鍛錬、そして馬鹿が再び笑顔でやってきた
本日は第224話を投稿します!
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ドゥイリオが ” 神威 ” を納品した翌日、ラーナルー市にある俺の屋敷の修練場にて──
「ハァー、ハッ! セイッ! セイヤッ!」
「ほらほら、姿勢が崩れているわよ?! 常に自身の体幹を意識しなさいッ!」
俺はルストラ師匠から刀術──より正確には二刀流を叩き込まれていた。本来なら結婚式を挙げた後に鍛錬する予定でいたが、俺の手に ” 天照 ” とカムイの2本が揃ったので予定が繰り上げられたのだ。最初に師匠が二刀流の模範を見せてくれたが、流れるような動きはまるで舞踊の様だった。
そのあとは構え方から今は2本の刀の振るい方等をみっちりと教えて込まれている最中である。何せ師匠は実戦主義だからな。
「兎に角先ずは実際に刀を2本振るってみなさいな。悪い点はその都度直してあげるから」
そう言うとあとは只管アマテラスとカムイを振るわされていた。動きのおかしい所は指導用の杖で遠慮なく打ち据えて来て、正しい形へと矯正されて行く。
「ほらほら、2本の刀は自分の両腕の延長だと思って! 腕がそんな動きをする筈は無いでしょ!? もっと流れる様に! 刀の先を指先だと思って神経を集中させなさいッ!」
それから更に杖に打ち据えられる事数度、少しずつではあるが段々と師匠が理想とする形になってきたらしく
「そうよ! 段々と様になって来たわね! そのまま続けて!」
そう褒める師匠の言葉に答える俺。
「はいっ! ハッ! フッ! ハァ! セイッ!」
そしてその日は師匠が納得する形になるまで、数時間も延々と2本の刀を振るう事になったのであった。
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「あ〜っ、疲っれたぁ〜」
そう言うと自室のベッドに突っ伏す俺。朝早くから始まった鍛錬も数時間、午下に差し掛かる頃まで続き、漸くルストラ師匠から「今日はここまでにしましょう」と声が掛かり本日の鍛錬は終了と相成った。相変わらず師匠の鍛錬はキツい…… 。
「お疲れ様でした」
俺の傍には当然の様にコーゼストが。
アン達は婚礼衣装の仮縫いが出来たと連絡が来て、マディらを伴って皆んなで服飾店『スィームシルキー』に朝から行っており留守である。因みに俺の正礼装の仮縫いはつい先日出来ており、合わせは済ませてあったりする。更に因みにマーユも其方の方についていったし、ベルタ達も同じく『スィームシルキー』に同行していたりする。更にさらにヤトやセレネ等従魔達も今日は顕現していないのである。なので久しぶりに俺の傍にはコーゼストだけなのだ。
「それにしても中々ルストラさんの鍛錬は厳しいですね」
最初から最後まで一緒に居たコーゼストからそんな感想が漏れ聞こえてくる。
「ふぅ……いや、これでもまだ優しい方だぞ? 昔は朝から晩まで剣の素振りや型の鍛錬をずっとやってた事も何度かあるしなぁ」
そんなコーゼストの台詞にベッドに突っ伏したまま答える俺。実際に子供の頃に何度か飯抜きでやらされた記憶が……うわぁ〜、今思い出しても古傷だぁ…… 。
「それは──また壮絶ですね」
俺の答えに流石のコーゼスト先生も引き気味である。
まぁ、我ながら良く食らいついていったものだと感心する──今さらながらだけどな!
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自室で一休みした後、食堂で遅めの昼食を摂る俺。食堂ではルストラ師匠と共にヤトやセレネも顕現して一緒である。
「もぐもぐもぐ──んぐ、はァ〜、ねぇ御主人様! 二刀流の特訓はどうなのかしら?! 順調?」
目の前のステーキに齧り付きながら、唐突にそう尋ねて来るヤト。どっちでも良いがキミは食べるか話すか何方かにしなさいって。
「ん? んー、まだ今日から始めたばかりだから何とも言えないが……何でそんな事を聞くんだ?」
俺は同じステーキを食べる手を止めてヤトと話をする。すると
「それはもちろん! 二刀流をマスターしたら私と戦って欲しいのッ! あっ、もちろん戦闘訓練でよ?!」
と満面の笑みでそう宣うヤト。その予想の斜め上を行く返事に思わず卓の上につんのめる俺。危うくステーキに顔を突っ込む所だった…… 。師匠は苦笑い浮かべているし…… 。
「もうヤトったら……御主人様が困っているじゃないの」
一方優雅に同じくステーキを頬張っていたセレネは、ヤトの言動にかなり呆れた様子である。しかし流石はセレネ、ヤトと違って理知的である──ヤトには申し訳ないが。
「何よォ?! セレネは強い御主人様と戦いたくないのッ?!」
「あら、そんな事は無くってよ? 御主人様さえ良ければいつでもお手合わせ願いたいわ。なので御主人様、宜しくお願いしますわね♡」
「あ、ああ、そ、そのうちな」
訂正──結局セレネもヤトと大同小異でした!
