婚約報告(幕間) 〜休息の日々〜
本日は第219話を投稿します!
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迷宮「深淵の森」の奥に住まう世界樹の森精霊の氏族の村に、アンの両親へ婚約の挨拶にと訪れた俺とオルガ達。
俺とアンの婚約結婚を祝う氏族挙げての祝宴が催された翌朝
「それじゃあお義父さん、お義母さん、お世話になりました」
「おじいちゃん、おばあちゃん、お世話になりましたッ!」
「深淵の森」の隠し通路前でフォルテュナお義父さんとディフィリアお義母さんの見送りに礼を口にする俺とマーユ。オルガやエリナ達も口々に2人に礼を述べながら頭を下げる。
「此方こそ昨夜は楽しかったよ。ウィル君、アンの事を宜しくな。皆も元気で」
「マーユちゃんを連れてまた来てね。アン、ウィルさんと仲良くね? 結婚式には出させてもらいますからね」
そう言って笑顔を見せるお義父さんとお義母さん。因みにお義父さん達への連絡方法だが、「深淵の森」近くの町ウルクの冒険者ギルドにお義父さん宛の手紙を渡せば連絡をつけてくれるとの事だった。何でもギルドにこの村のエルフが連絡員として常駐しているらしく、そのエルフが繋ぎを取ってくれるらしい。それなら事前に連絡するのも難しい事は無いな。
「それじゃあお父さんお母さん、行ってきます。次に会う時は王都の大聖堂でね」
「うむ、アンも気を付けて行って来なさい。ウィル君に迷惑を掛けない様にな」
「そうよアン、頑張らないと。今度は結婚式で会いましょうね」
そんな会話をしながら別れを惜しむように抱き合うアン達親子。こうして見ると親子と言うよりも兄妹に見えなくもない。
兎に角こうしてアンの両親に挨拶をし終えた俺達は、再び「深淵の森」を抜けて無事にラーナルー市に戻ってきたのであった。
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「深淵の森」から戻って来たその日一日は休息に当てた俺達。オルガも俺の屋敷に泊まる事になり、明けて翌日の朝、自室のベッドで目を覚ますと、膝の上は何時もの如く短身サイズのヤト、セレネ、ファウスト、デュークの4体に仲良く占拠されていた。
まぁそれは良い。問題は──
「すぅすぅ……」
──いつ潜り込んだのか、オルガが俺の腕を枕に一緒に寝ている事である。そらまぁアン達に言われているから部屋の鍵はかけてないからな、誰でも出入りは自由なんだが……これは流石に自由過ぎないか? 困惑した俺が思わず身動ぎすると
「……ん、ううーん」
そう声を上げるとゆっくり目を覚まし、俺と目が合うと
「やぁ、おはようウィル♡」
艶やかに微笑むオルガ。つられて俺も
「お、おはようオルガ」
と間抜けな声で答えるが、直ぐに気を取り直し
「いやいやいやいやいや、いつから俺のベッドに潜り込んだよ……」
とオルガを問い詰める──無論小声で。するとオルガはあっけらかんとした声で
「うん? 真夜中かな? 君は良く寝ていたからねぇ」
よっぽど疲れていたんだね、と笑みを零す。そして直ぐに身体を起こすと「それじゃあまた食堂でね」と言って部屋を出て行く。何なんだよ、一体…… 。
色々呆気にとられる俺に向かい、ベッドの脇の椅子に座るコーゼストが
「おはようございますマスター。昨夜はお楽しみでしたね」
満面の笑みで声を掛けて来る。
そう言う誤解を招く言い方をするんじゃありませんって!
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早朝からのちょっとした騒動に多少げんなりしながら、食堂で皆んなと食事を摂る俺。何となく既視感を感じなくもない──はて?
『この屋敷に暮らしたての頃に就寝中のマスターのベッドにスサナが潜り込んだ時以来でしょうか? マスターのベッドに同衾したのは』
俺が自身の奇妙な感覚に頭を捻っていると、コーゼスト先生が念話でその感覚の元ネタを教えてくれた。そういやそう言う事が昔あったな──同衾と言う言葉は余計だが。
でもまぁ考えて見れば、アンやエリナやルピィやレオナを俺の部屋に招いた事は今まで一度も無かったんだけどな。それにアン達4人とは甘い一夜を過ごしてはいるが、オルガやマディやジータとは未だそう言う事をしていない。だとすると──つまりアレか? 今朝のはオルガがモーションをかけて来ていた、と言う事なのか? うーん……わからん。
「どうかしたのウィル? 朝から疲れているみたいね?」
「う、うんにゃ、何でもない」
「?」
定位置、つまりは俺の左側に座るアンが俺の浮かぬ顔を見てどうしたのかと訊ねて来るが、言葉を濁しておく事にした。まぁオルガもアンと同じ婚約者の1人だから、俺と甘い一夜を過ごしても問題は無いと思う──無いよな?
