婚約報告(其ノ四) 〜森精霊への報告〜
本日は第218話を投稿します!
※皆さんにお知らせします。今後は今までのような前書き後書きは書くのを止める事にしました。予めご了承ください。
-218-
「はァ……こう来たか」
婚約と結婚の報告の為にアンの両親が暮らす世界樹の麓にある森精霊の村を訪れた俺と婚約者達とマーユとコーゼスト。
目の前には大樹の洞をそのまま利用した家や、或いは樹上に舞台を組み、その上に大天幕の様な家が何十軒も在るエルフの村が。何処と無くスサナの曾お祖父さん達の暮らしていた半獣人の村ツアヤに似ているな。そしてその村の奥には巨大な世界樹の幹が一際強烈な存在感を示していた。差し渡し300メルトは有ろうかと言う巨樹の幹が、文字通り壁の様にそそり立っているのがこの入口からでも良く見える。
「皆んな、こっちよ」
俺達が村の様相に感心していると、村の奥の方に俺達を誘うアン。言われるままにアンの後ろをついて行く俺達。
「おいおい、アンヘリカじゃないか?! 帰って来たのか?!」
道すがら1人のエルフの男性がアンの姿を目にすると声を掛けて来た。
「ええ、お久しぶりねクァト!」
「ああ久しぶり! おおい! 皆んなーーッ! アンが帰って来たぞーーーッ!」
アンにクァトと呼ばれたエルフが村の中に響き渡る様な大声を出して、アンの帰還を他のエルフ達に告げる。すると他の家々から「何なに?! アンが帰って来たの?!」とか「アンが?! 12年振りだなぁ」と言う声と共に金髪翠眼のエルフの男女は勿論の事、アンと同じ肌を持つ涅森精霊もぞろぞろと此方の方にやって来て、誰もがアンとの再会を喜んでいる。
その事ひとつ取っても彼女が皆んなから愛されている事が良く分かるのだった。
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「アン!」
エルフやダークエルフの面々に手厚い歓迎を受けていると、奥の家の方から駆け寄ってくるダークエルフの女性が。何処と無く雰囲気がアンに似ているな、等と思っていると
「お母さんッ!」
そう顔に喜色を浮かべるアン。同時に集まっていたエルフ達がアンの母親に道を開ける。
「アンッ!」
「お母さんッ!」
駆け寄るアンと彼女の母親。お互いに抱き合って久々の再会を心から喜んでいる。
「それであんた達は誰だ?」
その様子を暖かく見守っていると、先程クァトと呼ばれたエルフの男性が残る俺達に声を掛けて来る。
「ああ、俺達はアンの冒険者仲間で……」
「クァト、皆んな、彼等は私の大切な人達よ」
俺が代表して答えていると、アンが言葉を重ねて来た。そして自分の母親に向かい
「お母さん、彼はウィルフレド。私の婚約者なの!」
いきなり爆裂魔法並の衝撃発言をするアン。
「「「「「ええーーーッ!? こ、婚約者ァ?!」」」」」
周りにいたエルフ達やダークエルフ達から驚きの声が上がる。アンさんや、その発言はいくら何でもいきなり過ぎだぞ?!
「そ、それじゃあ、この女性達は?」
この質問はまたもやクァト氏。するとアンは満面の笑みで
「彼女達は私と同じウィルの婚約者なの。あ、小さい子は娘ね♡」
「「「「「えっ、ええーーーッ!? こ、婚約相手がこんなに婚約者が居る子持ちなの?!」」」」」
再びのアンの衝撃発言に見事に声が重なるエルフの面々。
どうでも良いが、変な誤解が生まれている気がするんだが?!
アンのお母さんなんか茫然自失としているし!