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俺が遅い昼食を終えてから少しして、アン達が『スィームシルキー』から帰って来た。
「皆んなお帰り」
そう言って屋敷で出迎える俺。
「「「「「ウィル、ただいま♡」」」」」
「お父さん! ただいまッ!」
「「「「「ただいま戻りましたぁ!」」」」」
特にアン以下7人の嫁さん達は意気揚々として、である。にしても随分と御機嫌だな?
「なんだ何だ、何かあったのか?」
「えっ? うん、あのね、仮縫いされたウエディングドレスの袖に手を通して来たんだけど、出来栄えが良くて皆んなで盛り上がっちゃって♡」
俺の問い掛けにアンが代表して答える。何でも仮縫いされたウエディングドレスの出来栄えが想像以上に良かったらしく、オルガやマディも口々に「あれは素晴らしかった」と絶賛している。王侯貴族や王族である彼女らがそう絶賛するとは、流石『スィームシルキー』である。
因みに彼女らのウエディングドレスを俺はまだ見させてもらっていない。アン達が言うところの「出来てからのお楽しみ」だ。
「ねぇ、お父さぁん! 私もとぉってもキレイなドレスが出来たの!」
俺の腰の辺りに抱き着きながら花が咲く様な笑顔でそう口にするマーユ。彼女のは俺達が注文した後に追加で注文したのだ。
「へぇー、ソイツも結婚式当日にお披露目なんだろ? それまで楽しみにしているよ」
「うん! 楽しみにしていて!」
抱き着くマーユの頭を優しく撫でながら、そんな会話をマーユと交わす俺。
やはり我が愛娘は可愛いなぁ!
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「そう言えばウィルの方はどうなのかしら、二刀流の方は?」
マーユと話していると不意に俺の鍛錬の進み具合を尋ねて来るエリナ。
「うん? んー、まだ始めたばかりだから何とも言えないな」
とりあえず無難な返事を返しておく俺。なんだ? この既視感は?
「ふーん……あっ、ルストラさんから見てウィルの二刀流は物になりそうですか?」
すると今度は師匠に質問するエリナ。そんなに気になるのか?
「そうねぇ……今日は初日だったけど、ウィルは基礎が出来ているから、あとは慣れれば大丈夫だと思うわよ?」
エリナの質問にそう請け負う師匠。本人はそこまで行ってないと思うのだが、指導する師匠の目から見ると俺はかなり筋が良いらしい。それはそれで嬉しいが…… 。
「何でそんな事を聞くんだ、エリナ?」
今度は俺がエリナに素朴な疑問をぶつける。それに対するエリナの答えは
「うん? えっとね、ウィルが二刀流を習得したら、一度手合わせして欲しいかなぁ……って思って♡」
との事である。エリナの言葉にアンやレオナやジータも「私とも手合わせして欲しいわ」と目を輝かせて言ってくる。キミタチは戦闘民族か何かか?! そんなに血気盛んなのも考えものだぞ?!
俺は俺との戦闘訓練の話でまたキャイキャイと盛り上がるアン達の様子に、心の中でそう突っ込まざるを得なかった。と言うかまだ鍛錬始めたばかりなんだからあまり期待しないでください!
