嵐を呼ぶ対戦、そして懲りない馬鹿
本日は第225話を投稿します!
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ヒュンと言う鋭い風切り音と共に長剣が横薙ぎに迫る! それを右手に持つ刀で受け流す俺! 硬い金属同士が擦れる嫌な音と共にロングソードの軌道を逸らす! だがもう1本のロングソードの刃先が別方向から迫り来る! その軌道は明らかに俺の首を刈ろうとしている!
「くっ!?」
今度は左手に持つカタナを振るい、迫り来るロングソードを打ち払う! お返しとばかりに右の刀で斬り下ろし掛かる俺! だがオルティース──オルトは既にカタナが届く範囲から離脱している!
「流石! 中々やるな、ウィル!」
俺の耳に嬉しそうなオルトの声が聞こえて来る。本当にお前は戦闘狂だな?!
「ッ! オルト! お前、今本気で俺の首を刈ろうとしたろ!」
「大丈夫だ! 刃は潰してある! 骨が何本か折れるだけだッ!」
いやいや、首の骨は流石に不味いだろが?! まぁ2人とも自身の手に持つロングソードもカタナも刃を潰してはあるんだけどな! それでも首は駄目だろ!?
ここはラーナルー市にある俺の屋敷の修練場、俺とオルトはルストラ師匠の指導の一環で実戦さながらに刃を交えていた。
オルトは元々二剣流で、俺よりも二剣での実戦経験は豊富だ。それをオルガから聞いた師匠が俺の二刀流の鍛錬の為にわざわざ呼び寄せたのだ。
まぁ確かにこうして直接刃を交えると、俺に足りない物等が見えてきて実に有意義ではあるが…… 。
俺は気を取り直して手に持つ2本のカタナを握り締め直すと、オルト目掛け鋭い声を飛ばす。
「行くぞッ! オルトッ!」
「応ッ! 来いッ! ウィル!」
それに呼応しその顔に更に獰猛さを滾らせるオルト。
やっぱりお前は戦闘狂だな?!
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それからオルトと斬り結ぶ事数度、俺はずっと押され気味だった。偶に反撃に転じても軽く往なされて直ぐに押されてしまう。やはりそれだけ二剣流はオルトの方に一日の長がある。それでも何とかついて行けるのは、俺が二剣の捌き方をオルトと言う見本から見て学んでいるからである。見物人のアン達はアン達で息を呑んで俺とオルトの戦いを見守っている。
そして更に斬り結ぶ事数度── 。
「シッ!」
俺は右手に持つカタナをオルトの胴目掛けて斜めに斬り下ろす! そのカタナを左手のロングソードで外に打ち払うオルト! だがほぼ同時に俺の左手のカタナがオルトの右脇腹目掛けて繰り出される!
「うおっと!?」
その斬撃にも即座に対応し、右手のロングソードで今度は下に叩き落とすオルト! 一瞬がら空きになった俺の右脇腹目掛け、今度はオルトが二剣両方を同時に叩き込んでくる! だが!
「させるかァ!」
俺はオルトの斬撃よりも早く2本のカタナを右に交差させて受け止める! 斬撃を止められたオルトは素早く俺から距離をとる!
「これを受け止めるか?! 流石はウィルだ!」
そう言って獰猛な笑みを深めるオルト。
「そいつはどうも!」
そんなオルトにそう返す事しか出来ない俺。このままではまた押されるのは目に見えている。だがこのまま攻め込まれ続けるのも癪であるし、何より芸が無い。さて、どうしたものか…… 。
俺は油断無くオルトを見据えながら思考を巡らせるのだった。
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「ウィル、私との鍛錬を思い出しなさい」
その時不意に修練場に響く良く澄んだ声。それまで黙って見ていたルストラ師匠が口を開いたのだ。成程師匠との鍛錬か…… 。たった一言ではあるが、師匠の台詞は俺の目を覚まさせるには充分なモノだった。
俺は数度呼吸を整えると右のカタナを縦に、左手のカタナを横に、正面に向けて構える。相変わらずオルトは獰猛な笑みを浮かべながら、やはりロングソードを構えている。
「……行くぞ、オルト」
そう小さく声に出すと同時に、俺は『迅風増強』を発動、同時に短距離移動法──縮地を使って一気に間合いを詰める!
