晴れの日、結婚式 〜波乱と祝福と〜
本日は第227話を投稿します!
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その日、オールディス王国の王都ノルベール、その中央の丘陵に聳え立つ王城ブリシト城、その傍らに並び立つ数多くの尖塔で構成された荘厳な建築物──大聖堂の中に俺とマディ達は居た。より正確には礼拝の間、であるが。
ここに一緒に居るのはデルバート大司教とエリンクス国王陛下とマティルダ王妃殿下、ルベルさんとヨエルさんとマーユ、フォルテュナ義父さんとディフィリア義母さん夫妻、ダン義父さんとエマ義母さん夫妻、ネイサン義父さんとマノラ義母さん夫妻とアルノルド義兄さん、ザイラ、そしてアドルフィーネとルストラ師匠の16人である。今丁度、彼等の立ち会いの元、創造神ライゼファの神像に結婚の誓約をし、マディ達7人と結婚指輪と誓いの接吻を交わし終えた所である。
因みにここに来るまでにちょっとした事変に遭遇していたりする。そのアクシデントの元凶とは勿論、我が愚妹アドルフィーネ──アドルである。前回会った時から随分と大人しかったのですっかり安心していたが、結婚式本番の今日、大聖堂に婚礼衣装を着て現れたのだ! しかも結婚指輪まで持参すると言う念の入れようで! だがそれには流石の国王陛下や王妃殿下が御怒りになられてアドルを叱咤、アドルを普通の正装に着替えさせる為に結局誓約式を1時間遅れさせる事となったのである。
なので今師匠と並んで座っているアドルは真っ白に燃え尽きていたりする。
だがそれは自業自得と言う物であり、俺は今回も支援するつもりは毛頭無いぞ?
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そんなゴタゴタがあった誓約式だったが、何とかあとは恙無く終える事が出来、会場を大広間に移して披露宴が催される運びとなった。
白亜の白い壁と高い天井、その高窓から取り込まれた外光と天井から吊り下げられた大燭台の光で光輝燦然とした大広間では、ジュリアス王太子殿下──ジュリアスとステラシェリー王女殿下に、ギルマスことディオへネス・ヒギンズ子爵とうちの屋敷の又隣に居を構えるエヴァン・フォン・マイヤーズ子爵に、ロバート・ナッシュ子爵以下直臣の貴族達に、シグヌム市から伯爵に陞爵したネヴァヤ・ファーザム女史に、オルティース・トリスタン子爵──オルトとベルナデットに、俺の氏族のメンバーとコーゼストに、『銀の林檎亭』のオリヴァー達家族に、その他招待客達が満場の拍手で出迎えてくれた。
今日に限りヤトやセレネは顕現していないのは言うまでもない。話がややこしくなるからな。
拍手は俺達が主卓に着くまで続き、招待客のテーブルから見て左手に俺が、俺の左側にはマディ、オルガ、アン、エリナ、ルピィ、レオナ、ジータが順番に着席すると、パラパラと拍手が鳴り止んで行く。やがて俺達全員が着席すると、司会進行役の陛下の侍従長が
「皆様、ご起立下さい。これより国王陛下からの御言葉が御座います」
と声を上げ、それを受け上座のテーブルに座っていた陛下がすくっと席を立ち、招待客や俺達も立ち上がる。
「先程ここに居るウィルフレド・フォン・ハーヴィー辺境伯と7人の花嫁は創造神ライゼファ様の御前にて、余の立ち会いの元、婚姻の誓いを立て、晴れて夫婦となった! この様な結婚は、余の記憶でも例を見ない、今後の歴史に残るであろう結婚式となるであろう! この8人の行く末に幸せがあらん事を皆と祝福したいと思う!」
ホールいっぱいに響く様な良く通る声で祝福の言葉を口にする陛下。するとホールは再び拍手の渦に包まれるのだった。
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「陛下、祝福の言葉を有難う御座いました。それでは皆様、ご着席下さい」
司会を務める侍従長の言葉にそれぞれの席に座る出席者や俺達。主賓や家族を始め出席者は全員丸卓にそれぞれ円座で座っている。
「続けてウィルフレド・フォン・ハーヴィー辺境伯閣下、結婚の挨拶と乾杯を御願い致します」
侍従長の言葉にその場に立つ俺。
「皆様、本日は私達の結婚を祝福していただき有難う御座います。まだ若輩者の私達ですがこれからも末永く宜しく御願い致します。それでは──乾杯ッ!」