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そのあと皆んなのあらぬ誤解を解くのに苦労したが、何とか説明して納得してもらった俺。アンはアンで「ごめんなさい、話を端折り過ぎたわ」と舌を出して戯けていたが、仕草が可愛いし、とりあえず許す事にした。何と言っても可愛いは正義だからな。
そんなこんなで集まったエルフ達は納得し、銘々の家にぞろぞろと戻って行った。全くやれやれだ…… 。
「そ、それじゃあ皆んな、私達も家に向かいましょうか? ね、お母さん?」
「え、ええ。そ、そうね。狭い家ですし、大したおもてなしも出来ませんが、それでも良ければ……」
アンとアンのお母さん、2人は何だかギクシャクした会話をしながら俺達を彼女らの家へと案内すべく先に立って歩き始める。
「え、ええ、そ、それじゃあお邪魔させて頂きます」
連られて俺の返答もしどろもどろになる。
そらまあ12年振りに帰って来た娘が、帰って来ていきなり婚約結婚だと、しかもヒト族とだとぶち上げれば、親として驚かない方がどうかしているからな。
「そう言えばお父さんは?」
「ついさっき世界樹から帰ってきて家で休んでいるわ。貴女が帰って来たのを知ったらさぞかし喜ぶ事でしょうね」
さっきのギクシャクした会話が嘘の様に肩を並べて歩くアンとアンのお母さん。
やがて俺達は大樹の洞に作られた家の前に来た。
「此方が我が家です、皆さんどうぞお入り下さい」
そう言って扉を開けるとアンのお母さんが中に声を掛ける。
「あなた、ただ今戻りました」
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「お帰り、アン」
家の中ではやはり肌が少し浅黒く胸まである白髪のダークエルフの男性が、満面の笑みでアンを出迎える。
「お父さん! ただいま戻りました!」
そう言うが早い、父親に抱きつくアン。以前アンからエルフについて話を聞いた事があるが、エルフもダークエルフも同族を愛好するきらいがある様だ。父親に抱きつくアンを見て、そんな事を改めて思う俺。それにしてもアンのお母さんもだがお父さんも、アンに何処と無く雰囲気が似ていて、尚且つ両親共に美形だよなぁ。
「アン、連れてきた客人達を私にも紹介してくれないか?」
アンのお父さんは優しく自分の娘を諭し、アンも「え、ええ、そうね」と漸くお父さんから身体を離す。
「お父さん、お母さん。彼の名はウィルフレド・フォン・ハーヴィー、私の婚約者よ。ウィル、先ずこのヒトが私の父親の……」
「フォルテュナ・アルヴォデュモンドだ。アンが世話になっている様だな」
そう言って笑顔で右手を差し出すアンのお父さん──フォルテュナさん。
「俺の方こそアンには助けられているよ、宜しくフォルテュナさん」
差し出された手をしっかり握り返す俺。意外と握力が強いな。
「そしてこのヒトが私の母親の……」
「ディフィリア・アルヴォデュモンドよ。宜しくね、アンが認めたヒト」
続けてアンが話し、それに言葉を重ねる様に笑顔で右手を差し出すアンのお母さん──ディフィリアさん。
「此方こそ宜しく、ディフィリアさん」
その手もしっかり握り返して笑顔を見せる俺。
こうして俺は、漸くアンの両親と対面を果たしたのであった。
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「……と言う事が今までにあったのよ」
あの後エリナ達やマーユ、そしてコーゼストがフォルテュナさんやディフィリアさんにそれぞれ自己紹介をし、今はアンが俺と出会ってから今日までの経緯を話し終えた所である。
フォルテュナさん達はコーゼストが自動人形の身体を持つ有知性魔道具だと言う事に驚き、アンと俺の出会いの時の話に激しく憤り、オルガが古代魔導文明の生き残りだと言う事にまた驚き、最後には数々の冒険の末に俺が国王陛下から辺境伯に叙された事に驚いて、思わず傅こうとしたので慌てて止めたりもした。
「それは……また随分と濃い体験を重ねて来たものだな、アン」
「本当に……もしウィルフレドさんに出会わなければ、アン、貴女いまごろどうなっていた事か……」
フォルテュナさんとディフィリアさん、それぞれがそれぞれにアンの体験を聞いた感想を口にする。特にディフィリアさんが俺との出会いとなった出来事に渋い顔をする。
「でもお母さん、そのお陰で私はウィルと知り合えたのよ? 一概に悪かったとは言えないわ」
それに強く反論するアン。まぁ確かにあの出来事が無ければ俺はアンと知り合う事など無かっただろうな。そもそも接点すら無かったのだ。そう思うとアンの言う通り、あの時の出会いは正に「運命」だったんだろう。
