトがばらばらと帰って行くのが見える。
実は既に入団テストは始まっており、これもその一環である。女性の騎士団長の下で働きたくない者を無理矢理働かせる訳にはいかないし、そもそも女性だからと侮っているならうちの騎士団には要らない人材だ。
結果として20人が去り、残ったのは285人。意外と残ったな。
「では──残ったヒトに伝えます! この後、ここ訓練場にて実戦形式の第一次入団テストを実施します! 各自準備を!」
それ等を見届けたエリナの朗々たる声が訓練場に居る全員へと届けられたのである。
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さてさて次は実戦形式の入団テストである。残った285人には通し番号が書かれた腕章を配り、区別の為に腕に巻いてもらう事にした。
「その腕章は合否判定に使うので最後まで無くさない様に! では1番から5人ずつのグループに分かれて下さい! 各グループ内で総当り戦をしてもらいます! 1勝1ポイントとし、3ポイントで合格とします!」
エリナの説明に少し場がどよめく。が、皆んな割と素直に訓練場内に設けられたテスト会場へと分かれて行く。285人が5人ずつに分かれると57グループ、テスト会場は全部で6ヶ所なので、9グループが3ヶ所、10グループが3ヶ所と言う事になる。
それぞれの会場にはエリナ、ベルタ、ユーニス、そしてヒルデガルトと2人の騎士が審判員として各会場に付いていて、総当り戦を審判する事になっている。5人総当りだとすると、1グループ10試合。エリナ、ベルタ、ユーニスはそれぞれ90試合を、ヒルデガルトと2人の騎士はそれぞれ100試合を審判する計算になる。
「それでは──各会場準備出来次第、入団テストを開始! 諸君等の健闘を祈る!」
「「「「「応ッ!」」」」」
それぞれがそれぞれの定位置についたのを見届けて声を上げるエリナ、それに声を揃えて答える面々。
遂に入団テストが本格的に始まったのであった。
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こうして入団テストは粛々と行われていった。参加者には全員此方で用意した木剣木盾を使ってもらったのは言うまでもない。因みに革鎧等の防具は殆どのヒトは自前だったが、一部は騎士団から貸し出されていたりする。やがて各テスト会場では
「65番3ポイント! 通過!」
「23番3ポイント! 通過!」
「107番3ポイント! 通過!」
3勝3ポイントを挙げたヒトの番号が次々と呼ばれ始めた。このやり方だと1グループから2人選出される事になり、単純計算で114人が残る計算になる。
こうして午下まで入団テストは行われて、最終的に計算通り114人の合格者が残ったのであった。3ポイントを取れなかったヒトには腕章を返してもらい、早々にお帰り願ったのは言うまでもない。因みに残ったヒトは自身の番号と名前を各審判員に申告してもらい、名簿に記入していたりする。
「皆ご苦労様! そして第一次テスト無事通過おめでとう! この後は昼食と休憩を挟んで第二次入団テスト──面接を実施します! 1時間後にまたこの訓練場に集合! 各自それまで解散!」
集まった第一次通過者達を前に、そう声を張り上げるエリナ。なかなか騎士団長振りが堂に入っている。
エリナの言葉を受け、ぞろぞろと訓練場の隣に併設されている食堂に向かう第一次通過者達。実は参加者全員、食堂で食事が摂れる様に手配済だったりする。その辺は抜かりが無い。
「さて、と……俺達も昼食を摂るとするか」
一連の様子を見ていた俺はオルガやエリナ達にそう声を掛ける。
俺も昼食摂ったら面接試験の準備をしないとな。
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そしてきっかり1時間後、全員が再び訓練場に集合していた。その辺は流石にしっかりしている。
「それではこれより面接試験を開始します! 番号が若い順から5人ずつ呼びますので、そこにある大天幕に入って下さい! 中では私を始めとする数人で面接します! 総員5列横隊で待機!」
訓練場にエリナの指示の声が響くと、あっという間に横に5人並びの5列横隊を形成する第一次通過者達。本当にその辺は流石である。その様子に感心しながら、俺も面接官をすべくテントに入って待つ事にした。
「それでは最初の5人、中へどうぞ!」
テントへの誘導はアン達がやってくれており、テント内に誘導された5人が入って来ると、俺達の前で綺麗に整列し、一礼すると備え付けられた椅子に腰掛ける。俺達は向かい合う様にテーブルを挟んで座っており、手元には面接者の申告で作られた名簿が置かれている。
「それでは先ず其方の貴方から──番号と名前と年齢と志望動機を述べて下さい」
向かって右に手を向けながら、そう促すエリナ。因みに面接官を務めているメンバーはと言うと、俺、オルガ、エリナ、ヒルデガルト、そして何故か俺の隣には愛娘のマーユが一緒に座っていたりする。