『『『『『乾杯ッ!』』』』』
俺の声に呼応して陛下や出席者から乾杯の言葉が復唱され、いよいよ披露宴が始まるのだった。
当然の事ながら俺と結婚した7人は本日より姓が改まる。具体的に言うと、例えばアンの場合はアンヘリカ・アルヴォデュモンドからアンヘリカ・フォン・ハーヴィーに、オルガの場合はオルガ・ロア・セルギウスからオルガ・ロア・ハーヴィーにと言う具合である。
但しマディの場合はマデレイネ・ジョゼ・ファンティーヌからマデレイネ・ジョゼ・ハーヴィー=ファンティーヌと言う具合に、今までの名前+俺の姓に元々の姓ファンティーヌが付け足される事になるが。そして当然の事ながら俺の姓名もウィルフレド・フォン・ハーヴィー=ファンティーヌと二重姓となったのであった。
尤もこの名を名乗るのはマディの暮らすオーリーフ島限定ではあるが、曲がりなりにも魚人族の女王の王婿になったんだ。こう言う事もキチンと受け入れていかないとな。それに何よりもだ、こうした事も全て引っ括めると覚悟を決めて彼女達7人と結婚を決意したのだ。
その決意に後悔は決してしていないと断言出来る!
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「ウィル、それに皆も、改めて結婚おめでとう」
「アンも、本当におめでとう。他のお嫁さんとも仲良くやって行くのよ?」
俺が決意を新たにしていると、メインテーブルの方に銀杯を片手に声を掛けてきたのはフォルテュナ義父さん夫妻。実の所、披露宴が始まってから、特に親しいヒト達が直接祝辞を述べに来ており、つい先ほどもエリック・ローズ男爵夫妻から「この度は御成婚おめでとうございます」と、実に彼らしい几帳面な祝辞を述べられたばかりであったりする。
「フォルテュナ義父さん、ディフィリア義母さん、有難う御座います」
「お父さんお母さん、有難う!」
「「「「「「有難う御座いますッ!」」」」」」
フォルテュナ義父さん夫妻の祝辞ににこやかに謝辞を述べる俺とアン、そしてマディ達6人。因みにアンのウエディングドレスだが、ウエストラインから裾に向けスカートが広がる形が字母表の「A」のように見える、スラッとした純白のロングドレスである。
「アン、前にも言ったがこれはお前が選んだ人生だ。悔いの無い様にこれからの人生を生きて行きなさい。ウィル、そして他の花嫁の方々も、君達もこれから大変だろうが、今この瞬間に感じているその気持ちをいつまでも大切にな」
「皆んな、これからも末永くお幸せに。ウィル、アンの事も大切にしてあげてね。アン、あなたの一度きりの人生が幸せであります様に」
俺達の謝辞に満足気に頷いたフォルテュナ義父さん夫妻は、そう言葉を付け加えると自分達の席へと戻って行ったのであった。
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その後もダン義父さん夫妻やクリフォード・ギムソン子爵夫妻等招待客が、俺達の座るメインテーブルに来ては口々に祝辞を述べていく中
「ウィル、皆んな、本当に結婚おめでとう!」
満面の笑みを浮かべながら祝福してくれるルストラ師匠と
「……ぐすっ、兄様……」
未だに愚図っているアドルの2人がやって来た。と言うか、お前はいい加減に諦めろ。そんなアドルを見かねた師匠は
「アドル、貴女もいい加減になさいな! 本当にウィルの事を愛しているなら、ウィルの幸せを祝福してあげるのが妹のあるべき姿よ?!」
アドルに一言苦言を呈する。流石のアドルも幼い頃から知っている師匠の言葉に渋々と従い
「……兄様、そして皆様方、この度は御成婚おめでとうございます」
と涙目で祝辞を述べる。だがそこまで言うと「ですが!」と言葉を続けて
「兄様、兄様がこの何方かと離縁されたら、私いつでも嫁ぐ準備をしておきますわ!」
と結局は妄想垂れ流しの台詞で締め括る。お前は未だ諦めていないんかい! 案の定師匠から「こんなお祝いの席でそんな事言うなんて!」とお小言を食らい、涙目に更に涙を浮かべて「申し訳も御座いませんですわ……」とまたもや悄気るアドル。暫く大人しかったので兄恋慕も改善されたのかと思っていたら、逆に拗らせまくっていたとは…… 。
ある意味その姿勢と情熱にブレが無いアドルではあるが、出来ればその情熱を俺以外の男性に向けて欲しいものである。
かなり本気で!