兎にも角にもこうした事には未だ不慣れな俺は、色々と悶々としながらその日一日を過ごす事になったのである。
やっぱり俺って惰弱だよな…… 。
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更に明けて翌日、俺はオルガとマーユそしてコーゼストだけを伴って、ご存知腐れ縁の魔法士ラファエルの屋敷を訪れていた。
ラファエルに改めてオルガを紹介する意味もあるが、1週間前に預けた魔道具の解析が何処まで進んでいるのか、単純に気になったからだし、このところ立て続けに婚約者の家族に挨拶回りばかりしていて、少し息抜きしたかったからである。
またマーユを連れて来たのは前回ノーリーンと約束していたからだし、コーゼストは言わずもがなである。
「貴様はいつも突然に訪ねて来るのであるな……」
屋敷の主であるラファエルは少々憮然とした面持ちで出迎えてくれた。
「まぁそう言うなよ。その代わりと言っては何だがコーゼストを連れて来たから、な?」
「マスターもラファエル殿も私を何か便利道具扱いをしていませんか?」
そんなラファエルにそう答える俺と、俺とラファエルの会話を聞いて今度はコーゼストが呆れた物言いで言葉を返して来る。だがそんなお小言は軽く無視する俺。
「それと彼女が最高統括責任者のセルギウス・ライナルト改めオルガ・ロラ・セルギウス女侯爵閣下だ」
「やぁラファエル殿、生産設備の件以来だね。改めて宜しく頼むよ」
「久方ぶりであるなオルガ媛。此方こそ改めて宜しく頼む」
俺の紹介にそう言って握手を交わすオルガとラファエル。そしてラファエルが沁々と一言。
「真逆グラマス殿が女性で、しかもウィルと結婚するとはな……世の中は不思議に満ちているのであるよ……」
よーし、ラファエル。後で一度じっくり話し合おうか?
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「えへん、と、兎に角だ! 渡した魔道具の解析の方は進んでいるのか?」
ラファエルの何とも言えない生暖かい眼差しを受け、わざとらしい咳払いと共に無理矢理話題を変える俺。マーユは既にノーリーンとお喋りに花を咲かせていたりする。
「うむ! それについては心配ないのであるよ! 既に預かった魔道具の大多数は解析が完了しているのである!」
俺の台詞に満面のドヤ顔で自慢げに答えるラファエル。こと魔道具の解析や研究に関しては此奴は決して嘘をつく事はしない。その辺はさすが古代魔導文明研究者であり魔具製作者だけの事はある。
『そう言う点に於いてはラファエル殿は信頼が於ける人物ですね。まぁ当人の人格にはやや難がありますが』
俺が変な所で感心していると、念話でラファエルをそう評するコーゼスト先生。言いたい事はわかるが、それは言わないお約束である。
「ふーん、それは私も興味があるね。ラファエル殿が古代魔導文明の魔道具をどれだけ解析出来ているか、と言う事にね」
俺とコーゼストが念話でそんなやり取りをしているとは露知らず、オルガがラファエルの仕事ぶりに俄然興味を示す。
「おお! そう言えばオルガ媛は古代魔導文明人の生き残りであったな! どうか古代魔導文明人として忌憚なき意見を聞かせて欲しい物であるよ!」
オルガの台詞にこれまた俄然火が着いたらしく、彼女とあーでもないこーでもないと話し始めるラファエル。
以前も言ったが、仮にもオルガは侯爵閣下なんだから、少しは遠慮しろって…… 。
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「──ふむ、とりあえずはこんな感じか。流石は古代魔導文明人だけの事はあるな。やはり実際に使っていたヒトからの話は大いに参考になるのであるよ」
「なんのなんの。ラファエル殿も中々どうして大したものだよ。古代魔導文明の文明体系を良く理解しているし、鑑定眼も大したものさ」
「ラファエル殿の着眼点は独特の物がありますからね。偶に驚かされますが」
オルガとラファエルそしてコーゼストを交えた3人は、大いに話に熱が入っていたが、それも小一時間程で終わりを迎え、銘々が思い思いに話した感想を口にしていた。