実の母親のディフィリアさんと侃侃諤諤と言い合うアンを見ながら、俺はそんな事を思ったのだった。
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「えへん。それでフォルテュナさんにディフィリアさん、2人には俺から話があるんだ」
アンとディフィリアさんの会話が一段落ついたのを見計らって、俺から本題について切り出す。俺の言葉に居住まいを正して聴く姿勢をとる2人。俺はひとつ大きく息を吸うと
「俺はエルフの仕来りは知らないのでヒト族の仕来りでやらせてもらうが……フォルテュナさん、ディフィリアさん、娘さんを俺にください」
そう言ってテーブルに手をついて、フォルテュナさん達夫妻に頭を下げる。2人とも一瞬驚いた顔を見せたが
「あげるも何も……娘はエルフの仕来りでは既に成人している身、彼女の人生は彼女自身が決める事だ。そのアンが君を選んだのなら私に否やは無いさ」
「そうよ、逆に不束な娘だけど宜しくお願いするわね、ウィルフレドさん」
そう笑顔で俺とアンとの婚約を許してくれて
「アン、これはお前自身が選んだ人生だ。悔いの無い様にな。我々とヒト族とでは寿命が違うから寂しい思いをするかもしれん。それでもお前とウィルフレド君の行く末に幸あらん事を」
「そうよアン、例えどんな事があろうとも決して彼の手を離さない様にね。そして幸せにお成りなさい」
アンには親として祝福の言葉を贈る。
「はいッ! お父さん、お母さん、有難うございます! 必ずウィルと幸せになってみせます!」
「俺も──陳腐な台詞だが、アンを必ず幸せにしてみせます」
俺とアンの2人はそう言って、感謝の気持ちを込めて深々と頭を下げるのだった。
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「まぁ頭をあげたまえ、ウィルフレド君。仮にも辺境伯ともあろう者が軽々に頭を下げるもんじゃない」
「そうよ。貴方の立場と言うのもあるんですしね」
話も纏まり笑顔で俺にそう言ってくるフォルテュナさんとディフィリアさん。事ここに至っては、やはりきちんと呼ぶべきだよな。
「分かったよ、お義父さん。お義母さんも」
俺がそう答えると、2人とも再び少し驚いた顔をして
「お義父さん、か。まぁ確かにそうではあるが……呼ばれ慣れていないから少しこそばゆいものだな」
「あら? 私は逆に新鮮だわ。アンの次に息子も欲しかったし、期せずしてこうして義理の息子が出来たのが嬉しいわ」
そして銘々に素直な感想を口にする。そんな事を言っているとうちの愛娘の挨拶と言う名の攻撃に耐えられないぞ?
「フォルテュナおじいちゃんにディフィリアおばあちゃん! あらためてこれからもよろしくねっ!」
そう俺が思っていると、お義父さん達2人に向かって元気良く挨拶しながらぺこりと頭を下げるマーユ。
「う、うむ、マーユちゃんだったな、此方こそ宜しくな」
「まぁまぁ、本当にしっかりしているわね。此方こそ宜しくね、マーユちゃん」
花が咲く様な笑みを浮かべたマーユの仕草に、目尻を思いっきり下げまくるお義父さんとお義母さん。ほらな、やっぱりこうなるだろ?
そんな2人の様子を見ながら、俺は1人納得するのだった。
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「それでは! アンヘリカの婚約を祝して、乾杯ッ!」
「「「「「乾杯ッ!」」」」」
お義父さん達との話の後、エルフの村の広場で、村を挙げて俺とアンの婚約結婚を祝う盛大な祝宴が催された。こうした所ひとつとっても森精霊と言う種族が同族愛好なのが見て取れる光景である。
祝宴の主役は勿論アンと俺であり、乾杯の後にエルフやダークエルフの面々が入れ替わり立ち替わり、蜂蜜酒の入った水差しを持ってきては、俺とアンの持つ木杯に蜂蜜酒を注いでは、祝いの言葉と共に「アンの事を宜しく頼む」と言う言葉を口々に投げ掛けて来る。
まぁ木杯自体、こうした用らしくひと口呑めば空になる大きさであるが、兎に角絶え間が無いので何十杯と呑む事になった。しかもこの蜂蜜酒自体、口当たりは甘くて飲みやすいが酒精が強く、途中で腕輪のコーゼストにこっそり『解毒魔法』を掛けて貰って、俺は何とか悪酔いせずに済んだのであった。一緒に呑んだアンは顔色ひとつ変えていなかったが。
無論その間オルガを始めとした他の婚約者達も、俺とアンと同様に熱烈な歓待を受けていたのは言うまでもない。そして改めて思い知ったのだが、オルガ達婚約者の面々も酒精に滅法強く、結構な量を飲んでいた。当然の事ながらマーユは果実水を飲んでいる。
どうやら俺は家庭内序列だけでなく、飲酒に関しても底辺だったらしい。
これは俺、泣いていいよな…… 。
いつもお読みいただきありがとうございます!