入って来た5人はマーユの姿を認めると驚いた様な顔をするが、それも一瞬だけで直ぐに平静さを取り戻す。こんな事で驚いていたらキリが無いからな。これもまたテストだったりする。
「は、はい! 2番ジョン・アボット、19歳です! し、志望動機は──」
こうして面接試験は進められていったのである。
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「──有難うございました。それでは外に出て結果発表まで待機して下さい」
エリナの凛とした声がテント内に響き、最初の面接者達がぞろぞろとテントから出て行く。
「さてと、今のグループはどうだった?」
出ていったのを見届けると開口一番そう尋ねる俺。尋ねられたオルガ達は
「んー、そうだねぇ。2番と6番は良かったかな? あとはちょっと駄目、かなぁ」
「そうね。オルガさんの言う通りだわ。特に5番と9番は協調性が無さそうね。11番も性格悪そうだし……」
「私もお2人の意見と同じです。団体行動を旨とする騎士団に於いて協調性は何よりも大切ですからね」
とそれぞれの私見を口にする。特にオルガの場合は「相手の資質を感じ取れる」からな、その眼力は信用に足るものがある。
「うーん、俺も3人と同意見だが……マーユの目から見て、さっきの5人はどうだった?」
オルガ達3人の私見を聞いて尚、改めてマーユに確認する俺。
「うん、オルガお母さんが言う通り2番と6番のヒトは明るかったけど、ほかの3人のヒトは暗かったよ」
俺の質問に答えるマーユ。彼女はまだ幼いが魚人族の王女様であり、そして何よりも「見詰めた相手が放つ色で正邪がわかる魔眼」持ちである。その的確さは以前の巡行で証明済である。
「そうか。ありがとなマーユ」
そう言ってマーユの頭を優しく撫でる俺。撫でられて嬉しそうなマーユ。
さてと! 残り22組もこの調子で面接しますか!
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やがて陽も東から西に傾きを変えた頃
「大変お待たせしました! 本当に今日一日お疲れ様でした! それではこれより合格者の番号を発表します!」
エリナの大きな声が訓練場に響き渡る。彼女の言葉を聞いて固唾を呑んで自身の番号が呼ばれるのを待つ114人。エリナはひとつ大きく息を吸うと
「2番! 6番! 12番! 15番──」
大声で番号を読み上げる。番号を呼ばれた者は静かに歓喜を示し、呼ばれなかった者は肩を落として落胆する光景があちらこちらで見られる。そんな光景を尻目に次々と番号は呼ばれて行き
「──271番! 279番! 285番! 以上50人のヒトが合格となります! 繰り返しますが本日は本当にお疲れ様でした! 合格者の皆さんは本当におめでとう! 残念ながら不合格になった皆さんはこれに懲りず精進し、次回また挑戦して下さい! それでは合格者の皆さんはこのまま待機! それ以外の皆さんは気を付けてお帰り下さい!」
全ての試験の終了を告げるエリナの朗々たる声で、訓練場から不合格だったヒト達が文字通りとぼとぼと歩いて帰って行くのが見える。やがて最後の1人が訓練場を出て行くのを見届けると
「合格した諸君等はこのまま宿舎に! 各自荷物を持って直ちに移動!」
エリナ騎士団長の最初の命令が発せられ、合格した新人騎士団員達は指示通りに手荷物を持つと、先導する騎士の後について宿舎へと向かって歩いて行く。
こうして予定より多いが50人の騎士団員が決定したのである。
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兎にも角にも今日やるべき事をひと通り終えて、コーゼストの転移魔導機でラーナルー市の屋敷に全員で帰ってきた。
「お帰りなさいませ旦那様、奥方様と皆様も」
そんな俺達を出迎えたのはご存知我が家の完璧家令のシモン。
「ただいまシモン。早速だが此方の進捗状況はどうなっている?」
そのシモンに挨拶もそこそこにそう尋ねる俺。
「はい、宿舎の建設は2棟目に取り掛かりました。併せて訓練場は8割程完成しています」
俺の問い掛けにスラスラと答えるシモン。実は騎士団創設を決めた1ヶ月前からその騎士団専用の宿舎と訓練場を造っていたのである。
場所に関しては屋敷の両隣に居を構えるクレイアス子爵とアーロイド子爵の屋敷との間にあった空き地をまるっと買って、その土地を宿舎と訓練場に充てる事にしたのである。
結婚式に続いてデカい出費ではあるが、こうしたのは貴族の責務だし、何事も先行投資は大事である……と思う。
兎に角こうして何とか無事にハーヴィー騎士団の旗揚げと相成ったのであった。因みに男性30人、女性は20人と言う、見事なまでに男女比6:4なのは言うまでも無い。
あとは折を見て騎士団員の第二次募集もしないとだし、何よりも氏族『神聖な黒騎士団』の新規メンバー募集もあるし…… 。
まだまだやるべき事が山積しているが、まぁ何とかなるだろうと思う。
ヒトはそれを「希望的観測」と言うが!
ここまでお読みいただき有難うございました!
次回は3週間後になります!
お楽しみに!!