「くッ?!」
突然の出来事にオルトの反応がほんの一瞬だけ遅れる! それを見逃さず左右のカタナをそれぞれ流れる様にオルトに叩き込む俺! 辛うじて2本のロングソードでカタナを受け流すオルト! だが俺は斬り掛かった勢いそのままに身体を回転させると同時に、左右に持つカタナを次々とオルト目掛けて繰り出す! それはさながら舞踊の様に── 。
「あ、あれはッ?!」
ギャラリーの誰かの声が聞こえて来る。そう、俺は師匠が模範で見せた二刀流の動きをなぞっているのだ。これもまた師匠との鍛錬の成果のひとつである。まぁぶち上げると単なる「見様見真似」なのだが、見様見真似と侮る事勿れ、師匠が見せた模範を一挙一動完璧に真似する事で、自らの物にする事が出来る重要な鍛錬のひとつなのである。
それが今まさに形となり、オルトを圧倒し始めていたのである。
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流れる剣舞の様なカタナ捌きでオルトと刃を交える事数度、最初の時とは違い今は俺がオルトを押していた。オルトも先程から何度かロングソードを打ち込んで来てはいたが、それ等は全て俺が受け止め、受け流しており、明らかに形勢は逆転していた。それでも未だに決着がついていないのは、やはり二剣流はオルトに一日の長があるからである。
「グッ?! かぁーッ! いきなり凄いじゃないか、ウィルッ!」
それが証拠にオルトにはまだ軽口をたたく余裕がある。寧ろますますその獰猛な笑みを深めている。
「──随分とッ! 楽しそうだなッ! オルト!」
カタナによる連撃を繰り出しながらオルトにそう声を掛ける俺。
「ハハハッ! 当たり前だ! こんなに楽しい事が他にあるかッ?! もっと、もっと俺を楽しませろウィルッ!」
「ッ! それじゃあ! 御期待に! 答えてッ!」
そう言うと剣舞の如きカタナの連撃の速度をひとつ引き上げる俺! 嵐の様な連撃がオルトに襲い掛かる!
「うおっ?! はははははっ! 良いぞ! ウィルッ!!」
完全に防戦一方になっているにも関わらず、やたら嬉しそうなオルト! それを見て更にスピードを上げる俺! 押し込まれているにも関わらず更に笑みを深めるオルト! そして!
「──シッ!!」
短く鋭い気合と共に繰り出された俺のカタナは、遂にオルトのロングソードの防御を抜いて、オルトの喉頚にピタリと当てられたのである。
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「ッ、俺の──負けだな」
喉頚にカタナの切っ先を当てられたオルトがそう声を発すると、持っていたロングソードを手放して両手を上げると降参の意を示す。
その声には若干の悔しさをのせて。
「そこまで!」
同時に修練場に響くルストラ師匠の声。その声にそれまで固唾を呑んで俺とオルトの戦いを見ていたアン達がわっと沸く。俺はオルトに突き付けたカタナを静かに下ろすと、大きな安堵の溜め息を吐いた。
「ふぅ……胸を貸してくれて有難うな、オルト」
俺がオルトに謝意を示すとオルトは
「うん! まぁ友としては当然だなッ!」
といつも通りの暑苦しい笑みを浮かべながら、いつも通りの口調と態度を見せる。そして
「それにしてもウィル! お前、ルストラ殿の言葉を聞いた後はヒトが変わったかの様だったな! お前が流石と言うべきか、ルストラ殿が流石と言うべきか…… 。一体どんな鍛錬を積んだんだ?!」
俺が師匠から課せられた数々の鍛錬に興味を示す。
「ん? ああ、それはな──」
そこで俺は実際に受けた鍛錬を掻い摘んでオルトに話して聞かせる。それはもう遠い目をして。だが俺の話を聞き終えたオルトは
「うーむ、聞きしに勝る厳しい鍛錬だなッ! だがそこがまた良いぞ!」
と俄然やる気を見せる。お前がドMとは前から薄々感じていたが、案の定かい!?