「やれやれ……オルガ、ラファエル、コーゼスト、もう話は済んだのか?」
その小一時間の間、俺は黙って3人の会話を聞いていたが、話の半分ぐらいしか理解出来なかった。オレニハ、スコシ、ムズカシイデス。
「あー、う、うん。ごめんねウィル。すっかり放っておいて」
「う、うむ、済まなかったのであるな、ウィル」
「それでも半分くらいは理解出来たのは上出来ですね。昔なら話にすら入って来なかったですからね」
オルガとラファエルは俺に謝罪の言葉を述べて頭を下げて来たのだが、コーゼストは変な所を感心していたりする。
随分前にも言ったんだが……流石に何十回となく繰り返し聞かされると、ある程度は覚えるもんだぞ? 「聖人の侍女は聖句を口ずさむ」とも言うくらいだしな。
例え意味がわからなくても、と注釈がつくが。
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「それで? 実際の所、今はどの辺りの解析をしているんだ?」
話が少々脱線したので、改めて本来確認すべき事をラファエルに質問する俺。
「うむ、今は預かったゴーレムの解析を進めているのであるよ」
するとちゃんとその質問に答えるラファエル。それだけで如何に先程のラファエル達3人の会話が横道に逸れていたか良くわかる。
俺は盛大な溜め息を吐くと
「……全く、その答えを聞くのに随分と遠回りしたな」
きつい視線と共に嫌味の一言を声にする。
「う、うむ、それに関しては本当に悪かったと思っているのであるよ」
俺の嫌味に珍しく身を縮めるラファエル。まぁあまり責めるのも良くないか。俺は視線を緩めると
「はァ……それで? 何かわかった事があったのか?」
今度は穏やかな声でラファエルに尋ねてみる。
「うむ! とても重要な事が判明したのであるよ!」
すると一転、今度はいきなりテンション高めに解析した結果を教えてくれるラファエル。
それによると──まず体高2メルトのゴーレムの内部構造だが、内部にヒトに準じた骨格を持ち、その骨格の周りに手足や身体を駆動する為の全金属製の筋肉が張り巡らされているとの事だった。また胸部や腹部そして頭部などヒトの内臓に当たる部分は、コーゼストと同じ魔皇炉やら高性能の制御核等の制御機械やらが収められているそうな。
その骨格ひとつ取っても、古代魔導文明の技術が如何に高度な物なのか、良くわかる代物なのだ、とラファエルは熱く語るのだった。
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「流石はラファエル殿。良くぞその点に気付きましたね」
俺達の話を聞き終えたコーゼストからは賞賛の言葉がラファエルに贈られた。
「古代魔導文明に於いても古代魔族に於いても、自動人形やゴーレムは「より挙動をヒトに近付ける」と言う事が命題でしたからね。必然的にその構造はヒトの身体構造を模倣する様になったのですよ」
そしてその理由についても。確かにヒトに近い動きを求めるなら、その構造をヒトに近い物にするのは道理ではある。つまりラファエルは誰にも聞く事なく、古代魔導文明の技術の特異さに独自で行き着いたと言う事に他ならない。
「……ソイツは凄いな」
その事実を前に俺は、ラファエルの魔法工学技術の高さに改めて素直に感心するのであった。
「うむ! もっと褒めてくれても一向に構わないのであるよ!」
珍しく俺が褒め称えると、当のラファエルは鼻息を荒くして胸を張る。どうでも良いがそのドヤ顔は止めろって。折角上がったお前に対する俺の評価がまたガタ落ちするから!
「全く……旦那様は社交辞令と言う物を知らないのですか?」
俺が何とも言えない顔をしていると、いつの間にかラファエルの後ろに立って辛辣な言葉を投げ掛けてくるのは、マーユの相手をしていてくれた筈のノーリーン。
「うぐっ?!」
ノーリーンの的確なツッコミに苦悶の表情を浮かべるラファエル。
お前ら、本当に楽しそうだな!
いつもお読みいただきありがとうございます!