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そうこうしてる間にも披露宴も進んで行き、その間も祝福の言葉を述べるヒト達に、これまた笑顔で受け答えしていた俺達であるが、それもひと通り終えたらしく、司会進行の侍従長から
「それでは皆様、この辺で舞踏の場を設けさせていただきます。どうか御自由にお楽しみ下さい」
との告知がなされ、同時にホールの奥に控えていた楽団が軽快な音楽を奏で始める。
そのアナウンスを受けて招待客達はそれぞれ個別に話をする為に、設けられた空間の四方へと散っていく。それまで俺達への祝辞と国王陛下への挨拶を述べる以外は、席を外れる事はしていなかったが、ここからは実質的に招待客同士の交流の場となるからである。
まぁ実際の所ほとんど立ち話になるであろうが、特に地方の下位貴族達は国王陛下一家や有力貴族に顔を売る好機であるから割と必死である。
因みに舞踏の場と銘打っているだけあって無演奏と言う訳にはいかず、楽団の演奏は会話に差し支えない程度に抑えられていたりするが。
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さてさて兎にも角にも、こうして披露宴も舞踏会へと移り、ホールのあちこちでは何人かが集まると挨拶を交わし、或いはゆったりと数組はダンスに興じていたりする。その中で俺達もそれぞれの家族や身内と和やかに話をしていたのだが、そんな中
「ウィルよ、楽しんでおるか?」
国王陛下が王妃様やジュリアス、そして王女を伴って、俺達の元を訪れたのだ。
「これはエリンクス陛下!」
これに慌てた俺達は臣下の礼やお辞儀を執ろうとすると
「良い良い、今日は貴殿らが主役なのだからな。そんなに畏まらず、いつも通りに接してはくれぬか?」
俺達をやんわりと制して笑顔でそう宣う陛下。横を見ると王妃様も笑顔で頷いている。それを見て
「それでは──陛下、それにマティルダ王妃様にステラシェリー王女も、今日は本当に有難う御座います。ジュリアスも有難う」
「「「「「「「有難う御座いますッ」」」」」」」
少しくだけた口調で軽く礼を執るに留める俺。マディ達も前で手を重ねて会釈するに留めている。
「うむ、全くもって此度は誠に喜ばしい。本当に御目出度うウィル、それに奥方達も!」
俺達の返事に呵々と哄笑するエリンクス国王陛下。
俺と陛下の会話を聞いていた何人かの貴族達からどよめきが起こるが、苦情は許可した本人に言ってもらいたい。
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「さて皆様、宴もたけなわで御座いますが、本日はこれにてお開きに致したいと思います。最後にハーヴィー辺境伯閣下から皆様に御挨拶を御願い致します」
それからややあって司会進行役の侍従長からそう声が上がる。国王陛下から聞いたのだがこの侍従長の名前はイアン・サリヴァンと言うそうな。兎に角サリヴァン侍従長に言われたので、席を立つとホールの中央に進み出る俺。皆んなの注目が集まる中ひとつ大きく息を吸うと
「皆様、本日は私達の結婚式にお越しいただきまして有難う御座いました。なにぶん夫婦に成り立てですので色々あるとは思いますが、今後ともどうぞ宜しくお願いいたします」
ホールに響き渡る大きな声で礼を述べる。それに答えるのはホールに響き渡る出席者からの大きな拍手。それは俺達8人への祝福の大きさを示すように、暫くの間鳴り止まないのだった。
やがてその拍手も鳴り止むと、招待客達は馬車の準備が出来た順に呼ばれて、ホールから退出して行く。因みに国王陛下一家はバラバラに帰って行った。万が一の場合を想定しての事であるらしい。
「マスター、今日は本当にお疲れ様でした」
帰って行く招待客を最後まで残って見送っていると、俺の傍に来て労いの言葉を掛けてくれるコーゼスト。
「ああ、有難うなコーゼスト」
「まぁ、マスターもこれからが大変ですけどね」
「ははは……まぁ、な」
コーゼストの台詞に笑うしかない俺。
こうして多少の波乱もあった結婚式ではあったが、何とか無事に終えて、俺達8人は晴れて夫婦となったのであった。
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