俺は1人でやたら盛り上がっているオルトの様子に、思わず頭の中で突っ込んでしまったのである。
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「良くやったわ、ウィル」
俺がオルトと話していると、にこやかに手を叩きながら会話に入ってくるルストラ師匠。
「師匠、助言有難う御座いました」
そう言って深々と頭を下げる俺。
「私はちょっと貴方に手掛かりを与えただけ。オルティース殿に勝てたのは貴方の実力よ」
笑みを浮かべたまま、俺の言葉にそう返す師匠。俺はその言葉に何か言おうとしたが、これ以上の言葉は無粋になりかねないので頷くに留める。
「それにオルティース殿も本当に有難う。話には聞いていたけど、貴方の強さも相当なモノね」
そして今度はオルトに話を振る師匠。するとオルトは
「ルストラ殿、有難うございます! この後ご指南を是非とも!」
と、これまた暑苦しい笑顔でそう頼み込む。
「それは構わないけど……オルティース殿も疲れているんじゃなくって?」
言われた師匠はオルトの体調を心配するが
「いやこれしきの事、大丈夫ですッ!」
と言って暑苦しい笑顔全開で簡単に言い切るオルトと彼の台詞に苦笑いを浮かべる師匠。
「随分元気があるな、オルト」
思わず突っ込む俺にオルトは
「うん? いや、これでも結構疲れてはいるんだぞ? だがルストラ殿から指南して貰えるなら、疲れているなどと言ってはいられないからな!」
そう言って呵々と笑う。お前は本当にドMかよッ?!
「……お2人とも、本当にうちの馬鹿が申し訳御座いません」
いつの間にか俺らの傍に来ていた、オルトの付き添いの貴森精霊ベルナデットが、済まなそうに俺や師匠に頭を下げながら謝罪をしてくる。
アンタも相当苦労しているんだな…… 。
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そのあと結局、オルトの懇願に根負けする形でルストラ師匠が手合わせする事になった。修練場には俺と交代して愛用の黒檀拵えの戦杖を手にして立つ師匠の姿が。
「最初に断っておくけど、指導するからには私は一切手を抜かないからそのつもりでね」
戦杖を片手で背中に構えながらオルトにそう声を掛ける師匠。一方のオルトは再び刃を潰したロングソードを両手に持ち
「望む所だ、ルストラ殿! ご指南宜しくお願いする!」
俄然やる気を漲らせる。これはアレだな、一度こてんぱんにやられないと駄目な奴だな。師匠は小さく息を吐くと
「先手は譲ってあげる。何処からでもかかってらっしゃい」
とオルトを誘う。
「それじゃあ遠慮なくッ!」
その言葉に自分から仕掛けるオルト! 一気に間合いを詰めると同時に、2本のロングソードを縦と横のほぼ同時に振るう!
(あれは蒼剣十字斬ッ?!)
いきなりの大技に驚く俺! だが師匠は慌てる事なく、バトルスタッフを構えた背中から両手で鋭く、地を擦るかの如く下から上に打ち上げる! ただそれだけの事だったが、師匠のバトルスタッフはオルトの蒼剣十字斬と交差し、縦横二剣を抑え込む! 自身の必殺技をいとも簡単に止められたオルトは驚愕の表情を見せるが、師匠の追撃は未だ終わっていない。
「ハッ!」
そこから更に一歩前に踏み込むと同時にバトルスタッフを槍の様に突き出す! 突き出されたバトルスタッフの先端がオルトのがら空きの腹に突き刺さる!
苦悶の叫びと共に背後へと吹き飛ばされて、地面に叩き付けられるオルト。そのままピクリとも動かない。
師匠も本当に容赦ないな?!
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そんなこんなでルストラ師匠とオルトの手合わせはあっという間に決着がついた。ベルナデットに治癒魔法を掛けて貰っていたオルトからは
「ッ──はァ、有難うございましたルストラ殿! 俺の完敗ですッ!」
回復一番、身体を起こすとそう言葉が発せられる。その顔は凄く晴れやかである──相変わらず暑苦しい笑顔ではあるが。
「うん、オルティース殿もなかなか筋が良いわよ? これからに期待ね!」
そんなオルトにそう声を掛ける師匠。まぁこと武術に関しては師匠は決してお世辞は言わないからな。それだけオルトには見込みがあるんだろう。
「おおッ! 有難うございますルストラ殿! 次回もまたご指南宜しくお願いします!」
「やる気あるな、おいッ?!」
師匠の言葉に暑苦しい笑顔全開でそう答えるオルトに思わず突っ込む俺。ある意味本当にブレないと言うか──やはりお前はドM確定だな!
そんなオルトに苦笑いを浮かべている師匠と「本当にこの馬鹿リーダーは……」と額に手を当てて首を振るベルナデット。
こうして暫くの間、俺の屋敷にはオルトがちょくちょく顔を見せる様になったのである。
もちろん彼が知りたがっていた武技「皇竜砕牙」は師匠から伝授された事は話したのは言うまでもない。
まぁ細かい事は師匠に丸投げだな、うん!
いつもお読みいただきありがとうございます!