俺は割と本気で叫びたくなった──はァ。
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それから何日か経ち──
「ハァ! セイッ! セイヤッ!」
「そう! そう! 随分と良くなって来たわよッ!」
──相変わらず朝からルストラ師匠の指導を受けて二刀流の鍛錬に勤しむ俺。初日から見るとかなり様になって来た……と思う。それに──
「お父さぁん! 頑張ってぇーッ!」
──初日の次の日からマーユが俺の鍛錬の見物人の1人となっており、盛んに声援をしてくれるのもある意味励みになっていたりする。
「良しっ、今日はここまで!」
「ッッ、ハァハァハァハァ──あ、有難う御座いましたッ!」
師匠の終了の声に呼吸を整える間もなく、荒い息で礼をする俺。今日もキツかった…… 。
「うん、だいぶ基礎が出来上がって来たわね! これなら一度模擬戦をしても良いかもしれないわね!」
俺が膝に手をついて呼吸を整えていると、徐ろにそう言葉に発する師匠。
「ハァハァハァハァ──も、模擬戦? し、師匠とか?」
正直に言ってそれは勘弁して欲しい。それは幾ら何でも無茶である。すると師匠は
「ああ、幾ら私でもそんな無理強いはしないわよ。貴方の知り合いで腕の立つ剣士に頼むつもり」
と宣い、笑みを浮かべる。俺の知り合いで腕の立つ剣士? 何だか嫌な予感しかしないンだが…… 。
「ハァハァ、ち、因みにそいつは誰なんだ?」
頭の片隅に心当たりを思い浮かべながら敢えて尋ねる俺。師匠はにこりと笑みを深めると
「Sクラス冒険者パーティー『デュミナス』の ” 蒼騎士 ” オルティース・トリスタンよ。オルガさんからの推薦なの」
俺の想像通りの名前を口にしたのである。
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そして翌朝、俺の屋敷の修練場には
「ウィル! 久しぶりだなッ! おっと! 辺境伯にこの口の聞き方は不味いか?!」
蒼い重甲冑の美丈夫が呵々と笑って立っていた。相変わらずの暑苦しい笑顔のオルティース・トリスタン、そのヒトである。
「本当にこの馬鹿リーダーは……申し訳も御座いませんハーヴィー辺境伯閣下」
そしてもう1人、『デュミナス』の " 碧眼の冥界妃 " 、貴森精霊のベルナデット・エテルニテが付き添いで付いて来ていた。
「あーっと、オルトにベルナデット、本当に久しぶりだな。特にベルナデット、そんなに畏まらなくても大丈夫だぞ?」
オルティース──オルトは兎も角、頻りに恐縮するベルナデットにそう声を掛ける俺。アン達もそんなオルト達を何とも言えない顔で見ている。
「はははっ! 流石は我が友! 話がわかるじゃないかッ! ほら見ろベル、ウィルもこう言っているぞ?!」
「はぁ……オルト、貴方社交辞令と言う言葉の意味を知っていますか?」
俺の言葉にまた呵々と笑ってベルナデット──ベルに話し掛けるオルトと、それを軽く往なすベル。傍から見るとベルがオルト達『デュミナス』のリーダーに見えなくもない。そんな風に2人の会話を聞いていた俺にオルトが
「それで? 其方の女性は誰なんだ?」
単刀直入に師匠の事を聞いて来る。
「あ、ああ、このヒトはルストラ・フォン・モーゼンハイムさん。俺の武術全般の師匠さ」
俺は手を向けてルストラ師匠をオルト達2人に紹介する。すると名前を聞いたオルト達の動きがピタッと静止した。
何だ、どうかしたのか?
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「ウィルの師匠ってルストラ殿だったのか?! 道理で強い訳だ!」
再起動したオルトからそんな言葉が投げ掛けられる。何でもオルトも師匠の事は聞き及んでいたらしく、以前からその指導を受けたいと思っていたらしい。前にもオルガから聞かされていたが、師匠って冒険者の間ではかなりの有名人らしい。師匠本人は苦笑いを浮かべているけどな。
「ルストラ殿! どうかこの俺にひとつ御指南を御願いしたい!」
俺がそんな師匠の有名度に感心していると、そう言って師匠に頭を下げて懇願してくるオルト。いつも呵呵大笑としているオルトが真剣な面持ちで頭を下げるとは……これは珍しい物が見れた。アン達も俺と同様に吃驚している。
「頭を上げてちょうだい」
師匠は穏やかな声でオルトに言葉を掛ける。そして続けて
「私で良ければいつでも手合わせさせてもらうわ。でもその前に貴方にはウィルと手合わせして欲しいの」
と呼び出した趣旨を改めて話す。それを聞いたオルトはガバッと音がするくらいの勢いで頭を上げると
「そうかッ! 良しっ! ウィル、早速仕合おうかッ?!」
いつも通りの暑苦しい笑顔でそう宣うオルト。と言うか、お前は本当に切り替えが早いなッ!?
「そして次はルストラ殿と手合わせするんだからな!」
俺が頭の中でそうツッコミを入れていると本音を口にするオルト。それはもうダダ漏れである。
全く、お前は少しもブレないな?!
いつもお読みいただきありがとうございます!




